こんな初めてってアリですか?
※文中に道交法違反に関する表現があります!決して推奨は致しておりません!あくまで創作です!絶対真似をしないでね!
いつもの時間のいつもの電車。その先頭から2輌目の入口すぐそば。そこが私の定位置。
あと二本は時間を遅らせても学校には余裕で間に合うんだけど、そうすると途端に混み合うから、いつもこの時間に乗る。
学校指定のコートは重いから好きじゃない。でも寒いのだけは耐えられないから、下にカーディガンを着て、更にマフラーで鼻先までぐるぐる巻き。本当言えばタイツだってウールのが履きたいし、その上にジャージ履けたら最高なんだけど、なんでも指定指定って私立高校は校則がうるさくてたまらない。
視界のすみには、これまたいつもいる他校の集団。
茶色に金色に赤色まで、なんともカラフルな髪色をしたその集団を見るたび、校則が緩くていいなぁと思う。
いや多分、茶色はともかく、金色とか赤色はどこの学校でもダメだって言われるはずなんだろうけど、彼らの髪色はここ数ヵ月全く変わらないどころか、定期的に同じ色に染め直している風だし…先生に叱られたり、してる、よね??って感じ。
それにしても、いいなー、ダウン…。軽くてあったかいんだろうなー。ちょっとでも歩いたら汗とかかくんだろうなー。
私が着てるコートなんて、タグにはウール100ってあるけど、袖口に絞りなんてないし襟元は開襟で、隙間風入りまくりだしゴワゴワしてるし、重いだけで防寒なんてちょっとだけだもんね。
ううっ、それにしても寒いなー。もうちょっと車輌のエアコン効かせてくんないかなー。
「あっち…、んだよこの車輌、ちょっとエアコンきつくね?」
…なんですと?
思わず、声のするほうを見てしまった。
すると例の他校生の一人が、ダウンの前をくつろげるところだった。フカフカした真っ黒のダウンの下は、どこにでもありふれた普通の学ラン。しかも、学ランの詰襟のところからはみ出ているのはなんと!トレーナーのフードが。
え!?トレーナーで学校に行ってもいいの!?
…いいなぁ、うちの学校でもそれが許されるのなら、こないだ部屋着にと買ったばかりの裏地がボアのパーカー、着ていくのに…っ!
視線はそのままで、つい物思いにふけったのがまずかった。
ハッと気付いたときには、声の主の男の子とバッチリ視線が絡んでしまっていた。
「……」ジロリ。
そんな音が聞こえてきそうなほど。
集団の中でも一際目立つ赤い髪の彼と見つめ合う。いや見つめ合うというのは語弊がある。むしろ一方的に睨まれている、というのが正しいかも…!
そりゃそうだよね、他校の人間からジロジロ見られて、いい気分にはならないよね。
ごめんなさーい!と視線に言葉を乗せられるもんなら乗せて、彼に届けたい。でもそんなの無理だし。
なので少しでも謝罪の気持ちが伝わるように目礼してさっと視線を車窓の外へとそらす。
私たちのそんなやりとりに気付かないまま、集団では賑やかな会話が続いていて、赤髪の彼もまた、私の視線について何かを言うこともなく、そのまま電車は私の学校の最寄り駅に滑り込んだ。
ホームに降りるその他大勢に紛れて、私も電車を降りてホッと息をついた。
あっぶな!危うく他校生にいちゃもんつけられるとこだった…!まあそれも自業自得ではあるけども。
でも、もし赤髪の彼に今日のことで絡まれたりしても怖いし、明日から乗る車輌を一つ隣にずらそう…。
マフラーを鼻先より上に引き上げつつ、そんなことを考えながら歩いていた私は全然気付かなかった。
ゆっくりと動き出した電車の中から、赤髪の彼が私のほうをきつく睨んでいたということを。
「亜衣ちゃん、さっき北高の男の子に睨まれてたけど、大丈夫?」
「…え!?な、なんで知ってるの?」
下駄箱の前で靴を履き替えていた私に、それを教えてくれたのは同じクラスの女の子だった。
同じ車輌の、集団を挟んだ反対側に彼女は乗っていたらしい。私を見つけたけれど、間にいる彼らが怖くて声をかけられなかったのだとか。
