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未来探偵クスメギ  作者: よねたに
年末編
28/65

第28話 今があるから未来があって、今があるから過去があって(part1)

 暦とデート――もとい月村家へ連行されたり、しずかが百合に目覚める夢を見たりと、どうでもいいことづくめの時が過ぎた。

 そして今日は12月23日。

時刻は11:50。

 僕は事務所にいる。

――暦としずかと3人で。

 普通ならばクリスマスイヴの前日ともなれば恋人どうしでどこかへ出かけたり、いちゃいちゃしたりということがあるのだろう。

 ただ、彼女達(僕は含まない)は普通ではない。

……まあ、わかっていたけれどね。

付き合っている相手が暦だし。

 というわけで、いつも通りの平常運転だ。


「……」


 暦は自分のデスクでパソコンをいじって何かをしている。

画面がピンクなのは気にしないでおこう。


「……」


 しずかは来客用のソファーで顔を赤くしながら女性週刊誌を読んでいる。

『聖なる夜を『性なる夜』にしちゃおう!』と書いてあるのは見なかったことにしよう。

 っていうか顔を赤くしちゃうなら見なきゃいいのに。

 ちなみに僕はテレビを見ている。

……なにもやることがなくてね。

と、


「久寿米木くん」


 暦が顔をあげて僕に話しかけてきた。


「な、なにかな」


「今テレビを見ているのかしら」


「まあ、見ているっていえば見ているけれど」


「チャンネルを変えても問題はないかしら」


「……ああ」


 なるほど。

あの番組か。

もうすぐ昼だしね。

 と、その会話を聞いていたらしいしずかも、


「もう、そんな時間?春希、見てないなら変えてよ」


 と言ってきた。

その顔はまだ赤い。

 いったいどんな内容が!とかは全く気にならないけれど。


「はいはい……」


 僕はそういってリモコンを手にとってチャンネルを変える。

実を言えば僕もあの番組のファンになりつつあった。

まあ、言わないけどさ。

 と、番組が始まった。



*****



ミシマ(以下ミ)『みなさん、こんにちは。司会のミシマです』


オオクラ(以下オ)『こんにちは。コメンテーターのオオクラです』


ミ『……オオクラさん、今日はスーツじゃないんですね』


オ『ええ。ちょっとフランクな感じのコメンテーターになろうかと。やくみつる的な』


ミ『あの人は別にコメンテーターっていう職業ではないですけどね。……それでハンチングなんてかぶっているんですか?』


オ『ははは』


ミ『答えてはくれないんですね』


オ『でも、どうですか?スタイリストさんが合わせてくれたんですよ?』


ミ『コメンテーターにそういうのって付くんですか?……まあ、似合ってはいますよ』


オ『ありがとうございます。ミシマさんもスーツだけじゃなくてほかの服とかも着たらどうですか?はなまる的に』


ミ『薬丸さんですか?あれは生活情報番組ですからね。ちょっと分野が違いますよ』


オ『そうですか……。服と言えば、ミシマさん。僕、実は昔ユニシロで働いていたんですよ』


ミ『ユニシロって安くて良い服がたくさん置いてある服屋ですよね。それがどうかしましたか?』


オ『いや、ちょっと昔のことを思い出しまして』


ミ『なにかあったんですか?』


オ『ええ。女性物の服を売っているところでちょっと服の陳列を整理していたんですよ。そうしたら、お客さんがやってきて、『このシャツのLサイズありますか』って聞かれたんですよ』


ミ『まあ、よくそういうのはありますよね』


オ『それで、僕は調べたんですけど、在庫がなかったんですよ。でも、マネキンが来ているのはLサイズで』


ミ『はいはい』


オ『僕はお客さんに『あちらのマネキンが来ている物でよろしければ用意できますよ』って言ったんですよ。そうしたらお客さんが『あ、はい。じゃあそれください』って言ったんで、マネキンから服をとることにしたんですよ』


ミ『……あ、続けてください。別に、長いとか思っていないんで』


オ『で、服をマネキンから脱がせるわけなんですけど……。そのマネキンが女性型のマネキンで。服を脱がせるのとかすごく大変だったんですよ。まず、一番上に着ているセーターを脱がそうとしたんですけど、セーターなんでボタンとかじゃないので上から脱がさないといけないわけですよ。それで僕も女性の服を脱がす経験なんてほとんどなかったのでなかなか脱がせられなくて……。さらに周りの女性客の目とかあってものすごく恥ずかしいわけですよ!で、焦っちゃって!あたふたしながら脱がせていたら『ポキッ』って腕がとれちゃったんですよ!『わーわー!』ってさらに焦って。で、なんとかセーターを脱がせて、下に着ているものも脱がせてマネキンをすっぽんぽんにして……もうこのときマネキンな腕がとれて関節が訳の分からない方向向いて。で、シャツを畳んで『お客様、お待たせしました』って渡したんですよ。そうしたら『あ、はい……っふふ!』ってお客さんにも笑われちゃって!』


