第22話 約束という言葉に弱い人は基本良い人だと僕は思う(part1)
10月27日。
時刻は10:00。
今日は休日だ。
僕は休日と言う事で、ほんの30分程前に起きたばかりだ。
「ふぁーあ……っと」
そんなあくびをしながらリビングでパンを食す。
一人暮らしの朝食だ。
まあ、こんなものだろう。
ついでに外のポストから取って来たばかりの新聞を読む。
学生の一人暮らしで新聞を取っているなんて珍しいかもしれないけれどさ。
と、
(ピーンポーン)
誰かが僕の家のインターホンを押した。
来客のようだ。
「こんな時間に誰だ?」
僕はまだ寝巻のままだ。
髪もぼさぼさだし。
まあ、大したものじゃないだろうし居留守で良いだろう。
そんなことを思いつつ、パンをほおばる。
(ピーンポーン)
またインターホンが押されて、家の中に音が響く。
僕はパンを食べ続ける。
(ピーンポーンピーンポーン)
……しつこいな。
僕はそれでも食べ続ける。
(……)
静かになった。
ようやく帰ったか。
と、
(ピピピピピピピピピピピピピピーンポーン)
「うるさっ!ダンス系かよ!?」
僕は思わず突っ込む。
仕方がないので、食事を中断してインターホンを確認する。
カメラ付きなので容易に相手を確認することが出来る。
最近は便利になった。
と、そんなことを思いつつ画面を見るとそこに映っていたのは――
「暦!?」
正確に言うなれば、物凄く不機嫌そうな表情をしている暦だ。
……多分、僕が出なかったからだろう。
どうする!?
このまま居留守を使うか。
それとも、居たのに出なかったことに精一杯謝罪しながら出るか。
……うーん、二者択一だ。
暫く考え、僕が取った決断は――
「よし。居留守を使おう」
そう。
僕はまだ寝巻のままだ。
こんな恰好のままでるわけにもいかないだろう。
と、半ば強引に自分を納得させると、
(プルルルルル)
僕のスマホがテーブルの上で鳴っている。
僕はちょっと泣きたい気分だ。
何故なら……まあ、相手は――
「暦だろうね、そりゃ」
画面を見た僕は、涙をこらえる。
僕はとりあえず、電話には出た。
「もしもし」
『もしもし。久寿米木くん、今は何処にいるのかしら』
「えーっと、そのー……喫茶ブラジル?」
忘れ去られているかもしれないが、喫茶ブラジルとは探偵事務所の下にある喫茶店だ。
以前、一回だけ暦としずかとで入ったことがある。
『何故疑問形なのかしら』
嘘が下手な僕は、つい疑問形になってしまった。
そこを暦に指摘される。
内心は冷や汗ダラダラだ。
『そう……まあいいわ。今、あなたの家の前にいるのだけれど』
メリーさんかよ。
「そ、そう」
『……。そうね、ちょっと閉じまりの確認をしてから喫茶ブラジルに行くわね――あら、開いているわ(棒読み)』
ぬかった!
さっき新聞を取って来た時に開けたままだった!
『全く、不用心ね。ついでにガスの元栓の確認をしてあげましょう。上がるわね(棒読み)』
暦が僕のいる家に上がってくる。
まずいまずいまずい!!
なんでウソなんか付いた、僕!
『実況報告。今、あなたの家の玄関を上がったわ(棒読み+恐怖)』
やばい、本格的にメリーさんじみてきた!
隠れたらいいのか?
そのまま出て行って謝ったらいいのか?
どうする、僕!
「あら、誰かいるみたいね。私が懲らしめてあげないと、ね(電話の向こうでいやらしい笑みを浮かべている……ように聞こえる)」
暦、これは僕がいることに気付いてやっているのか!?
いや、もうこれは気付いてやっているんだな!?
