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未来探偵クスメギ  作者: よねたに
監禁編
46/65

第46話 『ピンチをチャンスに』と言うけれどそれが出来たらピンチじゃないと僕は思う(part5)

「私としたことが熱くなってしまったわ。ただ言ったことは後悔していないし間違っていないけれど」


「そうね。少し醜かったわね。ただ言ったことは後悔していないし間違っていないけれど」


 私と玲さん――いや、『さん』付けなんてしないでもいいわね――玲がクールダウンしてそれぞれ言った。

どうしてだろう。

 何故か、『ここで引いてはいけない』という思いから、昂ぶってしまった。


「あれかしら。なんとなくキャラが被っているからかしら」


 と、私が言う。

どちらもクールで毒舌系なのかもしれない。


「それは――あるかもしれないわ」


「さっきから喋り口調が似ているものね」


「そうね」


 何かしらの対策がいるかもしれないわ……。

私はほんの少し考える。


「これからは鍵括弧の前に名前をつけた方が良いかもしれないわね」


「は?」


「ギャルゲー・エロゲー式会話表現よ」


「……一体何の話?」


 玲は意味不明だと言わんばかりの表情だったが、私は無視して、頭の中で会話前に名前を入れることにした。


玲「そんなことより、こんな時間に私を呼んでどういうつもり?」


 心底めんどくさいと言わんばかりの顔で玲は言う。

まあ確かに、こんな時間に呼び出されたらこんな顔の1つや2つ、してしまうだろう。

 だからと言って私に罪悪感が芽生えるわけではないけれど。

むしろスカッとする。


私「ああ、すっかり忘れていたわ。あなたの顔を見ていると無性に殴りたくなってくるのよ」


玲「通り魔か!」


 私はそんな前置きをして本題に入る。


私「実は久寿米木くん――って言って覚えているかしら」


玲「覚えていないわけないじゃない。――未来を視れるあの子でしょ?」


 玲は後半部分を声を潜めて囁くように言った。

一応周りに気を使ってのことだろう。


私「ええ。その久寿米木くんが――攫われたのよ」


 私は冷静に、静かに、言った。


玲「……随分と余裕があるように見えるけれど?」


 それを玲が余裕と受け取ったらしくそう返してきた。


私「そうかしら?」


玲「さっきとかそのことを『忘れていた』しね」


私「それはそれ。置いておいて頂戴。――で、その久寿米木くんが攫われてしまったのよ」


玲「攫われた?」


玲は、私の言ったことが信じられないようで聞き返す。

まあ、当然の反応と言えば当然の反応よね。

大の男が攫われましたなんてね。

 現代の日本で、子供の誘拐ですらほとんど起こらないのに。

情けないことこの上ないわね。

話していて涙が出てくるわ。

 攫われた彼氏を探すために日本中を駆け回る彼女って……。


私「ええ」


 私はそんな思いを胸に秘め、表情に出さないように答えた。


玲「誰に?」


私「多分、SH研究所の人達ね」


 その名前を出すと玲が苦い顔になる。


玲「――理由は?」


私「そんなもの決まっているじゃない。――久寿米木くんの能力よ」


玲「まあ、それしかないわよね……なるほどね。それでこんな時間に研究所のある――いや、あった京都まで来たわけ」


私「ええ。あなたは知らないかもしれないけれど、あの研究所には上層部の連中しか知らない地下室があったらしいの。火災で研究所が全焼したとはいえ、地下室なら燃えてないかもしれないし……どの道、久寿米木くんが監禁されている場所でそこしか当てがない死ね。……ふふっ」


