救国の魔導士と4人の花婿ー溺愛ヤンデレ夫達と最強パーティーを築くまでー
『歴代最強の勇者』
そう呼ばれた魔術師を、あなたは知っているだろうか。
光輝く魔法陣に包まれ、なびく赤茶のワンレンショート。
「【天災級魔法】スーパーノヴァ・エクスプロージョン」
力強い声に合わせ降り注ぐ隕石。大地を揺るがす轟音と、圧倒的な魔力の渦。
それに貫かれたものに与えられるのは、『死』ただ一つだけ。
「SS級ドラゴン、討伐完了っ! いやー、骨が折れたよね」
細められる黄色の瞳。その姿を見守る4人の影。
「お前一人で突っ走りすぎなんだよ。……まあ、お前が強いことはわかってるけどさ」
黒髪の男は拗ねた様子で両手剣を鞘に納める。
「流石アリシアだね。……僕も、負けない様に頑張らないと」
薄緑髪の小柄な男は、憧れの混じる目で彼女を見上げる。
「君が強くなるたび、俺の仕事が減るから困るな。怪我がないのはいいことだけどね」
銀髪の男はガタリと音を立て、大きな盾を魔法で収納する。
「ふふ、最初は俺の方が強かったはずなのに、いつの間にか抜かれちゃったかな。お兄さん、ちょっと困るかも」
金髪の男は飄々とした笑みを浮かべ、わざとらしく肩をすくめる。
女はゆらりと振り向いて、ドラゴンの上から4人の男を見下ろした。
「当然でしょ? 私はみんなのリーダーで、みんなを守る『妻』なんだから」
にやりと不敵な笑みを浮かべる女。
この女こそ、伝説の勇者・アリシア。
曰く、回復魔法も攻撃魔法も、物理戦闘すらこなす女傑
曰く、4人の男を平等に愛し、愛された女王
曰く、平民から公爵に成り上がった実力派シンデレラ
これはそんな彼女がただのありふれた冒険者から、誰よりも愛された世界最強の勇者になるまでの成り上がりストーリーである。
* *
ゆらゆらと揺れるランタンと、暖かな暖炉の火。私はソファに腰掛けて、4人の夫と今後の作戦を立てていた。
「次のクエストはS級モンスターの討伐。状態異常が効く筋力タイプだから、エドの出番かな」
エドは私の膝に乗せた頭をぴくりと揺らす。
「えっと……アリシアがそういうなら、僕、頑張るね」
「ん、いい子だね」
私がすっと顎を撫でると、エドは嬉しそうに目を細める。
「頑張ったら……ご褒美に、たくさん撫でて欲しいな」
「……エド、お前甘えすぎじゃねぇ?」
背後から聞こえる不機嫌そうな声。そちらを向くとレオンがむすっとした顔でエドを見ている。
「えー、いいと思うけど。ご褒美あった方がやる気出るでしょ?」
「ふぅん……その理論でいくと、俺も頑張ったらご褒美がもらえるのかな?」
窓際でワイングラスを傾けるアレク。どこか茶化すような言い方をしているが、こちらに向けられた瞳はどこまでも熱っぽい。
「なら、誰がご褒美を貰えるか競争、と言ったところだね」
私の右側に腰掛けたギルは、面白そうにくすくすと笑う。
「どうやらレオンは褒美が欲しくないみたいだが……俺は面白そうだから参加したいな」
ギルは揶揄うように背後のレオンを見る。レオンはピクピクとこめかみを動かして、キッとギルをにらみつけた。
「べ、別に? 俺はご褒美なんていらねぇけど? そんなもんのために戦ってるわけじゃねえし?」
「じゃあ、レオンはご褒美いらないの?」
私の声に、レオンはぐっと息を呑む。
「お前がくれるっていうなら……まあ、もらってやらないことも、ないけど」
相変わらず、素直じゃないんだから。
でもそれが可愛くて、私は思わずふっと笑う。
「じゃあ明日は誰が一番活躍するか、競争だね」
私の一言で、部屋の空気がピンと張り詰めた。
「へぇ……まあ、一番になるのは俺だけどな?」
レオンの自身ありげな声が響く。
「それなら、俺も本気でいかせてもらうよ」
理知的なのにどこまでもよく深いギルの声が、鼓膜を揺らす。
「ふうん……お兄さんあんまり大人気ないことしたくないけど……みんながその気なら、やらざるを得ないよね?」
余裕を湛えたアレクの声が、空気を揺らす。
「ぼっ、僕も……ご褒美欲しい……!」
控えめに、エドがそう呟く。
「ふふ……明日、楽しみだね」
モチベーションが上がるのはいいことだ。どうせ戦うなら、楽しんでいかないと。
もし全員頑張ったら、全員にご褒美をあげればいい。撫でて、愛を囁いて、そしてーー
いけない、考えるとにやけちゃう。
私はこの4人と一緒に、明日も戦う。
勇者になるという、その目標を果たすために。
この幸せを、壊さないために。
私はあの旅立ちの日に、そう決めたのだから。
* *
肺を満たす冷たい朝の空気と、乱れる呼吸。
まさか初日から寝坊するなんて……!