「私、今日はたまたまあの電車に乗ったんだけど、あの人たちの学校ってホラ、有名じゃない?街でもあの制服の集団はよく見かけるけど、みんなガラが悪いっていうか、よくケンカとかしてるみたいだし…」
「そ、そうなんだ…。私、高校からこっちに引っ越してきたから、あんまりそういうのわからなくて。確かにみんな頭髪とか服装とか自由だけど、それがこの辺りの高校では普通なのかと思ってたよ…」
「…プッ!あれが普通って!すごいねー、亜衣ちゃんってば大物!さすが学年主席、真面目っていうかなんていうか!」
「もう…!真面目でも堅物でもガリ勉でもなんとでも言ってくれていいよ!!でもそっか、やっぱりあれは普通じゃないのね…なんであの人たちの学校の先生は、髪色とか指導しないのかな」
「んー指導は一応してるんじゃないかな?多分あの人たちが言うことをきかないだけだと思うよ。なんていったってこの辺りでも一番素行がよろしくないことで有名な学校だし。
でも亜衣ちゃん、だから気を付けないとダメだよ?あの人たちは私たちと違って、親や先生に叱られることをそれほど怖がったりしないと思うから」
「…そうだね。内申とか人の目を気にしないなら、私たちの想像もつかないことでも平気でするかもしれないもんね。」
念のためにもやっぱり、明日から乗り込む車輌を替えよう。それでもダメなら時間をずらすことも考えよう。
ところが。
その日の帰り道、駅の改札をくぐった私の目の前に、今朝の赤髪の人が立ちふさがったのだ。
パスをカバンにしまいつつ顔を上げれば目の前に真っ黒な壁があって、そこに勢いのまま突っ込んでしまったのだ。
ボスっと柔らかいのか硬いのかわからないモノに鼻をぶつけたが、幸いというか分厚いマフラーが緩衝材となって、ただでさえ低い鼻がペチャンコになるのは避けられたけれど。
目の前に立つ赤い髪をした壁との遭遇は避けられない…。
「あっ、ああああのっ!…すっすみませ!!」
「おい、お前」
「うわっ、ははははい!なっなんでしょう!!べっ弁償ですか!?治療費ですか!?おっお小遣いが少ないのでお金はあんまりないんですけど、参考書代が」
「とりあえず黙れ。…少し話がしたいからよ、ちょっとこっちこいよ」
そう言われてグイグイと腕を取られる。今朝のこともそうだけれど、今も明らかにこちらの前方不注意でぶつかった私に非があるし、そんなことよりもなんてったって怖いし、おとなしくついていくことにする。
…それにしても、大きいなぁ。
赤髪の彼は、身長約160センチの私よりも頭一個分は軽く上背がある。ダウンを着ているせいもあるのか、肩幅もありそう。
私が真後ろに立ったら、前からは私の姿なんて完全に隠れてしまうのでは?
いかんいかん。過去最大のピンチだというのに、ついいらない方向に思考がさまよってしまう。もっと他に考えることがあるだろう自分!例えば、どうやってこのピンチを切り抜けるかとか、彼に気取られることなく気配を消しこの場を去る方法とか!
「おい」
「 ! はっ、はいぃ!!」
はい無理ー、手遅れでしたー。
気付けば、いつのまにかホームの待合室の中でした。
ホームの壁を背にして三方をガラスで仕切られた待合室にはベンチがあって、外気が遮られ僅かにだか暖房も効いていて、寒がりの私にはまさに天国。
…目の前に彼がいなければ、だけど。
勇気を振り絞り改めて彼を見る。ド派手な髪色に惑わされなければ、外見はかなり男前だと思われる。ただし強面の。
ワイルド系?オラオラ系?そのあたりの違いがよくわからないけれど、多分うちの母なら「ソース顔」と評するだろう。
普通の格好をすれば相当モテるだろうに…それともカッコいいと思ってこんな髪色をしてるのだろうか?似合ってないこともないが、こんな無茶な染髪をして毛根を痛めつけて、将来悲しむことにならなければいいけど…。余計なお世話か。
「お前さぁ、桃高の早坂亜衣、だよな?」
「え?」 なんで私の名前を知ってるの?
「なんで、って顔してるけど、お前、自分が結構な有名人だって自覚ないのか?」
エスパーか!?
