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未来探偵クスメギ  作者: よねたに
探偵編
36/65

第36話 探偵で過去を視ることが出来るなんて反則的だと僕は思う(part6)

 1月6日。

時刻は8:00。

朝だ。

場所はいつもの探偵事務所。

 僕はブラインドの間から入る鋭い日差しによって目がさめる。


「ん、んー……」


 僕はソファーの上に寝ていた。

……なんでだっけ。

僕はきょろきょろとあたりを見回す。

と、


「……え?」


 向かいのもう1つのソファーには琴音が寝ていた。


「……あーそっか」


 昨日能力を使った後、眠ってしまった琴音をとりあえず事務所まで運んだものの、なかなか琴音が目を覚まさなかったため、僕も事務所にいることにして――で、そのまま僕も眠ってしまったわけか。

 僕はポリポリと頭をかいてみる。

どうしよう、この状況。

 琴音と一緒に一夜を共にしてしまった。

何もなかったとはいえこのことを暦に知られたらとてもまずい。

非常にまずい。

 ここは探偵事務所だ。

暦が来る可能性だって十分にある。

と、


「……うーん」


 琴音が動き始めた。

のそのそと動いて身体――上半身を起こす。


「……あれ、ここはどこ?」


「事務所だよ」


 寝ぼけ眼の琴音の質問に僕が答える。


「――っ!!」


 琴音が目を大きく見開いて飛び起きる。

そして自分の全身をくまなく触る。


「……なんかした?」


「しねえよ!」


「本当かい?こんな美少女を目の前にして正常な理性を保っていらて他のか甚だ疑問だね」


 どれだけ自分に自信があるんだろうか、この子は。

将来が残念で仕方がない。


「本当に何もしていないから安心していいよ」


「……そうかい。まあ、女の子に何かされる分には大歓迎なんだけどね」


 その設定、たまに忘れそうになるよ……。

そんな事を考えつつ、


「何か食べる?あるいは飲む?」


 僕はソファーから這い出て冷蔵庫があるキッチンスペースへ琴音に聞きながら向かう。

この事務所は万能だとつくづく思う。


「うーん、そうだね……。パンか何かあれば貰おう。それと飲み物は温かかれば何でも」


「了解」


 キッチンには6枚切りの食パンがあったのでそれをトーストした。

飲み物はコーヒーを用意した。

まあ、こんなものだろう。

 僕はそれを持って戻った。


「はい」


「くるしゅうない、面を上げい」


「上げてるから。誰が琴音になんか下げるか」


 僕達はそんなやり取りをしつつ食事を取った。


「さて、久寿米木。説明して貰おうかな」


「……何を?」


「この状況についてに決まってるじゃないか」


「……ああ」


 この状況――つまるところ、僕と琴音が変な言い方をすると同じ部屋で一夜を共にしたという事か。


「琴音はどこまで覚えている?」


「ボクが能力の使い過ぎで疲れて倒れそうになったのを不本意にも久寿米木に助けられたっていうところまでだよ」


「じゃあそのあとから話そうか。――琴音はそのあと疲れて寝ちゃったんだよ。だから仕方なく僕が琴音を背負って事務所まで運んだんだよ。琴音の家の場所、知らないからね。で、ここに着いた時はもう夜も遅くてさ。琴音も起こそうかと何度か揺すったり擦ったり触ったりしたんだけれど起きなくて。だからそのままソファーに寝かせ――」


「ちょ、ちょっといいかい、久寿米木」


 琴音が僕の話を途中で切り捨て、割り込む。


「なにさ」


「『何度か揺すったり擦ったり触ったり』の『触ったり』って何だい!?」


 琴音にしては珍しく語気を荒げている。

一体なんで――あ、なるほど。

そう言えば琴音が生粋のフェミニストでレズビ――百合乙女だった。


「……おっとうっかり」


「何もしてないって言ったじゃないか!」


「……で、そのままソファーに寝かせて、気付いたら僕も寝ちゃっていたってわけ」


 僕は話を進める。


「話を勝手に進めるんじゃない!」


「……魔が差しただけなんだよ。だから見逃してくれよ、山さん」


「誰が山さんだよ!昔逮捕されてその時刑事と知り合い親しくしているノリのいい元犯罪者か!」


「ツッコミくどいよ?」


「誰のせいだ誰の!」


「まあまあ、落ち着いて」


「落ち着けないよ!男に寝ている間に身体を触られるなんて!……ああ、鳥肌がー!ボク、帰る!」


 琴音はそう言って事務所を飛び出していった。


「……なにも逃げなくても」


 誰もいなくなった事務所に僕の独り言が悲しく響いた……。

と、


 (プルルルルル……)


