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未来探偵クスメギ  作者: よねたに
再会と和解編
10/65

第10話 運の悪い日は何をしようと運が悪いと言っても過言ではないのだ(part1)

 8月14日。

 僕と暦が恋人同士となった次の日。

 時刻は10:00。

まだ太陽が真上に来ていないにも拘らず、物凄く暑い。

普段なら僕はまだ、エアコンの点いた部屋で寝ている時間だ。

 そんな僕は今、暦が死んだ親戚から譲り受けた探偵事務所のあるビルの前にいる。


「あー暑い……。コンクリートゥジャンゴーが恨めしいわ……」


 背中を丸めてだらしないとは思いながら、僕はビルを見上げる。

見上げると言ってもそれほど高い建物ではない。

3階建のまだ新しいと呼べる程のそこそこキレイなビルだ。

 1階には「パラダイスマート」と言う名前のコンビニエンスストアが入っている。

名前を見れば分かるが、個人経営の店だ。

こんな派手な名前のコンビニが全国各地にあってたまるか!

 2階には「喫茶ブラジル」という喫茶店。

おととい入った喫茶店だ。

まさか、こんな展開になるとは思ってもいなかった。

 そして3階に探偵事務所がある。

看板にはこう書かれている。


 「久寿米木探偵事務所」


 全く、暦め……。

これは軽い羞恥プレイなのだろうか。

彼女じゃなかったら張り倒すレベルだぞ、これ。

 僕はそんなことを思いながら、3階の事務所へと上がった。


「ちーす」


 暑さでちょっとキャラが崩れた。

普通の僕じゃないな。

……まあいい。

 僕は事務所内へと足を踏み入れた。

室内は段ボールなどが散乱していて家具もまだなかったが、床や壁、照明を見る限りとても重厚感あふれる、19世紀イギリス風な、如何にもとした探偵事務所だった。

 室内の広さは小学校や中学校の教室2つ分程と言ったところか。

まぁ、割と広い。

 おっと、キッチンまで付いているのか。

キッチンにはフライパンや圧力鍋と言った調理器具が既に置かれていた。

 僕は周りにも目を向ける。

 床はよくわからないけれど、大理石風のタイル。

風なのか……?

壁はよく分からない柄だけど近寄りがたい感じ。

金持ち芸能人のお宅拝見とかで見たような……?。

照明も……ちっさいシャンデリアチックな感じ。

これは蛍光灯じゃない……!


「あら、久寿米木くん。割と遅いのね」


 中には既に暦がいて、床をクイックルワイパーで華麗に掃除していた。

そして早速文句を言われた。


「普段この時間寝ているんだ。十分早い時間だよ」


「一体朝勃ちの処理に何時間かけているのよ」


「その突っ込みは不適切だ!」


 一発目から下ネタかい!

今日は随分飛ばしてるな。


「久寿米木くん。ぼさっとしていないで片づけられる所だけでも片付けてちょうだい。もう少ししたら荷物が届くから」


「はいはい」


「その返事は幼児プレイを希望しているのかしら」


「違うよ!」


「なら返事は一回よ」


「……はい」


 なんなんだ、一体!?

僕が一体何をした!

僕達、付き合っているんじゃないの!?

そうしたらもっとこう、恋人っぽい会話とかあるじゃん!

 僕は近くにあったバケツに水を汲み、雑巾で窓を拭き始める。

まずは水拭き。

次に空拭き。

その繰り返し。

 暦は僕の後ろでクイックルワイパーを魔法ステッキの如く操っている。

ちゃんと掃除しろよ!

