第27話 とっさの嘘は身を滅ぼすと言っても過言ではないのだ(part3)
状況説明。
時刻は20:30。
……僕は今、しずかと山田さんとラブホテルの部屋の中にいます。
入るとき、近くにいた人にめちゃくちゃ怪訝な顔をされたのを僕は覚えている。
多分、『あの人達はこれから3人で事を致すのでしょうね』とかって思われたんだろう……。
そんな羨ましい状況では一切ない!
ただ、僕のピンチでしかないから!
そして、僕達はラブホテルの部屋のドアを開け、部屋を見渡して突っ立っている。
「うわー……」
と、顔を赤くしながらしずか。
「おお……ふ」
と、僕。
「……ふん」
と、山田さん。
三者三様の反応を示したのは、部屋だ。
全部真っピンク。
林家ペー・パー子の方がまだましに見える。
そして、なんかこういう所で何組もの人達がそういうことをしてきたんだなーって言う想像が容易にできる。
あとはご想像にお任せしますが、そんな部屋です。
「では――」
山田さんが一番初めに口を開く。
「さあ、どうぞ」
やんねえよ!
って言うか見るつもりなのか!?
僕はしずかの方をちらりと見る。
「――」
しずかは声にならない悲鳴を上げていた。
そして僕の視線に気が付く。
ただでさえ真っ赤な顔をさらに赤くする。
……なんか僕が悪いみたいな状況になってる?
「ひょっとしたら忘れているかもしれないけど――」
山田さんが話し始める。
「あなた達は私に恋人としてのラブラブっぷりを見せつけなきゃいけないんだよ?ここまで、デートを見て来たけど、正直恋人っていうより、仲の良い友達って言う風にしか見えなかった。……もし、ここで行為をしたなら、私は身を引くよ」
デートは失敗だったか。
まあ、山田さんだって1人の女の子だ。
女の子同士の恋愛っていうのを抜きにすれば、純愛だもんねー……。
あ、抜いちゃだめか。
「は、春希」
しずかが僕に言った。
僕は山田さんの方に向けていた視線をしずかにやる。
「やろう!」
(スパーン)
僕はしずかの頭を叩いた。
しずかの目は瞳孔が開ききっていた。
なにを血迷ってるんだよ!
「ちょっと来なさい――山田さん、ちょっと待ってて」
僕はしずかを連れて山田さんから少し離れてベッドの近くへ行く。
「優しく……してね?」
「ちげえよ」
(スパーン)
僕が再びしずかの頭を叩く。
「痛い……。じゃあなによ」
しずかが頭をさすりながら聞く。
「……この状況、どうするって話」
「うーん……うん。もうやろう。っていうかヤろう」
「だからやんねえよ!なに開き直ってるんだよ」
「っていうか春希、口調変わった?」
「しずかがボケるからだ!」
初期はもっと柔らかい感じだったんだけれどなー……。
突っ込みになるとどうも自分を抑えきれない。
「とにかく!やらない方向で考えよう」
僕が話を進める。
……そうじゃないと話が進まないから。
「どうやって?」
さっそくしずかが聞いてくる。
「少しは考えて……。例えば――説得するとか」
「できるならやってるわよ」
だよねー。
「じゃあ……付き合っちゃえ」
「そんな中学生が友達をからかうみたいに気楽に言わないでよ!っていうか却下!」
割と本気で言ったんだけれどなー……。
「じゃあさ、『まずはお友達から』って言って、後は嫌われることをするとか?」
まあ、すっごい今更感はあるけれど。
「うーん……。とりあえずキープで!」
とかなんとかやっていると、
「まーだかかるの」
山田さんが投げやりな口調で言ってきた。
……僕に、だろうね。
しずかには優しい口調だし。
「も、もうちょっと待っててください!」
僕はそう返事をしてしずかに向き直る。
そして少し真面目な表情をする。
「でもさ――」
僕は言う。
「結局のところは心の問題だから、説得するしかないんじゃないかな。もちろん無理やりっていう方法もあるだろうけどさ。そういうのは――やっぱりあまり良くないと思うし」
「……」
しずかが黙る。
多分しずかだって好かれているということにはそれ程嫌悪感を抱いているわけではないだろう。
ただ、それが度が過ぎているというか……そこで困っているのだろう。
自分が相手に、相手ほどの好意を持っていないということを伝えても、相手は――山田さんは好意をあらわにして迫ってくる。
好意の量が釣り合っていないのだ。
……とか、少し難しく言っているけれど、要は振っているのに付きまとってくるのが困るっていうことなんだけどさ。
「あーもう!私には無理!春希がどうにか説得してみてよ!」
しばらく考えていたしずかが言った。
……なんでそういう結論に至ったんだろうか。
「……え、どうして?」
「だって一昨日だって私、付き合えないって散々言ったんだよ?それでも無理だったんだから、私には無理」
えー!
