第29話 今があるから未来があって、今があるから過去があって(part2)
状況説明。
めちゃくちゃ上から目線で喋る女子高生探偵がやってきた!
それに腹を立てるが、なんとか殺気を出してこらえる暦としずか。
そして、その女子高生探偵、風間琴音が衝撃の爆弾発言。
『過去を視ることができるんだよ』と。
「……過去を?」
僕はそう言った。
「あれ、珍しい。食いつき方が他の人と違うね。大体は『嘘つくな』とか『そういう夢を見たの?』とかなんだけど」
「…………」
「……なるほどね。もしかして、君もボクと同じようなモノを持っているのかな?例えば――『未来』を視ることができるとか」
僕の心臓はバクバクと周りにも聞こえるのではないかというくらい動いている。
「そうだとしたらいくつか納得できるんだよね。グリードと対峙した時、彼は警察やボクから逃げていたんだけど、どうも動きが速いというかなんというか……まるで事前に分かっているかのような動きをしていたんだよ。そして彼はボクの能力について途中で見抜いた。……ひょっとしたら彼もそういう能力があったかもしれない、と考えると逃げていた時の動きも納得できる。そして、さっきの君の反応。彼は君の能力も知っていた、とすると紹介してきた理由も付く」
琴音の洞察力はすごいな……。
ほとんど合っている。
確かにグリードは僕の能力を知っていた。
そしてグリードにも能力はある。
それも未来を視るという能力が。
「どうかな。これがボクの考えなんだけど」
そう言って満足気な顔をする琴音。
……ここまで知られたら、話さないわけにもいかないだろう。
僕は話し始める。
「そうだね……。ほとんど合っているよ。正直驚いた。確かに僕には未来を視る能力がある。そして怪盗グリードにも。多分グリードが逃げている時は能力を使っていたんだと思うよ」
「なるほどね。それにしても未来を視る能力か……。そっちのほうが凄そうだけどね」
琴音は身を乗り出して聞いてきた。
多分、能力者というものに初めて会ったのだろう。
そして僕と同じように、いろいろと言われたりもしたんだろう。
「いや、実際はそう簡単に使えるものじゃないんだよ。頭は痛くなるし、寿命も削る」
「寿命を?」
今までの自信に充ち溢れ、堂々とした表情から一変して初めて年相応の表情になった。
これは心配してくれているのだろうか?
「多分、未来っていうものは確定しているものじゃないから、それを視るっていうことはかなりの負担になるんだろうね。……僕は過去のほうがおもしろそうだと思うけれど」
その代わりに、未来を変えることだってできるけどね、と僕。
それに琴音が答える。
「まあ、未来みたいになにか代償とかはないからね。そういう面ではいいかもね。ただ、頭が痛くなるだけ」
「どこまで過去を見れる?」
「頭痛に耐えられればいつまでも。もちろんその視ている範囲で、に限られるけど」
「へー……」
僕の能力とは対照的な能力だ。
過去を視られるということは、頑張れば歴史上の人物の顔とかも見れちゃうわけだ。
あとは使い方によっては、事前に学校の机に教科書とか置いて、次の日テストを受けるとカンニングできちゃうわけだ。
……すごいな。
「やっぱり普段はコンタクトを?」
琴音が聞いてきた。
「やっぱりってことは風間さんも?」
「琴音でいいよ。――うん。普段はコンタクトで左眼を」
「僕は右眼。……脳直が使えるのって片目だけなのかな。グリードもそうだったし」
「ふーん……」
琴音はそう言ってすこし楽しそうに『そうか、そうか』と小さな声で呟いていた。
そして、突然――
「ところで、久寿米木さん」
琴音が改まって聞いてきた。
あれ、口調がよくなっているのは気のせい?
