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未来探偵クスメギ  作者: よねたに
怪盗編
16/65

第16話 探偵と怪盗はセットだと言っても過言ではないのだ(part1)

 10月20日。

僕が骨折してからようやく2カ月がたち、完全に腕が治った。

長かった。

とても長い道のりだった。

 夏休みは、あの後は特に何事もなく――とは言い難かった。

探偵事務所としては浮気調査などの素行調査の依頼が数件舞い込み、あっちで尾行、こっちで尾行とストーカーまがいの行為ばかりをしていた。

個人としては、骨折のリハビリなんかで地味に大変だった。

 そしてようやく、その骨折地獄から解放された。

喜びも一入だ。


「よかったじゃん、春希」


「お前が言うな」


 しずかが自分のしたことを棚に上げて言ってきたので一蹴した。

 さて、今僕がいるのは探偵事務所のいつもの席。

そして珍しく暦もしずかもいる。

――いや、最近は珍しくもないか。

 この事務所に引っ越しをしてから、2人は妙に仲良くなった……ようにも見える。

というのもしずかが積極的に仲良くしようとしているが、暦がそうでもない……ようにも見えるからだ。

まあ、考えても仕方がないか。

とりあえず、昔ほどいがみ合ってはいないということだ。

 今の構図は、事務所の中央にあるローテーブルを挟んで設置してあるソファーに、僕と暦が隣同士で座り、その向かい――僕の真正面にしずかが座っている。

 それでお菓子をつまんでいる。

と、


 (ボーン……ボーン……)


 壁に賭けている年季の入ったアンティークにも見えないでもないような5000円の掛け時計が12:00を知らせる。

 そして今日は平日だ。


「あら、もうこの時間なのね」


 暦が言う。

……アレか。


「あ、本当だ」


 しずかも言う。

……ならアレしかないな。

 僕は2人に言われる前に――テレビを付けた。


「気がきくわね、久寿米木くん」


「さっすが春希ぃ~」


 こんなにも褒められたのはいつ以来だろうか。

そして、こんな時しか褒められない僕って一体何なのだろうか……。

 そんなことを思いながら、僕もテレビへ視線を移した。



*****



ミシマ(以下ミ)『はい。お昼になりましたので今日も頑張っていきましょう。司会のミシマです』


オオクラ(以下オ)『コメンテーターのオオクラです』


ミ『そういえばオオクラさん、結婚して婿へ行ったのではなかったでしたっけ。名字変わらないんですね』


オ『ええ。仕事のときはこのまま行こうということになりまして。本名はクラーク・オオクラ・(名前)です』


ミ『あ、外国の方と結婚されたんですか。驚愕の新事実ですね。で、名前がクルム伊達公子みたいになったと』


オ『そういうことですね』


ミ『ともかくおめでとうございます』


オ『ありがとうございます。で、ですね。ちょっと私事になってしまうんですが』


ミ『いいですよ。まだ時間はありますので』


オ『実は占いに行って来たんですよ。妻と2人で』


ミ『また随分と唐突ですね』


オ『今後、どうしたら一番幸せになれるかということを聞きにいって来たんですよ』


ミ『ほうほう』


オ『僕はそういうの一切信じていないんですが、妻がどうしてもと言うので渋々だったんですけどね』


ミ『あーオオクラさん、そういうの信じなさそうな顔してますからね』


オ『良く言われます』


ミ『突っ込むところですよ』


オ『それでですね。僕は思った訳ですよ。占いなんてこの世にありはしない。それを妻に分からせるためにはどうしたらいいのか、と』


ミ『その方法は?』


オ『占い師をだますことにしたんですよ』


ミ『話が面倒な方向へ向いてきましたね。まあ、続けて下さい』


オ『まず、僕が妻と行く前に1人で変装して行くんですよ。そして「私は結婚できるでしょうか」と聞くんです。そこで占い師が出来ないと言えば占いは間違いですし、出来ると言ってももうしている訳ですから占いで来ていない事になるじゃないですか。それでそのあとに妻と行って、その占い師の前で同じ変装をして問いただすんですよ』


