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未来探偵クスメギ  作者: よねたに
怪盗編
18/65

第18話 探偵と怪盗はセットだと言っても過言ではないのだ(part3)

「なんであんなことになったんだよ」


「だって向こうが襲ってきたから」


「どうして」


「……私が可愛かったから?」


「ボツ。ボケるならもっとましなボケを用意してからにしなさい」


「ボケてないよ!?」


 今の状況。

かおりさんのお父さんの部屋に来てます。

ただ、まだお父さんは来ていません。

もうすぐ来るそうです。

 ちなみに部屋は和室です。

めちゃくちゃ広いです。

僕と暦としずかとかおりさんが1列に並んで、かおりさんのお父さんがくるのを待って――いや、来ないでと祈っています。

構図は左端からしずか、暦、僕、かおりさんと言う順番だ。

 ちなみに前の会話は僕としずかのもので、僕が、どうしてあんなヤクザの抗争もどきになったのかを聞いた会話です。


「久寿米木さん、緊張してます?」


 かおりさんが聞いてくる。


「ええ、まあ。なんと言っても相手は関東最大のヤクザのボスですから……」


「あの……」


「なんですか?」


「お父さん、ちょっと変かも知れないですけど、気にしないでください」


「は、はあ」


 変?

一体何が変だというのだろうか。

すでにヤクザと言う時点でかなり変だと思うのだけれど。

と、


 (ガラッ)


 襖が勢い良く開いた。

そこに立っていたのは黒い髪をオールバックにしている大柄な着物姿の男だった。


「お父さん、お帰りなさい」


 かおりさんが言う。

どうやらアレがお父さんのようだ。


「へー」


「ほー」


 暦としずかが相手に聞こえる様な声の大きさで気の無い声を出す。

やめて!

黙ってて!

へーとかほーとか言わないで!

ほら、なんか睨んでるから!

僕の方を……。

 そんな風に僕が心の中で慌てている中、かおりさんのお父さんは僕達の前に敷かれているちょっと豪華な座布団に胡坐をかいて座る。


「……」


 かおりさんのお父さんは、僕達3人をじっくりと舐めまわすように見る。


「(なんなのかしらこの人。変態?)」


「(キモッ!)」


「(――!!)」


 暦としずかが小声で愚痴る。

お願いだから黙ってて!

 しばらくして、かおりさんのお父さんは、かおりさんに視線を移す。

そして――


「ただいま、マイドーター!」


 ……は?

え、今の声はこのおっさんから発せられたのか?

めっちゃ声高かったんだけど。


「う、うん……」


 かおりさんはそれに苦笑いしながら答える。

なるほど。

さっき言っていた、お父さんは変ってこのことか。

つまるところ。

親バカってことか。


「ところで」


 うお!

声低っ!

急に変ったよ。


「こいつらは誰だ」


 僕達に視線を向けながら言う。

僕は慌てて姿勢を正して自己紹介をする。


「初めまして。久寿米木探偵事務所の久寿米木と申します。今回は怪盗グリードから予告状が届いたとのことで、この家の家宝の警護をさせていただきます」


「……」


「……」


 くっ!

沈黙が!

沈黙が痛い!


「そ、それで、こちらが同じ事務所の月村暦。その奥が雨倉しずかです。この2人も今回同行します」


「……なるほど。その件か。確かに警察には頼めないからな。探偵に依頼しても仕方がないだろう。ただ――こいつらでまともに警護できるのか?噂では怪盗グリードとやらは腕も強いらしい。こんな奴らでは盗まれて殺されるのがオチではないのか?」


 この言葉にかおりさんが反論する。


「問題ないよ、お父さん。この3人はとても優秀で――強い。お父さんが帰ってくる少し前に、下の者の手違いでちょっとしたいざこざになったんだけど、月村さんと雨倉さんはそれぞれ格闘と銃でこの組の精鋭十数人と互角以上に戦えていたし、久寿米木さんに至ってはそれ以上の戦闘力があるように見えたから」


「ほう。かおりが言うのなら相当なものなのだろうな」


 かおりさんの言葉でお父さんはようやく表情をすこし和らげた。

ただ、僕の戦闘力は本当は低いんだけどね。

 それより、「かおりが言うなら」ってかおりさん、強いのか?


