第21話 探偵と怪盗はセットだと言っても過言ではないのだ(part6)
状況説明。
僕は今、毒島家の家宝があるセキュリティルームで家宝のピンクダイヤとかおりさんを守りながら戦っています。
そして、その戦っている相手は、最近巷を賑わせている怪盗グリードと言う義賊です。
僕は能力――未来を視る能力――を使ってグリードの猛攻を全て避けて躱して。
で、グリードが攻撃をやめてこう言いました。
『使っているのでしょう?未来を視る能力を――』と。
……なんで知っているの!?
僕の能力を知っているのは、僕、暦、しずか、僕の両親、あとは不本意ながら元SH研究所の上層部の連中。
これだけのはずだ。
と、僕が考えを巡らせていると、
「どうして知っているのか、と言うような顔をしていますね、探偵さん」
グリードがデフォルトの不敵な笑みをまきちらしながら僕に言う。
既に息を整え終わっているのか、口調に乱れはない。
「……なぜ知っているのか、教えていただけますか?」
僕は出来るだけ心の内を悟らせないように、淡々とした声で言う。
ちなみに内心は『なんで!?なんでなん!?』って言う感じだ。
「それは、私も未来を視ることが出来るからですよ」
グリードは、不敵な笑みを強めて――むしろにやにやと言った方が良いかもしれないような笑みをこぼしながら言った。
後ろの離れた所ではかおりさんが何の話をしているのかを理解できずにポカンとしている。
そんな状況下でも僕は精一杯頭を使って、応える。
「……普通、自分以外にも能力を持っている人がいるということを知らなければ、そういう答えは出せませんよね。と言うことは、僕やあなた以外にも能力を持っている人がいる――と言う事ですか?」
僕はこれも淡々と言う。
僕のこの答えに、グリードは少し表情を変える。
「よく気が付きましたね。……その通りですよ。私や探偵さん以外にも能力を使える人がいます。ただ、未来を見る能力に関して言えば、恐らく探偵さんはかなりの強者と言いましょうか……かなり珍しいタイプでしょうね。大体の人は数秒先までしか視ることが出来ませんから。探偵さんは、はっきりとは分かりませんが、数十分――あるいは数時間先まで視ることが出来そうですね。あくまで先程の戦闘時からの推測にすぎませんが」
僕は表情を変えずに考えを巡らせる。
なるほど。
他にも能力者はいたのか。
それでもSH研究所なんかが僕を狙ったのは、僕が通常の何倍も先の未来を視ることが出来たからか。
出来るだけ遠い未来を視れた方が、研究者にとって良いに決まっている。
……ん?
僕は先程のグリードのセリフに少し引っ掛かりを覚えた。
『未来を視る能力に関して言えば』?
グリードは確かにそう言った。
関して……?
「……1つ質問を良いですか?」
僕はそう前置きをしてからグリードに聞く。
「あまり時間をかけたくありませんが、いいでしょう。なんですか?」
不敵な笑みを崩さずに、グリードは言った。
僕は質問をする。
ひょっとしたら、これから重要になってくるかもしれない質問を――。
「能力は……未来を視る能力だけではないんですか」
僕は言った。
それにグリードは少し溜めを作って答える。
「……ええ。私が知っている限りでは――っと。これはまだ言わない方が面白そうですね。とりあえず、探偵さんの質問には『Yes』とだけ答えておきましょうか」
グリードは僕の質問に肯定で返した。
肯定――つまり、未来を視る以外にも能力が存在するということだ。
僕は内心はもの凄い動揺しているが、それを表情には出さない。
……ひょっとして、この状況でそんなことが出来る僕って意外と凄いのではないだろうか。
とか思っていると、
「さて。そろそろ質問も尽きた頃合いでしょうか。そろそろ私も――本気で、仕事を再開したいのですけれど」
なるほど。
さっき言っていた『本気』とは、未来を視る能力を使うということか。
……そうなると少し不味いかもしれない。
正直、身体能力だけで言えば、グリードの方が一歩どころか数歩先を行っている。
それは先の戦闘でも明らかだ。
そんな奴が、僕と同じような能力を使ったらどうなるのだろうか。
……負けるんじゃないかな?
「あのー出来れば、お引き取りを……」
「それはこちらも同じことを言いたいですね」
そりゃそうか。
「では――」
そう言ってグリードは、ハットで隠れている眼に指を近づける。
数秒して指を眼から離した時には、指に薄くて黒いものが。
恐らく僕と同じように真っ黒で透過性の無いコンタクトレンズをはめていたのだろう。
そしてグリードはコンタクトレンズを何処から出したのか分からないが、いつの間にか手に持っていたケースにしまう。
「行きますね」
グリードが再び僕の方へ駆けて来る。
と、思ったら、
「おや?」
そう言ってグリードは足を止める。
僕はチャンスと思い、右眼を開く。
すると膨大な情報量、未来の映像が脳へ流れ込んで――来ない?