ミ『ほう(ほーら面倒な内容になった)』


オ『それでこの作戦を実行したんですよ。そして変装している僕に占い師はこう言いました。「あなたは結婚できるでしょう」と。勝ったと思いましたね!』


ミ『へー』


オ『それで今度は妻と行くわけですよ。そして目の前で以前と同じ変装をする訳ですよ。そして「あなたの言った事は間違いです。僕は既に結婚していますから!結婚1ヶ月目ですから!」って言ったんですよ!』


ミ『……』


オ『そうしたら!占い師がこう言ったんですよ……「占いはあくまで統計学です。絶対などありません。私達占い師はその統計学的データを皆さんに示して生きる指針、目安となれば良いと思い商いをしております。ただ――ご結婚、おめでとうございます」って言ったんですよ!?もうこれ以上責められないじゃないですか!もう、あの人、人が良さすぎますよ!こんな手の込んだ嫌な事をした人間に「おめでとうございます」だなんて……。僕はどうしたらいいんですかね!?』


ミ『知りませんよ!というか長い!』


オ『……そうですよね。こんなところで話す内容ではなかったですね』


ミ『そんな「しゅん」としないでくださいよ。なんか僕が悪者みたいじゃないですか』


オ『でも一応、占い師のホームページにアクセスして謝罪コメントは書いたんですよ?』


ミ『なら良いのではないでしょうか?』


オ『ミシマさんにそう言ってもらえるとうれしいです……。そう言えばこの番組のホームページが開設されたそうですね』


ミ『ええ。みなさん是非、アクセスしてください。お待ちしております。さてそろそろニュースでも行きますか。では最初は巷を賑わせている現代に甦った鼠小僧、怪盗――』



*****



「ホームページの話しかい!」


 長い!

やり口がくどい!

 ホームページの話ならさっさと言えばいいのに。


「ホームページ……」


 暦がポツリとつぶやく。


「どうしたのよ、暦」


 テレビから目を移したしずかが聞く。


「探偵事務所のホームページでも作ってみないかしら」


「あ、それいいね!」


 暦の言葉にしずかが即賛同する。

あーあ。

また面倒な事になりそうだ。


「久寿米木くん。パソコンを持って来てちょうだい」


「それくらい自分でやれば――」


「黙って持って来なさい」


「……」


 僕は無言で立って、ノートパソコンを持って来て暦に渡す。


「さて」


 ねぎらいの言葉までは行かなくても「ありがとう」の一言くらい言ってくれてもいいのではないですか?

まあ、言わないけどさ。


「今からこの久寿米木探偵事務所のホームページ作成にかかります。まずは内容を決めましょう」


「はーい!」


「……はい」


 という訳で、着々とトップページやら事務所概要やらアクセスやらといろいろ決まっていく。

そして、所員紹介のページ作成に移る。

このページでは僕、暦、しずがのプロフィール的なものや性格を書くらしい。

もちろん顔写真はなしで。


「まずは一応所長の久寿米木くんからかしら」


 暦がパソコンを操作しながら言った。

 一応、ね。

まあそうだけどさ。

 

「春希のプロフィール……性格……かぁ」


 しずかが目線を上にあげながら考える。

と、暦が口を開く。


「久寿米木春希。久寿米木探偵事務所所長。年齢は……まあ書かない方がいいわね。趣味は彼女をいやらしい目で視姦すること。彼女から罵られること。ツッコミ。性格は……概ね温厚で中立的な考え方、とかかしら」


「性格はともかく、趣味が異常性癖者じみているのは納得できない!」


「あと、理想のタイプは中学生」


「僕はロリコンじゃない!」


「そうね。ロリコン、つまり医学用語ではペドフィリアは13歳以下と医学の世界で規定されているものね。さらに言えば、13歳以下との性行為が基準になっているものね。久寿米木くんは小児性愛者ではないわ」


「詳しいね……って、だから中学生関係ない!僕はノーマルだ」


「あらそう」


 あー疲れた。

まあ暦が口を開いた時点でこうなることはある程度予想できたけどね……。

 と、今度は今まで黙って考えていたしずかが口を開いた。


「久寿米木春希。久寿米木探偵事務所所長。趣味はノーブランドの店巡り」


「ソープランドの店巡り?」


 しずかの発言を暦が聞き間違える。


「ちがうよ!ノーブランド!相変わらず酷い聞き間違いだな!?」


 ソープランドを巡っているとか、僕は性欲魔人か!

