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未来探偵クスメギ  作者: よねたに
家族編
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第62話 子供はやっぱり親に似てしまうものなのかもしれないと僕は思う(part5)

 辺りは既に暗い。

街灯も点灯し始め、各家庭の玄関の明かりも灯り始めた。

本来ならば、暦と優と一緒に帰って夕食を食べ始めたり、テレビを観たりと一家団欒の幸せな時間を過ごしていたはずなのに。

僕は辺りをなんとなく見渡してみる。

 昼間とは打って変わりうら淋しい雰囲気の公園内にはもう、人は、いない。

――いやまあ、暦はいるけれどさ、実際。

なんとなく雰囲気を出そうと思って言っちゃっただけ。


「なにかどうでもいい、くだらないことを考えていないかしら」


 ジト目で僕を睨みつける暦。

何この無意味な鋭さ!

 僕は咄嗟に、


「そんな事はないよ!?」


 と答えたものの、声が裏返ってしまい逆に怪しくなってしまった。

それが、暦の不信をさらに招く。


「そのモノローグで私をオチに使ってない?」


「つ、使ってない使ってない」


 僕は食い気味に精一杯否定した。

が――


「……帰ったら覚えていなさい」


「……最近物忘れがひどいからなあ」


「なら身体に覚えさせるしかないわね――今」


「嘘嘘嘘です嘘です!真っ赤な嘘です!」


「あなた、私に嘘をついたわね。……後でお仕置きが必要かしら」


「…………」


 どうやらどの道を進んでも無駄で、痛い目を見る、袋小路ルートだったようだ。

僕は諦めた。

と、


「お待たせ」


 原付に乗って颯爽と公園に乗り込んできたのは、ヘルメットをかぶった風間琴音だった。

風間琴音――過去を視ることが出来る能力者で、今は暦の部下的ポジション(琴音は下記の理由から暦を慕い、暦は『探偵としてこれ程便利な能力を持っている人はいない』と言って重用しているものの、どういう理由からかは分からないが給料は出していないようだ。まあ、利害が一致しているから僕は何も言わないけれど)。

探偵事務所のエース(能力があるから当然と言えば当然ともいえるが、正社員の人達の中にエースが居ないのはどうなのだろう)。

そして――百合(レズビアンと言い換えても良いかもしれない)。

過去に、しずかと愛し合った女でもある。


「……なんだろう。別に間違った説明ではないけれどなんとなく小馬鹿にしたようなモノローグが流れた気がする」


 ヘルメットを外しながら少し僕を責める口調でいう琴音。


「気にしない気にしない」


「『気にしない』ってことは実際小馬鹿にしたモノローグを流していたんだ、久寿米木は」


「…………」


「帰ったら覚えていてくれるとありがたい」


「何その言いまわし」


 全く恐ろしくないセリフだった。

『覚えていてくれるとありがたい』って……。


「あなた達、今は緊急事態よ。何をしているのかしら」


 暦が僕と琴音の話に入る。

おっと、そうだった。

このメンツでいるとどうにも流されてしまう。

もっと危機感を持たなければならない状況だった。


「それにしても随分と早かったわね。連絡を入れてから10分も経っていないわよ」


 感心した口調で琴音に言う暦。

確かに僕も同感だ。

まあ、急いできてくれる分には有難いのだけれど。

 琴音は薄く笑って言う。


「まあ、本職の方でゴタゴタがあったんだけれど、ボクには手伝えることが無くて暇だったからね。管轄も違ったし。だから定時で上がってきたよ。それから事務所に行って、ボクの携帯に来ていた迷惑メールを削除していただけだから」


「あー、迷惑メールね。僕のところにもよく来るよ。『2000万円払うから1晩だけ相手をしてください』みたいな」


 ああいうメールは本当に迷惑極まりない。

アドレスを変えればいいのかもしれないけれど、変えると何かと不便だ。

サイトの登録に使っていたりするとそれも変えなければならない。

そのため、ドメイン拒否で対応しているもののそれでも完璧ではない。


「それって迷惑メールなのかな。そういういかがわしいサイトでも見まくっているんじゃないかい?」


「そんな訳ないだろうが!欲は暦で足りているよ!」


 『はっ!』と、言ってから後悔する僕。


「……あなた。暗くなったからっていささか大胆じゃないかしら」


「……そう思うなら少しは照れたら?」


 言葉と表情と仕草が全くかみ合っていない暦だった。


「そうね。以後気を付けるわ」


「……気を付けるものなのか?まあ、いいや。それにしても最近の迷惑メールって面白いよね。この間なんか現役アイドルを語って写メ付きで送られてきたんだよ。眼のところに黒い目隠しが入って、『アイドルの○○です』って。それで『あー、嘘臭いなー』って思った僕はスルーしたんだよ」