玲「ああ?」


 玲は低く唸った声を出す。

そして私を思いっきりにらんできた。

 私はその視線を受け流して、


私「誤植よ。――そこしか当てがないしね。……死ね」


玲「明らかに最後のは誤植じゃないわよね?」


私「あら、失礼。つい」


 私が一応、形だけとはいえ誤ったので、玲は釈然としないものを抱えつつも話を進める。


玲「……で、月村さんは『スーパーマリオ』の如く、ピーチ姫をクッパ城まで助けに来た、と」


私「その例え、やめてくれないかしら。それだと私がマリオじゃない」


玲「お似合いよだらっ!」


 そう言って、むかつく笑みを浮かべる玲に私は拳を叩き込んだ。

顔に。


玲「なにすんのよ!」


 頬を抑えながら私に怒鳴り散らす玲。

その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 ……もう、そういうのを見るとぞくぞくするわね。

私は平静を装って、


私「言ったじゃない。あなたの顔を見ていると無性に殴りたくなるって」


玲「こんな短時間で伏線を回収しに来るなんて思わないわよ!っていうかそんな伏線、伏せたままにしておいて!」


私「伏せてあるなら、表にしたくなるじゃない。それが人間よ」


 ボタンがあったら押したくなるのと同じ効果ね。


玲「ぶっ殺すわよ!というか死になさい!」


私「嫌よ。逆にあなたが死になさい。出来れば無残に。出来なければ無様に」


玲「私だって嫌よ。人生これからで、まだ結婚だってしていないんだから」


私「その、通知表で言う『諦めたら?』レベルの顔で何を言っているのよ。無理に決まっているじゃない」


 私は思いっきりにやついて馬鹿にし腐ったような表情で言ってやった。

スカッとした。


玲「いつ、通知表がそんな酷な評価をつけるようになったのよ!」


私「……最近?」


玲「運動会の徒競走で、みんなで一緒にゴールとかするような時代に、そんな評価をつけるわけがないじゃない!」


 最近の運動会の徒競走では、ゴール直前まで全力で走って、最後はみんなで手をつないでゴールっていう学校なんかもあるらしい。

優劣をつけるのはよくない、という大義名分をつけて。

 いわゆるモンスターペアレントとかいう親に気を使ってのことらしいけれど、本当に意味が分からない。


私「じゃあ『整形しましょう』とか」


玲「そんなピンポイントな評価、あってたまるか!」


私「冗談よ。……ともかく、そういう理由で私は京都まで来たのよ。で、その研究所があった場所まで案内してほしい――あるいは場所を教えて欲しいのよ」


 私は本題に話を戻した。


玲「……そういう理由なら別にやぶさかではないけれど――1人で行って、どうするのよ」


 玲は久寿米木くんの両親と同じことを言った。


私「あなたも言うのね」


玲「は?」


私「いえ、何でもないわ。こちらの話よ。……私は1人で行くつもりよ」


玲「――そう」


私「反対しないのね」


玲「別に。無謀だとか馬鹿だとかは思うけれど、反対はしないわ。あ、もちろん研究所の場所は教えるから安心しなさい」


私「ならいいわ」


玲「まあ、適当に頑張ってみなさい」


私「母親みたいなこと言っていないで、早く場所を教えるなり案内をして頂戴」


玲「はいはい」


 玲はそういって、紙に住所を書いた――。



*****



 僕の感じる浮遊感は未だに続いていた。

全身の感覚がなく、動かそうと意識をしてみても反応しない。

まるで金縛りのような――そんな感覚。

 そして僕は、妙に現実味を帯びた夢――のようなものを見ていた。

その夢を見るたびに頭痛が走り、倦怠感までついてくる。

これが『夢』と断定できない理由。

 そう、ひょっとしたらこれは『夢』ではなく『未来』を視ているのかもしれない――。

そこでは、暦が僕を探して獅子奮迅の行動力を見せていた。

 そしてとうとう、僕を探して京都までやってきた。

1人で。

 ……無茶があるんじゃないか、暦?

そんな暦はとうとう、元研究所員の玲さんから場所を聞き出して、ここまで単身乗り込んでくる。

 もし。

もしもここに、格闘センス抜群、筋骨隆々のボディーガードみたいな人がいたらどうする気なのだろうか。

いくらなんでも1人では無理だろう。

 僕の両親の好意を断り、玲さんの好意も断り――。

どうして申し出を断ったりしたのだろうか。

 せめて、本当にせめて、戦闘能力のない両親はともかく、しずかや玲さんのどちらかでも一緒に連れて行けば……。

 ここ1年で僕が感じていた――思っていたことは的外れだったのだろうか。

『暦が、内面的に、変わった』ということ――。

 僕が暦と再会した春は、他人との間に壁、それも絶壁を作り、拒絶していた。

最低限のコミュニケーションしか取ろうとしていなかった。

それが僕と出会ってから、人との会話を少しは楽しんでいるようにも見えた。

そして笑顔が増えたような気がしていた。

 そう、僕の夢の中――あるいは未来の中での、玲さんとの会話のように――。

……ん?

