第15話 休日はなんだかんだで暇じゃないと僕は思う
今日は8月18日。
平日だ。
大学の講義もない。
サークルもない。
やることがなーんにもない。
そんな僕は今、家にいる。
時間は10:00。
今日が終わるまであと14時間ある。
そんな日に限って天気が物凄く良い。
かと言って気温はそれほど上がっていない。
割と過ごしやすい日。
「やっぱり出かけるかな……」
ちょっと遠出して「Cafe de Vert(←カフェ・ド・ヴェールと読む)」にでも久しぶりに食べに行くかな。
骨折しているけど。
ちなみに、おいしい洋食屋さんです。
そうと決まれば即行動。
僕は家を出た。
「Cafe de Vert」があるのは、電車で20分、それから徒歩で10分程歩いた住宅街。
僕はとりあえず駅に向かった。
駅までは15分。
何事も無く到着して僕は切符を買って電車に乗る。
平日なので人はまばらにという程度しかいない。
「ふう」
とりあえず端っこの寄りかかれる席に座る。
暦もいない。
しずかもいない。
友達もいない。
あ、別に悲しい意味でのいないじゃなくて。
そんな日は久しぶりだなー。
とか、考えていると電車は次の駅に差し掛かり停車した。
すると、乗車してきた数人の人達の中のおばさん1人が僕の隣へ座る。
「――」
強烈な香水の匂いが僕を襲う。
良い匂いならまだしも、鼻がツーンとする匂いだ。
匂いではなく臭いと言うべきなのかもしれない。
まあ、言わないけどさ。
電車が再び動き出す。
と、
(ブーブーブーブー……)
携帯のバイブレーションの音がかすかに聞こえて来た。
となりでおばさんがごそごそしだす。
どうやらおばさんの携帯電話のようだ。
「はい、もしもし」
おばさんが電話に出る。
ここ、車内だよー。
が、構わずおばさんは話し続ける。
「……うん……うん……は?なんで」
おばさんが投げやり且つイラついた感じで言う。
「どうしてあんたはそんなことも出来ないの?」
かなりイラついた感じで言う。
「あんたに任せたあたしが馬鹿だったよ」
……罵る。
「もういいよ、あんたはもう何もしなくていいから」
……罵倒する。
「……しなくていいって言ってるでしょ!?何回言わせるのよ!」
……。
「いいから帰りなさい。もう来なくていいから」
……。
なんかこっちまで罵倒されている気分になって来た。
陰鬱な気分……。
そんなこんなで次の駅に到着。
と、おばさんは電話を切って電車を降りた。
何もしていないのにとても疲れた……。
そんな僕の隣にまたしても人が座る。
今度は若いキレイめな女性だ。
その人は座るや否や携帯電話を操作する。
僕はちらっと見る。
いや、別にいやらしい気持ちとかじゃなくて。
『今○○駅なので、もうすぐ△△駅に着きます』
6つ先の駅で降りるようだ。
まあ、別にこんな情報知ったところでなんにもないけれどさ。
*****
数分後。
次は△△駅だ。
隣に座る女の人は寝てしまっている。
仕方がない。
起こしてあげよう。
僕は女性の肩をゆすろうと骨折していない方の手を伸ばす。
――って危ない、セクハラ!
……セクハラ?
この行為はセクハラに当たるのだろうか?
ただ親切心で起こしてあげようとしているだけだ!(←この辺りから脳内での討論)
いや、電車内と言うことを考えればこんなに危険な行為に手を出すことはない!
そもそも、セクハラは酷く曖昧な罪ではないだろうか。
セクハラを受けた人がセクハラだと感じればセクハラになるし、そう感じなければセクハラにはならない。
例えば、赤いTシャツを着て口にバラを咥えて、さらに汗をかいて息の荒い太った人と、同じく赤いTシャツを着て口にバラを咥えて、さらに汗をかいて息の荒い超絶イケメンがいたとしよう。
そして、その両者に電車内でおしりを触られたとしよう。
方や「何興奮してんだよ、変態!」っていう状況。
方や「病気ですか?大丈夫ですか?」っていう状況。
同じ行為をしているのにこうも差が出る。
こんなことがあってはいいのだろうか!?
『△△駅~……』
あ、電車着いちゃったよ。
「ん……ん?あ!」
女性は自力で起きて電車を降りた。
……あるよね、こういうこと。
降りようと思っていた駅で目を覚まして慌ただしく降りるってこと。
そんなこんなで次が僕の降りる駅だ。
僕は降りる準備をする。
と、僕はふと――本当になんとなく前の席を見る。
仕事で電車移動をしている風なスーツ姿の女の人がいた。
その人がメールをしている。
いや、そんなのはどうでもいい。
問題は足だ。
靴を脱いで、足の指をこう……わきわきしている。
……なんかやらしい!
*****
と思ったのが数分前。
僕は電車を降りた。
さて、ここからは徒歩移動だ。
僕は改札を出て住宅街方面へと足を進める。
てくてくてくてく……と、歩いていると、前来た時には見なかったダンス教室が右手に見えて来た。
おばさん達――もとい近所のマダム達が一心不乱に激しめなダンスをしているのがガラス越しで見てとれる。
こう言ってしまうと元も子もないというか……はっきり言って、アフリカの原住民の歓迎の舞にしか見えない。
多分、自分達ではアメリカンな感じで踊っているつもりだろうが、見てる側からはアフリカンにしか見えない。
僕はそんな教室を通り過ぎる。
次に見えて来たのはゲームセンターだ。
通り過ぎる時にちらっと横目で見る。
メガネの少年がじっと脱衣麻雀の前で画面を凝視していた。
健康優良児の証しだ。
ただ、少しは人目を気にしろ!
