第16話
毎年一年生は夏の長期休暇の間に一度中央塔を訪れる。内部見学とでも言えばいいか。
結界の構造や、それを支える人たちを見ることで結界、ひいては都市への理解を深めるためだ。
その引率を先輩たちが行う。
「ではみんな。これより塔の内部へと案内する」
男性の先輩退魔師が先導し、ぞろぞろとクラスのメンバーがついていくのに合わせ俺たちも歩き始める。
外見はかつて存在したらしい城を縦長、ちょうど天守閣を縦に建て繋げたような形をしている。遠くから眺めると歪であり、よくわからない。もはや違法建築だろう。いい目印にはなっているが。
各地ごとに特色があるらしく、東方の都、旧東京では史実にあったようなビルなのだとか。
「中はやっぱり広いね~」
「禊場に行くのに通るだけで、あまり見渡さねぇからな」
…なぜ違うクラスの藤坂がいる?…まぁいいか。
先輩の言う説明を聞きながら周囲を見渡す。
木造建築の20階建て、霊力で補強、強化された木材が使用されており見た目以上に頑丈だ。
また、階の真ん中から19階まで吹き抜けがあり、その中心に「芯」があるのが特徴だ。見た目はそれこそただの木なのだが、1階から19階までぶち抜くほど高い木だ。
そのため各階は「ロ」の形になっており、そこに役所関連の組織が軒を連ねている。
「よーし、全員いるかー。ここから先は念の為、荷物検査を受けてもらう。役員の指示に従ってくれ」
木とは思えない木に支えられた20階、塔の最上階には結界の要と言われる巫女がおられるそうだ。
言われるままに荷物と身体検査を受け改めて列を整える。
「さて、並び終わったな。失礼のないように」
ここまではエレベーターが稼働しているが最上階へは階段しかなく、これもひとつしかない。
階段を上ると広いとも狭いとも言えない部屋に似つかわしくない重厚な扉があり、両隣には警備員が立っていた。
「おい、貴様。あの裏切者の息子じゃないか?」
1人の警備員の言葉により、もう1人が構えを取った。手に持っているのはスタン棒。霊力を電気へ変換する機構を持ち、相手を死亡させることなく自由を奪える。
「あ、はい。白川です」
「貴様をこの奥へ入れる事はできない。去れ」
スッと先輩退魔師が前へ出る。
「あの、これは授業の一環でして生徒と必須科目となって」
「わからんのか!あの裏切者だぞ、そいつを巫女に会わせるのか?」
「非武装だ!」
「関係ない。奥へ入れたとたん鬼どもを呼ばれてみろ!」
警備員たちはバチバチと鳴るスタン棒を持ち構えているし、先輩も自分も丸腰でなにもできない。他の生徒たちもここで飛び掛かるやつもいない。航と藤坂も警備員相手では出ずらいだろう。
そんな時、奥の扉が少し開き痩せたおじいさんが出てきた。
おじいさんとは言ったが、かなりの長身、足腰はしっかりしており老いを感じさせない。髭はないが、白髪混じりの頭髪と今はその表情に険悪な皺がよっている。
「…何をしておる」
「は!裏切り者の息子を捕えようと」
「…白川の者か」
「はい、陽太と申します」
貫禄、というのか逆らえない雰囲気がある。
「ふむ、さてお前たち。私は朝なんと言ったかな」
「ぇ、は!学園の生徒たちを案内せよと」
「それでこの者は学生ではないのかね?」
「う、ぐ…それは」
「ここはすでに巫女姫様の御前ぞ。あまり騒ぐでないわ」
「では生徒諸君、こちらに来たまえ」
「よ、よし。みんな列を整えてくれ!」
いよいよ俺たちは聖域に踏み込む。
やっと書ける時間ができました
ダブルワークはやはりきつかったです;つД`)