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未来探偵クスメギ  作者: よねたに
監禁編
43/65

第43話 『ピンチをチャンスに』と言うけれどそれが出来たらピンチじゃないと僕は思う(part2)

「だから――良い――」


「――そう――か――」


 僕は未だに囚われのお姫様の状態。

近くで男の――男達の話し声が聞こえるのもずっとだ。


「(いつまでこの状態でいることになるんだろうか……)」


 僕がここで意識を覚ましてから感覚では数時間の時間が経っているような気がする。

空腹感も出てきたし。

 まあ、こういう時の時間感覚は一切当てにはならないけれどさ。

人間、楽しい時ほど時が経つのは早いし、苦しい時ほど時が経つのが遅く感じるものだから。

好きな人と話していれば、時間はあっという間に感じるし、嫌いな人と話していれば長く感じる。

 そう言う事だ。

 そして僕はこれからの事を考える。

 このままじっとしているべきか、少しは身をよじって抵抗の意を見せつけてみるか。

手足は繋がれていて、口には猿ぐつわをされて台に寝かされ縛り付けられている今の状態。

……じっとしていた方が賢明か。

 抵抗して何をされるか分からないし。

 ――みんなは一体どうしているだろうか。

 ふと僕はそんな事を思う。

 暦はさすがに異変に気づいてくれただろう。

暦が僕の昼食を買いに行っている間に、僕が消えたのだから。

というか気付いていなかったら、かなり悲しい。

 と、


「(痛っ!腕に何か刺さった!?)」


 僕の腕に突然の痛みが走る。

何事か!?と僕は一瞬思ったが、この痛みには覚えがあった。

 注射器だ。

まるで注射器を腕にぷすりと刺された時の痛み。

しかし今回は時間がたっても抜こうとしない。

 どうやら点滴などの類のようだ。

なんとなくだが、体内に何かを入れられているような気がする。

 僕は特にそれに伴う実害として痛みやなにやらがないので気を緩める。

と、


「(――くっ!)」


 突然、意識が持っていかれる感覚。

以前、暦に麻酔薬を嗅がされたことがあったが、それに似ている、あるいはそれ以上の感覚。

 僕は懸命にそれに抗うが、徐々に意識が遠のいて行く。

これは――。

 僕は意識を手放した。



*****



 時刻は16:00。

 私は雨倉さんと長野県の松本駅まで来ていた。

そして今はそこからタクシーで久寿米木くんの両親の家に向かっている。


「へー。春希の両親の家ってこんな方にあったんだ」


 雨倉さんは、タクシーの窓から外の景色を見ていた。

どうやら、こんな状況にもかかわらず旅行気分が混じっているらしい。

 私はここまで来る途中に以前、久寿米木くんと一緒に彼の両親にあったことを話しておいた。

まあ、雨倉さんはあまり頭が良くないから説明にすごく手間取ってしまっていらいらしたのだけれどね。


「ええ」


私はそっけなく返事をする。

だって、嫌いだから。

 その後私は雨倉さんからの問いかけに適当に応え、タクシーに揺られること20分。

ようやく久寿米木くんの両親の家に到着した。


「うわ。かなり大きい家なんだ……」


 到着して早々、久寿米木くんの家を見た雨倉さんは、そんな事を口から漏らす。


「そうね。私も最初に来た時は『おっきい……』って思ったわ」


「……なんか暦が言うとエロい」


「そうかしら。まあ、場所が場所ならそういう風に聞こえてしまうかもしれないわね」


「どういう場所?」


「男の人とベッドにいて、いざそういう行為に及びますって言う時とかかしら」


「――!暦、エロい!けれどそこがまた良い!」


 あら。

以前は雨倉さん、こういった話題になると周知から顔を赤くしてしまったりしていたのに。

いつの間に体勢が出来たのかしら。

 と言っても、一切興味はわかないのよね。


「私に言っても褒め言葉にしかならないわよ」


 そして私は会話を打ち切るようにインターホンのボタンを押した。


『はい』


 出たのは久寿米木くんのお母さんの有希さんだった。

……確かそう言う名前だったはず。

私ったら、将来のお義母さまの名前を忘れてしまうなんてとんだ失態だわ。

