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未来探偵クスメギ  作者: よねたに
再会と和解編
13/65

第13話 運の悪い日は何をしようと運が悪いと言っても過言ではないのだ(part4)

 状況説明。

怪しい依頼の手紙が来て、長野の松本駅まで来た。

すると、その手紙の送り主、つまり依頼主が僕の親で。

僕の右眼を恐れ、僕を捨てた両親で。

その両親が今、目の――いや、眼の前に。

約13年振りの再会だ。

 全く、最近付いていないと思っていたけれど、ここまでとは。

それも13年振りって……。

不吉すぎる!


「久寿米木(おさむ)です。それと妻の――」


有紀(ゆき)です」


 その約13年振りに再会した両親は、今、僕の隣に立っている暦に初対面の挨拶をしていた。


「ご丁寧にどうも。私は月村暦です。久寿米木くんとお付き合いさせていただいています。それはもう昼となく夜となく――」


「だー!もう何を言っているのさ!」


 たまらず僕は暦を止める。

何て事を口走ろうとしていたんだよ!

 って、そんなことより――


「僕の……親?」


 両親が僕を捨てたのは僕が小学1年生の時だ。

正直、両親の顔は覚えていない。

だから、この人達が僕の両親だと自称しても何の確証にもならない。

証拠がない。


「僕達にも積もる話があるし、君達にも言いたい事が山ほどあるだろう。こんなところでは話しづらいだろうしとりあえず、僕達が今住んでいる家にでも行こう。いいかな?」


 男が言った。

まあ、それくらいならいいだろう。

依頼主には間違いないだろうし、なにより駅前で話すような話ではない。


「分かりました」


「ええ、いいわ」


 僕と暦はそう言い、


「では、タクシーでも捕まえてこようか。その方が電車より早い。もちろん、代金は僕達で持つから」


 そうして、僕達はタクシーで自称久寿米木邸へ向かった。



*****



 どれくらい車に乗っていただろうか。

だいたい20分と言うところか。

ようやく僕達は目的地へと着いた。

 僕は車を降りる。


「ふう」


 なかなか息が詰まる。

だれも何も話そうとしないから空気が重いことこの上なかった。

 今、目の前にはかなり大きな家――豪邸と言ってもいいような家がある。

表札を見る。


 久寿米木


 そう書かれていた。

どうやらこの人達は久寿米木さんではあるようだ。

呼び方を変えよう。

 男の方――修さんはタクシーの運転手に代金を渡すと車から降りる。


「ようこそ、我が家へ」


 修さんはそういって僕達の前に出て家へ入って行った。

そのあとを有紀さんが続く。

 僕と暦は顔を見合せた後に、家へと向かった。


「へえ……なかなか立派な家ね」


 暦はそう言った。

僕も同感だ。

 まだ玄関だが、かなり立派だ。

床が大理石で天井も高い。


「さあ、中へどうぞ」


 有紀さんが手招きする。

僕達は奥へと向かう。


「ほー……」


 中はリビングでとても広い。

30畳近くあるのではないだろうか。


「そこへ座って。今、紅茶を入れるから」


 有紀さんはそう言って台所――いや、キッチンへ。

台所って感じじゃないな。

 僕達はすすめられた通り、テーブルへ。

今の構図は僕と暦が隣同士で座っていて、僕の真正面に修さん。

恐らく、その横に有紀さんが座るのだろう。

 しばらくすると、有紀さんが紅茶を持ってやって来た。


「どうぞ」


 そう言いながら、有紀さんは修さんの隣の席へ。


「ありがとうございます」


 暦が律儀に答える。

本当にこういう状況のときだけ真面目になる。

普段からちゃんとしていてくれればいいのに。


「さて」


 修さんが言う。


「多分、春希は今、僕達が本当に親かどうか疑っているのだろう。まあ、状況が状況だ。仕方がないと言えば仕方がないだろう」


 まさしく。

おっしゃる通りで。


「有紀――」


 修さんは突然有紀さんの名前を呼んだ。

すると有紀さんは何かを机の上へ置いた。