さっきとか『君』って言われていたのが『久寿米木さん』って。
「なにかな」
「ちょっと話たい事があるんだけど……」
そう言いながら琴音は、ちらりと暦としずかに目線を向ける。
それに気がついた暦が、
「ちょっと私達は買い物をしてくるわ。冷蔵庫の中のお菓子とか切らしていたから。……雨倉さん、行きましょう」
「はーい」
暦はそう言ってしずかと共に事務所を後にした。
「気を使わせちゃったみたいで悪いね」
「いや、気にしないで」
おそらく能力がらみの話だろう。
そうなってくると、普通の人に聞かれたくない話だってある。
僕だってそう――だった。
今は親とも和解し、近くには恋人や気の知れた仲間だっている。
でも、それだって最近のことだ。
琴音と同じ高校3年のころはもっと他人と壁を作っていたりもした。
そういうのはなるべく早く無くしたほうがいいに決まっている。
僕はそう思った。
「久寿米木さんはどうだったのかは知らないけど、ボクが能力に目覚めたのは小学生の低学年の頃だった」
僕と大体同じだ。
「最初は何か分からなかったけど、次第に自分は過去を視ているんだって気がついた。そして、やっぱり人にできないことができるっていうのは、とても誇らしい事だと思ったから……。親に言ったんだよ」
これも僕と同じだ。
僕だって未来が視れて、ヒーローにでもなったような気分で親に言った。
そうしたら――
「ボクは親に拒絶された」
……。
「ボクには親戚みたいな人が殆どいなかったから、施設に預けられたよ。それからはこの眼を嫌ったよ。なんでボクだけって。人に拒絶されるくらいならこんなものいらないって」
僕にはまだ親戚がいたからな……。
「中学生のころかな。学校でボクの噂が流れたんだ。ボクの眼を見ると呪われるって。出所は分からないけど当たらずとも遠からずって噂でさ。……それきり孤立しちゃって。今まで親の件の反動からなるべく社交的に振舞ってきてまで得た友達もどんどんと離れちゃって」
これは僕にはなかった。
社交的に振舞って上辺だけでも友達はいた。
「それでボクは眼を潰そうとしたんだよ。左眼を――ペンで」
…………。
「でも出来なかった。……怖くて。1人じゃ抱えきれなかった」
その気持ちはわかる。
琴音は誰にも言わなかったのだろう。
僕は言ってしまった。
暦としずかに――。
受け入れてくれたから良かったものの拒絶されていたらどうなっていただろうか。
今考えると恐ろしい事をしたな、当時の僕。
「だから、話したんだよ。……その施設で親代わりだった人に。そうしたら、『やっと話してくれたんだね』って言われたんだよ。……親からボクのことをすべて聞いたうえで引き取ってくれていたらしくて、ボクが自分から話すまで知らない振りをしていたんだって。頼り切っては欲しくないからって」
なるほどね。
1つ拠り所ができてしまえば、自分1人で立つよりも、やっぱり頼って立ってしまう。
だから知らないふりをしていた、と。
良い人じゃないか。
「それから数年が過ぎて今。今年でその施設を出なきゃいけないんだよ。……来年から大学生だからね。でも今のところ、僕のことを理解してくれている人はその人だけで。これからどうしたらいいのか、分からなくって……」
多分、その親代わりの人はいつでも来ていい的なことを言ってくれてはいるのだろうけれど、いつまでもその人に頼るわけにもいかない。
これからは自分の力で生活しなければならない。
「そんなときに怪盗グリードに久寿米木さん達に会ってみると良いって言われたんだよ。それで会ってみると僕と同じ能力者で年齢も近い」
僕はここでようやく口を開く。
「それで相談に乗ってほしい、と。内容はこれからどうしたらいいのかっていう事と、参考に僕のことを教えてほしいってところかな?」
「……ん」
琴音は首を縦に振る。
「そうだねー……。僕も大体は琴音と同じ感じだよ。親に捨てられて、親戚の家を転々として、誰にも能力のことを話せず……。ただ、違うところは、僕は小学生の時点で暦としずかに能力についてを話していたんだよ。今考えれば浅い考えだったんだけどね」
「小学生のころ?」
まだ話していなかったか。
なんて説明しようか……。
「あー、暦としずかは小学校の同級生なんだよ。で、その頃の友達。で、今年大学で再会したんだよ」
「へー。随分と運命的で……。っていうか大学生だったんだ。探偵事務所なんてやっているから気がつかなかった」
余計なお世話だ。
まあ――
