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未来探偵クスメギ  作者: よねたに
探偵編
34/65

第34話 探偵で過去を視ることが出来るなんて反則的だと僕は思う(part4)

「やあ」


 そう言って今日も警備をしている警察官に『子供が来るところじゃない』と門前払いされてとぼとぼと帰り途を歩いている少年に声をかける琴音。

急に声をかけられた少年はびくっと体を揺らして僕達のほうへと振りかえる。


「え、誰!?」


 少年は目を大きく見開いて言った。

 まあ、当然のリアクションだろう。

僕は静観したままで琴音が話を続ける。


「ちょっと君から話を聞きたくてね。――いいかな」


 琴音は少年に笑いかける。

……僕には見せたことのないような笑みを。

 もともと琴音はかわいい。

そんな美少女が微笑みかければ、いくらまだ小学生高学年くらいの少年と言えども断れないだろう。

案の定、


「は、はい」


 少年は頬を赤らめながらうなずいてくれた。

琴音もこれでレズ――もとい百合でなかったら完璧なんだけれど。

……あ、あと高圧的な感じをなくせばね。

 僕達は歩きながら話も聞く。

もうこの際だから少年との話は全て琴音に任せよう。

 まず琴音は僕から聞いて分かっていることを聞く。


「どうして拘置所なんかに来ているんだい?」


「……怪盗グリードに会いたくて」


 少年はぽつりと言った。

次に琴音は未だ分からないその理由を聞く。


「どうして?」


「…………」


 少年は黙る。

琴音は一瞬僕の方見てアイコンタクトらしきものを取ってから、


「そう言えばまだ君の名前を聞いていなかったね」


 話を変えることにしたようだ。

名前を教えあって少し親密になってから話を聞こうという事なのかもしれない。


「ボクの名前は風間琴音。で、隣にいるのが久寿米木春希。ボクの手下だね」


 おいこら。

なに嘘を息をするかのごとく吐いているんだよ。

と、言いたいところだが、このしんみりとした空気では言えるはずもなく僕は黙ったままだ。


「俺の名前は浩太――横溝浩太」


 少年は名前を言った。

……ん?

この少年の名前は最近どこかで聞いたような気がしないでもない。


「小学生かい?」


 何かを思い出せそうだったが、琴音の質問の声によってその思考は霧散した。

……なんか気持ち悪いな、この感じ。

 僕がそんな事を考えていると、


「うん、6年……」


 小学6年生の横溝浩太……。

会ったことは、ないはずだ。

知り合いにもいない。

 でも、どこかで聞いた。

やっぱり、どこかで――。


「今は冬休みかい?」


 琴音は当たり障り――いや、当たり前の質問をする。

今日は1月の5日。

冬休みで当然だ。


「……うん」


 浩太くんは答えた。


「家はこの近くなのかい?」


 知っているくせに白々しいな。

まあ、言わないけれどね。


「……うん。川沿いのマンションに」


 前につけて行ったときに見た。

そこそこ大きなマンションだった。

部屋番号は知らないけれど。


「お父さんとお母さんは?」


 琴音は少し踏み込んだ質問をする。

もしもここで『いない』若しくは『片親』あるいは『どちらかが再婚』なんて答えが返ってきたら少し気まずくなるような質問だ。

こういうところをずかずかと聞けるのは琴音らしい。

良いか悪いかは置いておくとして。


「……いるよ」


 僕は心の中でほっとした。


「ふーん……。学校は近いのかい?」


 これまた当たり障りのない質問だ。

この季節に汗をダラダラ書いた気持ちの悪い男がこんな質問をしたら誰だって引いて即通報するだろうが、その質問をしているのがかわいい女子高生なら問題ない。

……何カ月か前に思った『脳内セクハラ裁判』を思い出す。

かっこいい男と気持ち悪い男では女性側の対応が全く違うってやつ。


「すぐ近くにある……」


 これには間をおかずに浩太くんは答えた。


「兄弟はいるのかい?」


「…………」


 この質問に少年――浩太くんは黙ってしまった。

ひょっとして地雷だったのだろうか……?

