第0章
『…のように、神童町で起こった男女7人集団失踪事件は…』
『…未だに、犯人の手がかりさえ掴めておらず…』
『…また、2週間後に無事発見された被害者全員共が』
『事件当時の記憶が無いと証言しており…』
『その事もあり、半年たった今でも捜査は難航して…』
吾妻はキーボードを叩く手を一旦止め、フィルターまで焦がさんとしているタバコの火を灰皿に押し付けた。
煙とともに溜息を吐き出しながら、記憶をたどる。
(…こんな、判りきった事を何度かけば気がすむんだ、俺は)
この事件は、吾妻がずっと追ってきた物。
それこそ警察以上にこの事件の事を『知っている』つもりだった。
…だからこそ、『知らない』事にとても苛立っていた。
被害者達にはストーカーと間違われて訴えられてもおかしくないレベルの身辺調査もした。
警察内に居る情報提供者に少し摘ませて色んな情報を聞き出したりもした。
それでも。
この事件には『判らない』事が多すぎた。
失踪の原因、居るのならばその犯人、手口、失踪中の足取り、失踪中何があったのか。
被害者達は一人としてその事を『覚えてない』と言う。
(そんなはずは、ない。ないんだ。)
再び、愛用のジッポでタバコに火をともす。
「…何度でも、諦めねぇぞ…」
上着を手に取り、部屋のドアを勢いよく開け放つ吾妻。
「おい吾妻ァ!どこいくんだ!」
奥のデスクから編集長が怒鳴りつけてくる。
「…取材ですよ、いつもの」
「いつものって…いい加減あきらめたらどうだ?」
「すいませんがね、諦められないんですわ」
これは、解明されなければならない。
そうしなければ…、何か、そう。
何かが、手遅れになりそうな。
そんな予感が、吾妻の体を突き動かしていた。
「…わかったよ、だが連絡は入れろよ!お前熱くなるとケータイすら無視しやがるからな!」
「ありがとうございます、行って来ますよ」
車に乗り込み、吾妻は向かう。
隣町、神童町…
…失踪したのは、7人。
…全員が、この町の高校に通っている人間。
…生徒6人と教師1人。
二年D組『早川マドカ』
二年A組『式守有理』
一年A組『宴名咲夜』
三年C組『星野小百合』
二年B組『惣雅美貴』
一年A組『秋宮雅紀』
…そして、化学教師の『楠舞斗』
被害者達、全員が集う場所。
―『神童高校』へ。