第11話 運の悪い日は何をしようと運が悪いと言っても過言ではないのだ(part2)
8月15日。
現在の時刻は11:45。
昼ちょっと前。
僕は今、病院のベッドの上にいる。
なぜ?
骨折したからだよ!
「しかも全治2カ月って……。なんてことをしてくれたんだよ。ねえ、雨倉しずかさん?」
僕はベッドの横のパイプ椅子に座るしずかに向けて嫌みたっぷり含めて言った。
「いやー。本当にその件については海よりも、乙女の恋心よりも深く反省している所存でございますので、どうか久寿米木様の慈悲深い御心でお許しを――」
例えが解りづらいし。
乙女の恋心ってどれくらい深いんだって話だよ。
「どの口が言うんだよ!お前のせいだ、お前の!なにが「人体の神秘」だ、バカたれが!腕折れてんだよ!そりゃ360度曲がるし、ちょっとは腕伸びるよ!」
僕は思い出す。
しずかが僕の体を人体の不思議展か何かと勘違いして、いじくりまわした昨日の忌まわしい記憶を。
「本当に申し訳なく――」
「痛いって言ったよな?痛い痛いって叫んだよな?なにが「ヒーハー!」だよ!」
「……」
「確かに、人が骨折とかすると若干テンション高くなるのは分かる。分かるけどさ、「ヒーハー」とか何言ってんの?それで完治するまで倍になっちゃったからね!?」
「も……」
しずかが何か言った。
が、小声過ぎて聞こえない。
「も?」
僕がもう一度という意味を込めて聞き返す。
すると――
「申し訳なく思ってるってゆうとんじゃ、ぼけー!!」
そう言ってしずかは僕の病室を出て行った。
「逆切れすんな!」
僕はしずかの出て行った扉に向かって叫んだあと、ベッドに横になる。
現在、僕の病室にはしずかがメロンをむき出しでそのまま持って来るという暴挙にも近い、もっと気を使って欲しい見舞の最中だった。
ちなみに物凄い大声で叫び合っていたが、個室なので問題はない、と思う。
コンコン。
「入ってもいいかしら」
と、今度は暦が見舞いに来た。
「ん、どうぞ」
僕がそういうと暦は僕のベットの傍の椅子に腰かける。
「災難だったわね、久寿米木くん」
「災難なんてレベルじゃないよ。僕なんてしずかのせいでプリンセス天功も真っ青の腕が360度曲がるイリュージョンをやってのけることになったんだから」
「……プリンセスティンコー?」
「プリンセス天功!聞き間違えが酷いな、最近!」
「ああ、ごめんなさい。わざとではないのよ?」
「わざとだったら悲しくなるような間違え方だよ……」
僕の彼女がわざとエロく聞き間違えるなんて考えたくもない。
どんな変態性の持ち主だよ。
「それで、腕の具合はどうなのかしら」
「全治4週間が2カ月に延びたよ」
「それはご愁傷さまね」
一言で片づけられた。
涙が出て来るよ!
「そういえば、最近の医療の進歩はすごいね」
「どういうことかしら」
「例えば、このギプス見てよ」
「それがどうかしたのかしら」
「ここ」
そう言って僕はギプスの真ん中あたりを押す。
すると、パカッと言う音と共にギプスが開く。
「……小物入れ……かしら」
「そう、小物入れになっているんだよ!これ意外と便利でさー。やっぱり日本の医療は最先端だね」
「これは医療なのかしら。主婦のアイディア商品とかにありそうなのだけれど」
「レベルが違うよ!」
「……そう」
暦が僕を哀れな子ヒツジでも見るかのような目で見た。
なんでだろう。
「そんなことより、久寿米木くん」
「なにかな」
「テレビを付けてもいいかしら」
「あー。うん」
「ありがとう」
そういって暦は病室の型落ちしたブラウン管テレビのスイッチを入れた。
まあ、何を見るかは予想付いているさ。
言わないけど。
ミシマ(以下ミ)『みなさん、こんにちは!司会のミシマです』
オオクラ(以下オ)『コメンテーターのオオクラです』
ミ『いやー八月ももう半ばで、暑さ真っ盛りですね』
オ『そういえば、私事なんですが』
ミ『なんですか(←面倒臭そう)』
オ『このたび結婚することになりました』
ミ『あ、それはおめでとうございます。面倒臭そうに「なんですか」とか言っちゃってなんかすみません』
オ『あ、そんなに謝らないでください。僕が悪い人みたいになっちゃうので。まあ、昔は悪い人ではあったんですが。そして、ありがとうございます』
ミ『結婚式は?』
オ『これからなんですよ。それでですね、僕、婿に行くんですが』
ミ『あ、そうなんですか。珍しいですね』
オ『ええ、まあ。それでですね、本来ならば花嫁の手紙なんですが、花婿の手紙を書かなければいけないんですよ』