言わないけどさ。

と、


 ピーンポーン


 どうやら家具などが届いたらしい。

暦が入口の方へと向かう。

 僕も掃除の手を休めて、入口の方へと向かう。

 

「あ、どうも。家具家電をお届けに参りました」


 僕が着いたとき、暦がちょうど配送業者と話していた。


「分かりました。とりあえず全て中に入れて下さい。あとは全て私たちがやりますので」


「では、トラックの方から運んできますので少々お待ち下さい」


 そう言って、配送業者数人はトラックへ荷物を取りに行ったかと思うとあっという間に荷物を持って戻って来た。


 数分後――。


「以上で全てになります。こちらにサインをお願いします」


 暦がサインをする。


「はい。ありがとうございました」


 そう言って配送業者数人は帰って行った。

かなり速かったなー。

これだけの荷物をたった数人でなんて……。

 今、室内には大量の大型家具家電がある。

テレビ、冷蔵庫、デスク2つ、椅子2つ、ローテーブル1つ、ソファー2つ、本棚1つ、食器棚1つ――。

今、目に入るだけでそれだけがある。


「さて、久寿米木くん。これを私の指示する位置に正確に配置してくれないかしら」


「え、全部僕がやるの?」


 物凄い量があるんだけど……。

さすがに1人じゃ無理じゃないか?

 僕は言葉にしないで表情で伝えようとする。


「ええ。全て久寿米木くんがやるのよ。それとも何かしら。彼女のか弱い細腕でこんなに大きくて重い物を運べというのかしら」


 全く駄目だった。


「……分かったよ。運べばいいんでしょ」


「そうよ。運べばいいのよ、運べば。分かっているじゃない。無駄な抵抗は無駄なのよ」


 こうして僕は作業へと入った。

まずは壁際に配置する本棚や食器棚を運ぶことにした。

が、さっそくもう挫折しそうだ。


「お、重い……んですけど暦さん」


「だから?」


 暦は荷物を包んでいるプチプチを剥がして、潰していた。

作業している――といえば作業している。


「……もういいです」


 僕は諦めた。

本当に僕のことが好きなんだよね?

すっごい不安になってくる。

 僕は作業を続行する。

しかし、どうやって動かそうか……。

壁際までは意外と遠い。

 そういえば、イースター島のモアイ像とかってどうやって運搬されたかよく分かっていないらしい。

説としては、像を横にして下に丸太をしいて、丸太を転がして運搬させた説とか、モアイ像を立てたまま、ちょっとずつずらして動かした説とかいろいろあるらしい。

 こういうのって不思議だよね。


「久寿米木くん、早くしないと日が暮れるわよ」


 僕は暦の声で現実に引き戻された。


「分かっているけどさ……」


 本当に重いんだよ!

この本棚とか、結構高そうな材質で出来ているしさ。

本当の木だもん、しょうがないじゃないか!


「あのー……」


 僕は暦に声をかける。


「なにかしら」


「手伝ってもらえませんかね」


「……しょうがないわね」


「ありがとうございます!」


「ただし」


「え?」


「条件があるわ」


「なにかな」


「私にキスしてちょうだい」


「えー!?」


 「えー」だよ。

それ「えー」だよ!


「嫌なのかしら」


「いや、嫌じゃないけれどさ」


「嫌ではないのならしてくれないかしら。昨日、私からはしたのだから」


「……したら手伝ってくれるのかよ?」


「もちろんよ。女に二言は無いわ」


「本当に?」


「ええ。女に二言は無いわ」


 女に二言は無いわって2回言ってるじゃん!

二言、しちゃってるじゃん!

まあ、言わないけどさ。


「分かったよ」


 僕は暦に近づいていく。

なんで本棚運ぶのを手伝ってもらうのにこんなことを……。

一体僕が何をした!

いくら2人しかいないからと言っても、恥ずかしいよ!

 そんなことを考えていたら、いつの間にか暦が目の前にいた。


「さあ、どうぞ」


 そう言って暦は目を瞑る。

うわー、やばい。

今まで何となくレベルでしか暦を意識していなかったから気付かなかったけれど、暦、めっちゃ可愛いんですけど!?

こんなに可愛かったっけ?

あ、いつも毒舌しか吐かないから気が付かなかったのか。

 それにしても、だ。

この状況、キスしないとだめだよね。

ダメだよね!?

 僕は意を決して暦の唇にそっと――。


 バアン!


 え、なに!?

入口の方!?


