第07話 蝋燭のように身を削って人を照らすような人に僕はなりたい(part3)
予定より早く出来たので、早めに投稿しました。
この感じでは不定期更新になりそうです。
8月13日。
しずかが訳あってC棟を全焼させる放火事件を引き起こした翌日。
時刻は19時。
僕は家(一軒家)にいる。
そして、なぜか僕の家には暦がいる。
来たのはついさっきだ。
現在の構図は、リビングのテーブルに僕、僕の向かいに暦。
ちなみにこの一軒家は僕のことを捨てた両親が残した唯一のものだ。
高校生までは親戚の家に厄介になっていたが、大学生になったので1人立ちと言う意味も含めて、この家に戻って来た。
大学もこの家からの方が近いし。
「さて、久寿米木くん」
席についてそうそう、暦が言う。
「かなり驚いていたようだけれど、私達が来ないとでも思っていたのかしら」
そうだよ。
普通、これから襲われるって分かっている家に誰が好きこんで行くんだよ。
僕だったら行くか行かないかかなり迷うだろう。
「まあ……」
僕は、言葉を濁す。
「心外ね。私達はそれほど冷たい人間ではないわよ」
そうですか。
……ん?
さっきから「私達」って言っていないか?
でも、ここには暦しかいない。
僕は1つの可能性に行き当たる。
「そういえば、しずかはどうしているのかな」
「この家の警備を任せてあるわ。少し離れた所から、スナイパーライフルで狙わせているの。誰か着たら知らせて、不審な動きをするようなら撃って良しと言ってあるわ」
本格的過ぎる!
どこの大臣の家だよ。
なにも、そこまでしなくても……。
「やりすぎじゃあないかな」
「そんなことはないわよ。だって相手は組織的犯罪者なのよ。それに、放火の可能性も否定できないわ。警備させておいて、損はないわ」
なるほど。
僕はてっきり、殴りこんでくるかと思っていたけれど、家を燃やされる可能性もある訳か。
あまり、派手な事が好きそうでない犯人のようだから、そういう可能性を消してしまっていた。
それにしても――
「よく、しずかが暦の言うことを聞いているね」
物凄い疑問だ。
暦が部室にいたらしずかは顔を出さない、逆もまたしかり。
そんな関係なのに。
それほど嫌っているのに。
「まあ、そこは交渉術よ。「あなたが私の城を消し炭にしてしまったのだから責任をとりなさい。さもなければ、あなたの大事にしているエアガン、ガスガンを消し炭にしてもかまわないのだけれど」と言ったら快く警備をしてくれたわ。意外と扱いやすい――ではなく、素直な子で良かったわ」
それは交渉とは呼ばないよ、暦さん。
脅迫と呼ぶんだよ……。
この件が片付いたら、しずかにお礼を言っておかなければ。
「久寿米木くん、こんなときなのだからもっと有意義な話をしましょう。作戦とか立ててみましょうか?」
「あーいいかもね」
「久寿米木くんは何か考えがあるのかしら。私達が来る前まで、何もせずに家にいた訳でしょう」
「ん……作戦とまでは言えないんだけれどね。しずかが犯人達が大男だって言っていたじゃない。だから、場合によっては戦闘とかになると思ったんだよ」
「ない話ではないわね」
「だから、そうなった時は、能力を使って――って思ってたんだけれど」
僕の未来を見る能力を使えば、相手がこれからどういう動きで仕掛けてくるかが解る。
そのため、攻撃をかわすことは造作でも無い。
ただ、戦闘でこの能力を使うのは負担が大きい。
例えば、犯人が目の前にいて僕がそこで未来を見たとしよう。
その未来が、犯人に攻撃される僕が、何回か避けた末に殴られるというものだった。
その未来を見た僕は、殴られないために、殴られるはずたった攻撃を避けたとしよう。
本来あるべき未来が変わってしまった事になる。
そうしたら、さっき見た未来はもう当てにはならない。
だからもう1度、攻撃を避けるために未来を見なければならなくなる。
そして、未来を見るには代償がある。
頭痛と倦怠感、そして命を削るという代償が。
未来を見ると言っても意外と万能ではないものさ。
まあ、この例えでは「避ける」場合で話したけれど、それを「避けながら攻撃」に変えてもいいしね。
もしそれで、1撃で相手を行動不能に出来れば、能力を多用しないでも済む。
「……私はあまり賛成できないわね。だって、久寿米木くんにいろいろと負担があるのではないのかしら」
暦は未来を見ることに対する代償を、京都旅行の時に知っているからね。
賛成されない事は分かっていた。
「まあ、あるはあるけれど、状況が状況だから仕方がないかなって」
僕の命が掛っているしね。
こういう場合はしょうがないんじゃないかな?