それと同時に歩みも止めてその場に立ち尽くしてしまう。

 僕達もその場に止まる。

住宅街の道路の真ん中で立ちすくむ小学生と大学生っていう図はかなり不審だが、運よく周りにも誰もいなかった。

 風も穏やかで木々が微かに揺れる音と少し離れたところにある大きな道路を通る車の音しか聞こえない。

どれくらい沈黙が続いただろうか。

浩太くんが口を開く。


「弟が――いた」


 今にも泣きそうな、ぐしゃぐしゃな顔でそう言った。

過去形――という事は、


「今はいないのかい?」


 恐らく浩太くんの弟は雰囲気からして亡くなったのだろう。

それをあえて琴音は『今はいない』という表現に変えて言った。


「……うん」


 つまりはそういうことだ。

弟がいたが死んでしまった。

この年で身近に『死』――それも年の近い弟――を失う経験をしたら、かなりショックが強かっただろう。

これからずっと一緒に生きていく。

そう思っていたはずだ。

 と、ここで浩太くんが一気に語り始めた。

さっきまでの会話で少しは僕達に対する警戒心が解けたのかもしれない。

 僕達は黙って聞くことにした。


「この間、俺と圭太は一緒にお母さんから頼まれたものを買いに近所のスーパーに出かけていたんだ。でも、その行きの道で……。俺達が青信号を渡っていたら、信号無視の車が俺達に突っ込んできて……。その時助けてくれたんだ――怪盗グリードが」


 ここにきて怪盗グリードの名前が出てきた。

僕達は少し身構えて話を促す。


「怪盗グリードは俺達を歩道側に引っ張ってくれたんだ。――けれど俺しか間に合わなかったんだ。弟は――圭太は撥ねられて……。怪盗グリードは圭太を助けようとしてくれた。救急車を呼んでくれたり、心臓マッサージや人工呼吸をしてくれた。でも、だめだった。……圭太は、助からなかった」


「それはいつのことだい?」


 琴音が今にも泣きそうな表情で言った。

こういうところは年相応なんだな。

僕はそう思った。


「――12月21日だよ」


 繋がった。

そして思い出した。

この間、吉井さんの家で見たひき逃げ事件のニュースはこの事だ。

そしてこの横溝浩太くんが怪盗グリードに会おうとしているのはきっと――お礼が言いたかったんだ。

 僕はそう思った。


「言いたくなかったら言わなくていいし、思い出したくなかったら思い出さなくてもいいけど……1つ質問をするよ。どんな車に弟くんは――轢かれたのかい?」


「…………」


 浩太くんはすぐには答えなかった。

いや、答えられなかったんだろう。

しかし、意を決したように――


「銀色の車。……それで後ろにトランク……?がある車だよ」


 これで十中八九確定だろう。

ひき逃げ犯は――吉井さんだ。

車に残っているへこみを調べれば証拠が出てくるだろう。

 何故へこみや傷を修理しなかったか。

それは、警察が事件現場近くの自動車修理工を張っていると考えたのだろう。

こういった事故を起こせば誰だってまずは証拠隠滅を図る。

修理工場を張っておけば、勝手に犯人がやって来る。

警察がよくやることだ。

 恐らく吉井さんはそれを知っていた、あるいは感づいた。

だから修理に出すことが出来なかった。

そのため、ガレージに置きっぱなしにしていたのだろう。


「ありがとう、話してくれて」


 琴音がそう言った。

その後、僕達は浩太くんと別れて事務所に戻った。

事件の概要を整理するために――。



*****



「じゃあ、話を整理してみようか」


 僕が事務所内にあるホワイトボードの前に立って言った。

琴音はソファーに座っている。


「まず、12月21日に起こった横溝兄弟のひき逃げ事件と未遂事件」


 僕がホワイトボードに書きながら言った。

琴音が言う。


「多分、怪盗グリードが助けた時はグリード自身、ボクや警察に追われている時だったんじゃないかな」


「そうだね」


「ボクはそんな事が裏で行われているなんて知らずに追いかけていたわけか……」


 琴音がなんとなく申し訳なさそうな感じで言った。

まあ、人助けをした人間を追いかけまわしていたんだから、多少はそう思っても仕方がないかもしれない。


「それで、そのひき逃げ犯は恐らく吉井さん」


「ボクもそう思う」


 琴音が僕の感慨に同意する。

 今のところ状況証拠しかないが十中八九吉井さんで確定だろう。


「本人に言うかい?」


 琴音が言った。

ここが少し考えどころだ。

 このまま決定的な証拠がないが、状況証拠だけしかないが吉井さんを問い詰めて吐かせるか。

あるいはまだ黙ったままにしておくか。


「……まだ分からないことも多く残っているし、なにより決定打に欠ける。もう少し黙っていよう。ただ――少しカマをかけてもいいかもね」


 僕は吉井さんには言わないことを提案する。


「そうだね。ボクもそれでいいと思う」


 琴音も概ね同じ意見らしい。

話がサクサクと進んでとても楽だ。


「それで――さっきも言ったようにまだいくつか分からないことがある」


 僕はホワイトボードに書き終えて、琴音の正面のソファーに移動しながら言った。


「そうだね。例えば、グリードが吉井さんの命を狙う理由。いくら義賊だからと言って、目の前で起こったひき逃げ事件の犯人を自分で捜査して犯人見つけて命を狙うのかな。ボクだったらそこまではしないね」


