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第一話(1)
吹きすさぶ寒風に、アパートの窓がガタガタと音を立てている。
僕がベッドから身をよじって目覚ましを確認すると、時計の針はとうに昼の1時を回っていた。
じきに4月だというのに、日当たりの悪いこのうらびれた六畳一間には、一向に春の気配すら感じられない。
僕はベッドからまろびでて煙草に火を点けた。
茫漠とした時間だけが流れていく。
剥がれかけたカレンダーにある果たされなかった約束をただぼんやりと見つめながら、僕は先日別れた彼女のことを思った。
しかし何度思い出そうとしてみても、彼女の顔はうっすらとモヤが掛かったように白く濁り、立ち上るタバコのようにすっと宙に消えた。
いま考えると、たぶん僕は彼女のことを本当に愛していなかったんだと思う。
だから彼女からメールで別れを切り出されたときには、素直に「了解」とだけ返し、それからすぐに携帯の電源を切った。
何も感じない、事務的に済ませた別れのはずなのに、僕の心の中はこの窓の外のような陰鬱たる一面グレーの光景が広がっている。