「嘘臭くなかったらどうしていたのかしらね」


 暦が白い目で僕を睨みつける。


「……その話もスルーして。――で、しばらくして、また同じアイドルを語った迷惑メールが来たんだよ。同じ写メ付きで。僕は『またか』って思って再びのスルーを敢行したんだよ」


「敢行の使い方おかしいよね」


 まあ、そう言えなくもないかもしれないけれど。


「放っておいてくれ。――で、さらにしばらくして。また同じアイドルから来たわけ。『あーまたか』って思ったんだけれど一応中身を見たわけ。そうしたら、何故か写メの目隠しがまゆ毛の位置にあったんだよ。目、丸出しでまゆ毛隠すってどういうこと!?って思っちゃって笑っちゃったよ」


「なんて時間の無駄な話なのかしら」


「ボクはこの話ほど無駄な話を未だ知らない」


「う、うるさいよ!」


 酷い言われようだった。

なにもそこまで言わなくても……。


「ところで――」


「なに?」


「一体ボクは、どうしてこんな時間にこんなところに呼び出されたんだい?」


 首を傾げる琴音。


「え――?暦から聞いていないの?」


 僕は琴音に訊き返す。


「とにかく来てとしか聞いていないね」


 僕は首をまわして暦を見る。


「あなたのせいよ。無暗に話を脱線させるから」


「僕のせい!?」


「ボクには何のことか一切分からないけれど、多分久寿米木が悪いと思う」


「分からないって言っているのに僕が悪いってことは分かるとでも言うのか!?」


「そうやってあなたは話を脱線させるのね。――風間さん。緊急事態よ」


 暦は真面目な顔をして、僕そっちのけで話を進める。


「さっきも言っていたけれど何のことだい?」


「優が居なくなったわ。多分――誘拐」


「――っ!!」


 暦の言葉は、恐らく琴音の予想の遥か斜め上を行くものだったのだろう。

基本冷静でペースを崩さない琴音が驚愕していた。


「で、琴音にその能力で優の居場所を探してもらおうと思って」


 このままでは話に入れてもらえないと思った僕が補足する。

……これくらいは良いよね?