将来思い出すと恥ずかしいぞ。
黒歴史だ。
そんなこんなでようやく目的地、「Cafe de Vert」に到着した。
いやー、どれくらいぶりだろう。
3ヶ月ぶりくらい?
おしゃれな外観だが僕は躊躇うことなく店に入る。
こういうのってちょっと格好良くない?
「いらっしゃいませ」
店内は薄暗い間接照明で照らされており、オシャレ臭がプンプンする。
「――っと、久寿米木さんですか。お久しぶりですね」
「ええ、まあ」
僕を出迎えたのはこの店の店長さんだ。
見た目は渋くて格好良くてって感じだ。
僕はいつものカウンター席に座り、「いつもの」と言いたいところだが、いつも決まった物を食べている訳ではないので、
「じゃあ……オムライスありましたっけ?」
「ありますよ」
「じゃあそれで」
「かしこまりました」
まあ、定番だよね。
僕はオムライスを頼んだ。
数分後――
「どうぞ」
僕の前にオムライスが置かれた。
「いただきます」
そういって一口食べる。
うん、うまい。
このチキンライスの――(以下略)
*****
時刻は17:00。
僕は家に戻って来た。
だって何もすることないし。
骨折してるし。
それで今はテレビを見ている。
と、
(プルルルル……)
僕のスマホが懸命に身体を揺らす。
まあバイブなんだけどさ。
どうやら音から察するに電話のようだ。
僕は電話を取る。
「はい」
『あ、春希?骨折したんだって?』
電話は友達①からだった。
「まあ。誰から聞いたのさ」
『雨倉だよ。元気ならいいや。気いつけてな』
「もう遅いよ、気をつけるの」
そう言って僕は電話を切った。
と、思ったらまた電話だ。
「はい」
『あ、もしもし?私、――だけど』
電話は友達②からだった。
『久寿米木くん、複雑骨折したんだって?』
「いや、複雑に骨折はしてない。ところで誰から聞いたの?」
『友達①だけど』
……。
僕は適当に話をして電話を切った。
と、思ったらまた電話が掛って来た。
「はい」
『あ、俺、俺!――だけど』
友達③からだった。
「どしたの」
『どしたの、じゃねーよ!春希が腕、粉砕骨折したって聞いたから』
「粉砕してない。ただ折れただけ」
『なんだよー。脅かすなよ!』
僕に言われても。
っていうか骨折も重傷だよ。
「ところで誰から聞いた?その話」
『友達②だけど』
……。
また僕は適当に話を合わせて電話を切った。
(プルルルルル……)
……またか。
僕は通話ボタンを押す。
「はい」
『あ、久寿米木くん!?友達③から聞いたんだけど、腕もげたって本当!?』
「もげてない」
友達④からだった。
僕はすぐに電話を切る。
そして電源も切る。
……。
「伝言ゲームに悪意が混ざっとる!」
わざとかよって言いたくなるくらい不自然な伝言ゲームだ。
最初がしずかから友達①。
そこは正確に伝わっていた。
次からがおかしい。
複雑骨折。
粉砕骨折。
腕喪失。
……。
僕はとりあえずしずかに電話をするために再びスマホの電源を入れる。
と、
(プルルルルル……)
電話だ。
もう怖くなってきたよ。
着信アリみたいな心境だよ。
とか思いつつ、僕は電話に出る。
「はい」
『久寿米木くんが爆殺されたって聞いたんだけど、どういうこと!?』
こっちがどういうことって言いたい気分だよ!
爆殺なんて言葉、歴史の張作霖爆殺事件とかでしか聞いたことないから!
「生きてるよ」
『だよねー。私もまさかとは思ったんだけどさ』
と、友達⑤は言う。
じゃあ、電話するなよ!
言わないけどさ。
僕はまた適当に話をして電話を切った。
ふと時間が気になる。
時計を見ると18:30だった。
なんて無駄な時間の過ごし方をしたんだろうか。
……夕食作ろう。
しずかはそのあとでいいや。
僕はスマホの電源を切って机の上においてキッチンへと向かう――。
*****
「ごちそうさまでした、と」
時刻は20:00。
あのあとありあわせのもので夕食を作り、今は食後だ。
っていうかもう夜か。
今日一日を振り返ってみると、無駄な感じで忙しかったな。
充実感が全くない。
達成感がなんにも無い。
後に何も残らない疲れ方をした。
まあ、休日ってこんなものか。
あ、しずかに電話――はもういいや。
風呂入って寝よう――……。
*****
場所はリビング。
現在23:30。
ついさっきまで風呂に入っていた。
長風呂しすぎた。
しかも食後すぐに入ったものだから吐き気が――おえ。
もう寝よう。
――っと。
スマホ電源入れておかなければ。
僕はリビングのテーブルに置きっぱなしにしていたスマホの電源を入れる。
すると、
「は?」
着信が58件。
メールが240件。
誰からだよ。
僕は確認する。
するとそこに表示されたのは――
「月村……暦」
まずいよまずいよ!
暦の着信&メールをかれこれ数時間にわたって無視し続けてしまった!
僕の背中では、風呂でかいた心地よい汗から夏の夜には丁度いい?冷や汗へと変化する。
と、
(プルルルルル……)
あー……。
僕の休日はまだもう少し続きそうだ。
どーも、よねたにです。
軽いスランプです。
ので、短いですがご勘弁を。
さて、初めての1話完結の物語です。
いや、物語にもなってないですね。
次の話は気長に待ってもらえたらと思います。
感想や評価、指摘等はお待ちしております。
では、また。