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01.素直なキモチ

この物語はフィクションです。

 不気味なほど青く、綺麗に澄み切った空の下。

 三時間後に本番を控えた彼女は、屋上にあしらわれた芝生の上で温かい飲み物片手に休憩していた。

 ここから見える景色は特別素敵なものではない。しかし邪険にするほど悪くも無い。

 ちょうど正面にはスカイウェイを行き来す所がお気に入りだった。

 また彼女は憂鬱な天気が嫌いだ。だがこの地底都市ジオフロントには、太陽が雲に隠れてしまって街が暗くなることや、空から水が降ってくる雨や雪などの現象はない。毎日が快晴だ。

 そして、彼女がこの『次元及び時空間修正保護機関』――如何せん長い名前なので、ディメンションガーディアンと呼ばれている――のエージェントとなった理由の根底には、実はここジオフロントでの居住権が与えられえるという、一種の欲目があった。

 機関の職員になった当初こそ仕事への意欲や頑張りはまるで見られなかったが、月日が経つにつれ成績も右肩上がりになっていった。そしてこの度初めて現地においての任務が彼女に与えられたのだった。

 そう、最初にお書きした、三時間後の本番とはそのことであり、彼女は緊張を和らげるためにこの場所に来ていたのだった。

 そんな時、屋上のドアが開く音が聞こえた。こちらへ向かってくる人物を尻目に確認した彼女はため息を漏らした。

「何してるの……?」

 話しかけて来たのは彼女と同年代くらいの女で、彼女の髪は綺麗な金色なのに対して、こちらは淡い水色だった。

「あんたこそ、何しにここに来たんですか」

 彼女のこの一言でしばらくの沈黙が流れた後、彼女の隣に腰掛けた水色の女が再び口を開いた。

「ナルシャ、緊張……してる?」

 彼女はふんっと鼻息を荒くして答えた。

「するわけないでしょうが、この私が」

「でも……ナルシャは心に余裕がない時にこの場所に来る……。私、知ってる……」

「はあ? 何言って…」

 何言ってるんですか。そう言いかけた彼女――ナルシャは途端に赤面し、言葉を失った。図星だったようだ。

 再び沈黙が流れた。鳥の鳴き声と人々の声が遠くから聞こえる。

 思い返せば、こうして二人でゆっくりと同じ時間を過ごすのは久しぶりだった。子どもの頃は町一番の仲良し、などと言われていたが、学生時代からはお互い口を聞く事は少なくなってしまった――。

「ねえ……」

 彼女はぎょっとした。昔のことを思い出しているうちに勝手に声が出てしまった。

「……どうしたの」

「え、えっと……あの……、ル、ルーシュはどうしてこの仕事してるんですか?」

「……私はお金が貰えればそれでいい」

ルーシュはどことなく素っ気ない風に答えた。

「本当に? お金が貰えれば、どんな任務も引き受けるんですか?」

ナルシャが問い詰めた。ルーシュは彼女の顔を覗き混むように見つめてから、口を開いた。

「……怖いの?」

 ルーシュの目に映る、ナルシャの顔がぴくりと動いた気がした。

「怖いですって?」

「そう……。私は何度も経験あるから、慣れたけど」

 途端にナルシャはルーシュの制服の胸倉に摑みかかった。

「馬鹿なこと言わないでください。私を誰だと思ってるんですか!」

 ルーシュは顔色ひとつ変えないで、淡々と続ける。

「でも最初はやっぱり怖い……。だから私つくってきたよ、ナルシャに……」

 彼女はポケットから小さなかわいらしいピンク色のお守りを取り出し、ナルシャに見せた。

「大丈夫……〝ディメンションジャンプ〟は――」

 言葉はナルシャの行動によって遮られてしまった。彼女はお守りをルーシュの手から引っ手繰り、それを芝生に叩き付けた。

「うるさい! 余計なお世話なんです!」

 ナルシャはルーシュを怒鳴り付け、そのままナルシャは屋上をあとにしてしまった。

 ルーシュはしばらく呆然とした後、お守りを拾って汚れを手で払い、それをポケットに戻した。また、ナルシャが置いていったゴミ――空の紙コップも拾ってその場を去った。

 ナルシャのお気に入りの屋上には、ドアの軋む音だけが空しく残った。




 自室のある棟への連絡通路をせかせかと歩きながらナルシャは呟いた。

「はぁ……。どうして素直になれないんですかね……私の馬鹿野郎……」

 それから集合時間ぎりぎりまで、彼女はベッドの上で泣いた。

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