それは――


「母子手帳……」


 僕がつぶやくように言う。

有紀さんが置いたものは母子手帳だった。

僕はそれを手にとってページを開く。

 中には僕の名前と様々な情報が書かれていた。


「信じてもらえたかしら」


 有紀さんが言う。

いや――母さん、か。


「……」


 僕は無言でうなずいて、母子手帳を返した。


「では本題へ入ろう」


 修さん――父さんが言った。

が、僕にはその前に聞きたい事があった。


「ちょっといいかな」


「なんだ、春希」


「本題に入る前に……どうして僕を――捨てたのか、聞いてもいいかな」


 僕は聞いた。

正直、もう13年も前の話になる。

怒りはない。

ただ純粋に聞きたかった。


「そうだな。それを知る権利がお前にはある」


 父さんは言う。


「怖かったんだ。僕も、有紀も」


 そう言って、父さんは母さんと視線を合わせた。

 予想はしていた。

両親の顔は覚えていなくても、僕が未来を見ることが出来ると告白し、その事実を目の当たりにした時の両親の目は今でも覚えている。

 腫れものでも見るような眼だった。

子供に向ける眼ではなかった。


「……なるほどね。ありがとう、話してくれて」


「いや、僕達こそすまなかった」


「本当にごめんなさい」


 両親はそう言って僕に頭を下げた。

そして、こう続ける。


「ただ、今では後悔しているんだ。なぜあの時、子供を見捨ててしまったのか。春希だって不安だったろうに、どうして支えてあげることが出来なかったのか、と」


 そんな風に思っていたのか。

まったく考えもしなかった。

子供を捨てたら、その子供のことを考えないでそれっきりなのかと思っていた。


「ここからは本題を交えて話そう」


 そう前置きをして父さんが言う。


「春希を――捨ててから、1年ほどして後悔し始めたんだ。それで、今さら親面は出来ないが春希の眼を研究して直すことはできないかと思い始めたんだ。春希は知らないだろうが、これでも研究者なんでね、昔から」


 初耳だ。

親が研究職の人間だなんて知らなかった。


「だから、僕は研究所を立ち上げたんだ。SH研究所を――」


 SH研究所。

これには聞きおぼえがある。

つい最近聞いた。

 僕は父さんに言う。


「SH研究所って……この間、全焼した?」


「ああ。その研究所だ。そこで僕達の知り合いの研究者を何人か集めて、春希の未来を見る眼について研究していたんだ。しかし、立ち上げてから5年くらいたったある日。僕達は――研究所を追放された。理由は、僕達は春希の眼を治すために研究をしていたけれど、彼らは春希の眼の存在を知り、それを如何に利用するかを考え始めたからだ。僕達は2人だけ。どう頑張っても、勝ち目がなかった。それから、僕達が抜けたSH研究所は、表面上は世の中の為の研究をしているが、研究所の上層部では春希の眼を研究していたんだ。悪い意味でね。未来を見るというのは莫大な利益を生む。そのため、警察の上層部や役人なんかとも繋がりを持ち始めてね。だから、研究所全焼のニュースもあまり細かい情報は流れなかったんだ」


 あの研究所にこんな裏話があるなんて知らなかった。

なるほど。

父さん達が作った研究所だから僕について情報があったのか。


「それで、今回春希達を呼んだのは他でもない。今春希は、研究所にいた上層部の人間に狙われている。つまり、僕達と最初に研究していて、僕達を追い出した人達だ。いまさら親面をしても遅いのは自分たちでも分かっているつもりだ。これはただの自己満足に過ぎない。それでも僕達は春希が心配なんだ」


 父さんは言った。

随分と僕を捨てたことを後悔しているらしい。

 今まで僕は、僕を捨てた両親なんてまともに考えようともしなかった。

でも……少しは歩み寄るべきなのかもしれない。


「分かった。わざわざありがとう」


「お礼を言うのはこっちの方よ、春希。私達の勝手で東京からわざわざ来てもらったりして。本当は電話やメールで済むような内容なのに。月村さんも付き合わせてしまってごめんなさいね」


