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こころのきずあと  作者: はらくろ
第1部 異世界に転生した妻編 第0章 プロローグ
2/163

序章2

序章の2です。

もう1話くらいで序章は終わると思います。


6/9 表現方法を修正しました。


6/12 加筆修正しました。


 いつもと違う慌ただしい18時、終業の時間。


 俺は急いでタイムレコーダーへ駆け寄り、タイムカードを突っ込む。


 ガチャン


 タイムカードを押し終わると、俺は上司の机の方に向き、腰を折った。


 「課長、すみません」


 忘れてた、と言わんばかりのちょっと気怠そうな声で課長は言った。


 「あー…今日だったね、仕方ないね。慌てて事故なんか遭うなよ」


 「はい、今日はこれで失礼します」


 「「「ひでー、俺たち残業なのに、なんでこいつだけ!!」」」


 俺が統括(とうかつ)している開発チームの連中から声が上がる。


 お前ら、残業あるんだろう?


 仕事しろよ、締め切りあるんだろうが。


 課長がチームに向けて手を「しっし」と動かしながらこう言った。


 「結婚記念日だから、定時で帰らせてくれって1週間前から聞いてたから仕方ないだろう。

  悔しかったら早く嫁さんもらう事だな」


 「すみませんすみません、ほんっとうに、すみません…」


 コメツキバッタのように何度も何度も腰を折る俺。


 「いいからさっさと行け」


 「はい、今日は失礼します。みんな、ごめん、じゃっ」


 俺は逃げるように部屋から出て行った。


 後ろから聞こえてくる仲間の悲痛ないつもの声。


 「「「ちくしょー、ロリ○ン、リア充爆ぜろ!!」」」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 今年初めての結婚記念日を迎えた俺は、会社を出て、そのまま一目散に百貨店へ。


 エレベーターを待つ時間も惜しい。


 そのままエスカレーターを宝石時計店のあるフロアまで駆け上がる。


 受け取りカウンターの女性店員に引き換えの用紙を渡して俺は聞いた。


 「すみません、予約していたものです。

  今日受け取りってことで間違いないはずなんですが?」


 「はい、承っております。」


 カウンターの裏から注文の品を出してくる。


 「こちらで間違いないですね?」


 女性店員が開けた化粧箱に鎮座した、可愛らしくも高価な時計。


 まだ値札が付いており、数十万円を超える価格が書いてある。


 「あ、すみません、値段ばれるから、値札は外してラッピングお願いします」


 そしてその女性の後ろから、上司であろうか、女性の肩口からのぞき込むように言った。


 「あらすみません、担当の子、まだ外してなかったのね、私が外しますので少々お待ちくださいね」


 これは決して無駄遣いではない。


 入社して以来、家に帰る暇もないくらいの仕事量だったので、お金を使う暇がなかった。


 昇進したおかげで、給料も大学同期の3倍は貰っていた。


 今住んでいるマンションも現金で購入できるほど、貯金も貯まっていた。


 俺の可愛いあの人は地味な趣味で、ブランド物も好きではなく、時計くらいいいのをと思っただけで。


 受け取り時計を見ると、約束の時間ぎりぎりであった。


 「「ありがとうございます、またどうぞお越しくださいませ」」


 「やばい、また怒られる」


 俺は駆け上ってきた反対のエスカレーターを駆け下りて行った。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺、吉田(よしだ) (じん)32歳、中堅ソフトハウスのプロジェクトリーダー。


 就職した年に、社内で募集していたスマートフォンのアプリを提案し、それがたまたまが大ヒットした。


 チーフに抜擢されて、IT土方と言われんばかりの残業時間、休日出勤もあたりまえ。


 そのせいか、出会いなど全くないまま、30歳に。


 妻との出会いは、一昨年プロジェクトリーダーへ昇進し、修羅場生活がやっと緩くなった2年前。


 その日は、同じ街にある取引先で打ち合わせがあった。


 コンコン…ガチャ


 先に会議室に通され、担当を待っていたら、ノックと共にドアが開いた。


 俺の座っていたソファーの左にドアがあったので、慌てて挨拶をしようと立ちあがった。


 …が、開いたドアしか見えなかった。


 「あの…すみません。お茶をお持ちしました」


 えっ、どこ?


 と、よく見たら、下の方から声がした。


 お茶を持ってきてくれたのだろう、トレーを持った女の子がいた。


 ネームプレートには「佐田(さだ) 瑠奈(るな)」と書いてある。


 「(うわーちっちゃい子だなー…瑠奈ちゃんかー)」


 思わず(つぶや)いてしまったが、聞かれてないよな?