 琴音は言った。

僕も同意見だ。

どうしてもここが納得できない。

 ひき逃げ事件の詳細を知ったことで、謎の少年(横溝浩太くん)と吉井拓さん、そして怪盗グリードの接点が出来たわけだけれど……接点が小さすぎる。


「そう言えばなんだけれどさ」


 僕はふと思った事を口に出す。


「吉井さんって何をしているどんな人なの?」


 僕は吉井さんについて何も知らなかった。

ただ、家の状況からなんとなく金持ちっていう事しかしらない。

あ、あと紅茶がめっちゃ好き。


「え?……そう言えば僕もよく知らないね。ただ、ネットで知り合っただけだから」


 琴音も詳しいことは知らないようだ。

これは――


「「調べた方がいいね」」


 シンクロした。



*****



 時刻は15:00。

日付はまだ変わっていない。

1月5日だ。

 僕達は吉井邸の前にいた。

かなり無謀かもしれないが、直接吉井さんに聞いてみることにした。

やっていることが探偵でも何でもないのは気にしない方向で琴音とは一致していた。


 (ピーンポーン)


 僕がインターホンのボタンを押すとチャイムが鳴る。

数秒後、


『はい』


 吉井さんが出た。


「あ、久寿米木と風間です。ちょっとお話がありまして……」


 僕がそう言うと、少し警戒したのか少し間が空いてから『少々お待ちください』という声が聞こえた。

少し待つと、


「お待たせしました。どうぞ――」


 吉井さんがやってきて中へ案内された。

再び場所は応接室。

数日ぶりなので特に変わったところはない。

 僕達は前回と同じようにソファーに座った。


「今日はどういったご、ご用件で……?」


 吉井さんはなぜか――いや、理由は予想がつくが――動揺していた。

僕達は一瞬のアイコンタクトで、それを気にしない方向で行くことに決めた。


「いえ、ちょっと分からないことがあったので、いくつか吉井さんに質問をと思いまして……」


「わ、私にですか?」


 あからさまに動揺する吉井さん。

それを僕達はスルーして話を進める。

 この間、浩太くんに質問をしたのが琴音だったため、今回は僕が主導して行う。


「ええ。分からないことと言うのは他でもなく、『どうして怪盗グリードはあなたを狙うのか』という点です」


 ここは嘘偽りなく話す。


「怪盗グリードは御存じかも知れませんが、決して人の命は盗らない怪盗です。義賊と自称するくらいですからね。それなのにあなたを狙っている。――どうしてもそこが分からないのです」


「は、はあ」


「なので、吉井さんについていろいろと知りたいと思いまして今日は来たわけですよ」


「な、なるほど」


 一応分かってもらえたようだ。


「では、質問をさせていただきます――」


 僕はまず、基本的な情報――生年月日や出生地、来歴を軽く聞いた。

掻い摘んで説明すると、1969年7月23日生まれの43歳、生まれも育ちも都内だそうだ。来歴は全て一流の学校を卒業して現在に至る。

ここまでで特に不審なことは特にない。

むしろ良いくらいだ。

 さて、本題はここからだ。


「では次に、ご職業は今は何を?」


「えーっとですね、近くの総合病院で外科医をしています」


「へー、それはすごいですね。あの病院で働いているんですか」


 あの病院とは『東都総合病院』のことだ。

総合病院と銘打っているが、実のところあの病院は医師不足で、個人個人が忙しすぎるために対応が雑になっていることで有名な病院だ。


「ええ、まあ」


 そう言ってすこし照れたような仕草をする吉井さん。

なるほど。

この家の大きさは医者だからか。

多分結構な額を貰っているのだろう。

……ん?

 そういえばあの病院は横溝兄弟の事故現場付近にある。

ひょっとしたら――。

 僕はそう思って質問を続ける。


「最近はどうですか?手術を執刀されたりしたんですか?例えば――事故の患者さんとか」


「――っ!……いえ、最近は若いのに経験を積ませるために任せていて、私は特に……」


 ……隠す気あるのだろうか、この人は。

表情に全て出ている。

教えてあげた方がいいのか?

 この反応を見る限り、吉井さんが交通事故を起こして吉井さんが病院で執刀したようだ。

病院と事故現場はすぐ近くだ。

『先生、急患です!』って呼び出されたのかもしれない。

年末だったし、医師不足で有名な病院だ。

呼び出しがあっても不思議ではない。

 こうしてまた1つ謎が解けた――。

どーも、よねたにです。


この探偵編、長くなりそうです……。


そして今、ちょっと色々と忙しいので更新ペースが落ちるかもしれないです……。


感想や評価お待ちしております。


では、また。

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