後でさり気なくあっているか確認しておきましょう。


「突然すみません。久寿米木くんとお付き合いさせていただいている月村です」


『あ!あの時の!?ちょっと待っていてね?』


 有希さんのその声の後、インターホンから通話が切れた音がする。

30秒ほど待つと、家の中から有希さんが出てきた。


「お待たせ、暦ちゃん!それと――どちら様かしら」


 そう言って首をかしげる有希さん。

大学生の子供がいるとは思えない程、こういった仕草が似合ってしまっている。

なんだか知らないけれど、負けた気分になってくるわね。

こう、乙女度で。


「あ、初めまして。春希の友達の雨倉しずかです」


 私は有希さんについて考えていると、雨倉さんが有希さんに挨拶をする。

てっきり久寿米木くんの親だから緊張して舌を噛みまくるかと思ったのだけれど――って、雨倉さんはレズビアンにジョブチェンジしたんだったわね。

 全く、真正の変態ね。

まあ、私は恋愛は自由だと思うけれど。


「あら、春希ったらまだこんなに可愛い子の知り合いがいたのね!隅に置けないじゃないの!」


 有希さんは相変わらず息子の女性関係の話になるとテンションが健やかに振り切れる。

傍から見ると少し引くわね。

 と、有希さんが話を続ける。


「まあ、こんな玄関先で立ち話もなんだから入って入って!もうズッコンバッコン入っちゃって!」


 ……ひょっとしたらこの人も変態なのかもしれないわね。

将来のお義母さまをこんな風に言いたくはないのだけれど。

 私達はそんな人物に先導されて、家の中に入る。

中は以前来た時と殆ど変っていなかった。

……ここはこれから幾度となく来ることになる場所ね。


「とりあえず今日はこっちのお客さん用の部屋に、ね」


 私達は、久寿米木くんと来た時とは別の部屋に通された。

そこは――和室だった。

広さは10畳程。

まあ、この家の比率からしたらそれほど大きくないのかもしれないけれど、十分落ち着ける広さだ。

 部屋の中には1つの和室に合ったテーブルと座布団が敷かれていた。


「今、お茶を入れてくるから自由に座ってて」


 有希さんはそう言って恐らくキッチンへ。

取り残された私と馬鹿。

 怖気がするわね。


「随分とキレイな人だったね、春希のお母さん」


 雨倉さんがそう言って手近な場所に座る。

私もずっと立っているわけにもいかずに雨倉さんの隣に座る。


「そうね。正確な年齢は聞いていないのだけれど、大学生の子供がいるようには思えないわね」


「将来あんな人になりたいわー」


「そうね」


「そしてあんな人と結ばれたいわー」


「……どうぞご自由に」


 私はご免だ。


「はーい、お待たせー」


 有希さんがお茶を持ってきてくれた。

私は受け取って、少しだけ口をつける。

 そういえばこんなに落ち着いている場合ではなかったわね。


「ごめんなさいね。せっかく来てもらったのに、お父さんお仕事でいないのよ」


 有希さんがそう言いながら雨倉さんの正面に座る。


「今日はそういう理由で来たわけではないんです」


「あらそうなの?じゃあ……?」


「久寿米木くんのことです」


「春希の?」


 有希さんが首をかしげる。


「久寿米木くんがさらわれたようなんです」


「ええ!?本当に!?」


 有希さんの言葉に何故か今まで黙っていた雨倉さんが割り込む。


「本当です」


「本当の本当に?」


「本当の本当です」


「逆に嘘だったりしない?」


「逆の逆で嘘だったりしません」


「真実はいつも一つとは限らないじゃない?」


「真実はいつも一つです」


「じっちゃんの名にかけても大丈夫?」


「じっちゃんの名にかけて大丈夫です」


「嘘だったら300円貰うけれど、それでも本当って言う?」


「嘘じゃないので300円あげられないですけれど本当でぶしっ!!」


 私は耐えきれなくなり、隣にいた雨倉さんの頭を右手で掴んでテーブルに全力投球した。

雨倉さんの顔面はテーブルに衝突し、鈍い音を響かせた。

 とてつもなく良い音に私は聞こえた。

まるでハープのような音色に。

 そして雨倉さんはそのまま動かなくなった。

快……感……。

 