 と、母さんは僕と暦に謝る。


「いえ、私は自分の意志で来たに過ぎません」


 と、暦は母さんに言った。

こういうときだけちゃんとしている。


「そう……。あ――」


 母さんは暦に返事をすると、何かを思いついたような声を出した。


「お父さん、ちょっと飲み物を買って来てくれないかしら。すぐそこのコンビニでいいから。甘いものが良いわね」


「なんで僕が――」


「いいから、行ってきなさい」


「……はい」


 母さんは父さんに飲み物を買って来るように命令――もといお願いした。

お願いされた父さんはコンビニへ行った。

 すると、リビングは僕、暦、母さんの3人になった。


「さて、と」


 母さんは言った。


「ここからはあの人が話さなかった話と、あの人が話したがらないだろうなーっていう話をしましょう。月村さんも交えてね」


「はあ」


「……」


 暦が珍しく気の抜けた返事をして、僕は無言で応える。


「お父さん、ただ春希を捨てたことを後悔しているとしか言っていなかったけれど、本当のところはかなり、と言うのが前に着く程後悔しているのよ。現に今でも春希の眼について研究を続けているし。それに私達が作ったSH研究所。そのSHはね、「Spring Hope」の略……つまり春希の名前から来ているの。名前を考えたのもお父さんなのよ?」


 それは……知らなかった。


「これがあの人が話さなかった話。で、話したがらない話っていうのは――まあ、私もあまり話さない方が良いのか基は思うけれど、春希ももう大学生だしね。いつかは気がつくことよね。それは――」


 母さんは言う前に僕が言う。

僕には思い当たることが1つあった。


「お金のこと?」


「――って、気が付いていたの?」


「それは、まあ」


 今、僕があの一軒家で生活が出来ているのは僕を引き取ってくれた親戚の人が仕送りをくれているからだ。

家の税金や大学の学費なんかもそうだ。

 僕はそういうのは働いて返しますと言っているけれど、返さなくていいといつも言われていた。

その理由を聞いても、要領を得ない。

 となると――。


「私達の――罪滅ぼしと言うのもあるのかもしれないわね。私達には春希の親としてはそれくらいのことしか出来ないもの。……親戚の大村さんには、毎月春希の為のお金を送っていたのよ。だから、春希は普通になにも心配しないで生活してね。それと依頼料の100万円もちゃっと受け取ってね?」


 親として、何も出来なかった人達の罪滅ぼし、か。

僕の為に後悔してくれた。

僕の為に眼を治そうとしてくれた。

僕の為にお金を送ってくれていた。

僕の為に想っていてくれた。

僕の為に――。


「ありがとう」


 僕はそう、言うことしかできなかった。


「いいのよ。……さて、それでは本題へ入りましょうか」


 ……は?

なに、どういうこと?

良い話で終わったんじゃないの?

このまま場面転換してさ?


「ここまでは春希だけの話よ。このあとは月村さんも交えて、ね」


 何を話すというのだろうか。

嫌な予感しかしない。

 そんなことを僕が思っていると、母さんはぐいっと身を乗り出して言った。


「月村さん。いえ、暦ちゃん!……春希とはどこまで行っているの?」


 今日一番生き生きして見える……。

僕の話よりも。



*****



「ただいまー」


 父さんが帰って来た。


「――と言うような感じで、久寿米木くんとお付き合いさせていただいています」


「なるほどねー。それで春希のことが好きになったのね。それにしても何もされていないなんて、春希はED――あら、おかえりなさい」


 母さんが返事をする。

 僕はようやくこの居心地の悪い空間から解放された。

というのも、母さんが僕と暦のことを眼ほり葉ほり聞いて来て、それに暦が事細かく答えるという、僕としては恥ずかしくて死んでしまいたくなるような状況が15分近く続いていたからだ。