「ちょっとまったぁー!」


 聞いたことのある声が聞こえる。

しずかだ。

 僕は慌てて暦から離れる。

暦はなんだか機嫌の悪そうな顔をしていた。

 しずかが、こっちへやってくる。

正確には僕の所へ――。


「おいこら、てめー。何してる」


 こんなに乱暴な言葉遣いだったかしらー?

もうちょっと柔らかい感じじゃなかった?


「えーっと、そのー……暦の鼻から鼻毛が――」


 と、僕が苦しい言い訳をすると、


 ズダム!!


「かはっ!」


 僕は暦に蹴りを入れられた。

お腹に思いっきり。

息が……出来ない……よ!

 僕はひざから崩れ落ち、お腹を押さえてうずくまる。


「久寿米木くん、するならもっとまともな言い訳をしなさい」


 これしか思いつかなかったんだよ!

と、言いたいのだが息が出来なくて言葉にできない。

 オフコース現象……?

もう自分でも何を考えているのか分からない。


「ちょっと!あんたが蹴りいれちゃうから、春希から聞き出せなくなっちゃったじゃない!」


 しずかが暦に文句を言う。


「では、代わりに私が答えてあげるわ。久寿米木くんは私に襲いかかろうとしていたのよ」


 ちょっと暦さーん!

何を言っているんですかね!?


「童貞をこじらせていたのでしょうね。久寿米木くんは持て余した性欲の丈を私に――」


「うわあああ!!」


 バン!バン!バン!バン!バン!バン!チャキ、ポイ、コロコロ……。


 しずかは暦によって90%以上誇張された話を真に受け、持っていたガスガンを僕の方へ連射させた。


「うわ、ちょ、まっ!」


 危なっ!

 僕はうずくまり、お腹の激痛に耐えながら弾丸から身を守る。

その甲斐あってか、弾丸はすべて僕を逸れて床に当たる。

そして、床は何故か全く傷がつかない。

……これ、本物の大理石?

 と、僕はあることに思い至る。

さっき、弾丸の発射音の最後に変わった音がしたような……。

戦争物の映画とかで聞いたような音。

 僕は視線を少し上げて床を見渡す。

そこに、小さなパイナップル(色が緑っぽくてごつごつしている)を見つけた。


「これだけ本物!?」


 僕は痛みを忘れてパイナップル――いや、手榴弾を拾って外――はだめだ。

外は閑静な住宅街だ。

マジでヤバイ騒ぎになる。

 僕は室内を見渡して、キッチンに目を止める。


「暦、圧力鍋!」


 暦にそう言うと、暦はすぐに理解しキッチンへ行って圧力鍋を僕に放る。

僕はすぐにその中へ手榴弾を入れて蓋をきつく締める。

そして、近くにあった食器棚へ放り込み、扉を閉める。

 この間約5秒。

と、直後――


 ズドォン!