 僕のスマホがなる。

電話だ。

相手は――非通知。

誰だろう。

 僕は少し不審に思いながら電話に出る。


「はい」


『お久しぶりですね。どうも、怪盗グリードです』


「……は?」


『毒島さんの家でお会いした以来ですね。お元気ですか?』


「え、本物?」


 毒島邸での一件は公にはされていない。

そのことを知っているという事は恐らく本物だろう。


『だから先ほど言ったじゃないですか。本物ですよ』


 だからと言って不信感はぬぐえない。

僕は言う。


「えーっと、どんなご用件で?というかどうして僕の電話番号を?」


『用件は言うまでもないと思っていましたが……あなた方が今お調べになっている件についてですよ。電話番号については――まあ、秘密で』


「秘密でって言われても、こんな簡単に個人情報を知られてしまっている身としては凄く気になるんですけれど……」


『まあまあ。ほら、よく言ういじゃないですか。人間は必ず3つ秘密を持っている、とね』


「よく言いますか?初めて聞いたんですけれど。……なんで3つなんですか?」


『『ひ』『み』『つ』ですよ』


 くだらね。


「すごく下らないことを教えていただいてありがとうございます。――では、本題へ行きましょうか」


『下らないって……。まあいいでしょう。さて、本題と言うのは――あなたに全てお話しますので、この件から手を引いてもらいたい、という事です』


「……内容にもよりますね」


 とは言ったものの僕には轢く気は一切なかった。


『とにもかくにも、今回の一件に付いて、あなた方はどれくらいの情報をお持ちでしょうか?』


「そうですね……。まず、関係者の名前を言うと、『怪盗グリード』『吉井拓』『横溝浩太・圭太兄弟』」


『……ほう』


「この4人をつなぐ接点は1つの事故。それは吉井さんが起こした横溝兄弟に対するひき逃げ事件です。怪盗グリードはそこに横溝兄弟を助けるという形でかかわってきている」


『……』


「ひき逃げ事件を起こした吉井さんは病院で自ら起こした事故の被害者である圭太くんの治療に当たった。が、圭太くんは死亡した。とりあえず、今分かっているのはここまでです」


『……ここまでが確証のあること、という事ですか?』


「はい」


『では、ここから先の推理を聞かせてくれませんか?』


「……わかりました。――怪盗グリードは何らかの形で吉井さんの勤務している病院に関わっている。そこで吉井さんと接点があった、と僕は考えています」


『……成程。50点と言ったところでしょうかね』


「50点……。半分正解ですか?」


『荒い推理ですからね。……では全てお話しましょう』


 怪盗グリードが静かな口調で話し始める。


『怪盗グリードは裏の顔で、表の顔はただの会社員なんですよ、私は』


 いきなり自分の正体について触れてきた。

本当に全て、なんだな。


『そんな私も実は結婚していまして。子供も1人居るんですよ、男の子。しかし、息子は難病にかかってしまいました。場合によってはドナーが必要な病気です。息子はすぐに入院することになりました。それが――東都総合病院でした』


 なるほど。

ここで接点が出来たわけか。


『息子の病気は本当に難病で、治療には莫大なお金が必要になりました。到底、ただの会社員の私には払えません。借金をしてでも、です。そして私は犯罪に手を染めるようになりました。それが怪盗グリードです。最初はこそこそと民家に入ってお金を盗むという事を息子の為だけにやっていたのですが、どうせなら悪いことをして金を集めた人間から、全国の息子のように病気で困っている子供達、孤児院でさみしい思いをしている子供達の為にやろうと思い始めました。私1人が泥を被れば、多くの人が幸せになれるのですから』


