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未来探偵クスメギ  作者: よねたに
監禁編
50/65

第50話 『ピンチをチャンスに』と言うけれどそれが出来たらピンチじゃないと僕は思う(part9)

「あら……月村さん――と久寿米木さん。無事だったのね」


 僕が腕時計を確認すると、時刻は既に1:30を回っていた。

 僕達が、暦が京都に到着してから取った『旅館 はなこ』に帰ってくると、ロビーの受付カウンターにいた玲さんが気付いて表情を明るくさせた。


「ええ」


「どうも、ご心配をおかけしました――」


「本当によく無事で帰って――」


「――と、言いたいところですが」


 僕は玲さんの言葉を遮る。


「……え?」


 玲さんは虚を衝かれたような顔になる。


「玲さんにお話があります。――暦は部屋に戻っていていいよ」


 僕は隣にいる暦に静かに言った。 


「あら、どうして?」


 暦は不思議そうに首をかしげている。

まあ、これからもう1幕あるわけだから変に思っても仕方がないかもしれない。

しかし、僕にも譲れない理由がある。


「最後くらい決めさせてよ」


 こういうことだ。

今回のこの事件。

僕は全くと言って良いほど活躍していない。

 さらっと誘拐されて、マリオの助けを待つピーチ姫の状態だった。

正確に言えば、逆の構図だし。

ちょっと情けなくなってきたので、ここで汚名返上、名誉挽回と言う訳だ。

 暦はそんな僕の心情を知ってか知らずか、ほんの少しの沈黙の後に


「……分かったわ。何かあったら連絡を頂戴」


「了解」


 僕の返事の後、暦はスリッパのぺふぺふという音とともに廊下の奥へと消えて行った。


「……どういうこと?」


 僕は玲さんの声に、身体を玲さんへ向ける。

玲さんは何を言っているのか分からないような表情をしていた。

いや、作っていると言った方が良いのかもしれない。


「ご自分の胸に聞いた方がいいのではないですか?」


 だから僕はそう言った。


「うーん……豊満な胸が邪魔をして声が聞こえないわ」


「返し辛いボケはやめてください」


 女性のこういうネタは正直男には辛かったりする。

しかも相手が年上のキレイな女性だと余計に。

……おっと、このままでは相手にペースを持っていかれるところだった。

ひょっとして玲さんはそれを狙っていたのかもしれない。

 僕は1つ深呼吸をして、冷静さを維持する。


「ふっ……ごめんなさいね」


 僕のそんな仕草にちょっと罪悪感でもわいたのか玲さんが笑って謝罪する。


「全くです。……本題に戻しますとですね、玲さん。僕の、未来を視る能力に対する研究をやめていただけませんか?」


 僕は単刀直入に切り込んだ。

あまり回りくどいのはこの場合好ましくないだろう。

 しかし玲さんは、


「……私はSh研究所の中でも下っ端の研究員だったから、そういう研究には関わっていないわよ?」


 あくまでしらばっくれるようだった。

まあ、僕には証拠が2つあるから、どう頑張っても言い逃れは出来ないだろうが。


「では、これを見てもそんな事が言えますか?」


 と、僕は証拠その1をカバン――僕は着の身着のままでここまで連れられてきたからもちろん持っていないから暦のカバンだ――から取り出して提示する。

なんとなく、昔やった『逆転裁判』を思い出す。


「それは?」


 玲さんの表情が厳しいものへと変わる。

これで落ちてくれれば、そこまで行かなくても揺さぶられてくれれば。


「僕が監禁されていた、SH研究所の施設にあった資料です。……ここにあなたの名前がありますよね」


 僕は資料のその玲さんの名前が書かれている部分を指でさしながら説明する。

しかし玲さんは『ふっ』と人を小馬鹿にしたような嘲笑を口から漏らす。


「別に不自然なことはないでしょ?元がつくとは言え研究員なのだから」


 まあ、そんな風に返すよね、それは。

しかし僕だってまだまだ押していく。


「この資料のタイトルは『予知能力と人体の関係』……そしてあなたの名前が書かれている」


 SH研究所の一般研究員は普通の科学的研究しかしていなかった。

こんな22世紀の科学のような研究に手は出していない。

 なのに玲さんが予知能力に関する研究レポートを書いているという矛盾を僕はついた。

が、


「ただの興味本位で作ったレポートよ」


 一蹴されてしまった。

でも僕はまだ切り札を残していた。

まだそれに触れないよう、僕は言う。


「SH研究所は表向きは普通の研究所でしたが裏では僕の能力についての研究がなされていた。そしてその研究の拠点は一般研究員には知らされていない地下施設――僕が監禁されていた場所です。そして、このレポート資料が見つかったのも、その地下施設なのですが?」