 と、驚愕していた琴音が現実に意識を戻す。

そして怒鳴る。


「そういうことは早く言ってくれ!なんだいこの空気は!喫茶店か!」


 確かに今の空気は緩い。

まあ、それも仕方ないと言えば仕方のないことなのだけれど。

琴音が来てくれたら見つからないものはない。

何と言っても過去を視ることが出来るのだから。

 安心してしまっても不思議ではないと思う。


「……面目ない」


 しかしこういう場合、安心しきってしまったらそこから油断が発生する。

そして今は優が誘拐された状況だ。

早く助けに行くのが道理だろう。

 僕は考えを改め、謝る。

暦も今の空気は戴けなかったのか、


「私にも責任があるわ。――私がこの人を扱いきれなかったから……」


「僕は調教されたペットか?」


「だったら去勢でもしようかしら」


「ぶっ!」


「……いえ、駄目ね。優に姉弟を作ってあげないと可哀そうだわ。それまでは――」


「久寿米木、早めにしないと駄目だぞ。そうしないと優ちゃんが気がつく。君達が行為に及んでいることに――」


「余計なお世話だ!」


 それと『早めに』って言うのは時期的なことと僕の頑張り的なことのダブルミーニングらしかった。

本当に余計な御世話だ。


「って、こんなことをしている場合ではないわね。この話は帰ったらにしましょう」


 暦がそう纏める。

 帰ったらやること――いや、やられることが増える僕だった。


「では風間さん、よろしく」


「了解」


 琴音はそう言って、左眼に手を、指をかける。

そして、そっとコンタクトレンズを外す。


「――っ!」


 一瞬琴音の顔が苦悶に満ちた表情に変わったがすぐに平静を取り戻す。

そして辺りをきょろきょろと見渡したかと思うと、すぐに、


「見つけたよ。公園の入り口付近で小太りの男が優ちゃんをお菓子で釣って車に乗せている」


 琴音は僕達に説明する。

しかし暦が、


「なんですって?優を犯して吊って……?あなた、アメリカ大統領に言ってこの周囲に核爆弾の絨毯爆撃をしてもらいましょう」


 真面目な顔でわなわなと震えていた。


「相変わらず酷い聞き間違いだな!『犯して吊って』じゃなくて『お菓子で釣って』だよ。っていうか優にそんな事をしたら僕が犯人の肛門から手を突っ込んで奥歯をがたがた言わせてやるよ」


「アナルプレイね」


「違うわ!例えだ、例え!」


 っていうか男相手にアナルプレイって、僕はどれだけ鬼畜だと思われているのだろうか。

暦との……夜の夫婦生活だって、優しくしているのに。

と、


「2人とも静かにしてくれないかい?集中したいんだけれどね」


 琴音が僕達を見ずにたしなめる。

さっきからボロボロだな、僕達。

先輩の威厳見たいなものが一切ない。


「……悪いね」


「ごめんなさいね」


「じゃあ後を追おうか」


 琴音はそう言って僕達を先導して歩き出す。

しかし僕にはちょっと気になることがあった。

それは、


「能力を使い続けたままで大丈夫なの?」


 という疑問だ。

僕の場合は長時間使い続けるには身体もきついし代償もある。

そんな僕の問いに琴音は、


「久寿米木と違って代償が『痛み』だけだからね。問題ないさ。それにこういう能力はこういう時にこそ使うものだとボクは思うんだけれど?」


「……そっか。迷惑掛けるね」


 僕は前を歩く琴音に言った。


「別に迷惑とは思っていないさ。ボクにとっても優ちゃんは掛け替えのない人だからね」


 振り返らずに言う琴音。

ひょっとしたら照れているのかもしれないと僕は思った。

僕の知る琴音からしたら、随分と素直だったから――。



*****



 途中僕達はタクシーを拾い、優の後を追った。

琴音は助手席に座り道中の案内に徹している。

しかしその表情は辛そうだった。

移動速度が速いことが関係しているのかもしれないし、幾ら代償が無いとは言え『眼』への負担が増しているのかもしれない。

ここまでしてくれているのだ。

必ず優を無傷で救いだそう。

 密かに心の中で誓う僕だった。

 タクシーに揺られること30分程。

僕達は人寂しい港の倉庫まで来ていた。

潮風が僕達をなでるが、湿っていて気持ちが悪い。

しかもこの周辺は海自体が汚いので臭いもきつい。


「随分と物騒なところね」


 タクシーの運転手が、こんなところで降りる僕達を不審に思いながら走り去ったころ、暦が呟くように口から漏らした。

まあ、僕もおおむね暦と同感だ。

街灯も少なく辺りはよく見えない。

それにさっきも言った通り臭いがきついし潮風がべたべたする。

そして雰囲気も最悪だ。


「それにしても――港か」


 僕はそこが気になっていた。

わざわざこんな場所に連れてくると言うことは、ひょっとしたら――。

そういう嫌な考えが脳裏をよぎる。

 人身売買という最悪な考えが。


「それで、風間さん。優はここにいるのよね」


 辺りがシンと静まり返っているため、暦が小さな声で琴音に確認する。


「うん。ここで間違いないよ」


 琴音は僕達の目の前に立つ古びた倉庫を指さす。

外観ははっきり言ってホーンテッドという感じだ。

潮風の影響で錆ついていて、いつ倒壊してもおかしくないようにも見える。


「では風間さんはここで待っていて頂戴。中に危険があった時、あなたでは対処できないでしょう?」


「そうだね。そうさせてもらうよ」


「さて――あなた、行きましょう」


「そうだね、行こうか」


 僕と暦は倉庫の扉を押しあけた――。

どーも、よねたにです。


part5です。


あと2部くらいですかね?


まあ、頑張って書きます!


では、また。

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