「え?」
未来が視えない……?
僕が混乱していると、
「なるほど。相殺されたという事ですか」
グリードが何かを納得したような表情でうなずいている。
相殺?
……なるほど。
僕も理解した。
つまりは、未来が視れる者同士が対峙した時、どちらも視た未来を変える権利を有する。
それが拮抗してしまい、これから起こること、つまるところの未来が安定しなくなる。
それによって未来が視えないという訳だ。
……多分。
っていうかこの状況マズくないかい?
未来が視れないということは、僕は一般人レベルの戦闘力しかない。
しかし相手は未来を視なくてもめっさ強い。
「まあ、決着が早く付きそうですね」
そう言ってグリードが僕に近づいてくる。
不敵な笑みを引っ提げて。
と、
「私の出番ですね、久寿米木さん」
そう言って、かおりさんが僕の前に立つ。
僕は背中しか見えないため、どんな表情をしているのかは分からないが、どこか楽しそうな声だ。
「え、かおりさん?」
と、僕。
「お嬢様自ら、ですか」
と、グリード。
驚き方に差はあるが、一応どちらも驚いている。
この事態に。
「よく分からないですけど、久寿米木さんがピンチなんですよね?」
かおりさんに僕の能力のことは話していない。
それでも、僕がピンチ臭いというのは分かったようだ。
「まあ、ピンチなんですけど……。でも、かおりさん、大丈夫なんですか?」
そう言えば、昨日、武さん(←忘れている人の為に言うと、毒島家の当主、ボスです)が銃撃される前――武さんと初めて会ったとき、かおりさんがそれなりの戦闘力を有しているっぽいことを言っていたなー。
と、僕がそんなことを思い出しながら言った。
「ええ、心配はいりません。先ほど、怪盗グリードの戦い方を見ていましたけど、勝てます」
かおりさんは楽しそうに且つ自信満々で言った。
これなら任せちゃってもいいのだろうか……。
護衛対象に守ってもらうなんて、格好付かないな。
かおりさんの言葉に対して、グリードが言う。
「これは、少し参りましたね……。仕方がありません。今回はここで退散させていただきましょうか」
グリードが退散することをにおわせた。
おっ!?
これは望ましい展開だ。
「ただ、義賊としてのプライドがありますので、この――」
そう言ってスーツのポケットに手を突っ込んで漁る。
すると、何かが出て来た。
「金貨数十枚と――」
ポケットから出した金貨を僕達に見せつける。
って、それは近代貨幣制度を確立したフローリン金貨と金本位制を確立したイギリスのソブリン金貨、さらには新貨条例により登場した本位金貨(5円金貨)じゃないか!
それをじゃらじゃらと手に乗せたかと思うと、すぐに仕舞って、今度は逆のポケットを漁る。
そして出て来たのは――。
「おいなりさんを頂戴しましょう」
……は?
これは一種の伏線回集なのだろうか。
暦が『大いなる遺産』を『おいなりさん(エロい意味)』と聞き間違えたヤツ。
っていうか何処にあったのさ。
「では――」
そう言って怪盗グリードはセキュリティルームから出て行った。
*****
僕達はとりあえず、外へ出てみることにした。
広い家を数分歩いてようやく玄関に到着。
靴を履いて外へ出る。
するとそこには――。
「あら、久寿米木くん。無事だったのね。良かったわ」
「お、春希。お疲れー」
死屍累々、敵のヤクザ達の倒れる元日本庭園に暦としずかが無傷で立っていた。
一応、味方のヤクザさん達が立っているが皆、満身創痍と言った感じだ。
怪盗グリードの言った通り、勝利したようだ。
「で、誰が首謀者だったの」
僕は敵のヤクザ達を踏みつけ暦たちの方へ向かいながら、質問する。
僕の後ろを同じように敵のヤクザを踏みつけながらかおりさんが付いてくる。
「こいつよ」
と、暦が足元に転がっていた、腕、足、胴体を縄で縛られた一見するとM男の髪を掴みあげる。
(ブチブチブチ)
「ぎゃああああああああああ!!」
暦が強引にその首謀者の男の髪を掴み上げたせいで、掴まれていた頭頂部の髪が抜ける。
そして男が悲鳴を上げて縛られた手足をばたばたさせてのた打ち回る。
……今のは痛いなー。
男の頭は赤くなり、皮膚が向けて少し血が出ている。
しずかとかおりさんは普通に見ているが、本職のヤクザさん達がこの光景から目を逸らしている。
「あら、ごめんなさい」
暦はさらりと謝罪し、再びのた打ち回る首謀者の男の残った髪を掴み上げ上半身を立たせて、『こいつよ』と僕に示す。
もう一度周りをみると、ヤクザ達が明らかに引いている。
吐き気を催し、えずいている人もいる。
ヤクザの世界でもこれはやりすぎの部類に入るようだ。
それを平然とやる暦はひょっとしたらこういう世界に向いているのかもしれない。
……僕が何とかしなければ!