それ『えー!』だよ。
……でも、まあ――
「わかったよ。やるだけやってみるよ」
「さっすが春希!」
と、
「話し合いは終わった?」
そう言って山田さんが僕達のほうへ近づいてくる。
そしてベッドへと腰かける。
僕は、山田さんを説得するために山田さんの隣へと座る。
現在の構図はしずか、僕、山田さんという順番でベッドの片側に座っている。
「まあ。一応は」
僕が答える。
「で、どうするのよ」
「まずは僕の話を聞いてほしい」
僕はそう前置きをして話を始める。
「最初に――。気が付いているかもしれないから言うけど、僕達は付き合っていない。僕に至っては彼女がいる」
「……」
「僕達は付き合っていない。でも、だからと言ってしずかは山田さんとは付き合えない」
「……どうして?」
「それは――しずかはノーマルで、山田さんがレズビ――あがっ!」
僕は後頭部に強烈な衝撃を受ける。
座っていられなくなり、僕はそのままベッドへと倒れこむ。
そして目の前が暗くなっていく。
「は、春希!?ちょ、山田さんなにを――」
「百合って言って頂戴――。さて、雨倉さん。ようやく2人きりになれたわね。この状況を作るのに苦労したわ。……さあ、私とイキましょう!」
「え、ちょ、待って!待って待って待って……」
僕の意識はそこで途絶えた。
*****
僕は目を覚ました。
……床で。
多分山田さんがベッドから落としたのだろうけれどね。
僕は腕時計で時間を確認する。
今は23:00。
あれから2時間30分も気を失っていたようだ。
確か……僕が山田さんをレズビアンって言おうとしたら殴られて。
……とりあえず、起きよう。
僕は堅い床から体を起こす。
と、
「……は?」
目の前には訳の分からない光景が広がっていた。
いや、この表現は妥当ではない。
理解はできる。
けれど、納得はできない。
そんな光景だ。
「……ん」
と、しずか。
「好きよ、しずか……」
と、山田さん。
しずかと山田さんがベッドの上で抱きしめ合っていた。
あ、裸じゃないよ。
「……はあ?」
僕がアホの子みたいな声を出してしまった。
すると、その声に気がついた山田さんがこっちを見る。
「ああ、久寿米木か」
『ああ、久寿米木か』じゃねえよ。
どういう状況だ、これは!
「と、言うわけで私達は付き合うことになった。――あと、殴ってごめんね」
「うん。私達付き合うことになったから」
山田さんとしずかが付き合った報告をしてくる。
「……は?」
僕は何回目かわからないアホの子みたいな声を出す。
「いや、この際だから言っちゃうと、私は久寿米木としずかを焚きつけてラブホテルに行くような状況を作って、あとは久寿米木を黙らせて、しずかを洗脳――もとい説得しちゃおうと思っていたんだよね」
……つまりは、僕達は山田さんの手のひらで踊っていたわけか?
なんだよ!
僕はピエロか!
「私、知らなかった……。女の子同士がこんなに良いなんて!」
しずかが目をとろんとさせて言った。
「…………」
こうして僕の2日間の労力と努力は無に帰した。
……普通、山田さんを説得で来てハッピーエンドになるんじゃないの!?
まあ、言わないけどさ。
*****
「っていう夢を見たんだよ」
「春希は私を何だと思っているのよ!っていうか最後くらいまともに終わらせてよ!」
そんな僕が見た夢の話をした11月20日。
時刻は事務所の窓から入る夕日でしずかの顔を怒りだけでなく赤く染める夕方――。
詩的表現……?
どーも、よねたにです。
……夢落ちです。
すみません。
ほかにもいくつかオチは用意していたのですが、まあ無難かなということで。
本当にくだらなくてすみません。
さて、とりあえず今年はこれで終わりです。
投稿開始から約2カ月弱。
読んでいただきありがとうございました。
来年の1発目は本編の話に戻ります。
……戻る予定です、はい。
不定期掲載ですがこれからも読んでいただければ幸いです。
お気に入り登録も遅々ながら増えていて、本当にありがたいです。
評価や感想、参考にさせていただきますのでよろしければお願いします。
では、よいお年を!