「…………」


『そんな事を始めてからしばらくして、今まで息子の主治医をしてくれていた方が吉井さんに代わりました。第一印象としては、優しそうないい先生だな、とその程度でした。しかし、吉井さんに代わってから間もなく今まで安定していた息子の容体に変化がありました。悪化し始めたんです。どうやら、吉井さんの腕は前任の方よりも劣ったのでしょう。日に日に息子は衰弱して行きました。それでも吉井さんは『大丈夫です。私に任せてください』の一点張りで……。そんなある日です。風間探偵に追いかけられている最中に、吉井さんが事故を起こしたのは――。その時です。私が吉井さんに任せておけないと思ったのは。だってそうでしょう?息子の容体を悪化させ、それでも今までどおりの治療しかせず、しかも交通事故を起こし、そこで相手を助けるならまだしも、放置するんですよ?医者なのに』


 吉井さんに対する不信感がつもりにつもった結果が今回の一件なのだろう。

僕はそう思った。


『私は――怪盗グリードは巷では義賊だの現代の鼠小僧だの言われてはいますが、一人の父親でもあるんです。そう簡単に割り切ることなんてできません。吉井さんには別の医者を紹介してほしいとは何度も言ったのですが取り合ってくれませんでした。見た目や雰囲気とは裏腹に意外と自己顕示欲が強い方なのかもしれませんね。腹の中では私の息子の治療――難病の治療を担当することで自分の株を上げようとか考えているのかもしれないですね。それを見破れなかった私にも責任があるのかもしれないですが、どうしてもあの医者を私は許すことが出来ないんですよ。任せることが出来ないんですよ。人を殺したくせにのうのうと生きて、私の息子をも殺そうとしているあの男を――』


 最後の方は『怪盗グリード』としてではなく『父親』として話していたように感じた。

それにしても――。

 この事件にはこんな裏があったのか。


「それで吉井さんに予告状を?」


『ええ。――全てお話ししました。手を引いてもらえないですか?』


「……それはできません」


『どうしてですか?』


「話を聞いてますます手を引けなくなりました。あなたに吉井さんを殺させません」


『邪魔をするのですか?』


「息子さんの為です。いくら自分の為だからと言ってあなたに殺人者にまでなって欲しくはないと思いますよ。今、何歳かは知りませんが、将来『そう言ったことがあった』、という事を知ったらショックを受けるでしょう?」


『…………』


「あなたがどうなろうと知ったこっちゃありません。犯罪者ですから。それでも、もしも息子さんがあなたの犯罪歴を知ったとして、『人の為に動いていた』犯罪者と『最後は人を殺した』犯罪者だったらどちらの方が誇らしいでしょうね」


『……探偵さんとは、争いたくはなかったのですが仕方ありませんね。交渉決裂です』


「そうですか、残念です」


『話を聞いてもらったお礼に1ついい事を教えてあげましょう』


「なんですか?」


『明日私が行く時間です。予告状には書いていなかったでしょう?』


「あーそういえばそうですね。どうして書かなかったんですか?」


『本気だったからですよ。今までの予告状はフェアな条件で盗むという義賊的な面もあったのですが、今回はほぼ個人的なことですからね』


「なるほど。良く解りました。それで待ち合わせの時間はいつにしますか?」


『待ち合わせとは……。随分と軽く見られたものですね。まあ、良いでしょう。時刻は――18:00です。その時刻に吉井さんの家に伺います』


「わざわざありがとうございます」


『ではまた明日――』


 そう言って電話は切れた。


「……ふー」


 僕はため息をついてソファーに深く座って身体を預ける。


「人が人を憎む理由は知りたくないな……」


 いろいろと心にくる。


「――っと。怪盗グリードと戦うなら……」


 僕は電話をかける。

そして簡単に今までの状況を説明して、聞く。


「明日来てくれるかな?」


 残念ながら『いいとも』とは言ってもらえなかった。

が、明日吉井邸に来てくれる約束は取り付けた。

 あー、朝から疲れた。

僕はソファーに寝転がる。

 そして僕は眼をつむった。

 もう少し寝よう。

僕はすぐに眠りに落ちた――。

どーも、よねたにです。


さて、探偵編もクライマックスへ突入です。


これが終わったらまた少し番外編をやろうかなとか考えてます。


読んでいただければ幸いです。


評価や感想、お待ちしております。


では、また。

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