「でも、出来るだけ使わないと約束して」
「もちろん、使わない事に越したことはないからね。それは約束する」
「分かったわ。では指切りでもしましょうか」
「僕を子供扱いするな。それから、もし使ったら本当に針千本飲まされそうで怖すぎるから」
「そんな面倒な事しないわよ。それに、針千本って意外とお金がかかるものよ」
飲まされない理由が経済的理由だった。
なにこの現実味あふれる感じ……。
「でも、どうする?暦が強いと言っても2人同時に相手できるかどうか」
「一般人レベルなら対応できるでしょうけれど、さすがに戦闘のプロとか、そういうレベルになると難しいでしょうね」
さて、どうしたものだろうか……。
*****
2時間30分後。
現在の時刻は21:30。
襲撃予定時刻の30分前だ。
「さて久寿米木くん、もうそろそろこの家が戦場になるのだけれど。大丈夫かしらね」
「まあ、なんとかなるんじゃない?殺されない程度には頑張るよ」
楽観的だなーと自分でも思う。
「殺されない程度、ね。……そう。……久寿米木くん」
と、トーンを変えて暦は言う。
「何かな」
「問題です。死体と遺体がありました。どちらが男でどちらが女でしょうか」
クイズ?
なぞなぞ?
この局面で!?
「え、なんで急――」
「どちらがどちらでしょうか」
うわ、凄い圧力を感じる!
中世ヨーロッパの貴族の圧政並の圧力だよ。
よく知らないけどさ・・・。
「えーと……」
全く分からない。
死体と遺体に違いなんてあるのか?
あー適当でいいかな?
「死体が女で遺体が男……とか?」
僕が答えると
「ぶー。残念。不正解です」
物凄くいやらしい笑みを暦が浮かべる。
うわー答えの理由聞きたくないなー。
でも聞かないとなんかモヤモヤするし。
「……ちなみにだけど、なんで?」
「男は「したい」、女は「いたい(痛い)」、よ」
下ネタかい!
「お気に召したかしら、この問題は」
どんな反応をしていいかわからないよ!
情緒不安定だよ!
「じゃあ、僕も問題を……」
「あら、そう」
「アルジェリアにあってナイジェリアにない物はなーんだ」
「……」
リビングを沈黙が支配する。
いや、征服と言った方が良いかもしれない。
「久寿米木くん」
「はい」
「私の問題と比べても、その問題、どうかと思うけれど」
うわー!
外した!
僕のとっておきの問題だったのに!
ちなみに答えは「ジェリア」です。
……「ジェリア」って何だよ!とか思わないでください。
「とまあ、これくらいにしておきましょうか。そろそろ時間よ。それに久寿米木くんの緊張も大分解れたみたいだし」
そうか。
僕は緊張していたのか。
一応表情とか言葉とかに出さないようにはしていたけれど、気付かれていたのか。
なるほど。
暦らしい解し方だ。
下ネタだったけれどさ。
「ありがとう」
僕は言う。
「あら、何のことかしら」
一応伝わったかな?
恰好を付けたがる暦はとぼけたけれどさ。
さて、時間か。
僕は時計を確認する。
21:50。
予告時間まであと10分。
と、
ピーンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
この時間に来客か?
そう思ったとき、暦の携帯に着信があった。
暦は僕にも聞こえるように、スピーカにして電話を受ける。
電話の相手はしずかだった。
「もしもし」
『もしもし、私だけど』
「今、チャイムが鳴ったのだけれど。その件かしら」
『察しが早くて助かるわ。私が会った大男じゃないんだけど、ちょっと怪しい2人組が玄関前に来ているのよね』
十中八九、だろう。
「分かったわ。私達が外へ出て応対するから、そのままいつでも狙撃できるようにしておいて頂戴」
『了解。……ったくなんで私があいつの命令に従わ――』
ぷつ。ぷーぷーぷー。
「雨倉さんには再度調教が必要ね」
意外と仲良くなったのかなーとか思った僕が馬鹿だった。
さて。
作戦なのだが。
いくら暦が強くても、相手が戦闘のプロだった場合対応できないので、僕達が外へ出ることでいざとなったらしずかの遠距離からの援護をもらおう、と言うものだ。
こうすることで、しずかだけが闘っても一応対応は出来るし、僕の家への被害も少なくて済む。
もちろん、本当にピンチの時は僕も加勢するけれど。
「それにしても、敵ながら10分前行動とは良い心がけね」
「いや、襲撃の時間が早くなっただけだから。むしろ悪いことだからね!?」
「行きましょう」
「僕のツッコミに対する一言とかないの!?」
緊張感が一切なくなった僕達は、敵を出迎えに行った。
*****
玄関の門の前には、若い男と、中年の男がいた。
2人ともスーツを着ていて、一見会社員のように見える。