ミ『なるほど。結婚式の涙場面、一番いいシーンですね』
オ『ええ。それで、一応作っては見たんですが、ちょっと不安な所があるので、見てもらってもいいですか?』
ミ『えーと、全国放送の生放送なんですが……よろしいんですか?結婚式で読むものですよね?』
オ『ええ。もちろん、最後の仕上げは自分でやりますよ?』
ミ『まあ、私なんかで良ければ』
オ『ありがとうございます。それでは――』
*****
オ『母さん。そして、元父さんの現母さん』
ミ『複雑な家庭なのはその文章で物凄く伝わっては来るんですが、普通に父さんでいいんじゃないですか?そこは』
オ『こんにちは。それともこんばんは、かな?』
ミ『あ、無視ですか。そういう方向ですか。それと、配達の手紙じゃないんですから。結婚式で読むんですよね?』
オ『大安きちじちゅ……きちじゅつ……きつ……きぃ……きちぢてゅ――』
ミ『読めないなら書かなきゃいいのに』
オ『今日この日から僕は、家から――いつもの食卓からいなくなります。寂しい思いをさせるかもしれないけれど……そこは、ごめん』
ミ『変えたよ。でも、なんかいいですね』
オ『僕は、僕の出張先だった発情島で彼女に出会いました』
ミ『……八丈島って言いたかったんですかね』
オ『最初に交わした言葉は、彼女が言った「ここ、犯して下さい」でした』
ミ『……なんかニュアンスがおかしい気がします。多分「ここ、置かして下さい」なんでしょうね』
オ『そんな始まりから、早2年。僕達は結婚します。そして私、オオクラは婿――いや、お婿さんに行きます!』
ミ『そんな「お嫁さん」みたく無理に言わなくても。語呂が悪いですね、なんとなく』
オ『母さん、そして父さ――あ、ごめん、母さん』
ミ『徹底しているんですね。お父さんをお母さんを呼ぶこと』
オ『今まで、沢山の迷惑をかけたかもしれないけれど……本当にありがとう!そして、これからもよろしくお願いします!』
ミ『あ、最後普通ですね』
*****
オ『とまあ、こういう感じの流れなんですが、どうですか』
ミ『情報番組のオープニングトークにする内容ではないと思います。というかそろそろニュースをやりましょう。最初のニュースはこちら!「危険思想宗教団体の世理教の幹部、逮捕」!――』
*****
「へー。オオクラさん、結婚するんだ」
意外だ。
あれだけ訳のわからない犯罪歴や学歴を持っているのに。
世の中、何があるか分からないものだ。
そして、暦もこれには同意見のようで、
「本当に意外ね。私だったら前科持ちで高校を4年間、大学を7年間やって居た人なんて願い下げだけれど」
誰だってそうだろう。
――って!
「論点がずれている!」
「なによ久寿米木くん。うるさいわね」
「世理教のこと!ニュース!」
「まあ、当然ではないのかしら」
僕達はもう一度テレビを見る。
ミシマ『えー今日の警察の記者会見で、「世理教」と言う宗教団体の幹部が8月12日に京都にある「SH研究所」――その研究所については詳しく報道陣にも知らされていませんが、「SH研究所」という研究所を全焼させ、翌日には東京の大学生に意味不明な言いがかりをつけて殺そうとした容疑が掛っています。今回逮捕されたのは、世理教の教主である林容疑者と世理教の幹部、森容疑者です。現在は警察で取り調べが行われていますが、未だに「未来を見る人間はこの世にいてはならない」等、意味の分からない妄想ともとれる発言を繰り返しており、取り調べの長期化が予想されます』
……妄想、ね。
まあ、普通はそうなるよね。
「久寿米木くんの存在はファンタジーらしいわよ」
暦がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて僕に言う。
「仕方ないだろう。未来が見えるなんて普通は誰も信じられないさ」
そして、研究所についてようやく名前が解った。
SH研究所というらしい。
そこで、林と森と玲さんが働いていた。
僕についていろいろ調べていたらしい。
僕は暦のいやらしい笑みを受け流して、考える。
あの研究所では僕のことを探り、僕の能力を科学的に解明して、機械か何かで実用化し、未来のテクノロジーを現代で発表し利益を得ようとする計画が漠然とだがあった、と林が言っていた。
恐らく、利益の額も莫大だっただろう。
するとひょっとして、まだその計画を実行しようとしている元研究所職員がいる……?
死傷者はゼロと玲さんも言っていた。
誰も死んでいない。
いなくなっていない。
と言うことは、幹部などのお偉い方もいる。
危機はまだ去っていない……のか?
