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未来探偵クスメギ  作者: よねたに
怪盗編
20/65

第20話 探偵と怪盗はセットだと言っても過言ではないのだ(part5)

 10月25日。

時刻は5:00。

ようやく陽が昇るという時間だ。

 そんな時間に僕は目を覚ました。

この時間までが安全を確認できた時間。

半月の僕の寿命を使って――。

 今いる場所は毒島家のセキュリティルーム。

そして僕が寝ていた場所は――。


「え?」


 かおりさんと同じ布団だった。

 昨日、かおりさんが僕達の布団も一応持って来てくれて、敷いてくれていた。

川の字で。

暦、僕、かおりさんと言う順番で。

多少の疑問は残ったが。

それで、僕はかおりさんとは別の布団で寝ていたはずなのにどうして――。


「あ、かおりさんが僕の布団に入って来たのか」


 よく見てみると、僕は真ん中の布団で寝ていた。

と言うことは僕は動いていないということだ。

 ならばかおりさんの方からやって来たとしか考えられない。


「なるほどなるほど」


「何が『なるほどなるほど』なのかしら」


「……おはようございまーす、暦さん」


 僕はぎこちなく隣の布団に視線を向ける。

 すると、暦が僕を凝視していた。

もう、視線で人を殺せるんじゃないかと言うような感じだ。


「久寿米木くん。一応、弁解の余地を与えるわ。言ってみなさい」


「えーと……。僕は動いていません。かおりさんの方からこの布団に入って来ただけであって――」


「久寿米木くんは、未来を視てから寝たのではなかったかしら。ということはこうなることも分かっていたのではないの?」


 ――!!

鋭い!

……実は知っていた。

夜中にかおりさんが僕の布団に入って来ることを。


「で、でも聞かれなかったから!」


 少し苦しいか?

僕はとりあえず言い訳をしてみる。

実際やましいことをした訳でもないし、ほんの出来心だった訳で。


「昨日、私にキスをしたりと言うことがあったにも関わらず、次の日にはもうこういうことをするのね。万死に値するわ」


 無駄な抵抗だった。

そういえばいつだったか暦が言っていたなー。

『無駄な抵抗は、無駄なのよ』と。

 こんなことを思っていると、暦が布団の上に立つ。

そして、未だ布団の中にいて身体を起こしているだけの僕を見下ろす――いや、見下す。


 (ズドッ!!)


「グハッ!」


 暦は僕の腹部に蹴りを入れた。

手加減なしの。

 それにより、丸まってお腹を押さえる僕。


「人の為に命を張れる久寿米木くん」


「な、なにかな」


 息も絶え絶えになりながら返事をする僕。

律儀だなー。


「私の為にもう1発蹴られてくれないかしら」


 返事をしなきゃよかったよ!


「……そういうのは受け付けておりません」


「ならば私にすることがあるのではないかしら」


 うずくまる僕を見下しながら言う暦。

最近僕、うずくまってばかりだな。


「も、申し訳ありませんでした」


 朝市で彼女に土下座をする僕だった。

僕の隣では、かおりさんが寝ていた。

起きろよ!!



*****



 その後、昼間の間はとてつもなく忙しかった。

 僕が暦に殴られた後に起きたかおりさんから、物凄く謝られたり、再度ヤクザさん達と警備について話し合ったり作戦を立てたり、病院にいるヤクザさんから武さんの容体を聞いたり、しずかと外の警備の打ち合わせをしたりと、なんやかんやとしていたらいつの間にか夕方になっていた。

 現在の時刻は17:00。

場所はセキュリティルーム。

 テーブルで3人、お茶を飲んでまったりとしている。


「とりあえず、偽予告状の時間まであと7時間ですね」


 僕は誰に言うでもなく言った。


「ええ……」


 かおりさんが力なく僕の発言に応える。

恐らく、かおりさんは他の人達とは違った疲れ方をしているのだろう。

心の面で――。

 父親が銃撃されたり、どこから襲われるか分からないという恐怖。

母親の唯一の形見が狙われていること。

そして自分の為に危険にさらされている、ヤクザさん達や僕達の心配。

 挙げればきりがない。

と――。


 (プルルルルル……)


 僕のスマホに電話が掛って来た。

僕はポケットから取り出して画面を確認する。

しずかからだった。

このタイミングで、と言うことは――。

 僕はそんなことを思いながら電話に出る。


「はい」


『あ、春希!?鮫島家、来たよ!デカイ車4台で!多分50人くらいいる!今、毒島家から3分って所を車で移動中!』


 来たか。

しかも50人。

そこそこの戦力だ。

 暦やしずかが暴れた後の部支持負けの戦力で大丈夫なのか?