ミ『……はあ』


オ『渡し終わって、『はあ』って思ったんですけど、今度は元に戻さなきゃいけないわけで。でも、服がなくて。で、僕はまずマネキンの腕をはめて。そして、周りの女性客の目も痛かったので、セーターだけを着せてバックへ戻ったんですよ。そうしたら、10分ほどして先輩の女性店員さんが来て、『オオクラくん。あのマネキンやったの君だよね?』って言われたんですよ。僕は嘘がつけなかったので『は、はい』って答えたら、『ノーブラ、ノーシャツでセーターだけっていう服装はまずいよね。ここはいかがわしい服を売っている店じゃないんだから』って!もう恥ずかしくて死にそうでしたよ』


ミ『はい、長いですね!そしてどうでもいいです!』


オ『いやーいい思い出ですよ』


ミ『え、これっていい思い出の話だったんですか?……もう番組行きましょう。えー、最初はこちら。『怪盗グリード捕まる!』――』



*****



 相変わらずのオープニングだった。


「確かに男の人にとってそういう状況は厳しいかもしれないわね」


 と、暦が冷静に言う。


「っていうか裸にセーターって!斬新過ぎるでしょ!」


 確かに、そんなマネキンいたら店の感性とか店員のセンスが疑われる。

って!


「そこじゃないでしょうが!」


「騒々しいわね、久寿米木くん」


「何突然叫んでんの?日本語じゃなかったらどこの原住民だってレベルだよ」


 なんでこんなに攻められるんだろうか。

あと、しずかの例えがよくわからないよ……。


「だから、怪盗グリードが捕まったって!」


「昨日ね。ニュース速報でもやっていたわ。久寿米木くん、知らなかったのかしら。雨倉さんじゃないけど、本当に現代人かしら。疑わしいわね。まさか、本当にアフリカの原住民か何かなのかしら」


「そこまで言われる謂れはない!」


 ……と思う。

まあ、サッカーのなでしこJAPANがワールドカップで優勝したってニュースを友達から聞いて知ったからなー。

で、その反応も『ふーん』程度だったし。

 まさかあそこまで大ごとになるとは思わなかった。


「確か、どこかの探偵が捕まえたんだって」


「探偵?」


 僕はしずかの言葉に首をかしげる。

 未来を視ることができる僕でも捕まえられなかったのに、一介の探偵なんぞに捕まえられるのだろうか。

ましてや怪盗グリードも未来をわずかだけれど視ることができるのに。


「ニュースでも詳しくはやってないんだよね。なんでもその探偵が自分のことを話さないからって。秘密主義?」


「ふーん……」


 普通なら怪盗グリードという大物の怪盗を捕まえたんだから、探偵としては名を売るチャンスなのに。

まあ、僕はやらないけれど。

眼のこともあるし。


「私もいろいろと気になったわね」


 と、暦。


「未来を視られるというチートと言ってもいい能力を使える久寿米木くんでも捕まえられなかった怪盗グリードを捕まえるなんて。そしてそれにもかかわらず名前を売らない。顔も見せない」


 暦としずかの戦闘力もチーとと言っても過言ではないと思うけれど。

 ……まあ、暦の言うとおりいろいろと気になることが多いな。

と、


 (コンコン)


 誰かが事務所のドアをたたく音が聞こえる。


「「「最初はパー(グー)!!」」」


 突然始まるじゃんけん大会。

で、僕が負けた……?

っていうか、『最初はパー』ってずるっ!

小学生男子か!


「ほら、久寿米木くん。行きなさい」


「春希、行け。負けただろ」


 僕はしぶしぶ立ち上がり向かう。

社会に出たらこういう理不尽にも負けないように頑張ろう。


「はーい、お待たせしました」


 そう言いながらドアを開けると、


「どうもこんにちは」


 いきなり挨拶された。


「……あ、どうも」


 ドアを開けたと同時に挨拶されたので、ちょっと間が空いてしまった。

 目の前には高校生の女の子が立っていた。

なぜ高校生とわかるかというろ、制服を着ているからだ。

セーラーじゃなくてブレザー。

 雰囲気的にはこの前夢で見た山田さんみたいな感じだ。

小さくてかわいらしい感じ。


「入っていい?」


「あ、どうぞ」


「おじゃましまーす」


 性格はずいぶんと飄々としているようだ。

マイペースといってもいいかもしれない。


「久寿米木くん、どんな――あら、女子高生?」


 あの暦が軽く驚いていた。


「あ、ここ座って」


 しずかがソファーを譲る。

客用だから当たり前だけれど。


「どーも」


 女子高生は一言言ってソファーに座る。

僕はその正面に。

暦は僕の隣に。

しずかは暦のデスクの椅子を持ってきて近くに座る。

 さて、と。


「今日はどういったご用件で?」


 僕が先陣を切って聞く。

まあ、仮にも所長だからね。


「えーと、そうだね。まずは自己紹介からでいい?」


 そう前置きをしてから女子高生は言う。


「ボクの名前は風間琴音。女子高生で今は3年。受験生ね。あと――探偵をやっていて、この間怪盗グリードを捕まえたよ」


「……え?」


「……ふーん」


「……はあ?」


 女の子らしいかわいい声であまり抑揚なく淡々とした口調の言葉に、僕、暦、しずかが三者三様の反応をする。

なんだって?

