第04話 探偵は旅行先で事件に遭遇してしまうものと言っても過言ではないのだ(part4)
現在、僕のいる場所は旅館の部屋。
時刻は朝9:30。
そして、この部屋にいる人物達は、僕(久寿米木春希)、暦(月村暦)、タイガーマスク(仮)。
状況を説明しよう。
暦VSタイガーマスク(仮)。
僕、静観。
ちなみにタイガーマスク(仮)は普通の男物の服を着ている。
ジーパンに長袖のTシャツだ。
……どんな状況だよ。
って言うか――
「なに、暦。その戦闘能力。どこで手に入れたんだよ」
今は数mの距離でにらみ合っているだけだが、いつまた戦闘になるか分からないので、巻き込まれないように離れた出入り口付近から聞く。
「何年か前にかじっただけよ。気にすることないわ」
「かじったレベルじゃないよ、明らかに」
本物の格闘家の戦闘だった。
奥義とか継承して、師匠を乗り越えたりしてきたんじゃないか?
暦の戦闘能力について話していると、
「なるほど。まんまと罠にはまった訳ね。未来を視る能力でも使ったの?久寿米木さん」
ボイスチェンジャーによって変えられた声で、タイガーマスクが言った。
ただその口調はまるで女性のそれだった。
それに何故か暦が答える。
「ええ。まあ、彼が未来を視たのは偶然だったのだけれど」
「へえ。やっぱり事実だったのね。情報としてしかしらなかったんだけれど……本当だったのね」
タイガーマスク(仮)は感心したように頷いた。
それに暦が反応して言う。
「情報?それは何処からの情報なのかしら。あなた自身――それとも他にも仲間がいるのかしら」
「言う訳ないでしょう?……と言っておいた方が敵らしくていいかしら」
そう言って『ふふ』と笑い声を聞かせるタイガーマスク(仮)。
ボイスチェンジャーで声が変わっているから気持ちが悪い。
まあ、言わないけれど。
暦がいやらしく笑みを浮かべて言う。
「敵らしいかどうかはともかくとしても……それはそうね。愚問だったわ」
暦も『ふふ』と笑う。
……あれ、なんか僕の話なのに僕、蚊帳の外じゃないか?
だからと言って話しに割って入る気にもならないけれど。
別にビビってるという訳じゃないんだよ?
だって、この2人すごく強いんだもの。
まるで映画『沈黙の戦艦』のスティーブン・セガールみたい。
と、ここに来てすこし空気が変わる。
「さて、本来ならこのまま帰るつもりだったのだけれど……。とんだ邪魔が入ったわ。しかもかなり出来る人ね」
タイガーマスク(仮)が言った。
暦は対して、
「タイガーマスク(仮)に褒めてもらえるなんて、光栄だわ」
と、余裕の口調だった。
まあ、偽物だけれどね。
その返しが気に入ったのか、タイガーマスク(仮)が、
「どうやら口も立つらしいし。……仕方がない。本気を出させてもらおうかしら」
あれで本気じゃなかったのか!?
このあと2回変身を残しているとか言わないよね?
それに暦が応戦するように、
「あら、じゃあ私も少し本気を出そうかしら――っ!」
暦は不意に目にもとまらぬ速さでタイガーマスク(仮)の顔面に蹴りを入れる。
「っ!」
不意の事に反応が遅れたタイガーマスクではあったがかろうじて直撃は避ける。
が……。
「こんなことが現実に……?」
と、僕が言ってしまうような事が起きた。
なんと蹴りを入れた際の風圧でマスクが破れたのだ。
バトル漫画かよ……。
しかしこれでタイガーマスク(仮)の正体が分かる訳だ。
一体誰なんだ?
「まさかここまでやるなんて……驚きだわ」
ボイスチェンジャーが壊れたのか、顔を隠すために下を向いているタイガーマスク(仮)から地の声が聞こえる。
そしてその声が――。
「あら、あなた女性だったの。気付かなかったわ。では、服の下には詰め物でもしているのね。よくそれで動けたものね」
嘘つけ。
暦だって相手が女性ってことくらい分かっただろうに。
まあ、言わないけれど。
……っていうかこの声は?