と、
(ガチャ)
僕のいるリビングのドアが開いた――否、開けられた。
暦の手によって。
……終わった。
『「みーつけた(満面の笑み※目が笑っていない)」』
電話口と目の前から、死刑宣告が告げられた。
やっぱり暦は気付いていたか……。
*****
状況報告。
場所は久寿米木家、リビング。
そのテーブルには、タコ殴りにされ、暴言を浴びせられ、辛辣な言葉の数々に心身共に大ダメージを負っている僕とその正面に暦が着席済み。
「さて、私のストレスが解消されたところで、私がこの家に来た理由を説明しようと思うのだけれど」
そう言って暦が、僕がこんなボロボロの姿になり果てても出したお茶をすする。
もちろん、感謝の言葉一つもない。
言わないけどさ。
「……どうぞ」
僕は暦に続きを促す。
「デートをしましょう」
「急だねー」
「前に約束をしたじゃない。まあ、今日にしたのはサプライズよ。どう?うれしいかしら」
「……う、ん」
僕がこんな状況じゃなかったらね。
……約束、ね。
確かに言った。
前々から行こう行こうとは言っていたし。
「で、何処に行くって?」
僕はもうどうにでもなれというヤケクソな気持ちで暦に聞く。
「サプライズだから、私についてきなさい。そうしたら分かるわ」
暦のサプライズは心臓に悪いサプライズだからなー……。
しかし、僕には抵抗する気力は1ミリも残っておらず、
「分かったよ」
と、了解してしまった。
あっさりと。
僕はすぐにこのことを後悔することになる。
「でも、ちょっと待って」
「何かしら」
「僕は何の支度も出来ていなかったどころか、むしろ悪化した身なりになってしまっているのだよ、暦さん」
「そうね。そんな恰好では無様過ぎて私の横を歩いて欲しくはないわね」
誰のせいだ誰の。
まあ、僕のせいもちょっとはあるけど。
……1%くらい?
「だから少し時間をください」
「じゃあ5分で支度しなさい」
「無理だ!この形を見て!?だから45分!」
「5分10秒」
「40分!」
「5分15秒」
「35分!」
「5分20秒」
「暦から譲歩しようという気持ちが一切感じられない!?」
そんなこんなで、30分後に家を出ることになった。
果たして間に合うのだろうか?
*****
結論。
間に合わせました。
現在の時刻は10:45分。
さて、一体暦は何処へ連れて行ってくれるのやら。
「何処へ行くのさ」
「久寿米木くんにはアイマスクをしてもらいましょうか」
話がかみ合っていない2人だった。
「デートじゃないの!?」
「デートよ」
「こんなにぶっ飛んだデートの仕方を僕は未だかつて聞いたことすらない!?」
デートでアイマスク着用と言うのは最近の流行り……?
ってそんなわけあるか!
もう嫌な予感しかしない!
嫌な予感ビンビン物語だよ!
そんなことを思いながら、暦にアイマスクを付けられる。
そして視界がゼロになる。
「あの……」
アイマスクを付けられた僕は、おずおずと――本当ならばもっと堂々と言っても良いはずなんだけれど――手をあげて、物申す。
「頭のゴムの部分がきつくて目が潰れそうなんですけど」
「文句が多いわね」
「文句じゃなくて切実な願いだよ!当たり前じゃないかな、この状況なら!」
結局、ゴムを緩めてくれることはなかった。
まあ、期待していなかったけどね!?
「さて。タクシーを呼びましょう」
良かった。
このまま歩かせられるのかと思ったよ。
そしたら、街中から白昼堂々妙なプレイをしているM男に見られる所だった。
暦が携帯電話を操作している音が聞こえる。
「あ、もしもし。タクシーを1台お願いします。場所は――」
そういって僕の家の住所を告げる。
「では、お願いします」
そういって暦が電話を切る……音がした。
「で、また聞くけど何処へ――うっ!」
僕の意識はそこで途切れた。
最後に感じたものは、鼻に当てられた妙なにおいのするハンカチだった……と思う。
どーも、よねたにです。
少し遅くなりました。
さて、この約束――編は短い話で構成するつもりですが、読んでいただければ幸いです。
それと、最近お気に入り登録が地味に増えているのが地味にうれしい地味な僕です。
感想や評価等ございましたら、お待ちしておりますのでどんどんかいて下さい。
では、また。