「失礼した。先の私の態度を詫びよう。私は毒島武、かおりの父親だ。家宝の警護、よろしく頼む」


「はい」



*****



「はああああぁ」


 僕はかおりさんのお父さん――武さんが去った部屋で大きく息を吐いた。

プレッシャーが半端なかった……。

 今、部屋には僕と暦としずかしかいない。

かおりさんは武さんとどこかへ行ってしまった。


「ご苦労さま、久寿米木くん」


「ご苦労、春希」


 2人からねぎらいの気持ちがこもっていないねぎらいの言葉がかけられる。

僕は足を崩しながら、


「ご苦労は上の者が下の者に使う言葉だ。せめてお疲れって言って!」


「そんなことより久寿米木くん」


 そんなこと……。

まあいいけどさ。


「なにさ」


 僕は軽く問い返す。


「さっきの抗争で能力、使ったわね」


「……ああ、まあ」


 暦は僕が能力をむやみやたらと使うことを快く思っていない。

暦は能力の代償について知っているから。

僕の寿命を縮めることを――。

 ……あの抗争は君達のせいじゃないのかい?


「戦闘になったら私達がどうにかするから、久寿米木くんは能力を出来るだけ使わないで頂戴」


「……わかったよ」


 これでも恋人だ。

自分の行動を棚に上げてでも、僕のことを心配してくれているのは分かる。


「え、どういうこと?」


 しずかが話しに入ってくる。


「雨倉さん、私が説明するわ」


 そういって暦はしずかに僕の能力の代償について説明する。


「――え、ウソでしょ!?そんな……」


「そんなに慌てなくても。能力の発動時間を短くすれば、縮まる寿命も数分くらいなものだし。心配いらないから」


「でも――」


「いいから。気にしないで」


「……分かった。でも、暦の言うとおり戦闘は私達に任せて?」


「了解」


 僕のことを思ってくれる仲間がいる。

数年前では考えられなかったことだ。

 ふと僕はそんなことを思った。

と、


「すみません、お待たせしました」


 かおりさんが戻って来た。


「お父さんはまた交渉――ではなく仕事で出て行ってしまったので……」


 心の中で安堵する僕。


「ここはお父さんの部屋なので、私の部屋に戻りましょう」


 と言う事で、僕達はかおりさんの部屋に。

 今度も座る所がないので僕達3人はベッドの上に座ることに。

その正面にかおりさんが椅子に座るという構図だ。


「みなさん」


 かおりさんが僕達に向かって妙に神妙な様子で言った。


「先ほど、お父さんと話しあってきました。――皆さんに全てを話すかどうかを」


「全てと言うと、一体どういうことかしら」


 暦がかおりさんに問う。


「お母さんのこと、家宝のこと、それから――予告状のこと」


 予告状。

やはりあれは何か裏のある予告状だったのか。

暦からサインがおかしいとは聞いていたが。


「……話して下さい」


 暦が静かに言う。

しずかは若干ついてこれていない感があるけど、あとで説明すればいいか。


「分かりました。……実は私のお母さんは、毒島家と同じようなヤクザの家系の人間なんです。それで今の毒島家の家宝――35カラットのピンクダイヤは元々お母さんの方の家系の持ち物だったんです。それをお母さんが嫁入りのときに持って来てしまったんです。嫁入り道具みたいな形で。もちろん、賛否両論あったそうです。持って行かせてもいいという意見。持って行かせてはいけないという意見。でも結局、お母さんのお母さん――私のおばあちゃんの鶴の一声で反対派の意見をねじ伏せたそうです。かなり強い権限を持っていたらしくって」