「ん?」
僕が声に出してしまった。
それに暦があざとく反応する。
「どうしたの、久寿米木くん」
「いや、さっきの声、どこかで聞いたような……」
僕はそう曖昧に答えた。
そう、どこかで。
どこかでこんな声を聞いた気がしないでもないような……。
そんな、頭の中で何かがもぞもぞとしている感じがする。
「あら、知り合い?」
暦はタイガーマスク(仮)から視線を外さないまま言った。
「いや、分からないけど……」
僕はそう言いながらも、でも、最近どこかでこの声を聞いた気がする。
本当に最近。
どこかで――。
と、
「思い出せないの?昨日話したばかりなのにね、久寿米木さん」
タイガーマスク(仮)がうつむいたまま言った。
そしてマスクにゆっくりと手をかける。
僕はようやく心当たりにぶつかる。
「え?……昨日?……あ、え、まさか!」
僕にヒントを出したタイガーマスク(仮)がマスクを外して、ゆっくりと顔を上げる。
その顔は――
「中井さん!」
中井さんだった。
まだ、どっちかはわからないけれど。
と、驚いた僕に対して暦は、
「あら、仲居の中井さんだったの。全く気が付かなかったわ。何回か会っていたのにね」
ものすごく落ち着いていた。
暦がそう言うと、仲居さんは一瞬訳がわからなそうな顔をするが、すぐに理解したらしく表情を戻す。
「ああ、そういうことね。あなたとははじめましてよ、月村暦さん。私は中村玲。中村理佳の姉よ」
僕は納得した。
なるほど。
玲さんだったのか。
確か昨日空手や柔道をやっていたとか言っていたし。
道理で強いわけだよ。
僕はちらっと暦を見る。
多分理解できてないんだろうな。
眉間にしわを寄せて暦は言う。
「久寿米木くん、このよく分からない状況を説明してくれないかしら」
案の定理解できていなかった。
暦は仲居さんが2人いるってことしか知らないようだし、仕方がないのか。
僕は、暦にこの旅館の2人の仲居さんは顔がよく似た姉妹で、姉がこの玲さん、妹が食事を運んできてくれた理佳さんであることを説明した。
「この旅館はそんなややこしいことになっていたのね。気が付かなかったわ」
そう言って暦はすぐに状況を理解したようだ。
この飲み込みの早さは正直すごいと僕は思った。
そして、臨戦態勢のまま僕のいる出入り口の方へ来る。
……来ないで欲しい。
あぶないじゃないか。
言わないけれど。
暦は僕の横に並んで立ち、壁に寄り掛かり腕を組んで言う。
「では玲さん。ここは刑事ドラマのようにいろいろと語ってくれないかしら。ほら、動機とかここまでの経緯とか、ね」
状況を全て理解した暦は大分余裕が出て来たようで、玲さんを軽く挑発するように言った。
それに対して玲さんは、追いつめられたこの状況でも余裕を見せていた。
「いいわね。じゃあ、教えてあげる」
そう言って笑う玲さん。
その笑みは昨日、理佳さんと仲よさそうに話していた時の笑みとは程遠いものだった。
そして玲さんは語り出した。
刑事ドラマの犯人のように。
「私が久寿米木さんの能力について知ったのは、私が普段勤めている研究所でね。そこで、誰が、と言うことまでは特定できていなかったけど、そういう能力を持った人が日本にいる、って言うのを耳にしたのが最初ね。それが先月の話。もちろんそんな話、私は信じていなかったけれど。でも昨日の夜、私がこの部屋の前を通った時、あなた達の話声が聞こえてきてね。そこで聞いてしまったのよ。あなたに未来を見る能力があるって話を。私は研究所での話を思い出したわ。それでひょっとしたら、本当なのかもしれないって思ったわ。これが、あなた――久寿米木さんの能力を知っていた理由ね。次は動機ね。どうしてこんなことをしたのか。その理由。実は私――いえ、私達姉妹は、孤児院の出身なのよね。今まで育ててもらった両親は里親ってわけ。だからと言って、嫌いじゃないわよ。むしろ感謝しているし、大好きよ。で、その出身の孤児院が最近の不景気で経営出来なくなってきていたのよ。私は、お世話になった孤児院がなくなるというのは耐えられなかった。それに、孤児院の子供達の事もあったしね。