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Practical・Night  作者: マディア
『ハジマリノトキ』
8/23

0章・ケース7『楠舞斗』(くすのき まいと)


 ―時は変わり…放課後。


 校舎裏の花壇で、女生徒たちと共に花の世話をする男が一人。

 この学校の教師である、楠舞斗であった。


 「まいちゃん、この花だけなかなか咲かないねぇ」

 「そ、そのまいちゃんってのやめてくれないかなぁ…恥ずかしいよ」

 「えー、でもなんか『楠先生!』って感じじゃないんだもん」

 「あのねぇ…」


 楠舞斗は、その童顔・小柄な外見と穏やか…と言うには少々気弱な性格から、生徒達には『まいちゃん』と呼ばれる事が多かった。

 接しやすく、親しみやすい…という事なのだろうが、舞斗にとっては複雑な気分でもあった。


 「せんせー、水やりおわったよー!」

 「あ、じゃあ今日はこれで終わりにしようか」

 「はーい!」

 生徒達が元気に返事をかえす。

 道具の後片付けを手伝い、皆帰り支度をしに教室へもどっていく。


 しかし、舞斗は一人、花壇のそばに残っていた。

 一輪だけ、咲き遅れている花に手を沿え、つぶやく。

 「…がんばれ、君もはやく咲けるようにおまじないをしておくからね」

 「あー!またまいちゃん花にはなしかけてるぅ!!」

 忘れ物を取りにきた生徒に、その光景を目撃されてあわてる舞斗。

 「あああああああのそのこれはね!ちょっとね!」

 「だいじょーぶだって!皆しってるから」

 そういえば、この子には前にも目撃されていたなーなどと思いつつ、すでにそれが広まっている事に戦慄も覚えた。

 「いやあのね、これはね、あれでね」

 「それにね、私しってるもんね」

 「え?」

 「まいちゃんがそうやって『おまじない』した花って、大抵次の日には元気になってるって事」

 「あ、あはは…」

 しどろもどろになり、顔を真っ赤にしてうつむき加減になる舞斗。

 そんな仕草も、たぶん人気の秘訣なのだろう。

 「その花、明日には咲いてるといいね!」

 「…うん、そうだね」

 「じゃあね、まいちゃん!私帰るから~さよなら~!」

 慌しく、どたばたと駆けていく生徒。

 「気をつけて帰るんだよー!」


 (…いつまで、この生活が続けられるんだろうな)

 花壇を見下ろしながら、舞斗は想う。


 あの日から、確実に何かが変わった。

 事件にあったほかの生徒達も同じ思いのはずだが。


 彼らは、その事を『黙ったまま生きていく事』を選択した。

 それを自分ひとりが壊してしまうわけにはいかない。


 「何かあったら…僕が…」


 (僕が、皆を守るんだ) 


 ―覚悟は、もう出来ている。


 ―いつだって、生徒を守るために自分を犠牲にする覚悟は。



 ―何があっても、この日常を壊させない。



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