「偶然よ。幹部の人が私の作ったそのレポートを勝手に持って行っただけね」


 ふむ。

うまくかわしていく……。

 僕は決定的な証拠を提示する。

これで終わりだ。


「これは未来を視る能力について研究していた人達の名簿のデータです。この中にあなたの名前がありました。これも偶然ですか?何かの手違いですか?――あ、ちなみに、あなたの名前が記されたレポートや資料は、件のの地下施設から多数見つかりましたよ」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「……降参ね。参ったわ」


 案の定、とうとう玲さんは落ちた。

ただ、その表情にはまだ余裕が残っているのがうかがえる。

 手を挙げてひらひらさせる仕草で『参った』アピールをしているが、明らかに僕を挑発している。


「では、あなたが――もう1人の黒幕だと?」


 僕は冷静さを保ったまま、端的に問いただす。


「ええ、そうよ。恐らくあなた達がボコボコにした男と私が、久寿米木さんを誘拐した黒幕よ」


 玲さんは、そう、あっさりと認めた。


「理由を聞いても?」


 理由――。

以前、玲さんが僕を狙った時の理由は孤児院の子供達の為という理由だった気がする。

確か玲さんの姉妹は孤児院の出身で、その孤児院が財政危機でお金がいる――みたいな理由。

今回も同じような理由なのだろうか。


「理由?そんなもの、決まっているわ。――金よ」


「…………」


 目的は同じようだ。

しかし、なんとなく――前とは違う気がする。


「どうしてお金が必要なんですか?前に僕を利用しようとした時は、孤児院が理由でしたよね」


「別に、金が欲しいことに理由なんてないわ。ただ私が欲しいだけよ。……まあ、余ったら孤児院に寄付してあげても良いかもね。ふふっ」


 玲さんは変わってしまったようだ。

以前の、孤児院の子供達の為に泣けるような人では、もうない。

誰かの為に何かを出来るような――見返りなくして動くことのできる人では、もうない。

 一体何があったのだろうか……。


「玲さん、変わりましたね。もっとも、僕があなたのことを『変わった』と言える程知っているわけではありませんが」


「そうかしら?私は私よ」


「一体この半年の間に何があったんですか?」


 僕がそう聞くと、今まで受け付けのカウンターの中にいた玲さんが、カウンターを出て僕の前まで歩いてきた。

僕と玲さんとの距離は約50㎝。

近い近い。

 玲さんはにやりと笑って、自分の唇の前に人差し指をやり言った。


「女は秘密を持ってこそ美しくなるのよ」


 そしてドヤ顔の玲さん。


「……はあ」


 よく意味がわからなかった。

あれだけもったいぶった仕草をして言うことだったのだろうか。

果てしなく時間の無駄だったような気がする。

いや、気がすると言うか時間の無駄だった。


「何よその反応は。……まあ、いいわ。それで?あなたは私をどうしたいの?」


 50㎝の距離を1m程まで離れて、玲さんはふてくされたような表情で言った。


「最初に言いましたが、僕の能力の研究をやめていただきたいですね」


「それは無理な相談ね。だって、あなたの眼には価値があるもの。多くの人は知らない――知っている人は知っている、そんな莫大な価値が」


 知っている人になんでこの人が入っているのだろう。

今から脱退してくれないだろうか。

まあ、言わないけれど。


「どうしてもですか?」


「ええ、どうしてもよ」


「じゃあ、交渉決裂ですね」


「ええ、交渉決裂ね」


「じゃあ――」


「じゃあ?どうするのかしら」


 僕は一呼吸置いて、


「暦がボコしたあの男と同じく、警察に突き出しましょうか」


 笑顔でさわやかに宣言した。

しかし玲さんは僕の口から『警察』という単語が出ても動じなかった。


「あらいいの?あなたの能力が公になってしまうわよ?」


 なるほど。

確かに、よくニュースや新聞で犯人の供述が載ったりしている。

恐らくそのことを言っているのだろう。