しかも彼女――それが暦だというのに。

そんな恐れ多いことはできない!

 それにしてもノーブランドの店はいい。

安くて良い物が手に入る。

 ブランド物がなんであんなに高いのか理解できないし、それを買う人の気持ちも理解できない。


「って、何時の間にこんな時間!?」


 しずがか急に叫び出した。

僕は時間を確認する。

12:45。


「なにかあるの、この後」


 僕はしずかに聞く。


「この後3限があるの!だから今日は――」


 しずかはそう言ってバッグをひったくって出入り口へ向かう。


「じゃあね、雨倉さん」


「じゃね、暦!」


 しずかはそう言って事務所を飛び出して言った。


「……」


 僕はそれよりも今、とても驚いている。

実は地球の周りを太陽が回っていましたとか言われたくらいに。


「暦が――挨拶……だと?」


 そんな馬鹿な。

僕が挨拶しても、なんの反応も見せてくれない暦が「じゃあね、雨倉さん」だよ!?

 僕は暦に無言で視線を投げかける。


「……なにかしら」


 睨まれた。


「いや、別に……」


 僕は視線を戻す。

それにしてもあの暦が……。

諸行無常とはこのことか。

 このまま良い方向に暦が変わってくれればいいけどね。

やっぱりある程度は人――他人と上手くやって行くことが出来ないと将来いろいろと困るだろう。


「……」


 僕はもう1度暦に視線を向ける。

今度の視線に驚きの意味はない。

ただ――


「……なにかしら」


「別に~なんでも~」


 多分このときの僕は、ニヤニヤしていたのだろう。


「その面、すぐにやめなさい。刺すわよ」


「なにで!?」


 僕は暦に殺されかけた。



*****



 それから約2時間後。

現在の時刻は15:00。

 ようやく所員のページが完成した。



『久寿米木春希。久寿米木探偵事務所所長。趣味は読書、映画観賞、ノーブランドの店巡り。性格は注意深く慎重。且つ温厚。誰に対しても優しい』


『月村暦。久寿米木探偵事務所会計。趣味は格闘技観戦、ディベート、お笑い。性格はしっかりしている』


『雨倉しずか。久寿米木探偵事務所雑務。趣味は弓道、森林浴、街中でのウィンドウショッピング。性格は明るくて元気』



「なにこれ」


「私が作った物に何か文句があるのかしら」


「ほとんど嘘じゃん!」


 そう、真実を書くとこうなる。



『久寿米木春希。お飾り所長。趣味は特にないがノーブランドの店によく行く。性格は優柔不断。良い言い方をすると優しい』


『月村暦。会計且つ実質所長。趣味は格闘技全般、彼氏を弄ること、ボケること。性格はドS』


『雨倉しずか。平所員。趣味はサバイバルゲーム。性格は楽天的』



「これをこのまま書いたら、誰も来ないわよ」


 まあ、そうなんだけどさ。

それにしても――


「突っ込みどころが多いよ!」


「別にいいじゃない」


「いや、よくないよ」


 経歴詐称もいい所だ。


「実際に格闘技やるのに格闘技観戦って書いたり、彼氏を弄ることをディベートって書いたり、ボケることをお笑いって書いたり……。極めつけはドSをしっかりものって書いたり!ドS=しっかりものって、そんな公式成り立つか!」


「いいのよ、これで」


「よくないよ!しずかに至ってはサバイバルゲームを弓道って無理ありすぎるだろ!それでサバイバルゲームを森や街中風の所でやるからって、森林浴と街中でのウィンドウショッピング?意味が解らない!」


