第一話(2)
バイトの面接は夕方の4時から新宿の雑居ビルで行われた。
中央線で電車に揺られること約20分、アルタ前から靖国通りを抜けて人通りの少ない路地に入ると、目的のビルがあった。
築40年は過ぎているような薄汚れた佇まい。
1階にはシャッターの閉まったテナント募集中の看板、2階には海賊版のDVDを売る店があり、3階は雀荘、4階にはマッサージ店が入っている。
僕がバイトの面接を受ける会社は5階にあり、それで全部のようだった。
脇にある非常階段から上まで昇り、ドアの前に立つと「カワサキ理化学研究所」の表札が下がっている。
時給4000円、誰にでも出来る簡単なお仕事ですー、
たまたま家のポストに入っていたチラシにはそう書いてあった。
大学は経済学部だし、化学にはとんと興味がない。
いや学問一般には総じて興味はないのだが、誰にでも出来るというなら構わないだろう。
それに時給は破格ときている。
最近まで続けていたコンビニのバイトは、運悪く閉店の憂き目にあい僕は金と仕事を欲していた。
バイトさえしていれば、自分は誰かに必要とされているとささやかではあるが感じることが出来る。
それが例えどんな仕事であっても、今の僕には一時の気休めになるかもしれない、その時の僕はただそう思っていた。