 だが、僕にとってそんな事は大した問題ではなかった。


「誰も信じやしませんよ。こんなSF染みた能力。それにいざとなれば、こちらにも対抗手段がありますし」


 例えば、親、友達、あるいは赤の他人。

誰でも良い。

もしも『私は未来を視ることが出来る』と、言われたら果たして信じることが出来るだろうか。

 答えはNOだ。

『こいつ頭がおかしくなったんじゃ……』というのが関の山だ。

 それに言った通り、それが万が一信じられたとしても、それに対する対抗手段を僕は持っている。


「どんな――と聞いても、今は応えてくれないでしょうね」


 いやらしい笑みを浮かべて玲さんが僕に問う。


「もちろん、応えませんよ?」


 僕は笑顔で返す。

こういう状況で、不安がった表情を見せたら負けだからだ。

もう既に戦いは始まっている。


「なら、仕方がないわね。私だってこの年で牢獄にぶち込まれるのも嫌だし……」


 唇に人差し指を当てて、熟考するようなしぐさをする玲さん。

そして僕から離れて行く。

1mの距離が5mほどになった。

 僕はそれを黙って見る。


「…………」


 しばらくして。


「私のこと、見逃してくれる?」


「そんな訳ないじゃないですか。あれだけ酷い目に遭わされて『許します』って人がいたらその人はキリストの生まれ変わりか、もしくはオカマの人ですよ」


「オカマの人は何故かみな、怒らないですものね」


「そうですよね」


 どうでもいいところで共感が得られた。

本当にどうでもいいところで。

オカマの人は優しいというところで――。


「では、あなたと月村さんを倒して――いえ、殺してしまいましょう」


 玲さんの殺害予告。

これは暦が良く言うようなものとは全く違う。

殺気がこもっている。

 まあ、暦も殺気に似た闘気をぶつけてくるが。


「その発想に行きつく時点で常軌を逸してますよね」


「その口、今から動かなくしてあげる」


 舌をなめ、闘う――いや、人をいたぶることに快感を覚えているような目だ。

以前の玲さんはこんな目は決してしていなかった。

 本当に一体、何があったのだろうか。


「『あげる』って……随分と上から恩着せがましく言いますね」


 僕はあくまで『余裕がありますよ』というスタンスを崩さないよう、相手を挑発する。


「じゃあ、まずはあなたから――殺す」


 玲さんが離れた距離を一瞬で詰めてくる。


「――っ!」


 僕はとっさにコンタクトレンズを外して未来を視る。

莫大な情報が脳内に入り、脳内の神経が悲鳴を上げ、それが激しい頭痛へと変化する。

しかしこれくらいの痛みはもう慣れた。

 僕は相手の動きを見きる。


「――しっ!」


 一瞬で間を詰めた玲さんが僕の頭をめがけて鋭い上段蹴りを繰り出す。

が、僕はこれを事前に視ていたため、スウェーバックで躱す。

 風圧がすさまじく、一瞬、足が通過したところが真空状態になったような気がした。

正確には分からないが。


「コンタクトを外したようね」


 玲さんが呟くように言った。

まあ、正解ですが。

 しかし、僕には気になることがあった。


「……夏の時より動き、速くないですか?」


 夏の時の玲さんより、明らかに移動速度や繰り出す蹴りのキレが向上していた。

これは暦だって危なかったかも知れない。


「これでも毎日稽古しているもの。当然でしょ」


 ああ、そういえばこの人はアマチュアとはいえ、プロレスに参加していたりする人だったな。

前にそんな事を言っていたような気がする。


「そういうやる気は、元気と勇気とついでに井脇も一緒に捨てちゃってくださいよ……」


 ひょっとしたら暦よりも強いのかもしれない……。

そう考えた途端、どっと疲れが僕を襲った。

こう、精神的な――。

どーも、よねたにです。


本当に思いのほか長くなりました。


いつ終わるのか……。


感想、評価、お待ちしております。


では、また。

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