そう思ったが、とりあえず僕は言う。


「分かった。とりあえずしずかはそのまま監視を続けて、まずい状況になったらやっちゃっていいから」


『了解!』


 (プツ。プープープー……)


 僕はそのまま電話を切った。


「かおりさん、来ました」


 僕は主語を抜かして言った。


「とうとう――」


 深刻そうな顔をするかおりさん。

僕の『来ました』と言う言葉で全て理解したようだ。

 すると、横から暦が、


「じゃあ、私は外に出た方が良いわね」


 久寿米木くんの為にも、という暦。

どうしても僕に能力を使って欲しくないらしい。

そういう気持ちはありがたいけれど、彼女を戦いに出すというとやっぱり少し複雑な気持ちになる。

 僕は少し逡巡して、


「……そうだね。じゃあお願い。でも気を付けて。あと、外にいる人達にも連絡よろしく」


「分かっているわ。2人はここにいて頂戴」


 そう言って暦は歩いてセキュリティルームを出て行った。


「……」


「……」


 暦が出て行ったあとの部屋を沈黙が支配する。

僕も何を話したらいいのか分からないし、かおりさんも何を話したらいいのか分からないのだろう。

 そう、僕達は今から何もできない。

ヤクザさん達や、暦、しずかが戦っているのに僕達は何もできない。

 僕はとても歯がゆい気持ちだし、恐らくかおりさんも同じ気持ちなのだろう。 


「……すみません、こんなことに巻き込んでしまって」


 かおりさんが沈黙を破ってに僕に謝る。

恐らく、こんな大事に連れ込んでしまった責任を感じているのだろう。


「いいんですよ、仕事ですから」


 僕はそう言ってかおりさんに笑いかける。

こういう時だからこそ、笑顔は大事だ。

少し無理やり感がある笑顔かもしれないが、ないよりはマシだろう。


「――っ!!」


 するとかおりさんが顔を赤くして僕から、その真っ赤な顔をそむける。

僕、何かした?

 僕が疑問に思っていると、かおりさんが意を決したように再び顔を僕に向けて言う。


「あの――。月村さんと久寿米木さんって……お付き合いされているんですか?」


 こんなときにそんな質問を?

僕はそう思ったが、答えない訳にもいかずに、


「……ええ、まあ」


 と、僕ははっきりとは言えないまでも、肯定する。

僕達は正直、恋人関係に見える様な付き合い方してないし。

今日とか朝一で蹴られているしね……。


「やっぱり、そうですか……」


 僕の答えに落ち込むかおりさん。

これって……そういうこと?

え、もしかして、『そういうこと』?

……いやいや。

そんなことを期待してはいけない。

それで間違っていたら、物凄く格好悪い気がする。


「えっと、どうかしましたか?」


 僕はかおりさんに出来るだけ平静を装い、声をかける。

内心はバックバクだけどさ。

もし、もしも――。

そういうことならば……嬉しい。

嬉しいけど、暦もいるし複雑だし――。

 そういう心を隠す。


「いえ、なんでもないんです。けど――」


「けど?」


「ヤクザの家の女を甘く見ないでくださいね?」


 かおりさんはそう言って笑う。

今まで見た笑顔より一番眩しい笑顔で。

 ……。

いろいろと厄介な事になったような気がした。

と、


「お邪魔します」


 僕達の会話に能天気な声がわりこんでくる。

誰だ?