「良く言われるよ……。話を戻すけれど、やっぱり自分のことについて知っている人がいるっていうのは心強いからね。……勇気、かな。仲のいい友達に話す勇気。拒絶されるかもしれないけれど、受け入れてくれれば心強い。友達を失うかもしれないけれど、今よりも強い友情を得ることができるかもしれない。その1歩、かな」
「……」
「僕だって暦やしずかに話すときはとても緊張したよ。でも、受け入れてくれた。だから今もこうやって関係が続いている」
「…………」
「それに、今だってそうだ。琴音がグリードに言われたからとは言え、自分で行動した結果、僕達という能力を知る人ができたわけだから」
「……わかった」
琴音は言う。
「やっぱり、そうか。自分で行動、ね」
「あと、よく後悔しないようにとかって言うけど、人間っていう生き物の性質上、絶対後悔はするんだよ。後悔って例えば2つの選択肢があって、片方をとった時に『あーもう1つのほうにすればよかった』ってなっちゃうことでしょ?その『迷う選択肢』っていうのは天秤にかければ釣り合っちゃうくらいだから迷うんだよね。例えるなら100gと100gみたいな。で、どっちかをとる。そうすると同じ重さの物が無くなるわけだ。そりゃ『あっちのほうがよかったかもしれない』って思うよ。だから――思ったように行動すればいい」
「……了解!」
琴音はここにきて初めて心から笑った――ように見えた。
*****
「ただいま」
2時間後、暦が帰ってきた。
……1人で。
「あれ、しずかは?」
「雨倉さんは途中でナンパされていたからそのまま放置してきたわ。――女の子にだけれど」
「またか!」
そんな話をしながら、暦が僕のいるソファーの隣に座る。
「彼女はどこへ?」
「もう帰ったよ。でも多分また来るよ」
「ふーん……」
そして一瞬、沈黙が続いたのちに暦が再び口を開く。
「で、どんな話をされたのか聞いても良いのかしら」
「あー……」
僕は逡巡したのちに話すことにした。
暦ももう能力とかの関係者だ。
知っておいたほうがいいだろう。
「琴音の過去についていろいろと、ね」
「過去……。というと、どんな話だったのかしら」
「うーん……。僕と似たような感じかな。あるいはもう少しキツイ」
「例えば?」
「親に捨てられたり、自分のことを分かってくれている人がいなかったり。あとは僕の時と違うのは、学校で噂が流れて上辺だけの友達すらいないとか。親戚がいなかったから施設で育てられたとか」
「なるほどね。じゃあ、あのキャラは、そう言ったところから来ているのかも知れないわね」
「あ、気づいてた?」
「私は、敏感よ?」
「ごめん、ちょっと意味が分からない」
「とにかく、久寿米木くんが分かるものを私が分からないわけがないじゃない」
「まあ、そうだよね」
そう、あの上から目線のキャラ。
あれは、恐らく本当の琴音の姿ではないだろう。
中学生のころは社交的に振舞っていたようだが、噂のせいで孤立してしまって……。
それで今度は誰も近付けないようなキャラを作ったのだろう。
いつか、本当の素の琴音が見られるだろうか。
「ひょっとしたらさ」
僕が言う。
「僕もちょっと道がそれていたら――暦としずかに能力のことを打ち明けていなければ……。もっと大変だったんだろうね」
「そうね。感謝しなさい。私という神に向かって」
「あいにく僕は無神論者なもので。でもまあ、暦には感謝だよね」
「……そう」
暦は少し間を開けてそう言った。
珍しく照れているらしい。
まあ、言わないけどさ。
「ところで久寿米木くん」
おっと話題が替わるようだ。
「なにかな」
「明日はクリスマスイヴよね」
「そうだね」
「私は服が欲しいわ」
「それはクリスマスプレゼント要求?」
「ええ」
「これはまた直球……」
「久寿米木くんはストレートしか打てないでしょう。それとも、変化球を打つ自信でもあるのかしら」
「ないね」
「だから直球よ」
「……わかったよ。じゃあ明日は2人で出かけよう」
「クリスマスデートね」
そう言って『ふふふ』と笑う暦。
数ヶ月前に比べると随分と笑うようになった。
これはうぬぼれてもいいのかな?
僕のお陰だと――。
どーも、よねたにです。
本当は事件っぽいものでも出そうかと思ったのですが、こんな感じで落ち着きました。
さて、とりあえず次で今があるから――編は終わる予定です。
思ったより短いです。
こんな話でも読んでいただければ嬉しい限りです。
感想や評価お待ちしております。
では、また。