「……」


 僕は黙って聞く。


「それでお父さんと結婚して……。それから数年後に私が生まれました。そして家族3人、楽しく暮らしていました。でも、お母さんは私が15歳の時に、ガンが見つかりました。末期ガンでした。もうどうにもできなかったそうです。しばらくしてお母さんは死んでしまいました。それと同時に、ダイヤの件の反対派が動き出しました。この時すでにおばあちゃんもいなかったので誰も止める人がいませんでした。その頃から、毒島家にいろいろとちょっかいを出してくるようになったんです」


 なるほど。

大枠はつかめて来た。

簡単にいえば、かおりさんのお母さんの家の人――その中の反対派の人がダイヤを返せと。

それを交渉ではなく実力行使でやってくると。


「そして、最近ではかなり動きが激しくて。この間、とうとうお父さんの右腕の人が殺されました。しかも殺人だとばれないよう、巧妙に細工をしていたようで、誰がやったのかも分かりませんでしたし、殺人だということすら証明できませんでした。さすがにここまでされたら何もせずに指をくわえてはいられません。なので、相手に揺さぶりをかけてみることにしたんです。それが――」


「怪盗グリードの予告状と言う訳ね」


 暦がかおりさんの言葉を継いでいった。


「はい。怪盗グリードと言う天才的な怪盗がダイヤを狙っていると知れば、遅かれ早かれ行動してくると……。それで犯人をあぶり出そうと思ったんです。そしてさらにその信憑性を上げるために――」


「僕達を雇ったんですね」


 今度は僕がかおりさんの言葉を継ぐ。


「ええ。ただ、雇った探偵さんは途中でなにか理由を付けて帰ってもらおうと思ったんですけど……あなた達がとても強くて頼りになりそうなので、少しわがままなんですが……。最後まで付き合っていただけませんか?」


 ふむ。

まとめると、ダイヤを狙っていて、武さんの右腕的存在の人を殺した人を捕まえて、と言うことか。

なかなかのハードボイルドな事件だ。

……大学生が触れていい枠超えてない?

 僕は実質的に所長の権限を持っている暦を見る。


「なにかしら、久寿米木くん」


「どうする?」


 もう所長とか肩書きはどうでもいいから聞いた。


「ここまできて、「すみませんが帰らせてもらいます」と私が言うとでも?」


 ですよねー。

僕は次にしずかを見る。


「同じく」


 ですよねー。

……ですよね。

 僕も決心して言う。


「分かりました。この依頼、引き受けましょう」


「あ、ありがとうございます!実を言うと月村さんと雨倉さんにやられた人がいっぱいいて人手が足りなかったんですよ!」


 あー。

これは本格的に逃げられないな。

 かおりさんが無意識に僕の逃げ道をふさいだ。

それを僕は悟った……。

と、


 (ドンドンドン)


 この部屋のドアを勢いよく叩く音が聞こえた。


「は、はい」


 かおりさんも慌てた様子で返事をする。


「お、お嬢!組長が!組長が病院に搬送されました!」


「――え?」



*****



 僕達は今、毒島邸から1時間程の距離にある総合病院にいる。

理由は――。


「組長はできるだけ穏便に済ませようと、鮫島一家に1人で交渉しに行っていたんです」


 鮫島一家とは、かおりさんのお母さんの旧姓――つまり、今回の敵の家だ。


「組長は今でも姐さんの事を愛していますから……。あの形見のダイヤは持っていたかったんだと思います。俺達も一緒に行くと言ったんですが、迷惑はかけられないと言われて……。それで車で1人、鮫島一家まで交渉に向かう途中……狙撃されて。幸い急所は外れていたんですが……。俺達が心配になって後から向かったら、組長の車が電柱に突っ込んでいて……それで――」


