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未来探偵クスメギ  作者: よねたに
探偵編
32/65

第32話 探偵で過去を視ることが出来るなんて反則的だと僕は思う(part2)

「なに、どうしたの」


 隣の琴音が聞いてきた。

なんか最初に会った時も思ったけれど、琴音の声はかわいいな。

それなのにあまり抑揚がないからこう……ギャップできゅんとくるね。

 ――とか思った僕は説明する。


「さっき外に出たとき、ガレージで車を見つけたんだよ」


 僕は先ほど外で見たことを説明する。


「まあ、それは普通だよね」


 琴音は当たり前の反応をする。

問題はここからだ。

僕はその事実を告げる。


「ただ――その内の1台のバンパーとボンネットがへこんでいた」


「……へー」

 

 にやりと笑って言った。

 琴音は僕のその一言でおおよそのことを理解したようだ。


「そしてこの記事」


 僕はそう言ってスマホの画面に映し出されたニュースの記事を見せる。

それを琴音が見ながら読み上げる。


「『12月21日。○○区○○町で子供のひき逃げ事件。病院に運ばれた後、横溝圭太くん(5歳)死亡』……か。そう言えば12月21日と言ったら僕が怪盗グリードを捕まえた日だね。こんなことがあったのか……」



 つまり僕――僕達が言いたいのは、『吉井さんがこのひき逃げ事件を起こした犯人』という事だ。

ただ、確証が無い上にいくつか分からない点もある。

例えば――仮に本当にひき逃げ犯が吉井さんだったとして、何故怪盗グリードに命を狙われるのか。

怪盗グリードはどうやって脱獄したのか。

そもそも怪盗グリードは何者なのか。

とか。


「それと琴音、少し気になることがあって」


「なに」


「この事件、最初は色々なニュースサイトでも取り上げられていたみたいなんだけれど……消されている。それで残っているのはこのサイトのみだった」


「……もみ消されたってこと?」


「かもしれない」


 僕は琴音の言葉にうなずいた。

吉井さんの家は見た限りかなり裕福な家のようだ。

ひょっとしたら警察やなんかと繋がりがあるのかもしれない。

 これは暇つぶしが過ぎる事件だね。

僕は琴音の頼みを引き受けなければよかったかも知れないと後悔し始めた。


「……久寿米木」


 唐突に琴音が僕の名前を呼ぶ。


「なにかな」


「さっきから考えていたことなんだけど……。『どうしてグリードが吉井さんを狙うのか』ってこと」


「ああ、それは僕も気になっていた。……何かわかった?」


「もしかしたら怪盗グリードは――」


「お待たせしました」


 と、琴音がなにかを話そうとしたとき、タイミング良くも悪くも吉井さんが紅茶を持ってきた。

 

「わざわざすみません」


 僕はそう言って吉井さんから紅茶のカップを受け取る。

温かい。

ほっとの紅茶か。

 そのカップからは仄かに柑橘系の香りがする。

これは――


「アールグレイですか?」


「よくわかりましたね。紅茶はお好きなんですか?」


「いえ、そこまでは。ただの知識です」


 吉井さんから『紅茶好き臭』がしたので僕はさらりと受け流す。

と、隣の琴音が言う。


「よく解ったね。ボクは紅茶をあまり飲まないから良く解らないけど、何か違うのかい?」


 その質問に僕が答える。


「アールグレイの特徴は人工的につけられた柑橘系の香りなんだよ。だからアールグレイは『フレーバーティー』とも呼ばれるんだよ。それから紅茶って言うとイギリスのイメージが強いけれど、使われている茶葉は中国茶なんだよね」


