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第13話

夕焼けの空。ようやく俺たちは学園まで帰ってきた。重傷者は先に病院へ行かせ、軽傷者は手当を受けた。

少し軽食を摂った俺は禊場(みそぎば)に行くことにした。

禊場は体内の瘴気を浄化するための場所だ。都市中央塔の地下にあり、銭湯のような大衆浴場に似てはいるが、薄暗く、湯ではなく水である。だが不思議と風邪を引いたことはない。

ちなみに、男女兼用、つまり混浴だ。


禊用の白い肌襦袢(はだじゅばん)を着て、足を澄んだ水面につける。

「少し冷たいな」

ふるりと体が震える。


絶えず水が流れ込むようになっており、水面が揺らいでいるが、それがなければ岩で囲った(くぼ)みにしか見えないほど透明だ。

そこに胡座(あぐら)を組んで腰を落ち着けると、鳩尾(みぞおち)ほどまで水につかる。


周囲には3本ほど打たせ湯のように水が落ちている。

その落ちる水の音、流れ込む水の音を聞きつつ目を閉じ、心身を休ませる。任務の疲れも溶けていくような気もする。

入った時にふわりと立った鳥肌は既に収まっていた。


ふと、


「……誰か?」


女性の声がした。


「えっ、あっと、そのっ」

誰もいないと思いこんでいた上に、異性の声で尚更驚いた。

「すっすみません、誰か居るとは思わなくて」

「いえ、こちらこそ急にお声かけして申し訳ありません。私も誰も来ないと思っていたものですから」


声の方に視線を向けると、12、3歳の少女がいた。俺と同じく白い肌襦袢に身を包み、年相応の容姿ではあったが、声だけは大人びていて不思議な感覚だった。

長い髪は結われておらず、水面に綺麗な濡羽色の髪を広げていた。


「あの、それほど見つめられると照れてしまいます」

「ごめんなさい!」

少女に背を向け、なぜか同じように正座をしてしまう。


どれくらいの時間を無言でいただろうか。だが苦にはならなかった。しんと静まり返る禊場の雰囲気なのか、それとも少女が纏う神秘的な雰囲気か、または両方か。

立ち上がる音が聞こえた。

「白川様。お先に失礼いたします」

「あ、はい」

綺麗な礼をして水からあがる少女を見ていると、その髪の長さに驚かされた。膝よりも下、(くるぶし)にまで届こうかと言う長さなのだ。先程までは水中にあったからわからなかったようだ。


俺もそろそろ上がるか。父さんの面会時間の都合もあるし。

……俺、名乗ったっけ?


ひっかかりを覚えつつも手早く着替えを済ませ、急ぎ足で病院に向かう。中央からだとかなり距離があり、着いた頃には日はもう沈んでいた。


「面会時間はもうすぐ終わりですよ」

「はい、すぐ帰ります。すみません」

受付を通り過ぎ、父さんの病室に入る。


「おお、どうした?こんな時間に」

「えーっと、今日任務に参加してたんだけどさ、って父さん雑誌が逆さまだよ」

「こういう読み方もあるんだよ」

ないだろ!と心の中でツッコむ。話が進まないので、見てもらった方が早いと思い刀を渡し、任務であったことを話していく。


「また随分と派手にやられたなぁ」

「ごめん」

「いや、いいっていいって。どうせ模造刀だし…そうだな」

「父さん?」

うーん、と唸りだした父さんに首をかしげる。

「よし。家の俺のベッドの下に、刀をひと振り隠してある。それを使うといい」

「なんでベッドの下?」

「男の『お気に入り』を隠す場所は大体決まってるのさ。秘蔵のエロ本渡されるよりマシだろ?」

ソレはまた別の場所に隠してるけどな!と笑っていた。


面会時間を過ぎたので注意しに来た看護師さんに謝罪をしてから帰宅する。

あとは寝るだけとなったところで、父さんの部屋に入る。相変わらず本だらけの部屋だが、猫村さんの手入れが行き届いていて埃っぽさや嫌な臭いは一切感じない。


……エロ本?

「ここに隠しても猫村さんに処分されてそうだよ、父さん。まあいいか、刀はどこだ?」

ベッドの下をライトで照らしながら確認するも見当たらない。猫村さんが見つけて倉庫に移したのか?

奥に潜り込んでみると、ベッドの裏に貼り付けてあった。


「……これか」

綺麗な白だった。鍔が無く、納刀した状態だと遠目には棒にしか見えない。その鞘や柄には光沢がなく、滑り止めのような加工がしてあるようだ。握りこむと、まるで吸い付くように手に馴染む。

そのまま抜刀する。

刃渡りは50cm程で、緩やかな反りがあり以前の模造刀より少し短くなった気がする。


違和感を覚え、自室に戻り折れた模造刀と比べてみた。

「白い」

比べれば一目瞭然、刀身すらも白かった。

「白い刀、か。不思議な感じだ」


納刀し枕元に立てかけてベッドに入る。

そこでふと気になった。

「この刀に名はあるのかな」

アカ姉達にも今日の任務の報告が行っているかもしれないが、直接自分からも言っておきたい。

なので病院には行けないし、明日猫村さんに聞いてみよう。もしかしたら知っているかもしれない。


明日の予定を考えていると、そのまま眠りへと意識は落ちていった。

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