そもそも「SH研究所」とは何なのか。
いったい何を研究していたのだろうか。
目的が全く分からない。
「久寿米木くん、考えているところ悪いのだけれど」
と、暦が言った。
僕は考えることをとりあえず中断し、聞く体制に入る。
「なにかな」
「あなたのお母さんに頼まれていたものを忘れていたわ。これよ」
そういって暦は僕に1つの白い封筒を渡してきた。
「これは?」
聞きながら僕は封筒を受け取る。
「あなた宛ての手紙が届いていたらしいわ。それで、ここに来る途中に久寿米木くんの知り合いだと言う中年の女性に偶然逢ったときに渡しておくよう頼まれたのよ」
中年の女性て。
多分大村さんのことだろう。
一人暮らしをするまで僕がお世話になっていた家の奥さんの。
僕は手紙が誰から来たのかを確認する。
「あー……親戚だ。従姉の人」
僕は封筒を開ける。
すると中からは――
「結婚式の招待状?それと――手紙?」
とりあえず僕は何が何だか分からないから手紙を読むことにした。
「えーと。……「久しぶり。元気にしていましたか?突然ですが、私は結婚することになりました。1つ年上のカッコいい旦那さんです。つきましては、大学では文学部の春希に結婚式での両親への手紙の添削をお願いしたいと思いまして、結婚式の招待状と一緒に送らせてもらいます!添削よろしく!P.S.17日に手紙を取りに行きますのであしからず」……ってなにこれ」
読んでも解らなかった。
「要するに手紙の添削でしょ。それくらいやってもいいのではないかしら。確か久寿米木くん、大学の成績、そこそこ良かったはずよね」
「まあね」
「少しは謙遜しなさい。いらっとくるわ」
そう、僕はなんだかんだで大学の成績はそこそこいいのだ。
暦よりも、ね。
やるときはやるんだ!
と、そんなことを思っていると、
ガラッ!
物凄い勢いで病室のドアが開いた。
「何で追いかけてこないのよ!」
雨倉しずか、再登場。
何で追いかけてこないのよ、って理不尽すぎでしょ!
僕はしずかのせいで病院送りでベッドで安静にしていなきゃいけないのに!
「追いかけられないんだよ!しずかのせいで!」
「くっ、盲点!」
「くっ、盲点!じゃねーよ!」
察しろ!
「あら、雨倉さん。その手に持っている物は何かしら」
そんなやり取りをしていた僕達とは別に、冷静な暦がしずかの手に何かが握られていることに気付く。
たしかに何か持っているな。
なんだ、あれ。
「え?ああ。これは、さっき事務所の方に行ったら、手紙が来ていたからとりあえず持って来たのよ」
「事務所に?」
僕は言う。
事務所に手紙って……。
「そう」
しずかは暦に手紙を渡す。
そして、病室にあるもう1つのパイプ椅子を持って来て、暦の隣に座る。
「あら、これは――」
手紙を開けて呼んだ暦が言う。
なになになになに?
もう、面倒な事になる予感しかしないよ!?
「なんだったの?」
しずかが聞く。
暦は今日で何度目か分からない、いやらしい笑みを浮かべて、
「依頼よ」
と、言った。
うわー!
来たか。
っていうかもう来たのか!
早いよー。
「あ、わたしじむしょのほうでじむしごとをしなくちゃいけないんだったー(←棒読み)」
依頼のことを聞いたしずかは、片言でそう言って、病室からそそくさと出て行った。
「あら、雨倉さん行ってしまったわ」
そう言って暦は僕の目を見つめて来る。
「困ったわね。雨倉さんは仕事があるというし。この依頼は私一人では出来そうにないわね」
「……」
「本当に困ったわ。どうしたらいいのかしら」
「……」
「……久寿米木くん」
「……はい」
「手伝いなさい」
「……は、い」
強制参加。
僕の意志は尊重されることがないらしい。
僕、病人なのに。
全治2カ月なのに。
安静にしていないといけないのに。
まあ、仕方がない。
恋人の頼みだ。
「それで?」
僕は聞く。
「どんな依頼なのさ」
「長野」
「は?」
「長野に行かなければならないのよ」
ん?
おかしいぞ?
この市内に「長野町」とかはないはずだぞ?
「この辺に長野って地名あったっけ」
「久寿米木くん、現実逃避は見苦しいわよ。長野県よ、長野県」
「まじで?」
「マジよ」
これはなかなか骨が折れそうだ。
って、もう折れてるかー!
ははは!……はあ。
「で、依頼の内容は?」
「現地で説明するって書いてあるわね」
現地説明って……。
怖すぎる!
それにしても長野県かー……。
楽な依頼だといいなー……。
僕はそんなことを思いながら、起こしていた身体をベッドにを預けた。
どーも、よねたにです。
遅れました。
随分前からストックは切れていまして、それでも目安として3日以内に次の話を出すようにはしていたのですが・・・。
ちょっと、忙しくて書く時間がありませんでした。
第11話まで来ました。
次回はいつになるのでしょうか・・・。
ただ、ちょくちょく改稿はしていくつもりなので、暇があれば以前の話も読んでみてください。
感想、評価等お待ちしております。
では、また。