「へー」


 珍しく琴音に感心された。


「本当によくご存じですね」


 吉井さんにも感心された。


「いえいえ、それほどでもありませんよ」


 僕はそう言ってから紅茶に口をつけた。

――吉井さんとはもっと前に別の形で会ってみたかった。

そんな事を思いながら――。



*****



 この後僕達は吉井邸を後にした。

まあ、まだ予告の時間までには時間があるしね。

 とりあえず僕達は事務所に戻るために電車に乗っていた。

その車内。


「そういえば琴音。吉井さんが紅茶を持ってくる前に何かを言おうとしていたよね」


 僕は思いだした。

吉井さんが紅茶を持ってきてからうやむやになっていたが、琴音は怪盗グリードについて何かを言おうとしていた。


「ああ」


 琴音も忘れていたようだ。


「……そうだね。うーん……。じゃあ、消毒液の匂いがする人ってどんな人だと思う?」


「は?」


「隣とかをすれ違うとふわっと消毒液の匂いがする人。どんなことをしている人だと思う?」


 突然琴音がそんな事を聞いてきた。

何の話だ。

全く分からない。

 とりあえず僕は思いついたものを口に出していく。


「けが人、医者、科学者……とか」


「まあ、そんなことろだよね」


「何が言いたいのさ」


「実は怪盗グリードと相対した時、ふわっと消毒液の匂いがしてきたんだよ。消毒液というかなんというか……『病院の中』みたいな匂いがね」


「『病院』……」


 僕はぼそっと言った。

なるほど。

琴音が言いたいことが理解できた。


「ボクはね、怪盗グリードは病院関係者――中でも外科医なんじゃないかなと思ってるんだよ」


 琴音の言いたいことはこうだ。

怪盗グリードの正体は医者で、吉井さんがひき逃げした男の子が病院に運ばれて助けようとしたが助けられなくて。

なんやかんやあって吉井さんに予告状を送りつけて命を狙っている、と。

 『なんやかんや』ってなにさ。

なんやかんやは……なんやかんや、です。


「まあ、そう考えると話はつなげようと思えばつながるけれどね」


「久寿米木に言われなくても分かっているよ、こんなの推理でも何でもない。ただの空想にすぎないってことは」


 琴音はそう言った。

分かっているなら――良いけれどさ。

 この後僕達は無言のまま事務所まで戻り、琴音と別れた。



*****



 翌日。

1月4日。

時刻は13:00。

 今日は琴音とは会わずに僕はひとりで行動していた。

今いる場所は怪盗グリードが収容されているはずの拘置所の前だ。

 僕の目の前には数mはあろうかという巨大な1枚の壁が立っている。


「……」


 怪盗グリードはこんなところから逃げ出すことが出来たのだろうか。

そもそも本当に逃げ出したのだろうか。

ニュースにもなっていないのに。

 テレビや新聞で報道されていないという事はいくつかの可能性が考えられる。

①怪盗グリードは逃げていない。

②怪盗グリードは脱走したのちに再び拘置所に戻ってきている。

 とか。

 ①の場合だと吉井さんに予告状を送ったのは別人という事になる。

ただ、あの予告状に書かれていたサイン。

あれは恐らく――本物だ。

1度見たことがあるから分かる。

 よって①の可能性は低い。

次に②の場合。

これはまず無理だ。

ほとんど考えられないだろう。

 よって②も消える。

すると必然的に3つ目の可能性が出てくる。

――③怪盗グリードは捕まっていない。

そもそも未来を視ることが出来るにも関わらず、捕まってしまう事がおかしい。

 もしかしたら影武者でもいるのだろうか。

例えば部下、のような人物が――。

 いやいや、決めつけるのはまずい。

とりあえず、頭にとどめておくことにしよう。

 僕はそんな風に考えをまとめた後、向きを変えて立ち去ろうとした。

と、体の向きを変えた先には、拘置所の出入り口にいる警察官となにやら話している少年の姿があった。

 いや、話しているというよりは揉めているという表現のほうが近いかもしれない。


「―――」


「――だめだ――」


 ここからでは警備員のかすかな声しか聞こえない。

僕がしばらく動かないで様子を見ていると、男の子がすごすごと帰っていく。

 僕は少年と揉めていた警察官のところへ行く。


「あの――」


 僕はへこへこしながら警察官に近づく。


「はい?なんでしょう」


 警察官――近くで見ると意外と年を食っている――が僕をじろりと見る。

眼力がすさまじい。

 僕はそれを自分なりのさわやかな頬笑みを作り受け流して話を進める。


「今、小さな男の子となにか話をされていたようですが……」


「ああ、あの子ですか。ここ最近毎日来るんですよ。『中に入れてくれ』って」


「何故ですか?」


「さあ。分かりませんね。ただ真剣な顔をして『会わなきゃいけないんだ』の1点張りで……」


「ちなみにいつ頃から来るんですか?」


「12月の終わり……ですかね。――もういいですか?」


 警察官はそう言ったきり、『これ以上話す気はありません』というような態度をとったので、僕は『ありがとうございました』と言ってその場を後にした。

 なるほど、あの少年が現れたのは怪盗グリードが捕まったころからか。