「うっ、え、ええはい、そんなこと全く知りませんが、それは、どういう意味で有名なのか聞いても…?」
「桃高きっての才女で、ピン高のマドンナって言われてる。…まじで知らねえの?」
「ピン高…!ちょっとそれ面白いですね!中華屋の肝っ玉母さんみたいで!」
「そっちかよ…普通はマドンナって言葉に反応しねえ?」
「それは別に。容姿を他人に評価されても、私が好意を持つ人から高評価をもらえなければ意味がないでしょう?」
「…それは、好きなヤツから可愛いって思われないのであれば他からどう思われようが一緒、ってことか?」
「簡潔に言えば。で、そんなピン高の才女にどんなお話が?今朝の件で怒ってるのでしたら謝ります。あったかそうなダウンだなーと、こんな寒い真冬に暑いとか羨ましいなーと思って見ていただけなんです…けして悪気があってジロジロ見ていたわけでは」
「…ちょっと待て、色々言いたいことがあったんだけどよ、ナニお前、そんな風に思ってこっち見てたのか…?」
え?こんな見るからにか弱い婦女子が、ケンカを売るつもりで睨んでいたとでも思ったの?
と、口には出さずに、とりあえず頷くことで答える。
「…オレに気があって見てたんじゃねぇの…?」
「はい?」
「っ、いや!なんでもねえ!!…ちっ、クソが!んだよ、こっちの早とちりかよ…」
なんかブツブツ悪態ついてるけど、どうやら彼の勘違い?か何かだったみたいで、どうすっかな、なんて呟いてるし、これはもう円満に解散という形でいいのでは?
「…よくわかりませんが、誤解もとけたようですし、私はこれから参考書を買いに行く予定なので、これで失礼してもいいですか…?」
恐る恐るそう言えば、彼は再びジロリとこちらを見下ろした。
うっ…怖っ!少し言葉を交わしただけで相手を知った気でいたけど、この名も知らない彼はいわゆる不良という人だったー!
「…あー、まあ色々と予定は狂っちまったけどよ、せっかくこうしてお互い知り合えたわけだし、つかこんな機会でもなけりゃ言葉すら交わすこともなかったかもしんねえし?」
「…?ええ、まあ、その通りかと思いますが…」
「だろ?だからよ、どうせならこれからもお前…亜衣と話したいし、オレら付き合わね?」
………………………はい?
「亜衣も勉強ばっかじゃつまんねぇだろうし、彼氏、欲しいだろ?かといって中途半端な男じゃ、そこらで絡まれても何の役にも立たねぇだろうし。その点オレだったら腕っぷしは立つし容姿だって結構いいだろ?これでもオレかなりモテるんだよな」
「え?」
「オレぁ本来女の飾りになるのはヤなんだけど、お前なら別にいいし、つかお前の隣に立つには充分相応しいだろ?むしろオレ以外に並び立つヤツなんていねえしよ。もし仮にいたとしてもケンカじゃ負けねぇし」
「え?」
「そんな完璧なオレが、亜衣の彼氏になってやるっつってんだよ、光栄に思えよ?」
「…え?」
「よし、じゃあ交際始めに亜衣の買い物…えっと本屋か?付き合ってやるからよ。そのかわりその後はオレに付き合えよ?」
「…え?」
「さてと。んじゃあとりあえず電車乗るか。一旦オレんチ行ってバイク出してもいいけど寒いだろ?帰りは兄貴に車借りて送ってやるから。あ、助手席に女を乗せるのはお前が初めてだって決めてたから、そこんとこは安心しろよ?」
「…え?」
そのままアレヨアレヨというまに連れ去られ。
色々と突っ込みたいことが沢山ありすぎてどこから突っ込んでいいのかわからないけど。
アナタの名前は!?
そしてアナタ高校生だよね!?それって無免許運転では!?
そして私はなぜか、この辺りでは有名なトンデモ彼氏?ができてしまったのでした。
なぜ?
ちなみに、亜衣ちゃんは高校二年生。赤髪くんは高校三年生で1月の早生まれ。作中は12月。なので彼はすでにこっそり免許を取得しています。実家の私有地を兄貴に助手席に乗ってもらって練習していたそうですよ。
亜衣ちゃんは天然ガリ勉で赤髪くんはわかりやすいツンデレ、そして若干ヤンデレがかってます。
更に言えば赤髪くんの名前は翠です。赤い髪なのに。