第24話 約束という言葉に弱い人は基本良い人だと僕は思う(part3)
「ちょ、ま……えー!!」
「……ほう」
前は僕の声。
後は月村さん(暦のお父さん)の声。
なんで僕の方が驚いてるんだろう。
結婚しますって紹介されている相手なのに。
ってこんな冷静に状況分析している場合じゃない!
「暦、どういうこと!?」
一切その話聞いていないんですけど!と僕。
「約束したじゃない」
「したっけ?」
僕は思考に潜る。
1カ月前、2カ月前、3カ月前……。
どんどん遡って思い出す。
チキチキチキチキチキ……と脳内コンピュータで検索する。
――ボンッ。
ショートした。
「いや、してなくない?」
「したわよ、昔」
「本当に?」
「本当に」
「いつ?」
「10年前」
「覚えてないって!」
小学生の頃の話だった。
ギャルゲーかよ……。
「10年前でも約束は約束でしょう。それに今私達はお付き合いをしているじゃない。それとも、久寿米木くん。私とはお遊びで付き合っているとでも言うのかしら」
ちょっと暦さん。
目の前には月村さん(暦のお父さん)がいるのに、なんてことを言ってくれているのかな?
ほら、もう目が!
もう目が!
「もちろん、そんな気持ちでは付き合ってないよ?」
「じゃあ、何か問題があるのかしら」
そう言われると返答に詰まる。
ただ――
「でもさ、そういう話は事前に言ってくれないと……。こっちにも心の準備が――」
「ごめんなさい。で、私達結婚します」
さらっと謝られた。
そして何事もなかったかのように話を進める暦。
「久寿米木くん、とか言ったね」
月村さんが威圧的かつ渋い声で僕に言った。
「暦と同じ――ということはまだ大学1年生か」
「はい」
「学生結婚ということになるね」
「そうですね」
「私はね、暦のことがとても大切なんだよ」
「はい」
「娘をよろしく頼む」
「はい……え?」
急か!
ちょっと待って!?
流れで『はい』とか言っちゃったけど、ちょっと待って!?
僕はそう言おうと思ったが、その前に雰囲気がいつの間にか変わっている月村さんが話し始めてしまう。
「暦から君のことは聞いているよ。暦の我儘――探偵事務所の事とかも聞いてもらったりと、いろいろ良くしてもらっているようだし、性格も特に問題なさそうだ。勉強も出来るそうだね」
「まあ一応、は」
「何が一応よ。ほとんど『S』貰っているくせに。生意気ね」
隣で暦が毒舌を吐く。
いいじゃん、別に!
月村さんはそんな暦をちらっと見て、目で怒る。
「もちろん、今すぐとは私も言いたくはないし、君もまだやりたい事があるだろう。どうやら今回は暦が半ば強引に連れて来たようだしね。だから、卒業して少し生活等が落ち着いてから――で、どうかい?」
結論として、月村さんは僕と暦を結婚させたいようだ。
会った事もない人にここまで好かれるのもどうかと思うけれど。
さて。
僕だって暦のことが嫌いな訳じゃない。
むしろ好きだ。
だけど、まだ学生で結婚なんて考えたこともなかった。
こんな感じが長く続けばいいなとしか思っていなかった。
だから――
「今この場で答えを出すことはできません。確かに僕は暦さんのことが好きです。でも、まだ学生で結婚なんて考えたこともありません。それと少しきつい言い方になるかと思いますが――誰かに『いつ結婚したら』なんて言われたくはありません。もし、結婚する事になったら、それは自分達で決めることだと思います」
「なかなか言うじゃないか」
月村さんがにやりと笑いながら言った。
「あ――な、生意気な事を言いました。すみません」
「いや、いいんだ。確かにそういうのは自分達で決めるべきだろうね。出過ぎた真似をした。こちらこそすまなかった」
なんとか切り抜けたか。
さて、今度は――
「暦」
僕は隣で黙っていた暦に声をかける。
「何かしら」
「と言う訳で、しばらくは今まで通りで」
「全く……。こんな美少女が結婚してあげるというのに、それを待ってくれなんて。へタレなのかしら、久寿米木くん」
「失敗するよりはいいんじゃないかな」
「まあ、いいわ。いつも通りで。私も急ぎ過ぎたわね」
「急ぎ過ぎだ。三十路かよ」
「黙りなさい。本当は今日、母親の方にも会ってもらおうかと思っていたのだけれど、兄と出かけているのよ」
「そういえば、お兄さんがいるっていつだったかに聞いたけど……。何処に行っているの?」
「……」
「……」
「え、なんで黙るの?」
これは地雷でも踏んだのだろうか。
家族の話は戦場の真っただ中、地雷原だったのだろうか……。
僕は暦と月村さん、交互に目をやる。
すると、観念したのか、月村さんが答える。
「暦の兄のことは聞いているのかい?」
「まあ、多少は」
確か、京都旅行のときだったっけ。
漫画やアニメとかが割と好きな人だって聞いた気がする。
年齢とか詳しい話までは聞いていないけど。
「暦の兄――私の息子はね、一応大学を卒業して有名な企業に勤めているんだよ。それに顔も、親が言うのもなんだがなかなか良い」
「それはすごいですね。月村さんも鼻が高いんじゃないですか?」
「……」
だからなんで黙っちゃうんだろうか。
少しの沈黙ののちに月村さんが話を再開する。
「そうだね。君もここまで我が家と関わってしまったんだし、これからも関わっていくだろう。もう知っていた方が良いかもしれないね」
「そうね」
と、月村さんと暦が話している。
なになになになに!?
