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未来探偵クスメギ  作者: よねたに
監禁編
47/65

第47話 『ピンチをチャンスに』と言うけれどそれが出来たらピンチじゃないと僕は思う(part6)

 私が梯子を降り切ると、たった1つの電球があるだけの薄暗い、10m四方程度の地下空洞になっていた。

室温は地下と言うことも相まってか、恐ろしく寒い。

 壁は今にも崩れそうなレンガで造られて、より一層冷たさを煽っていた。


「…………」


 私は辺りを見渡す。

しばらくすると暗さに目が慣れて細部まで分かるようになった。

 ……特に誰かが隠れていたりはしなさそうね。

と、


「……ドア?」


 壁の色と同じ焦げた茶色で気付かなかったが、年季の入った木製のドアが見つかった。

年季が入ってかなりボロくなっているとはいえ、かなり良い木材を使っているらしく、造りはしっかりとしていて蹴破ったりは出来そうにはないが。

私はためらうことなく、ドアノブに手をかける。

 グッと手首を回す。

鍵はかかっておらず、あっさりとドアは開いた。


 (ギッ)


 例えるならば、情事の最中、ベッドが軋むような音が――と、脳内でふざけてみたりしながら開けると、ドアの奥には、


「久寿米木くん?」


 ドア一枚を隔てて、全く違う空間だった。

真っ白で清潔感のある、学校の体育館程の室内。

その広大な部屋には多くのコンピュータや機材が設置されていて、ファンの音を鳴らす。

 そんな部屋の中央部に、私が探していた人物が、簡素なベッドとも呼べないような台に張り付けられていた。

良く目を凝らすと、台は、救急車などにある担架に似ていた。

 私は辺りを警戒しながら急いで駆け寄る。

久寿米木くんに間違いなかった。

 手足は台に縛り付けられ、口には猿ぐつわを、そして目にはアイマスクのようなもの。

監禁以外の何物でもない。

ただ、普通の監禁と違うのは、頭に電極がつけられ、それがコンピュータに繋げられていたことだ。

私はまず、アイマスクを外した。

 久寿米木くんは目をつむったまま、寝ているのか、意識を失っていた。

次に怪しい電極を頭から外す。

すると、コンピュータから『ピピッ』と電子音がした。

一瞬焦ったものの、特に何かが起こることはなかった。

 それでも久寿米木くんは目を覚まさない。

早くしなければ――。

誰が来るかわからない。

 戦闘が起こるリスクを承知でここまで来たが、もちろん起こらないに越したことはない。

さらに言えば、誰にも遭わなければなおいい。

 私は手足を縛っているベルトを解く。

かなりきつく縛られていたのか、手首足首に跡が残っていた。

これで一応、久寿米木くんは自由の身。

 しかし、目を覚まさない。

いざとなれば、抱えて逃げることもできるが、地上に出るには梯子を登らなければならない。

人を抱えて――しかも男性を抱えて登り切るには骨が折れる。

起きてくれることにこしたことはない。

私は――


→ キス


  殴る


「…………」


  キス


→ 殴る


「キスして起きるなんて、そんな事が現実にあったら病院はいらないわよね」


 殴ることにした。

私は大きく右腕を引き、拳を握る。

腰を落として、体重を拳に乗せる。

そして思いっきり振りぬいた。

目指すは、久寿米木くんの、顔。


 (ガッ!)


 鈍い音が響く。

それと同時に久寿米木くんの身体が仰向けから半回転して台から落ちる。


 (ベチッ)