「本当のことを書けるわけがないじゃない。いいのよ、これくらい」


 そう言って暦はクリックして、このページをネットに上げた。



*****



 それから数日が過ぎ、今日は10月23日。

探偵事務所にはいつもの3人が揃っている。

今日も大学の講義は無い。

 僕は所長の席に座り、趣味に書いちゃったしと言う事で読書。

暦も自分のデスクにいて、パソコンを弄っている。

しずかは自分のデスクがないのでソファーに座ってガスガンを弄っている。

 そんな昼下がりの午後。


 コンコン


 と、控えめに事務所のドアを叩く音が響く。


「え?」


 僕は本から視線を上げて暦としずかとアイコンタクトを取る。


「(依頼人?)」


「(久寿米木くん行きなさい)」


「(そうだよ、春希行けよ)」


「……はあ」


 僕はため息をついて――ここ数日で何回目だろう――扉の方へ向かう。

 僕が扉を開けると――


「あ……」


 おお……ふ。

 とても美人な女性がそこにはいた。


「あの――」


「あ、はい」


「依頼……なんですが」


「あ、ではこちらへどうぞ」


 僕は彼女をソファーへ案内――しようとしたら未だにしずかがソファーに座っていたので、目で適当に追い払う。

 一瞬むっとした表情をしたしずかが僕の方へやって来て、


「あとで依頼内容教えてね?」


 そう小声で言って、事務所を出て行った。

まあ、やることないもんね。

しずかは。


「どうぞ、お掛け下さい」


「あ、ありがとうございます」


 僕はそんな彼女の向かいに座る。

と、


「どうぞ」


 暦がお茶を持ってやって来た。

こういう経験がある訳でもないだろうに、やることが様になっている。


「あ、すみません」


 彼女が暦に言った。

 そして暦はそのまま、僕の隣に座る。


「今日はどういったご依頼でしょうか」


 僕が言う。

まあ、こんな感じで進めて行けばいいのかな?


「あの、実はこの探偵事務所のホームページを見て来たんですが……」


 あれか!

あんなものを見てきてしまったのか、このお方は!

 っていうことは、僕達が大学生で、しかもサークルの集まりだなんてことを知らないのだろう。

哀れに思えて来た。

 僕はなんとなく黒縁の伊達メガネをかける。

一応、なめられないようにと言う意味で買っておいたものだ。

 それを依頼人の彼女が「ここからは真面目モードに入ります」みたいな、良い感じな解釈をしたようで、なんとなく安心感の表情が……。


「どうぞ、続けて下さい」


 暦が依頼人の彼女に話を続けるようにと促す。


「あ、はい。それで依頼についてなんですが……。私の家の家宝を守って欲しいんです!」


「えーと」


 僕は言う。


「どういう意味でしょうか?」


「そのままの意味です。実は先日、家宝を盗むという予告状が来たんです。しかも今、話題の怪盗グリードです」


「怪盗グリード?」


 僕は聞き返す。

と、横から暦が答える。


「自分の為ではなく、困っている人のために泥棒をするらしいわ。例えば難病で困っている人とか、孤児院とかね。しかも、盗みをするのは悪いことをしている所からだけみたいね。だから予告状が来ても、そこは警察に頼めない。そして警察も世間の目やらなにやらでいろいろと動きづらい。なかなか捕まえづらい。一言で言えば現代版の鼠小僧よ。名前も、欲がないのにグリードなんて洒落ているのよね」


「へー。……え、じゃあ――」


 僕は視線を依頼人に移す。

 そして依頼人の彼女は、とても言いづらそうに言う。


「私の家は、その――ヤクザ……?です……」


 うわー。

厄介な依頼来たー。


「で、でも!その代わり依頼料は通常の2倍払います!そして成功報酬も別途で払いますから!あれだけは盗まれる訳にはいかないんです!母の――お母さんの形見なんです!」


 依頼人の彼女は涙目になりながら僕に訴える。

こういうの弱いんだよね。

 そんなことを思っていると、


「分かりました。引き受けましょう」


「あ、ありがとうございます!」


 暦が勝手に引き受けてしまった。

 僕は暦に小声で、


「いいの?」


 と、聞く。

それに暦も小声で、


「依頼料2倍に成功報酬はとても良い条件に思えたのだけれど」


「……わかったよ」


 仕方がないか。


「では、こちらにお名前、ご住所等記入をお願いします」


 僕はそう言って事前に作成しておいた紙を依頼人に手渡す。


「あ、はい」


 そう言って依頼人は記入しだす。

そして名前の所にはこう書いた。


 『毒島かおり』


 ……関東最大のヤクザ屋さんじゃん!

どーも、よねたにです。


タイトルに探偵って付けちゃったので、こんな感じの話にしてみました。


今年の内には探偵と――編は終わらせたいと思います。


感想、評価等お待ちしてます。


では、また。

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