そんな覚悟を心の中でしながら、僕は男の顔をみる。
「うわー……」
僕が引くのも当然。
顔は何か所も殴られた跡があり、何倍もの大きさに腫れている。
僕はかおりさんに聞く。
「この人誰か分かりますか?」
かおりさんは、僕の後ろから出てきて、男の顔をまじまじと見る。
「うーん、分からないですね。もっとも、顔が原形をとどめていても、分からないと思います」
かおりさんは僕に言った。
と言うことは、かおりさんに面識がない人と言うことか。
じゃあ、僕達が出来るのはここまでか。
あとは武さんの回復を待って――。
「警察は呼ばない方が良いんですよね?」
僕はかおりさんに一応確認する。
この状況で警察なんか呼んだら、どっちのヤクザも全員捕まるだろう。
それとこよみとしずかも。
『も』っていうか殆どこの2人がやったようなものだから、一番重い刑を食らうのはこの2人か。
「はい。呼んじゃうといろいろまずいので」
案の定、かおりさんは警察を呼ぶことを拒否。
さて、やることがもうなくなった。
ということは――
「かおりさん。依頼はここまででいいですか?」
僕はかおりさんに言う。
宝石は守り、かおりさんも守り(守られ)、ヤクザも全員撃退した。
とりあえず依頼は達成だろう。
本物の怪盗グリードが来たりなんかしたけれど。
僕のこの発言にかおりさんは少し残念そうな顔をして、
「そうですね。……本当にありがとうございました」
僕達に深々と頭を下げた。
数秒後、頭を上げたかおりさんは、
「あと、月村さん。ちょっと、その……お話があるんですけど。……いいですか?」
と、暦に言った。
正直、暦とかおりさんの間にそれほど接点はなかったはずなんだけど……。
この期に及んで、一体何なのだろうか。
そんなことを思っていると、暦は、
「分かりました。……ここではない方が良いかしら」
まるで、かおりさんがする話の内容を分かっているような口ぶりだ。
それに対してかおりさんもそれほど驚いていないようで、『そうですね』なんて言って、僕としずかから離れて、話を始めた。
「何の話だと思う?」
僕は何の気なしに僕と取り残されたしずかに聞く。
「うっさい、黙ってろ!フラグばっか立てやがって!」
しずかはそう言って僕に殴る蹴るの暴行を加える。
なんで!?
僕が一体何をした!
これは死亡フラグ!?
こうして、探偵事務所の初めての依頼は終わった。
*****
その帰り道。
時刻は20:00。
僕達はすこし遠いが、歩いて事務所に戻ることにした。
しずかはこのまま家に帰るということで、途中で道が違ってしまったのでそこで別れることにした。
なので今は僕と暦だけだ。
「そんなことがあったのね」
僕は暦に、セキュリティルームであったことのあらましを説明した。
本物の怪盗グリードが来たこと。
そのグリードは能力者だったこと。
能力は未来を視ることだけではないこと。
最後に金貨とおいなりさんを盗んで行ったこと。
「あとで雨倉さんにも説明しなさい。命令よ」
暦は僕に命令した。
最近、妙に仲が良いからなー。
そんなことを思いつつ、
「分かってるよ」
と、返事をする僕。
「……」
「……」
しばらく無言になり、夜の道に僕と暦の靴の音が響く。
「久寿米木くん」
沈黙を破ったのは暦だった。
僕はそれに『なにかな』と返す。
「セキュリティルームの一件でどれくらい寿命を削ったのかしら」
「……」
「嘘偽りなく正直に話して頂戴」
暦は僕の能力をあまり好ましく思っていないからなー。
それでも、まあ嘘をつく訳にはいかないか。
僕は正直に言う。
「グリードとの戦闘では大体――6カ月くらいかな」
「……そう、6カ月……半年、ね」
それから暫く黙ってしまう暦。
そして、その沈黙を僕が破る。
「怒らないんだ」
僕は少し意外そうに言う。
いつもならここで怒るのに。
これに対して暦は、
「怒った所で、どうしようもないでしょう」
と、言う。
「まあ、ね」
その通り。
僕は暦に怒られた所で、能力を使わないとは言えないだろう。
「久寿米木くんは困っている人がいたら助けてしまう人種だものね。もう諦めたわ」
「そう……」
諦められると、なんか寂しい。
複雑な気持ちだ。
こういうのあるよね?
失って初めて気付く的な。
「でも――」
「ん?」
暦は少し溜めを作って言う。
「私のことも忘れないで頂戴」
その言葉に僕は1択しかない答えを言う。
「……もちろん」
そして僕達はどちらからともなく手をつないで、事務所を目指して歩いた――。
どーも、よねたにです。
ようやく探偵と――編が終わりました。
大きな話はあと2つ程の予定です。
さて、20話まで来ました!
だからと言って、何かがある訳ではないんですが……。
とりあえずの報告です。
感想や評価、お待ちしております。
では、また。