だから、少しでもと、研究所で働いて得たお金の一部を寄付していたの。でも、最近はそれでも足りなくなってきてしまったの。そんなときにあなたの能力を知った。あなたの能力があれば、お金を幾らでも手に入れることが出来る。そして、未来を見る能力を持った人が、今すぐ近くにいる。こんなチャンスはこれから二度とないかもしれない。だから私は、あなたの荷物に発信器と盗聴器を付けて家を探そうと、こういうことをしたの。ちなみに、家を知った後は無理やりにでも入って、あなたに能力を使ってもらうつもりだったんだけどね。嫌だと言ったら刃物でもちらつかせてね」
タイガーマスクのマスクを被っていたのには、そんな理由があったのか。
っていうか、タイガーマスクそのままみたいな理由だ。
なるほどね。
孤児院とその子供達を救うため、か。
悪いことに利用するとかではない分、まだ良かったかな。
でも、僕は、この能力を使うことが出来ない。
使ってはいけない――。
僕の為、と言うのもあるけれど、この能力にはまだ誰にも言っていない代償があるから――。
「これで全てよ。だから久寿米木さん、私と孤児院とそこにいる子供たちの為に、その能力を使ってくれないかしら。ただ、お金を手に入れさえすればいいから、ね?」
動機やらなにやらを目一杯喋りつくした玲さんは、僕に言った。
できれば、代償について言及せずに、引き下がってもらいたいのだけれど……。
玲さんはなかなか引き下がりそうにない。
代償――。
それは僕に頭痛や倦怠感が出るだけでなく、能力を使うと、僕の寿命を縮めること。
そして――。
僕以外の人の為に、この能力を使うと、僕の寿命だけでなく、未来を視ることによって利益を得る人感じる人の寿命も同時に縮めてしまうこと。
能力によって周りに及ぶ変化の規模が大きければ大きい程、縮める寿命も大きくなる。
今回の場合だと、僕と玲さん、そして孤児院の子供達の寿命を縮めてしまう。
恐らく、数年から十数年――。
僕は出来れば、命を盾に交渉したくはない。
さて、このことに触れずに引き下がってもらえるだろうか。
僕が思案していると、暦が言う。
「久寿米木くん、どうするの?あなたの能力なのだから、あなたが判断して。私はそれに付いて行くわ」
……とりあえず、僕の意志を伝えるか。
僕はまず、自分の意見から伝える。
「玲さん、僕は……使いたくはない」
「どうして?何か理由があるの?」
鋭い。
理由があるけれど、まだ言いたくありません。
んーどう切り返すか……。
「本来ならば、こんな能力この世にないはずです。だから――」
僕はとっさにしては自分でも良いんじゃないか?と思えるレベルの返答を出す。
しかし、
「でも、あるじゃない。せっかくあるのだから有効的に使ったらどう?」
と、玲さんは納得しない。
正論だ。
ある物を使う。
当たり前の事だ。
ここで暦が助けに入る。
「まず、私は久寿米木くんの味方よ。久寿米木くんが使いたいというならばそれに賛成するし、使いたくないというのならばそれに私は賛成するわ。それで、中井玲さん。あなたは知らないだろうけれど、この能力を使うと、久寿米木くんにも負担があるの。久寿米木くんがとても苦しいことになるの。それでも、久寿米木くんに能力を使えと言うのかしら」
「でも死ぬわけではないんでしょ?だったら使って欲しいわね。こっちは子供達の生活が掛っているのよ!」
玲さんはこれでも引かない。
仕方がない。
正直に話すか。
僕は代償についてとうとう言及する。
「玲さん。僕が能力を使うと情報量の多さから脳に負担が掛って、激しい頭痛になるのは、暦の言うとおりです。でも、実はそれだけじゃないんです――未来を見る代償は。まず、僕の――寿命が縮まります」
「久寿米木くん、私はそれ、初耳なのだけれど」
そう言って暦が僕を睨む。
「まあ、誰にも言ってなかったからね。そして、それだけではないんです。特定条件――人の為、という条件が付加されると、未来を見ることで利益を得る人感じる人にも、僕と同じ代償があります。つまり、今回の場合で考えると、僕と玲さんと子供達の寿命が縮まります」
