第8話
「いや~、それにしても惜しかったな」
演習の反省会と遅めの昼食を兼ねて教室に戻ってきていた。
教室には誰も居ない。明星たちの演習に感化されたのか、あちこちで試合をしているのだろう剣戟の音が聞こえてくる。
先程まで藤阪も居たのだが、反省会が一段落したあとはまた噂を求めて走りまわっているようだ。
「つか陽太。お前居合なんてできたのか?あんな速度で走る姫様によく抜刀のタイミングを合わせられるもんだ」
「合わせるのが精一杯だったけどね」
居合はそれほど得意ではない。が、自身最高の剣速を出せる技だ。合わせられたもののあえなく弾かれ、逆に一本とられてしまったのだが。
「それが弟くんの得意技だからな」
「「うわぁっ!!」」
「人の顔を見て『うわぁ』とは、失礼だな君たちは」
「ひ、久しぶり。陽太くん」
「久しぶり、小夜。ごめん、急だから驚いたよ」
やれやれ、という顔をしながら教室に入ってきたのは姫野茜、その影に隠れるようについてきたのは妹の小夜だ。
記憶より成長しているが、なんだろう…一言で表すと、小さい。
体の線は細く、150cmに届くか届かないかという身長も華奢な体躯をさらに強調しているように感じる。姉妹なのにこの体格差は一体…。
しかし、前髪で目元が隠れがちだが、姉に劣らず整った顔立ちをしているのは窺える。
「あ、あの、陽太くん。失礼な事考えてませんか…?」
「いやいやいや!そんな事!」
先程の思考を追い払うように手を振る。
「あー、姫野さん?得意技ってのは?」
おずおずと航が尋ねた。
「なに、霊力で編んだ糸を広げて、弟くんはそれを感知してるんだよ」
「えーと、はい?」
「ふむ、神経を外に広げてると言った方がわかりやすいか?弟くんを相手にすると、これがなかなか厄介でな」
「へ、へぇ…」
航が驚くのも無理ないだろう。霊力はひとつのエネルギーで、感覚器官ではない。ましてや媒介すらない状態で使用している。
確かに霊力は少ないが、濃縮されていると言えばいいのか、密度が高い。
それを細く細く束ねるようにイメージする。その糸を周囲もしくは、方向を定めて伸ばしていくのだ。
するとどうだ、まるで見たように、触れたように知覚できる。
アカ姉のように速くとも反応できるが、少ない霊力を範囲に応じてどんどん消費していくので、おいそれと使用できるものでもない。
「昔からの特技みたいなもんなんだよ」
「俺もカッコいい特技でもあるとモテっかな?」
姉妹を見やりながら言う。
「航ー、白川ー、まだ居るー?って、ワオ!姫野姉妹!サインください!」
勢いでサインをねだりながら飛び込んできた。
人見知りする小夜は突然現れた藤阪に驚いたのか、俺の後ろに隠れてしまった。
「あ、ごめん。ビックリさせちゃったかな?」
「すまない、気にしないでくれ。妹は人見知りでね、驚いただけだ」
小夜はその言葉にコクコクと頭を振って肯定の意を伝える。
「小夜ちゃん、さっきの俺たちみたいだな。で、どうしたんだ楓」
くくく、と笑いに耐えながら訊く。
「ああ、んーとね。明後日の休みに山狩りがあるのは知ってる?」
「ああ、知ってる」
都市周囲には山が広がっているが、最近瘴気が濃くなってきた場所があるようで、そこを浄化ついでに餓鬼やらの雑魚を狩っておこう、というものだったはずだ。
「それで討伐隊が出るんだけど、学生も行けるみたいで募集が掲示板にあるのよ、どう?行かない?」
「ほう、行ってきたらどうだ?班での連係も大切だが、隊に合わせるのも勉強になるだろう」
「アカ姉は行かないの?」
「私が行ったら全員恐縮してしまうだろう?それに、指揮を渡されても面倒だ。あと、小夜と街をまわる予定なんだ」
幼馴染みだから感覚が薄れてたけど、外に出るとあの反響だ。討伐隊に入ってもチヤホヤされるだけだろう…街に出ても同じとは思うが、近辺を見ておくのは悪くない。
「そうだな、んじゃ3人で行きますか。楓、応募頼むよ」
了解、と言い残してダッシュで去って行ってしまった。
「お姉ちゃん、私たちもそろそろ行かないと」
そろり、と小夜が出てくる。
「ん?あ、もうこんな時間か」
「なにか用事?」
「いや、用事というほどでもない。寮に案内してもらう事になってるんだ」
またな、と言い残して2人は出ていった。
「俺らはトレーニングにするか、帰って休むか」
「帰ろう。明後日出動になるなら装備の点検もしておきたい」
「それもそうだな、俺もカッコいい装備してくるぜ!」
使えれば見た目は別にどうでもいいと思うのだが、口には出さない。
そのまま今日の演習はお開きとなった。
設定を詰めていたら投稿が随分遅れてしまいました。