 そういえば、さっきの玲さんとの会話は、以前の暦とは違い、まあ大分一般的な『会話を楽しむ』とは違うが暦は楽しんでいた。

それなのに、暦は玲さんの申し出を断っていた。

 さらに言えば、僕の両親やしずかとの会話も、以前とは違っていた。

それなのに、結果は断っていた。

 ……この不思議な齟齬はなんなのだろう。

このしっくりこない感じはなんなのだろう。

 暦のようで今の暦ではない、僕の夢、あるいは未来に出てくる暦――。

…………。

やばい。

考えれば考えるほど、わけがわからなくて発狂しそうだ。

そもそも、何もわからない状況に長時間置かれている僕が冷静に物事を考えるということ自体、無理があるのかもしれない。

 ここはどこなのか。

僕が見ているのは夢なのか、あるいは、視ているのは未来なのか。

わからない。

なにも、わからない――。



*****



 私は玲から研究所の住所を教えてもらい、すぐに携帯で調べた。

所在地はこの旅館から電車で20分程という位置だった。

ただ、現在時刻は23:50。

ここから駅まで行ったら、恐らく終電には間に合わないだろう。

 私は所持金を確認する。

…………。

 約2万5000円。

まあ、いざとなれば銀行だってある。

タクシーを使いましょう。

 そして久寿米木君を助けたら、必要経費は全部支払ってもらおうかしらね。

私は電話でタクシーを呼んだ。

 呼んだ後、旅館の外で待っていると、割とすぐ――10分もしないうちにやってきた。

私はタクシーに乗り込み、運転手に住所を教える。

 運転手には、そこが研究所の跡地ということで多少不審に思われたかもしれないけれど、仕方がない。

 それから30分後、私は目的地に到着した。

 場所は町から少し離れた、木々の生い茂る森の中。

辺りには家一軒ない。

深夜も深夜で、心霊スポットと言っても差し支えないくらい、雰囲気が出ていた。

 とはいっても、そこまで深い森ではない。

 多少の木々が生い茂る、林と言った方が良いかもしれないわね。

 そして、私の目の前には如何にもな火事の跡地が広がっていた。

林の中と言うことで地面には雑草が生えていたが、その場所だけ更地だった。


「ここね……」


 私は誰に言うでもなく、言った。

 本当に更地で、地下室なんてないように見える。

そもそも入口が見当たらない。

本当に地下室なんてあるのかしら。


「とりあえず、探してみましょう」


 私はその更地内に足を踏み入れる。

ざくっざくっと乾いた土を踏みしめる音が林の中に響く。

広さはおおよそ野球場1つ分と言ったところかしら。

かなり広いわね。

 今日は満月で、月明かりが明るいけれど、新月だったら暗くて何も見えなかったでしょうね。

 運が良かったわ。

 私はそう思いながら、更地の中心部分に足を置く。

すると、


 (ジャリッ)


 踏みしめた感触が今までとは明らかに違い、音も違う。

まるで――


「鉄板?」


 私は足で土をどけていく。

はじめの内は暗い上に、色が土と似ていて分かりづらかったが、徐々に姿を現していく。

全ての土をどかし終わると、そこには工事現場で見るような鉄板に取っ手がついたものがあった。

 大きさはマンホールより若干大きい程度かしら。


「案外簡単に見つかったわね」


 私は、取っ手を持って鉄板を持ち上げる。

少し重かったが、持ち上げられない重さではない。

すると、下は空洞になっていて、降りられるよう梯子が設置されていた。

まるで、下に降りてきてくださいと誘っているようだった。

 罠かもしれないわね。

でも、ここまで来て行かないわけにも、ね。


「……さて、行きましょうか」


 1つ深呼吸して、私は、ぽっかりと口を空けた暗闇へと降りて行く。

どーも、よねたにです。


ちょっと急いで書いたので、あとで改稿します。


さて、この話はあと3つくらいで終わる……と思います。


読んでいただければ幸いです。


感想、評価お待ちしております。


では、また。

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