怪盗グリードを捕まえた?

 あと、さり気なく『ボクっ娘』だ。

実在したんだ……。


「まあ、多分そのうち脱獄すると思うけどね」


 最後にそう付け加える女子高生探偵。


「えーっと……」


 僕は、質問することが多すぎて何から質問したらいいか分からなくなっていると、隣に座る暦が替わりに聞く。


「……なぜそのことを私達に?テレビの取材では答えなかったのに」


「ボクがテレビの取材に答えなかったのは、ちょっとした訳ありで。なぜ君達にこのことを話したかというと、怪盗グリードから会いに行けと言われたからなんだよね」


 怪盗グリードから?

何が目的なのだろうか。


「何故かしら」


「さあ。ボクにもわからないよ。詳しいことは何も教えてもらってないからね。ただ、グリードが君達によって初めて仕事を失敗させられたと言っていたよ」


 ……ちょっと嬉しい。

なんか認められた気がして。

有名人に『あいつらはすごい』って言われたのと同じだよね?


「何をにやけているのかしら、久寿米木くん」


「あ、いや。なんでもない」


 思わずにやけていたようだ。


「あのー……」


 風間さんが言う。


「君達の名前を僕はまだ知らないから教えてもらえる?」


 ……。

今までスルーしてきたけど、ものすごい上から目線で喋るな!

年下だよね!?

 暦としずかに至っては拳を握りこんで我慢してるよ……。


「えーと、僕は久寿米木春希。一応所長をやってます。で、彼女は月村暦。それから椅子に座っているのは雨倉しずか」


「よろしく」


 自分達のグループが最近流行ってきてちょっと調子に乗っているロックバンドのボーカルか!

なにが『よろしく』だよ!

……まあ言わないけどさ。

 って、暦としずかの目がやべえ!

これは言ったほうがいいのだろうか?


「ところで雨倉さん」


 お、一応『さん』付けはするのか。

偉いぞ!


「ボクと付き合わない?」


 衝撃の言葉が風間さんの口から飛び出た。

……なんで僕は名字+さん付けで呼んでいるんだろうか。

もう、琴音でいいや。


「は?」


 しずかは当然のリアクションだ。

そしてなぜか僕のほうを見てくる。

 僕は言った。


「……しずかは女の子からはもてるよね」


「それは春希の夢の話でしょうが!」


 そういえばそうだった。

妙にリアルな夢だったから。


「もう1度言うよ。ボクと付き合わない?女の子同士、さ」


「お断りよ!」


 しずかはきっぱりと言った。


「そう……。まあ、会ってまだ10分だからね。これから関係を築いていけばいいか。そして近い将来――」


「未来永劫来ないよ!そんな将来は!」


 なんとなく、夢に似ている気がした僕だった。


「何の話?」


 暦が聞いてくる。

そういえば暦には話していなかった。


「ん?しずかがレズビアンに目覚めるっていう妙に現実味あふれる夢の話」


「…………」


 暦は冷たい目でしずかを見た。

最近仲良くなっていたのに。


「違うよ!?違うから、暦!」


「……信じていたのに」


「だから違うって!」


「……さて。話を戻しましょう」


「あとでちゃんと話を聞いてよ!?


 暦は話も変えた――もとい戻した。


「ところで、あなたはどうしてグリードを捕まえられたのかしら。久寿米木くんだって捕まえられなかったのに」


「そ、そうよ!春希はこう見えても優秀なんだからね!」


 暦の疑問にしずかが援護射撃を加える。

 うぬぼれるつもりはないけれど、普通の人間にグリードを捕まえることははっきりいって難しいだろう。

何といっても、未来を視ることができるのだから。

相手の動きがわかるから、どんな状況だって逃げ切ることができる。


「うーん……。グリードを信じたくはないんだけどなー……。なんか、ボクのことを話せって言われているんだけど……。君達を信用していいものかどうか」


 ……僕は恐る恐る暦としずかを見る。

暦は手を固く握り、爪が手のひらに食い込んでいる。

しずかはガスガンに手を置いている。

 そして2人とも目は血走り、かろうじて平静を保っている。

 琴音、命の危機だ!


「……うん。まあ、信じてみよう。最初の『訳あり』っていうところの話なんだけどね」


 琴音は周囲の殺気に全く気がつかずに話を進める。

すごいな!

いらないスキルだけど。


「ボクはね――」


 琴音は言った。

僕達に衝撃を与える言葉を。


「過去を視ることができるんだよ」

どーも、よねたにです。


あけましておめでとうございます。


さて、明けて1発目のお話です。


過去が視られるっていう設定はずいぶん前からあったので、割と書きやすかったです。


今年も読んでいただければ幸いです!


感想や評価等お待ちしております。


では、今年もよろしくお願いします!

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