「実は私の息子は……漫画やアニメはもちろん、中でも特に18禁のエロゲ―が大好きな人間なんだよ」
僕は突然の『エロゲ―』と言う言葉に、
「は、はあ……」
としか答えられなった。
「イケメン故に残念な人なのよ」
と、暦がまとめる。
「べ、別にそれくらいは、今の世の中なら許容範囲では?」
僕はかなり無理のあるフォローをする。
自分で言っていても苦しい。
「そうだね、それが趣味の範囲に収まっていればね」
月村さんが実に残念そうな顔で言った。
「と、言うと?」
「会話の中で『例えるならば○○(ゲームの名前)の△△(出て来るキャラクターの名前)みたい』と例えたり、『イラ○チオか!』とかエロ用語を例え突っ込みに使ったりするんだよ」
突っ込みになってないよ、お兄さん……。
それはさすがに……痛いな。
「で、そのお兄さんが暦さんのお母さんと出かけているんですか?大丈夫なんですか?」
「……」
また黙っちゃったよ!
「実は息子のソレは、母親の影響なんだよ」
「はい?」
母親とエロゲーが全く繋がらないけど……。
「暦の母親はね、エロゲーのシナリオライターをやっているんだよ。趣味と実益を兼ねて」
「……なるほど」
僕は理解した。
母親がエロゲーシナリオライターをやっているため、それを見て育った息子はエロゲーが大好きな人間になってしまった。
……理解はした。
ただ、納得はできない!
「で、ちなみにその2人は今……?」
「秋葉原で今日発売の新作を買いに行っているよ」
暦の兄は趣味で。
暦の母親は偵察で、と言う訳か。
それを公認している家族って、どんな家族だよ!
あ、こんな家族か。
どうやら、この一家で一番まともなのはこの月村さんのようだ。
暦も多少、母親の影響を受けているっぽいし。
変態度が高い順で言うと、月村父<暦<暦兄=月村母って言ったところか。
「この家はそんなことに……大変ですね、月村さん」
「まあ、今始まったことではないから、もう慣れたよ」
月村さんは自嘲気味に言った。
「それと、その『月村さん』というのだけどね」
「はい?」
「もういっそのこと、義父さんと呼んでくれ」
「……」
「呼んでくれ」
「……義父さん」
「なんだい?」
「あ、呼んでくれって言われたから……」
「あ、そうだね。失敬。それと他の家族も『義母さん』『義兄さん』と呼んでくれ。私が許可する」
「は、はあ……」
訂正。
この人も変態の森の住人なのかもしれない。
厄介な一家と知り合っちゃったなーと思う僕だった――。
*****
その後。
帰り道。
「久寿米木くん。お母さんと兄のことは他言無用よ。約束できるかしら。というか約束してくれないと私はあなたを殴ってしまうかもしれないわね」
「……分かりました」
そして、最も厄介なのは僕の恋人なのかも知れない――。
どーも、よねたにです。
短かったですが、約束――編はこれで終わりです。
コメディー分の多い話だったかと思います。
さて、最近はユニーク数も僅かながら上昇傾向にあり、「ありがたいなぁ」と感じております。
参考にさせていただきますので、感想や評価、お待ちしております。
では、また。