「な――」
さすがの玲さんも困惑していた。
そして暦は玲さんと同じく困惑しながらも、怒っているような、悲しいような、どちらともとれない表情をしていた。
「では、久寿米木くん。あなたがコンタクトレンズをするときも、寿命を縮めていたのかしら。それも毎日」
「一応そういうことになるけど、秒数としては数秒だから寿命で言うと数分単位だから大したことはないよ。感覚で解るんだ。命が減っていく感覚があるからね。でも、連続して何十秒とかあるいは、未来を見てから都合よく環境を大きく変化させたりすると、数年から十数年、寿命が縮む。今回はこれにあたるね。」
「それでも、死ぬわけじゃないのよね?死にはしないのよね?」
玲さんはそう捲し立てた。
最悪の事態になるのかどうか。
玲さんは聞いて来た。
僕は正直に答える。
「恐らくは、としか言えません。正確にどれくらいの寿命が減るというのは分からないので」
「死ぬ危険がないのなら、能力を使って」
「使えません。言いましたよね?あなたの命も、子供達の命も減ってしまうんですよ?」
僕は言った。
しかし、
「そんなこと分かっているわよ!どうして!?どうして使わないの!?その能力を使ってくれれば多くの子供たちが助かるのよ!?」
玲さんは感情を抑えきれずに、大きな声で叫び懇願した。
一瞬僕はそれに流されそうにもなったが、
「それでも、です」
と、きっぱりと拒否の意を示した。
すると玲さんは涙を見せて言う。
「たった数年……多くてもたったの十数年なんでしょ!?今すぐは死なないんでしょ!?だったら使ってよ!その能力で子供達を助け――っ!」
(パン)
暦が、玲さんの言葉を遮るように頬を打つ。
室内に乾いた音が響いた。
「やかましいわね。それはあなたが決めて良いことではないはずよ、中井玲さん。あなたに子供達の人生を勝手に弄る権利はないわ」
玲さんはそれでもあきらめない。
「で、でも……」
玲さんは反論しようと言葉を探す。
しかしうまい言葉が見つからないようで後が続かない。
暦はそんな玲さんに追いうちのごとく言葉を続ける。
「黙りなさい。たった数年?たったの十数年?ふざけているのかしら。私はまだ10代だからわからないけれど、人生後半の十数年はとても大事なはずよ。会社員なら、会社を退職して――働き終えて、これからの人生、自由に生活していこうという時期よね。もし結婚していれば、夫婦水入らずで自由に楽しく生活していこうという時期よね。十数年あれば、やりたいことをいくつも出来るわよ。そんな大切な時期の十数年を『たった』なんていう権利があなたにあるのかしら。甚だ疑問ね」
暦は言う。
月日の長さの感じ方は人それぞれで、他人が決めることではない、と。
感じた人次第なのだと。
「でもお金は――」
玲さんはようやく反論の糸口を見つけたとばかりに、口を開いた。
しかし、すぐに暦に潰される。
「そうね、お金は必要かもしれないけれど、子供達の命を使ってまで得るお金は必要ないのではないかしら」
暦は今までの強気な口調から一変して落ち着いた口調で言った。
「使い古されて腐っていそうな言葉だけれど、命は、時間は、人生は、お金では買えないのよ。そんな人がいたら、数百年生き続けている人がいてもおかしくないでしょう。いないのがその証拠よ。所詮お金なんて人間が勝手に作った単位なのだから、どう足掻こうと『時間』という真理には敵うはずがないのよ。もし、お金のほうが大事と言う人がいるのなら、その人は『時間』の謎を解き明かした人だけでしょうね」
そう暦は静かに言った。
なかなか聞かせる言葉だった。
「……そうね。久寿米木さん、ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい…………」
玲さんはそう言って泣き崩れた。
もともと悪いことが出来る人ではなかったようだ。
それだからこんなにも簡単に片がついたのだろう。
それにしても……暦は僕の言いたい事を全て言っていくれた。
僕が能力を使うか使わないかの話なのに、暦が話の中心になっている……いつのまにか。