 肉厚なメガネの隙間から上目遣い(身長差があってそう見えるのかな)でこっちをじーっと見てる。


 なんだろう、寝癖でもあったかな?


 「あの、し、失礼しました」


 前髪からちらっと見えた顔が少し赤かった…ようにも見えたけど、気のせいだろう。


 彼女はお茶を置いて、そそくさと出て行った。


 その後は、いつものように何事もなく会議は終わった。


 得意先を出て、携帯で会社に報告、時間も遅いので直帰すると伝えた。


 書店に寄って、ラノベの新刊を買って、スター○ックスでコーヒーを飲んでいくかーと思った。


 店に入り、レジで並んで(何飲むかなー)と考えていたら、女の子の小さな声で話しかけられた。


 「あの…先ほどはすみませんでした…」


  とっさに振り返ったが姿は見えない、声の方向を頼りに下を向くと、そこには背の小さなメガネのおさげの髪型をした女の子が上目使いでじーっと俺を見ながらそう言った。


 うは、ちっこくて、可愛えぇ…


 でも、俺?あれ、誰だっけ?こんな若い子知り合いいないぞ?


 「えっと、私ですか?」


 「はい、えっと、あの、○○商事の会議室で、佐田です、わたし佐田瑠奈って言います」


 「あー、あのときの瑠奈ちゃ…失礼、佐田さんね」

 

 制服を着ていたのでわからなかったが、私服はすごく地味な子で、気が付くのがちょっと遅れた。


 瓶底のような分厚いメガネ。


 俺が身長185あって、彼女は150ないくらい。


 やっぱりちっちゃいな─背のちっちゃい女の子いいわ─。


 そこでふと、さっき買ったライトノベル、書店でもらった袋が透明なのを思い出した。


 急いでいたので、ブックカバーも付けないでもらっただけだった。


 あそこの書店の店員、カバー適当に付けるからいつも別にもらってたんだ…


 この歳でラノベは気まずいな─と思いつつ、隠すように鞄に入れようとしたら。


 「あ…それ、もしかして、○○シリーズの新刊!!」


 「え、いや、あのこれはちが…」


 「もう出てたんですね、今日だったんだ、いいなぁ、わたしも買いに行かないと、って…」


 こんなおじさんが異世界恋愛系のラノベを読んでるなんて思われちまった…


 終わった…なんとかして誤魔化さないと恥ずかしくてもうあの取引先行けなくなる。


 「いや、これは…あの、さ、このまま話してるのも周りの迷惑になるし、店内が混んでいるから、相席でいいかな?」


 「はひっ、構いません、ぜひお願いしましゅ!」


 あ、噛んだ、可愛い。


 しまった、というように舌をぺろっと出して、笑顔で、そう返事されちまった。


 なんてことない話の中で聞いたら、たままた出身大学の後輩だった。


 なんと12歳年下というではないか。


 もうバレてるから開き直ってラノベの話をしたら、なぜか盛り上がってしまった。


 たまたま趣味も合ったことで、そのまま新刊を買いに店まで引っ張って行かれ、別れて帰るとき、たまたまメールを交換させられた。


 女の子とメール交換なんて、何年ぶりだろう…。


 いや、嬉しかったけどね。


 後日、会社も近いということで、昼食などを一緒にするようになった。


 休日、書店(濃い系)を一緒に廻ったりして、妹がいたらこんななのかな─と思いつつも楽しい毎日を過ごしていた。


 彼女は親御さんを早くから亡くしていて、祖父母と暮らしているとのことだった。


 祖父母から聞いた話では、掃除、洗濯、裁縫は得意だったが、料理だけは壊滅的に下手だと聞いた。


 俺は学生時代のアルバイト等で料理の経験があり、そして独身生活が長かったため、無駄に得意だった。


 お義祖父さんもお義祖母さんも、高齢で、遊びにいって(連れていかれて)は俺が料理を作って振る舞うが多かった。


 義祖父母に「私たちの先もそれ程長くないので、心配だから、よかったら貰ってやってくれないか?」と泣かれ、流されるように昨年ゴールイン。


 いや、俺も嬉しかったよ、もちろん。


 それは今まで味わったことのない、とても幸せな1年だった。




読んでいただいてありがとうございました。

次もすぐ投稿します。

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