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未来探偵クスメギ  作者: よねたに
ホワイトデー編
55/65

第55話 期待していなくても貰えるなら貰えた方が嬉しいに決まっていると言っても過言ではないのだ(part3)

 百貨店は大規模清掃で休業。

僕の行きつけのケーキ屋は定休日。

その店の近くのスーパーは売り切れ。

さらには面倒臭い友人に電話してまで聞いた洋菓子屋では不注意でクッキーを買ったものの落として踏みつけ粉砕してしまう始末。


「……なんやねん、この不幸の連鎖は」


 僕は洋菓子屋の張り紙を見つめたままつぶやいた。

BGMは由紀さおりの『夜明けのスキャット』だ。

るぅーるぅーるるぅー……。

 しかし、そんな悲観している場合ではない。

午後には事務所に顔を出すと言った僕に残された時間はあとわずか。

こうなっては仕方がない。

僕はポケットからスマホを取りだした。

そして電話をかける、その先は――。


(プルルルル……)


 数回のコール音。

『プツッ』と言う音とともに、


『はい』


 いつもの平坦な声。

暦だ。

 そう、僕は、暦に電話をかけた。

『遅れる』と言うことを伝える為に――。


「あ、もしもし」


 僕は今にも震えそうな声を必死で押さえて話す。


『どうしたのかしら、久寿米木くん』


「いや、あのさ、午後から顔を出すって言ったけれどさ」


『…………』


 暦が無言で先を促す。


「ちょっと遅れるかもしれない。具体的には――」


 もう、クッキーはこの店で買ってしまおう。

無暗にあちこち探し回るよりは堅実だろう。

……何故か、今日の僕が探し回っても、クッキーにはめぐり合わない気がするし。

 さて。

となると、この店が次に開くのは14:00。

すぐに買ったとして、そして余裕を見て――


「15:00くらいになるかもしれない」


 この間約1秒。

僕は瞬時に計算した。

 暦は特に何も言わず、


『……そう。分かったわ』


 と言った。

正直この反応は予想外だった。


「あれ、怒らないんだ」


『どうして私が怒るのよ。別に時間での約束はしていないじゃない』


 確かに僕は『午後に』としか言っていない。

詳細な時間指定をしての約束ではない。


「まあ、そうなんだけれどさ」


『私はそこまでせせこましい女じゃないわ。午後って言うことならば12:00から24:00までが許容範囲よ』


 ……なんだ。

僕がビビりすぎていただけのようだ。

 僕は心の底からほっとした。

……ん?

そう言えばさっき僕は――


『でも、時間での約束に遅れたら私は怒るから』


「…………」


『じゃあ、『15:00くらい』に待っているわ』


 そう、僕は『時間を指定』してしまった。

わざわざ電話をこちらからかけて。


「……あ、うん」


 電話はそこでプツリと切れた。

……これは墓穴を掘ったというのだろうか。

電話しなければよかった……。

 いや、でも、悔いていても仕方がない。

もう済んでしまったことだ。

現在の時刻は12:10。

 あと1時間50分もある。

このまま店の前で待っていても暇で暇でどうしようもない。

この時間をどう潰そうか……ん?

 ふと目を遠くにやると、なにやら大きな建物が。

良く目を凝らして観てみると――。

 あんなところに映画館がある。

 僕は『ちょっとだけ……』と近づいてみる。

すると、立て看板があり、今日の上映スケジュールが細かく書かれていた。

そして、


「今の時間から丁度始まる映画がある……」


 そして上映時間は1時間40分。

これは運命のいたずらなのでは……?

それに、このクヒオ大佐の映画……すっごく観たい!