なんとなく、一抹の寂しさがあるな……。
僕が目当てで玲さんはこんなことをしたのに……。
「子供である今の時期は、人生の中でも大切よ。でも、貧しくてもみんなで――いえ、家族と一緒に楽しく生活できれば、それはそれで良いのではないかしら。それとも、あなたの守ろうとしている子供達は裕福でお金が有余った環境でないと楽しく生きていけない様な、イヤで軟な子供なのかしら」
要は考え方なのだ。
お金があるから幸せに生きられると言う人もいるだろうし、なくても幸せに生きられる人もいる。
ただ、前者を逆に言えば、お金が無いと幸せに生きられない人だ。
それはひょっとしたら、本当の意味では幸せとは言えないのではないだろうか。
暦のこの言葉が、事件になりそこなった事件の幕を閉じたといっても過言ではないだろう。
*****
その後、正直あまり思い出したくない事があったので割愛させていただくが、僕達は予定通りに京都を観光した。
玲さんについては妹の理佳さんには言わないでおくことにした。
これは玲さん自身が自分で片をつけるべきだと思ったからだ。
僕達が下手に手を、口を出して姉妹の関係にひびを入れる結果なんかにしたくはない。
玲さんも前と変わらずに接してくれて、一部を除き平和にこの京都旅行を終えることが出来た。
そして、今。
僕は帰りの新幹線の中にいる。
暦が気を使ってくれたのかどうかは分からないが、暦は僕の左隣に座っている。
普段いろいろ言っているけど、こういう所はかわいらしいと僕は思った。
それにしても、と思う。
はたして、僕の能力を使わないという選択は正解だったのだろうか。
玲さんも言っていたけれど、僕も、玲さんも、子供達も、死ぬわけではないし、普通に何十年も生きることが出来る。
ただ少し、短命になるということだけだ。
それで、今の居場所で楽しく暮らすことが出来る。
孤児院という場所柄、楽しさは重要なファクターだろう。
今後、こういった能力を使うべきか使わざるべきか迷うときがあるかもしれない。
僕は間違った道を進まずに済むだろうか。
僕は左側に広がる窓の外の景色を見ながら考えた。
ただ、それでも僕は命が大事だと思う。
それがたった数年であろうと――。
「暦はどう思う?どちらが正解なのかな。その人が思う大切なものと命って」
僕は隣で眠そうにあくびをしていた暦に聞いた。
自分ではこう思っているが、果たしてこれは正解なのだろうか。
「そんなもの、私に聞かれても困るわね。でも、そうね。その人の大切なものと命を天秤にかけたとき、どちらに傾くかなんて、その人次第よね。でも、久寿米木くんはそれでも命の方が大切だと思うのでしょう。私もそう思うわ。だって――大切なものが大切な訳ではないのよ。大切なものを大切に思う気持ち、心が大切なのだと私は思うから」
暦は僕の方を見ず、雑誌に目を落としながら言った。
「うーん・・・分かるような分からないような……」
僕も窓の外を見ながら言った。
「そうね、少し抽象的だったかしらね。要するに「命」あっての「心」、「心」があっての「大切なもの」。心がないと、大切なものを大切に思えないでしょう?」
そう言って暦はぺらっとページをめくる。
僕は流れる窓の景色を見続ける。
「大切なもの<心<命ってこと?」
「身も蓋もない言い方をするとそういうことね。だから、久寿米木くんが命の方が大事だと思うなら、それに反抗する人がいたら説得すればいいのよ。能力を使うのは久寿米木くんなのだから」
そういって、暦は雑誌を仕舞って目を閉じた。
本格的に寝に入ったようだ。
そうだな……。
まあ、そういう状況になってみないと分からない。
よし、考えるのはよそう。
もう疲れた。
僕はバッグからウォークマンを取り出し、イヤホンを耳に装着。
目を閉じ、そして僕も寝た。
こうして、暦との京都旅行は幕を閉じた――。
どーも、よねたにです。
ごたごたした状況で書いていたので、内容がぐだぐだしているかもしれません。
とりあえず、これで京都旅行編は終了です。
次回からはまた別の話になります。
では、また。