 食器棚の扉が吹き飛んできた。

 僕の方へ。

僕は慌ててそれを避ける。

食器棚がかなりしっかりした木で出来ていたため、破裂して木っ端微塵になった圧力鍋の破片が突き刺さり、飛び散らないで済んだ。

 被害状況。

食器棚が駄目になった。

それから圧力鍋が跡形も無く消しとんだ。

死傷者0。

 意外と何とかなった。


「はあああぁぁ……」


 僕はその場にへたり込んだ。


「ナイス判断ね、久寿米木くん」


 キッチンにいた暦が僕の所へやって来た。

しずかはいつの間にか、入口の方へ避難していた。


「意外と、なんとかなるもんだね」


「あれが圧力鍋じゃなかったらどうなっていたかしらね」


「確かに」


「それに食器棚も木製の立派なものだったからよかったけれど」


「確かに」


 本当に、運が良かった。

……いや、運は悪いだろう。

ただの不幸中の幸いだ。


「いやーごめんごめん」


 入口の方へと非難していた事件の当事者が戻って来た。


「ごめんで済んだら警察も裁判所も軍隊も兵器も要らないよ」


「確かに」


「っていうか何で手榴弾なんて持っていたんだよ」


「メイドイン私」


「手作りかい!」


 もう怒る気も失せた。

それよりも、なんで――


「なんでこんなことをしたんだよ」


 僕が静かに聞いた。

すると意外にも、


「雨倉さん、ちょっと話があるのだけれど。そうね……キッチンまで来てもらってもいいかしら」


 暦がしずかに話があると言って声をかけた。

あれだけ仲が悪かったのに。

なんだかんだ言っても、多少は仲が良くなってきているのか。

 2人はキッチンへと移動した。

手持無沙汰になった僕は――。

 うん、とりあえず片付けよう。

飛び散った元食器棚の破片を――。



*****



「私はまだ――の事、諦めないからね!覚悟していなさいよ!」


 僕が破片を一通り片付け終わっり、本棚は無理だったのでデスクを運んでいた頃、キッチンの方からしずかの声が聞こえて来た。

諦めないってなんのこと?


「ええ、精々頑張りなさい」


 と、暦の声も聞こえて来た。

暦にしては大きな声だ。

珍しい。

 どうやら話が終わったようだ。

2人がキッチンの方から戻って来た。

 なんだか、清々しい顔を2人共がしている。


「おかえり。何の話だったの、とか聞いてもいい?」


「いえ、久寿米木くんには聞かせられない話よ」


「そうね。春希には言えないわ」


 どうやら、僕には内緒の話らしい。


「あと、それから。私達、和解したから」


「へー。それは良かった」


「「ねー」」


 ここまで仲よくなられると逆になんか……ね。

気持ち悪い感じがする。

今までなんで不和だったのか物凄く聞きたい。

聞かないけどさ。

と、


「あ、春希、前!前!」


「え?」


 ドン。ヒュー。ズドン。バン。バタバタン。バキ。


「うおおおおおお、痛い痛い痛い痛い!」


 状況を説明しよう。

僕は2人を見ながら――つまりよそ見をしながらそれなりに重いデスクを運んでいた。

そうしたら、いつの間にか僕の前には本棚が。

それに気がつかないで進む僕。

それに気がついたしずかが僕に慌てて声をかける。

が、時すでに遅く。

ドンとぶつかり。

ヒューと本棚が倒れてきて。

バンと僕の前にあったデスクに当たって、その上でぐるんと1回転してから僕にぶち当たり。

その本棚によりバタと僕が床に倒れ、僕の右腕にバタンと本棚が落ちて。

バキと僕の右腕から音がした。

 だめだ、上手く説明できている気がしない!

それも腕が痛いからしょうがない!

しょうがないんだ!


「ちょっと春希、大丈夫!?」


「とりあえず、腕の上に乗っている本棚をどかしましょう。雨倉さん、手伝ってくれるかしら」


「分かった!」


 そう言って2人は僕の右腕にずっしりと乗っている本棚をどけた。

 っていうか、暦冷静すぎないか?


「で、大丈夫なのかしら。久寿米木くん」


「おうおう、右腕がいかれちまってらあ!はは!」


「大丈夫じゃないよ!超痛いんだから!あと、しずかのテンションとキャラが、骨折という非日常に出会っておかしくなってるよ!?もっと僕に優しさを見せてよ!」


「こんな時に「やらしさを見せてよ!」なんて、とんだ変態ね、久寿米木くん」


「聞き間違えないで!優しさ、優しさ!」


「ほー!腕が360度曲がるぜ!人体の神秘だぜ!」


「痛い痛い痛い!ここは人体の不思議展じゃねえよ!早く救急車を呼んでくれ!」


「お、腕がのびるぜ?ゴムゴムの実でも食べたのか?ヒーハー!(←腕の骨が完全に折れた)」


「ぐあぁ……」


「あら、久寿米木くんが気絶してしまったわね」


 このあと、さすがにまずいと思った暦が救急車を呼んでくれた。

しかし、このあともしずかの妙なテンションの高さが続き、本来なら全治4週間程の所が全治2ヶ月にまで延びた。

どーも、よねたにです。


プロローグも終わって、ここからが本編です。


が、まあまだ日常編です。


事件等はもうちょい先になります。


基本コメディーなので暗くなり過ぎないように、テンポよく読めるように書いていければと思っています。


感想、評価等お待ちしております。


では、また。

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