 僕は映画館のカウンターでチケットを買うと、吸い込まれるように中へ入った。



*****



「あんな人が実在したなんて……」


 1970年代から90年代にかけて、「アメリカ空軍パイロットでカメハメハ大王やエリザベス女王の親類」と名乗り結婚話を交際女性に持ちかけ、約1億円を騙し取った実在の結婚詐欺師、自称「ジョナサン・エリザベス・クヒオ大佐」と名乗った日本人を描いた壮大スペクタクル――ではないが、面白い映画だった。

 映画館から外に出ると、僕は時間を確認する。

あと10分で再びあの店が開店する。


「おっと、丁度いい時間だ」


 僕は洋菓子店へと足を向けた。



*****



「な……なにこれ」


 僕は驚愕で目を疑った。

なんと、洋菓子店の前には長蛇の列が出来ていた。

それも30m程の。

 店の規模がそこまで大きくなく、はっきり言ってしまえば狭小だ。

それにぎりぎり午前中入った感じだと、ケーキやクッキーといった商品の数が多いわけでもない。

これだけの人がいたら売り切れてしまう。

 僕はこの現状を確認するために、渋々――本当に渋々電話をかける。

もちろんその相手は、五十嵐だ。

 五十嵐はコール音1回ですぐに出た。


『……合言葉は?』


 面倒臭いことこの上なかった。


「疾風の桜吹雪が闇夜を駆ける……」


『その合言葉は久寿米木か。今度は何事だ』


 このいちいち尊大な喋り方もどうにか出来ないものか。

僕はそんなことを一瞬思ったが、今はそれどころではないことを思い出し、本題を切りだす。


「いや、薦めてもらった洋菓子屋に長蛇の列が出来ているんだけれど。……なんで?」


『そんなことでいちいち電話をするな。電話会社の人に会話が聞かれていたらどうするんだ!』


 電話会社の人、そんなことしないと思う。

まあ、言わないけれどさ。


『まあ、いい。答えてやろう。……その店は超有名店だからだ。テレビや雑誌でもたびたび取り上げられる程のな。ただ、俺が目を付け始めたのはそれ以前だが』


 最後の情報はどうでもいい。

……なんだって?

超有名店?

 いや、そんな事も今はどうでもいい。

この長蛇の列と店の規模――こじんまりとしている――から見ると、すぐに商品は売り切れてしまうのでは……?


「……売り切れとかは?」


『そんなの日常茶飯事だ。はははっ』


 なんていうところを紹介してくれたんだ!

というか最後なんで笑った。


「今すぐ別の店を紹介してくれ」


 恐らくこれ程の人が並んでしまっている以上、売り切れは必至。

早々に諦めた方が得策だろう。


『そう言えばお前は今、友人が人質に取られているのだったな』


「……は?」


『……ん?』


「……はっ!そうそう!そうなんだ!だから早くしてくれ!」


 そんな設定もあったな、言われてみれば。

すっかり忘れていた。


『そうだな……その近くだと……あ』


「『あ』ってなんだ!?」


『今日は全ての店が定休日だ』


「ばんなそかな!」


 このまま家に帰って引きこもりたくなった。

が、そんなことも言っていられない。


『もしも俺が紹介するとしたら、今日やっている一番近い店で30km離れたところにある店になるが……どうする?』


「いかねえよ!」


 『どうする?』じゃねえよ。

そんなところ行っていられるか!

 今日は一体何がどうしてこうなってしまったのだろうか……。

ひょっとして何かに取り憑かれているのか?


『そうか……。なら仕方がないな。そのまま待て。では交信終了』


「え、ちょ、そっけない――」


 五十嵐はそのまま電話を切ってしまった。

面倒臭い奴ではあるが、この状況で1人は正直堪える。

……1人は嫌だなぁ……淋しい……熱帯魚……?



*****



 4時間後。

案の定14時台のあの行列で、14:00から16:00の分は完売してしまったため、僕は2時間待ち、ようやくクッキーを手に入れることが出来た。

……ようやくだ。

しかし――


「気が重い……」


 暦に事務所に行くと約束した時間は15:00。

今の時間は18:00。

3時間の遅刻だ。

 僕が待たされる側だったら、相手がどんな美少女でもいらっとくる時間だ。

だが、僕は行かないわけにはいかない。


「さて、行くか……」


 殴られに――。

僕は足取り重く、事務所へと1歩1歩、歩いて行く。

どーも、よねたにです。


遅くなりました。


part3です。


ちょっとブツ切り感が否めない感じですが、読んでいただけたらと思います。


では、また。

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