若い男の方は
短髪黒髪で、スポーツマンといった感じだ。
対して中年の男の方は、頭が少し禿げていて、苦労しているんだろうなーという感じだ。
その2人を見た暦は、
「あら、大分想像とは違うわね。もっとむさ苦しい人たちが来るかと思っていたわ」
確かに。
僕達が想像していたものとはかなり違った。
すると、中年の男が口を開く。
ファーストコンタクトだ。
「おや、我々が来るのを事前に知っていたような口ぶりですね。どう思いますか、森さん」
どうやら短髪黒髪のスポーツマン風の男は「森」という名前のようだ。
「そうですね、彼が未来でも見ていたのでしょうか」
「それは違うと思いますよ。なぜなら我々の風貌が想像と違うと先ほど言っていました。想像は想像でしかありませんでしょう」
「なるほど」
2人は何故僕達が事前に知っていたかに興味があるようだ。
さて、どうするか。
……まあ、それくらい教えてもいいか。
僕は教えることにした。
「あなた方のお仲間が、こそこそ喋っていたのを聞いた人がいたんですよ。その人の情報です」
すると2人は驚いたような表情を作り、
「仲間、ですか?」
と、中年の男が言った。
「ええ。僕の友達にC棟――大学の部室を燃やさせた、大男の2人組です」
すると、
「ああ、あの人たちですか。彼等は仲間などではありませんよ。ただ、雇った人達ですよ。裏の方から、ですけれど。その日我々はやることがあったので」
え、そうなの?
てっきり犯罪組織か何かなのかと思っていた。
と言うことは――
「あなた達は組織とかで動いている訳ではないんですか?」
「そうですね」
あっさり肯定された。
と、言うことは敵はこの2人だけか。
しかも、そんなに強そうには見えない。
もしも戦闘になっても問題なさそうだ。
「ところで、今日はどういったご用件でしょうか」
暦が淡々と言う。
もうちょっと愛想を振りまけ!
っていうか、何で来たのか知っているだろう!
「簡単に申し上げるのなら、久寿米木さん、あなたに死んでもらいたく、今日は参りました」
中年の男が言う。
そして、森も追随して言う。
「ってかさっさと死ねや」
……え?
さっき丁寧な言葉遣いじゃ無かったかな?
僕の聞き間違いか?
僕がフリーズしている間に暦が反撃する。
「あら、あなた随分な口を利くのね。人に頼むときはもっと誠意をこめなさい。例えば土下座とかね。まあ、土下座しか受け付けないのだけれど。もっとも、あなたの言うこと、聞くつもりもないけれどね」
「うるせえな」
「ベネズエラ?」
「うるせえなって言ったんだよ!」
「あら、そうなの。分からなかったわ」
「死ねや!」
「聖闘士星矢?」
「死ねやって言ったんだよ!ったく肩すかし食らった気分だぜ……」
「横須賀市?」
「肩すかしだ!もう嫌だこいつ!」
さすが暦だ。
人によって態度を豹変させるらしい森を手玉にとっている!
それと、ベネズエラってどんな聞き間違いだよ!
「失礼、お嬢さん。森は人によって態度をがらりと変えてしまう所が悪い所でして。申し訳ない。森も慎みなさい。久寿米木さんはある意味被害者なのですから」
中年の男が暦に謝罪する。
この人は礼儀をわきまえている分まだましだ。
そして気になることを言っていた。
僕がある意味被害者?
どういうことだろう。
「そうですね。その猿の教育をもっとした方がいいでしょうね。ところで、あなたのお名前、まだ聞いていないのですけれど。伺ってもよろしいですか」
そういえば聞いてなかった。
さっきから中年の男中年の男って煩わしかった。
「そうですね。2人とも自己紹介がまだでした。私の名前は、林です。で、こちらは森」
そう言って林さんは森も紹介した。
「そうですか。ご用件についてお話してもいいかしら。久寿米木くんに死んでもらいたい――と言うことらしいのだけれど、動機が解らなければ、同情すらできないわ。だから、動機くらい教えてもらいたいのだけれどいいかしら」
「分かりました。まずはこちらの事情をお話ししましょう」
「ええ。全てはそれからにしましょう。お互いに」
そして、林さんは語り出した――。
あーまた僕蚊帳の外って感じだなー。
今回とか思いっきり中心人物なのに。
途中から僕喋ってないし。
主導権握っているのが暦だからしょうがないと言えばしょうがないけれどさ。
「我々は――」
長くなりそうだ。
そんな気が、僕はした。
どーも、よねたにです。
前書きのとおりの事情から、早めの投稿となりました。
さて、投稿ペースについてなのですが・・・。
不定期になりそうです。
すみません。
感想や評価を頂ければ、参考にさせていただきますので、よろしくお願いします。
では、また。