 と言う訳だ。

かおりさんのお母さんがいない今、ダイヤの持ち主は武さんだ。

その武さんがなくなった場合、ダイヤの持ち主はかおりさんになる。

そしてかおりさんが死んでしまえば、ダイヤは必然的に――。

 これが恐らく鮫島一家の考えだろう。


「かおりさん。次に狙われるのは恐らくかおりさんです。これからすぐに家に戻ってください。それから武さんの部下の方は何人かここに残って武さんの警護を」


 僕は早口で言った。

今回は人命が掛っている。

のんびりはしていられない。


「わ、わかりました!」


 そう言って説明してくれた部下の人はどこかへ行った。


「久寿米木さん、本当に私が狙われるんですか?」


「ええ。十中八九間違いないですね」


「私も同感ね。毒島一家の直系の人間がいなくなれば必然的にダイヤは鮫島一家に戻るものね」


 暦が言う。


「なるほどね。それだったらかおりさんが狙われるよ。うん、そりゃもう120%!」


 説明を聞いたしずかも同意した。

……本当に分かっているのだろうか。

激しく不安だ。


「わかりました。今すぐ戻りましょう」


 かおりさんが言った。

僕達は武さんを病院に残し、タクシーで毒島邸へと戻った。



*****



 僕達は特に襲撃を受けることなく無事に毒島邸に到着した。

今いるのは暦としずかとヤクザが抗争を起こした日本庭園だった場所だ。

日本庭園だった、だ。

 土がめくりあがり、池の水が手榴弾により外に飛び出し、鯉が爆死し無残に飛び散っている。

木々には銃弾の跡が生々しく残り、倒れているものもある。

 日本庭園の紹介文とは思えない文だ。


「かおりさん。今日から25日――いや、一応26日の朝までこの家を出ないでください。それと、僕達は宝石の警護と同時にあなたの警護もします」


 僕は毒島邸に着くなりかおりさんにそう言った。


「わかりました」


 かおりさんはそう言って、数名の部下の人たちを引き連れて家の中へと消えた。

僕は今度は近くにいたしずかに声をかける。

警護についてだ。


「しずかはちょっとつらいかもだけど外から見張りをよろしく。いい?」


「おっけ。報酬よろしく!」


 しずかはスナイパーライフルを持って、外の警護に向かった。


「暦」


 僕は暦を呼ぶ。


「なにかしら。まあ、状況が状況だからある程度予想は出来てしまうのだけれど」


「僕は能力を使いたいと思う」


 僕は武さんが銃撃されたと聞いたときから考えていた。

しずかが外の警護をしているからと言っても、どこからか銃撃されるかもしれない。

いくら暦やしずかが強くても、飛んできた銃弾はどうすることも出来ない。

この危機を回避するには僕の未来を見る能力を使うしかない。

 そんな僕の考えを知ってか知らずか、


「嫌よ」


 暦は言った。


「どうして?この方法しかないと思うんだけど」


「では久寿米木くんは2日間能力を使い続けるというのかしら」


「いや、使い続けはしないよ。できるだけ寿命を縮めないように短時間ずつ見て行くから」


「それでもよ。私は久寿米木くんに――命を粗末に扱って欲しくはないのよ。だって、私は――あなたが好きなのだから、愛しているのだから」


 ……。

僕は何も言えない。

それに対し暦は言葉を続ける。


「私は、久寿米木くんと一生一緒にいるつもりでいるの。でも、久寿米木くんはこうやって寿命を縮めることを躊躇わない。躊躇ってくれない。そうしたら将来、久寿米木くんが私より先に死んでしまうじゃない。そんなの私は許さないわ。私は最後まで久寿米木くんと一緒にいたいのよ」


 暦は言った。

言いきった。

 そして僕は初めて見た。

暦が目に涙を浮かべているのを――。

どーも、よねたにです。


ちょっとシリアスな展開になってきました。


さて、皆さんのお陰でここ最近PVが急激に伸びてきています。


こんなつたない文章を読んでいただき、誠にありがとうございます。


さらなる精進の為、感想や厳しい評価、優しい評価、気になる点等お待ちしております。


では、また。

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