こんな声、聞いたことがない。

そもそもセキュリティルームには指紋認証しなければ入れないはずだ。

 僕は声が聞こえた方――セキュリティルームの入口を見る。

そこには黒いワイシャツに黒いスーツを合わせて、黒いハットを目深にかぶった男がいた。

まさか――


「鮫島の人間か!」


 僕はそう思い、とっさにかおりさんを後ろに隠す。

しかし男は、僕の声に何の反応も見せずにむしろ何のことか分かっていないような反応を見せる。


「鮫島?――ひょっとして外にいる連中ですか?」


 惚けた様子だが嘘をついているようには見えない。

本当に分かっていないようだ。


「は?……鮫島の人じゃないんですか?」


 訳が解らなくなりつつある僕は、確認の意味を込めてを問う。

すると男は、


「ええ。……っと失礼。自己紹介をしましょうか。私は――」


 男が一拍置いて言う。

いちいち仕草が胡散臭いというか気障だ。

文字通り気に障る。

 僕はこいつと仲良くはなれないな。

そんなことを思いながら、男の言葉を待つ。

 男はようやく口から音を吐きだす。


「巷で話題の怪盗グリードです」


 ……え?

僕はかおりさんの方を見ずにかおりさんに聞く。


「えーっと、かおりさん」


 と、僕は前置きをする。


「あの予告状は偽物なんですよね?」


 昨日確かに、予告状は自作自演だと言っていたはずだ。


「は、はい。私達で作ったものです」


 かおりさんも僕の確認に同意する。


「じゃあ、なんで本物が来ているんですかね」


 なんで偽物の予告状を作って自作自演していたら本物が来ちゃうんだろうか。

ものまね紅白歌合戦とかじゃないんだから。

 気持ちよく歌っていたら後ろから本物が――みたいな。


「……さあ?」


 どうやらかおりさんにもよく分からない状況らしい。

と、この僕達の会話を聞いていたグリードが口を開く。


「簡単な事ですよ。偽物でも、私の予告状が届いたと触れまわったら、私としては行かない訳にはいかないでしょう。私は義賊なので、ウソなんか付いたら大衆から支持されなくなってしまいますよ」


 なるほどなるほど。


「義賊、ね」


 反社会的な事をしながらも、大衆から支持される存在。

それが『義賊』だ。

怪盗グリードは泥棒をするが、盗むのは悪いことをしている連中からだけ。

そしてそれを慈善事業団体などに寄付している。

 だから、警察は強引な手を使っては逮捕しにくく、盗まれる側も悪党だから警察等を頼れない。

 そう言った所が大衆から支持されている。

にも拘らず、予告状を出しておいて来ませんでしたじゃ信用問題に関わるという訳か。

本物、偽物関係なく。


「一応聞きましょうか」


 僕はそう前置きをしてグリードに聞く。

まあ、分かりきったことを聞くだけだけどさ。


「何をしに来たんですか?」


「愚問ですね。毒島家にあるピンクダイヤを頂きにですよ。予告状にもそう書いた筈ですが?」


 書いた、ね。

 予告状は自分で書いた、と言葉にせずにグリードは言った。


「ところで――」


 今度は怪盗グリードが改まって言う。


「あなたはどちら様でしょうか。私の情報には無い存在ですが」


 そうだろう。

かおりさん達の計画では、雇った探偵は既に帰していることになっていた。

普通の探偵にはこの状況は危険すぎるから。

 僕は気障には気障をと言う事で、気障に決めてみることにした。


「僕ですか?僕はただの――探偵ですよ」


 最後に笑みまでおまけで付ける。

しかし相手も気障野郎だ。

微動だにしない。


「なる程。目には目を、怪盗には探偵を、と言う事ですか?毒島家のお嬢様?」


 グリードは僕から視線をずらしてかおりさんに言う。 

それに反応して一瞬、僕の背中でびくっとするかおりさん。


「それで?探偵さんはどうしたいのですか?」


 続けざまに言うグリード。

不敵な笑みが僕を挑発する。

 僕はその挑発に乗らずにただ淡々と言う。


「それこそ愚問ですよ。僕は全てを守りに来たんですから」


「全て?」


 一瞬、何を言っているのか分からなそうな表情――と言っても見えているのは口元だけだが――をしたグリードはすぐにデフォルトの不敵な笑みの表情に戻る。


「外にいるヤクザさん達が関係していること、ですかね。『全て』と言うことは、ダイヤ以外――例えば後ろにいる毒島家のお嬢様でも守っているのですか?こんなセキュリティの頑丈な所に探偵(ナイト)といるのですから、そんな所ですかね」