 しかも途中で生々しい話になったりもしていたし。

 っていうか母さん、最後何を言いかけたよ。


「買ってきたよ、甘い飲み物」


 父さんはそう言って、「冷た~い甘酒」と「冷た~いおしるこ」を2本ずつコンビニのビニール袋から出す。


「……なんでその2種類なのよ」


 母さんがじと眼で父さんを見る。


「だって甘い飲み物って言うから」


 2人がそんなやり取りをしていると、隣にいた暦が顔を近づけて小声で言う。


「やっぱり親子なのね」


「……どういうことさ」


「久寿米木くんだって「冷た~い甘酒」と「冷た~いおしるこ」の2種類買ってきたじゃない」


 あー。

駅のときか。


「こういう所を見ていると、やっぱり久寿米木くんとお父さんには同じ血が流れていると思ってしまうわね」


「放っておいてくれ」


 僕はそう言うことしかできなかった。

反論したいような、反論したくないような。

不思議な気分だった。


「あら、何の話?」


 母さんが父さんを口でねじ伏せ終えて聞いて来た。

なんかこういう構図はどこかで見たことがある。

……あ、僕と暦か。


「いや、なんでも」


 僕はそっけなく言った。

 その後は最初の様な重苦しい空気ではなくなった。

僕達がいろいろと厄介な出来ごとに見舞われた話。

父さん、母さんの最近の事。

僕達の事。

暦の事。

色々話した。

13年間の空白を埋めるかのように。

 そんな時間はあっという間に過ぎて、僕達は帰ることになった。

 僕達は今、玄関を出て、母さんが呼んだタクシーに乗り込むところだ。


「またいつでも来なさい。それと、本当にいろいろと迷惑をかけるな、春希」


「ぐすっ……ひっく……ぐじゅぐじゅ……はるきぃ……」


 父さんは言った。

母さんはなぜか泣きじゃくっていて話を出来る状態ではない。


「いいよ、別に。慣れたし」


「そうか……。それと、今まで聞かなかったが」


 父さんはそう前置きをして言う。


「その腕はどうしたんだ?」


「……運の悪い日は何をしようと運が悪いとしか言いようがない出来ごとに見舞われてね」


 僕はそう言って、暦とタクシーに乗り込んだ。



*****



 時刻は20:00。

僕達は今、帰りの電車の中にいる。

 行き程車内は人がいない。

ガラガラと言ってもいい程だ。

 僕達の座席は右列。

 そして、暦は僕の左側に座っている。

どうやら今までも僕に気を使ってくれていたらしい。

今回は僕が窓側だ。


「久寿米木くん」


 暦が僕の方を向いて言う。


「なにかな」


「私はね、好きな人には意地悪な事をしてしまうタイプなのよ」


 暦は唐突に言った。


「知ってるよ」


「そう。……だから、他の人とは「好き」という表現の仕方が違うと思うけれど」


 大分ね。


「私は久寿米木くんのことが好きなのよ」


「……ありがとう」


「久寿米木くんは私のことどう思っているのかしら」


「もちろん好きだよ」


 僕は暦の顔からちょっと目を逸らしながら言った。

照れるから。


「そう。……昼間に、賭けをしたじゃない」


 依頼人はどんな人か当てるってやつね。

結局想定外な人物が来ちゃったけど。


「したね」


「うやむやになってしまったのだけれど、この際だから、お互いどこが好きなのか言いましょう」


 決定事項かい。

言いま「しょう」ってさ。


「まあ、いいよ」


「では、私から言うわね。私は久寿米木くんの全てが好きよ。優しい所、何か起こるとおろおろする所、ボケに突っ込みを入れる所、でもやる時はやってくれる所――全て、ね」


「ありがとう?」


 途中褒められている気がしないのは気のせいか?

ありがとうが疑問形になってしまった。


「久寿米木くんは?」


「僕も暦の全てが好きだよ。厳しい所、弾に優しい所、サディスティックな所、下ネタが好きな所、僕のことを好きだと言ってくれる所――全て、ね」


「途中は褒められている気がしないのだけれど」


「まあまあ。……ところでどうして急に?」


「私達、一応付き合っているじゃない。でも、それらしいことを何もしていなかったから」


 なるほど。

すこし不安に思った、と。

という僕も少しばかり不安だったけどさ。

 ホントに付き合っているんだよね?って。


「久寿米木くん」


「ん?」


「帰ったらデートをしましょう」


「そうだね。そうしよう」


 そう言って僕達は前を向いたまま、何となく、本当に何となく、手を繋いだ。


「……」


「……」


 暦が左側に座ってくれてよかった。

右腕は骨折中だし。 

と、そんなことを考えていると


「ん?」


「どうかしたの、久寿米木くん」


「いや、ちょっと」


 そう言って僕は暦と繋いでいた手を離す。


「メールが来た」


 僕は暦に一言言って、スマートフォンを操作する。


「誰からなのかしら」


「うーん……しずかからだ」


「あの雌豚風情が……」


「え?」


「なんでもないわ。それで何と書いてあるのかしら」


「えーと、「今、春希の従姉だという人が来てる!早く結婚式で使う手紙添削しろって言って来て超大変!早く帰還されたし!」……」


「あったわね、そんなもの」


「忘れてたー!」


 こうして僕達を乗せた電車は面倒事が待っている事務所へと近づいていく――。

本当に最近ついてないな……。

どーも、よねたにです。


とりあえず運の悪い日は――編はこれで終わりです。


次は明るめの話になるように頑張ります。


でも次回はいつになるのでしょうか……?


では、また。

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