「話を進めさせていただいてもいいですか?」


 私は有希さんを見てにこやかに笑う。


「え、ええ。……ごめんなさい」


「それで私はSH研究所の人たちではないかと思っているのですが、どう思われますか?」


「そうね……。あの子の周りでそう言う事をするってなると多分そうね」


 口元に手をやり、ほんの少し考えた後、有希さんは今までの笑顔が嘘のように深刻な表情に変わった。

やはり自分の子供の事となると笑ってもいられないのだろう。

 ……本当に、昔自分の子供を捨てた人とは思えないわね。

人って変わろうと思えば変わるのね。


「春希はいつ攫われたの?状況は?」


「久寿米木くんがいなくなったのは12:00過ぎです。知っての通り、久寿米木くんとやっている探偵事務所で、私が昼食を買いに行って帰ってきたら既にいませんでした。攫われたと思ったのは事務所に荒らされた形跡があったので、久寿米木くんが抵抗したのか、あるいは私達――または久寿米木くんに関する情報を探したのか……」


 私はなるべく簡潔に説明した。

それを聞いた有希さんは、


「なるほどね。多分春希は抵抗していないわね」


 そう言いきった。


「どうしてですか?」


「だって相手は今まで頭しか使ってこなかったようなひょろい連中なのよ?そんな人間が大学生の男を抵抗されながら捕まえられる訳ないじゃない。仮に誰かを雇ったとしたら、逆に抵抗なんて出来ないでしょうしね」


「……なるほど」


 理にかなった説明ね。

有希さんが続けて言う。


「私なら、催眠ガスか何かを部屋に充満させて、春希を攫う。そして情報を盗むわね」


「確かにそれなら連中だけでも出来そうですね」


 眠らせた人間なら数人いれば運び出せる。

これが1番スマートなやり方かもしれないわね。


「それで、久寿米木くんが連れ去られた場所に心当たりはありませんか?」


「うーん……ごめんなさいね。私はSH研究所にいたと言っても、お父さんのサポートだったから詳しくは知らないのよ」


「そうですか……」


「でも、お父さんなら何か知っているかもしれないわね。もう少し待てば帰ってくると思うから、それまでここにいるといいわ」


「分かりました」


 私はそう言って、お茶に口をつける。

お茶は既に冷たくなっていた。

 久寿米木くんはこうなっていないといいけれど――。



*****



「(冷たくなってたまるか!)」


 僕はなんとなくそうツッコみたい気分になったので、心の中で思いっきりツッコんだ。

なんだろう。

誰かにものすごく失礼な心配をされた気がする。

 というか、さっきまで意識がなかったような気がする。

なんだか天敵みたいなものを腕に打たれてそれで――。

……そこから記憶がない。

…………。

 さて、ともかく。

僕は未だに手と足を台に縛り付けられ、猿ぐつわを噛まされ、目隠しをされて仰向けにされている。

 ……ん?

縛り付けられている割には手足が痛くないし、身体も痛くない。

まるで夢の中にいるような気分……?

 これは現実なのか?

それとも夢なのか?

 頬を抓ろうにも手が全く動かない。

身体が動かせないのは同じ状況だ。

 うーん……。

と、僕は気がつく。

 さっきまで聞こえていた男達の声が聞こえない。

静かになっている。

 と言う事は夢?

いやいや、だからと言って夢とは限らない。

足を縛られている感覚なんてとてもリアルだ。

 というか、夢と現実の区別がつかないなんてまずくないか?

……あー、おまけに頭まで痛くなってきた。

なんか頭痛が痛い。

って、頭痛が痛いって日本語としておかしいか。

『被害を被る』と同じだ。

『被害』って時点で既に『害』を『被』っているのに、さらに『被』っちゃうんだから。


「(――っつ!)」


 僕は再び、睡魔にも似た何かに襲われる。

とにかく意識を根こそぎ持っていかれるような、そんな感覚。

抗いがたいこの感覚。

 だめだ、耐えられない……。

僕は再び意識を手放し、目の前がブラックアウトした。

どーも、よねたにです。


2日連続です。


……特に書くことがないので、これにて。


感想、評価お待ちしております。


では、また。

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