まあ、少しは収穫があった。

良しとしよう。

 そして僕は少年がとぼとぼと歩いて行った方へと走る。

あのスピードなら今から行っても追いつけるかもしれないと思ったからだ。

すると案の定、100m程先に少年の姿を見つけることが出来た。

 僕はそのすすけた後姿を尾けて行く。

どれくらい歩いただろうか。

少年はそれなりに大きい道路沿いにあるマンションへと入って行った。

どうやらここが家のようだ。

 さすがに自動ドアの先までは入っていくことはできない。

まあ、マンションの場所がわかっただけでも良いだろう。

 僕は事務所へ戻ることにした。



*****



 時刻は17:00。

僕が事務所に戻ると、玄関のところで琴音がドアに背を預けて立っていた。

どうやら僕の帰りを待っていたようだ。


「あれ、なに、どうしたの」


 僕は少し驚いた声を出す。

確か待ち合わせとか約束はしていなかったはず。


「まあ、とりあえず入れてよ。結構待ってたから寒いんだよね」


 相変わらずの傍若無人さ。

まあ、嫌いじゃないけれどね。

 僕は鍵を開けて中へと入る。

そのあとに続いて琴音も入ってくる。


「それで?」


 僕はソファーに腰を落としながら琴音に言う。

ちなみに琴音は既に着席済みだ。

何様だ、お前は。

 多分そう聞いたら『女王様』とかって返ってきそうだから聞かないけれど。


「どういったご用件でしょうか、琴音さん?」


 僕はなんとなくうんざりとした表情を作って、正面に格好良く座っている琴音に向かって投げかける。

琴音はかわいらしい声で言う。


「そうだね。いわゆる情報交換っていうところかな。今日1日、ボクは気になるところを当たっていたんだけど……久寿米木も多分そうだよね」


「……まあ」


 どうやら琴音も僕同様なんやかんやしていたようだ。


「ボクはね、とりあえずこの近辺の病院をしらみつぶしに当たってみたんだよ。昨日の仮説、正解にしろ不正解にしろはっきりさせたいからね」


 だろうとは思ったけれど、行動早いな。

昨日の今日じゃないか。


「結果から言うと、何もなかったボクの仮説はハズレだね。まあ、遠方の病院っていうこともなくはないかもしれないけど、そうすると消毒液の匂いはボクが気付くほど残っていないだろうから……99%ハズレだよ」


 まあ、それほど確信を持っていた訳でもない。

琴音の落胆はそれ程大きいものではないようだ。.

駄目でもともとってところらしい。


「そう……」


「で、久寿米木は?」


 琴音は言った。

僕の方もそれ程進展があったわけではないんだけれどね。

 ひょっとしたら怪盗グリードはもともと捕まってないかもしれない。

そして怪盗グリードが捕まったころから拘置所周辺に現れた謎の少年とその少年の住所。

……言った方がいいのだろうか。

一応言うか。


「今日僕は拘置所に言ってきたんだけれど……。まず、怪盗グリードについて」


 僕はそう前置きをしてから続ける。


「グリードは捕まっていないかもしれない」


「……は?」


 僕は自分の考えを琴音に伝える。

吉井さんに来た予告状は恐らく本物であり、拘置所の中からだと送ることは不可能。

かと言って、あの拘置所を自由に出入りできるとは到底考えられない。

となると必然的に、怪盗グリードは捕まっていないという結論に至る、という事を――。

 琴音は言う。


「なら、ボクが捕まえたのは一体誰なんだい?」


「恐らく、グリードの手下あるいは影武者ってところじゃないかな」


「警察は知らないのかい?というか気付かないのかい?」


「グリードは目深にハットを被っているし、基本夜にしか活動していないから顔は分かっていないし、体格なんかも標準的だったと思う。だから気付いていないのかもしれない」


「……なるほどね。それはあるかもしれない」


「まあ、これも机上の空論なんだけれどね」


 僕は自嘲気味に笑って言った。

そう、これにも証拠は一切ない。

ただ、今持っている情報をつなげにつなげただけのものだ。

 これで半分でも真実であれば万々歳っていうような代物だ。


「それと――」


 僕はもう1つの情報も琴音に言う。


「拘置所でグリードが逮捕されて収容されたっていう時期から頻繁に拘置所前に現れる少年がいる」


「……ミーハーな奴っていうわけではないのかい?」


「そういう様子ではないみたいだよ」


 僕は拘置所の前の警察官の言っていたことを琴音に伝える。


「『真剣な表情』ね。……それにしても『会わなきゃいけない』ってどんな理由があるんだろうね」


 琴音は首をかしげる。

そういう行動が様になっている。

僕がやっても、『何やってんの』って冷たく言われるだけだろうけど。


「謎は深まるばかりか……」


 僕はそう言ってソファーへと体を沈めた――。

なんだろう。

今の僕、すごく探偵っぽい気がする。

どーも、よねたにです。


遅くなりました。


さて、コメディー分が少ない編。


ちゃんと書けているのかはなはだ疑問ではありますが、読んでいただければ幸いです。


評価、感想お待ちしております。


では、また。

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