 グリードはたった一言『全て』から、全てを読み取った。

さすがに巷でももてはやされているだけのことはあるのか。

なかなか鋭い洞察力だ。


「まあ、そうですね」


 と僕は簡単に答える。

それにグリードが打てば響くようなタイミングで即座に返す。


「それなら必要ないと思いますよ」


「え?」


「私が見たときには大体決着がついていましたから。毒島側の勝利で。1人、人間とは思えない異常な動きで男達を殺す勢いで殴り倒している女性がいまして――」


 ああ、暦か。

『異常』って言われる動きってどんな動きだよ。


「ただ、ここに来るまでは時間がかかるでしょうね」


「どうしてですか」


「後片付けがあるでしょう」


 なる程。

1人ずつ動けないように縛って、尋問して、警察――は無理か。ヤクザ流の何かで落とし前を付けるのだろう。

知りたくもないけどさ。


「そろそろ仕事に取り掛かりましょうかね」


 唐突にグリードは言った。

この展開だと、このまま戦闘……か?

 僕はそう思い、


「出来ればお引き取り願いたいんですけど……無理ですか?」


 と、最後の交渉をする。


「残念ながら、それは出来ない相談と言うものですよ」


「争いは無益ですよ?」


「外の人達に教えてあげたらどうですか?」


 ごもっとも!

 そして交渉決裂だ。

期待はしていなかったけど。


「では、私が仕事を終えるまで寝ていて下さい――」


 グリードはそう言うと、僕達の方へ、一瞬で間を詰めて来る。

速いっ!

 僕は後ろにいるかおりさんを少し乱暴だが、遠くに押しやる。

それと同時に右眼にはめているコンタクトレンズを外して捨てる。

 もったいないけどしょうがない!

僕は一瞬だけ右眼を開き、未来を視る。

 直後、膨大な情報量が脳へと流れ込む。


「何をしているんですか?」


 僕の眼の前には、グリードがいた。

そして、勢いを殺さぬままにグリードが僕の腹部に拳を打ちこんでくる。


「――っと」


 この未来を既に見た。

僕はそれをバックステップで後退して避ける。

 グリードは後ろに下がった僕を追って、拳打を顔や腹を目がけて繰り出す。


「――」


 僕はそれをさらに後退しながら避け続ける。

既に視た攻撃をかわすのは簡単だ。

 ちなみに攻撃しないのは、僕が攻撃すると、僕が視た未来が変化してしまうからだ。

すると、もう1度未来を見なければならないし、僕の寿命が大きく縮まってしまう。

リスクが増加するのだ。

 攻撃するのは1度――。

短時間のうちに一撃で決めるのがベストと言うことだ。

 暫くすると、グリードは攻撃をやめる。

どうやら攻撃が無駄な事が分かったようだ。

 今度はこちらが攻撃――と、僕がそう思った瞬間、グリードが口を開く。


「いやはや、これはなかなか手強いですね」


 グリードが乱れた服装を正しながら言う。

暫くの間は攻撃する気がないようだ。

 僕は、かおりさんをちらりと確認してから、話す体制を取って言う。


「それはどうも」


「まさか、いくら私が本気を出していないからと言って、全く攻撃があたらないなんて。全く、面倒なことこの上ないですね」


 まるで、本気を出したら勝てるような口ぶりだ。


「だったら、本気を出してみたらいいのではないですか?」


 僕はほんの少し挑発する。

いくら本気を出した所で、未来を視ることが出来る僕に勝てる見込みはないだろう。


「そうですね。あなたがそんなチートな能力を使っている以上、こちらも同じ条件でないとね。なかなか勝つのは難しい」


 僕は一瞬グリードが何を言っているのか分からなかった。


「え?」


 そのため、たった一言この反応しかすることが出来なかった。

しかし、グリードの次の一言で、僕はさらなるパニックに陥ることになる。


「使っているのでしょう?未来を視る能力を――」


 怪盗グリードはそう言った。

どーも、よねたにです。


……まだ続きます。


1つの話を2万から3万文字で区切って、ペースよく読めるようにはしていたのですが、今回は少し長くなります。


さて。


次で20話です。


つたない文章を読んでいただき、本当にありがとうございます。


これからも暇なときでもいいので、読んでいただければ幸いです。


厳しい評価、優しい評価等々お待ちしております。


では、また。

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