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第一話(7)
トラックの中は天井から電球が1つ下がっているだけで、荷物は何も乗っていなかった。
薄ぼんやりとした明かりの中で、お互いの顔もほとんど見えない。
トラックは途中何度か止まり、そのたびに右折や左折を繰り返した。
どこへ向かうのかは皆目見当もつかない。
やがて隣に座っていた小太りの中年男性が「あんちゃんよぅ」と僕の耳元で囁いた。
「歳はなんぼや?」
「19ですけど…」
どうやら親父は関西人らしかった。
「うちの娘と一緒やな。別れてしもたけど…」
僕は適当に「そうですか」と相づちを打った。
「あの…このトラックってどこへ向かってるんですか?」
親父は「知らん」と首を振った。
「たぶん銀行とかかなぁ…」と横にいた男が言った。
ビジネススーツを着たその男性は、どう見ても会社帰りのサラリーマンのようだった。
「銀行?まさか強盗でもするんじゃないでしょうね?」
僕は、ハハハと作り笑顔で言った。
でも誰も笑わない。
なぜだ…?
つまらない冗談だとは思う。
でも、何で?
誰もツッコミの1つ入れないじゃないか。