第14話 運の悪い日は何をしようと運が悪いと言っても過言ではないのだ(part5)
「なにこれ」
「結婚式で読む両親への手紙」
「ふざけてんの?」
「ふざけてないわよ」
現在の状況を説明。
今日はまだ8月17日。
時刻は23:00。
場所は探偵事務所。
その理由は、数時間前に来たメールだ。
つまるところが――
「さっさと手紙添削しなさいよ!」
と言うことだ。
「僕はもう疲れているんだよ!寝たいんだよ!分かってる?もう夜中だよ、姉さん」
暦としずかが既に帰った事務所内。
事務所内の依頼人用ローテーブルを挟んだ2つのソファーに、僕と向かい合って座っている姉さん――と言っても従姉だけれど、香澄が座っている。
大村香澄。
僕がいろいろとお世話になっている親戚の家の長女。
現在29歳。
割と年が離れている。
見た目なんかは結構若づくりをしているからそうはみえないかもしれないけれど。
その姉さんが、30目前にしてようやくゴールインを果たしたという訳で。
「んなこと言っても結婚式、明後日なんだよ!?悠長なこと言ってられるか!」
明後日結婚式を迎える。
まあ、僕は行かないけれどさ。
本来ならまだ骨折で、絶対安静状態で病院にいるはずだから欠席で返事出しちゃったし。
「……まあ、その言い分は分かったし、今日までだって言っていたのに忘れていた僕にも非があることは認めよう。でもさ、この――この手紙はなんだよ!?」
僕は姉さんに手紙を突き付ける。
「だから、両親への手紙に決まってるじゃん!」
「こんなふざけた内容の両親への手紙があってたまるか!」
僕は香澄が誠心誠意頑張って作ったと豪語する手紙を音読する。
「――お父さん、お母さん、元気ですか?私は元気です。今日まで私を股間の如く大切に育て上げてくれて本当にありがとうございました。お母さん――私が小さい頃、風邪にかかったときはマジでヤバイ薬を飲ませて私を元気にしてくれましたね。お父さん――……いろいろありましたね。2人には沢山心配をかけて来ました。そんな私もようやく結婚式を挙げることが出来ました。でも、結婚しても私はお父さんとお母さんの営みによって生まれた娘です!お父さん、お母さん!いつまでも仲良く元気でいて下さい。これからはそんな2人を見習って、1人前の家庭を築き上げたいと思っています。かしこ――」
「我ながらそこそこいい出来だと思っているんだけど」
「どこがだよ!冒頭から「元気ですか?」って、元気に決まってるじゃん!目の前にいるんだから!「私は元気です」?知ってるわ!」
「分かった。そこだけ直せばいいんでしょ?」
「まだあるよ!「股間の如く大切に」って例えが悪いわ!せめて金――」
「たま?」
「――違う!これじゃだめだ。せめて……宝物とかそういう例えにしなさい!」
「はいはい……よし、出来た」
「出来てない!あと「マジでヤバイ薬」ってなんだよ!?」
「だから良く効く凄い薬って意味」
「そう書けよ!危ない方のクスリかと思うよ!親戚連中、お母さんのこと、じと目で見るからね!?」
「注文が多い……あい、でけた」
「まだ!あと、お父さんがかわいそうなくらい内容薄い!」
「それは……仕方ない」
仕方ないって……。
もうちょっと頑張ってよ。
「なんとかしろ」
「分かったよ……はい、終わり。じゃ――」
そう言って姉さんは帰ろうと腰を浮かす。
が、僕がそうはさせない。
「終わってない!その後の「お父さんとお母さんの営みによって生まれた娘です」って生々しい言い方すんな!お父さんお母さん恥ずかしすぎるよ!」
……結局完成したのは2:00を過ぎた頃だった。
手紙が完成した今思うと、僕のテンションがおかしいな……。
*****
「ってか、最後の「かしこ」いる?」
「あ、それは要らないかも」
どーも、よねたにです。
短くて済みません。
とりあえず、番外的な話と言う意味で読んでいただければと思います。
さて、次回については何も考えていません。
まあ、近いうちに出せればとは思っていますが。
評価や感想、指摘等ありましたらよろしくお願いします。
では、また。