 リノリュームの床にうつ伏せの体制で落ちた。

全身くまなく打ったような音がした。

 ふと、私は思った。


「……手足を縛られたままで殴れば良かったかしら」


 もしもこれで起きなかったら、低い位置に向かって殴らなければならない。

 そうすると腰が痛くなる。

……ちょっと失敗したかしら。

 私はそんな事を思った。

と、


「それはただの拷問だ!」


 私のつぶやきに元気なツッコミが返ってくる。

 ……この感じ、久しぶりね。

私はなんとなく、心が満たされたような感覚になった。

ただ、それを久寿米木くんに悟られないよう、


「あら、起きたのね。――久寿米木くん」


 と、いつもの淡々とした口調で答える。


「……起こされたんだよ、暦に」


 久寿米木くんが床に手をつき起き上がりながら私に文句をつける。

文句をつけられた私だったが、不思議と嫌な気分ではなかった。

――M的な意味ではなく。


*****



 僕は身体を起こす。

長時間同じ体制でいたからか分からないが、立つと体中に血液が廻るような感覚があった。

そんな少し心地よい感覚の半面、顔面がもの凄く痛い。

 さて、文句を言ってやらないと。

 僕は暦の顔を見る。

なんとなく、感慨深いものがあったが、それを悟られないよう元気よく、


「なんで殴ったのさ!しかも顔を!僕の顔大丈夫!?」


 僕は顔を手で触りながら、顔面の安否を暦に確認する。

……血は出ていないようだ。

っていうか、殴られて目を覚まさせるような関係は『ペア』って言うより『タッグ』と言った方がいいのではないだろうか。


「あら、ちょっと酷いことになっているわね。……で、私はどこを殴ったのだっけ」


 『右?左?……顎?』なんて暦は言いながら、僕の顔を触る。


「酷っ!僕の顔はもともと酷いってか!?酷いってか!?」


「何よ、その『ってか!?』って。ウザいわ」


 ……泣いても、いいですか?

 僕は心の涙を流した。

僕的には、『久寿米木くん!会いたかった!(抱きしめっ)』とか『……バカ。心配させないで頂戴……(ほろり)』みたいな雰囲気を希望だったのに。


「……暦にそんなことを求めても無駄か」


「何よ、その顔は。まるで何かを悟ったような表情ね」


「気にしない気にしない」


「ならついでに、私が久寿米木くんを殴ったことも――」


「それは気にするよ!」


 ちゃっかりしている暦だった。

あれは本当に痛かったのだから、気にしないわけにはいかなかった。


「全く……小さい男ね。心も……アソコも」


「ちょ、何を!」


 突然の暦の発言にうろたえてしまった。

すると『ニヤリ』と、暦がいやらしく笑みを浮かべる。


「あら、何を慌てているのかしら。私はただ『心も、肝も』と言おうと思ったのだけれど、ついうっかり『肝』という言葉をど忘れしてしまっただけよ」


「嘘だ!」


「本当よ。だから『心も……アソコも』って3点リーダーが入っているじゃない」


 もの凄く嘘臭い言い訳だった。

人類全員がこんな言い訳を信じられたら、全世界の外交問題はこんなにこじれていないだろう。


「だったら紛らわしい代名詞を使わないでくれると嬉しいな……」


 僕は一気に力が抜けた。


「ところで――久寿米木くんは何の事だと思ったのかしら。え?久寿米木くん?」


 そう言って肘で突いてくる暦。

しかしその肘突きは、もはや軽いエルボーと言ってもいい程、痛みを伴うものだった。

 まあ、言わないけれど。


「その面倒臭い先輩みたいなノリやめてくれ」


「さて……。久寿米木くん――いえ、女の子のパンツが大好きで、しかもただのパンツじゃなくて洗濯物として干してあるパンツが大好きな久寿米木くん」


「冤罪だ!というかわざわざそんな風に言い変えなくてもいいでしょ!?」


「そろそろここを出ましょう」


「急にまじめに……」


 僕は暦の急展開テンションに振りまわされてへとへとだった。

が、こんなところにずっといる訳にも行かないし、仕方がない。


「……まあ、いいや。っていうかここどこ?」


 僕は現状確認をした。

なにせ何も分かっていないのだから。

 いつの間にかここに連れられ囚われ、彼女に助けに来てもらい、何がどうなっているのか教えてもらう。

……情けなくて涙が出てくるね。


「脱出しながら話しましょう」


 そう言って僕達は暦の誘導の元、出入り口と思われる出口へと向かった。

どうやら出入り口はここしかないようだ。

 それにしてもドアだけ、この空間から浮きに浮きまくっていた。

この部屋の全てが白を基調として、科学的な材質で造られているにも拘わらず、このドアだけが古く、木製だった。

 小走りでそのドアに向かいながら、暦が説明する。


「ここは京都にあるSH研究所の地下室よ。上層部の連中だけが使っていた、ね。それで今の時間は――」


 暦が自分の腕時計で時刻を確認しながら、ドアノブに手をかける。

そして回す。

いや、回そうとした。


 (ドオオオッ!)


 僕達の周囲から鼓膜が破けるような轟音が響いてくる。

それと同時に莫大な光が目を襲う。

辺りは真っ白にしか見えない。

 そして僕は、身体に強烈な痛みを感じる。

ほんの一瞬だが、全身隈なく均一な痛み。

 皮膚を焼くような痛み――。

 肉を裂くような痛み――。

 骨を砕くような痛み――。

 それを刹那に感じた僕は、途端、意識を失った。  

どーも、よねたにです。


ちょっと短いですが、キリが良いのでここまでにしました。


感想、評価お待ちしております。


では、また。

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