てか母さん達も父さんもなんで3人もいるのに、1人も起こしてくれないの!? いや起きられない私が悪いんだけどさ!
私はギルドの扉をバァンとあけて、中を見回す。まばらにいる人々の視線が一瞬だけこちらへ向けられたが,すぐに騒がしい雰囲気に戻っていった。
あれ……まだ、来てないのかな?
だがそこに目当ての人物の姿はない。
「もしかして、レオンも寝坊……?」
「んなわけねぇだろ」
「ひゃっ……! な、なんで後ろに!?」
慌てて後ろをふりむくと、そこに居たのは見慣れた黒髪だった。レオンは呆れた様子でため息をつく。
「アリシアが遅いから迎えに行こうとしたんだよ。そしたらお前俺とすれ違っても気付かねぇし」
「うっ、ごめん……」
「まだ俺が起こしてやらなきゃダメなのか? お子ちゃまだな」
「かもねぇ。明日からは目覚ましよろしくね、レオン」
どう頑張っても朝は自力じゃ起きられない。ここは素直に頼った方がいいよね。
「はぁ!? お、お前正気か!?」
「? 何が?」
レオンは顔を赤く染めながら、あたふたと慌て出す。
「何がってお前っ……! 起こすってことは、その、部屋に入ったりとか、その……」
「子供の頃はいつもそうだったじゃん」
「俺たち18だぞ!? ガキの頃とは違うだろ!?」
「あー、もー、わかったよ。じゃあ自力で起きるよ」
ぎゃーぎゃー喚くレオンの声を遮るように耳を塞ぐ。全く、いつまで経っても落ち着きがないお子ちゃまなんだから。
「とりあえずギルド登録して、教会にお祈り行こうよ」
「誰のせいで話進んでないと思ってんだよ……!」
レオンは苛立った様子で拳を握ってから、大きくため息をついた。いっつもイライラしてるよなぁ。
私はざわざわとしたギルドの中を通り抜け、そのままカウンターへ歩いて行く。
「すみません、2人分の登録お願いします。あと、初心者クエストの受注も」
受付のお兄さんはにっこりと笑って、差し出された申請書を受け取る。
「はい。えーと、魔導士のアリシア・レイヴンフォードさんと、剣士のレオン・ヴァレンティスさん。……あぁ、お二人が今年の領都冒険者学校の学部別最優秀者の方ですか」
「まあ、一応?」
事実ではあるけれど、こう言う風に言葉に出されるとむず痒いんだよなぁ。
「お二人は特に優秀な成績だったと伺っております。楽しみにしていますね」
お兄さんはそのまま私とレオンに『ギルド登録証』と書かれた一枚のカードを渡してくる。
「では、簡易説明をさせていただきますね。ご存知かもしれませんが,最初は全員Fランクスタート。その後はクエストのクリア実績次第でランクが上昇いたします。また、登録した人間との通信もできるシステムとなっておりますので、よろしければご活用ください」
「わかりました。ありがとうございます!」
「ふふ、元気でいいですね。……初心者クエストですが、現在空いている枠は2時間後となりますね。引率の方はEランクのシーフの方です。何か質問はありますか?」
私はふるふると首を横に振る。私が後衛、レオンが前衛だから、サポートジョブの先輩がついてくれるのはありがたい。
「大丈夫です。ありがとうございます」
顔写真と『F』という文字が印刷された紫色のカードを手に取る。口の端が緩むのがおさえきれない。
「ふふっ、これで私も冒険者……!」
私はるんるんと軽い足取りで、ギルドの外へと歩き出す。
「お前浮かれすぎだろ。まだ登録終わっただけじゃねえか」
「少しずつ進んでるのが嬉しいから良いのっ! こうして、私の勇者への道のりが始まるんだよぉ〜!」
「お前昔からずっとそう言ってるよな……なんだよ勇者になるって……」
「だってだって、勇者様ってこの街の出身でしょ? もしかしたら私にも勇者の血が流れてるかもしれないじゃない? それで世界を平和にした勇者が、実は古の勇者の末裔でした〜! とかなったらかっこいいじゃん!」
「ガキかよ……」
「それにそれに、みんなが幸せって良いことじゃない? 私、みんなが笑ってられる世界を作りたいの」
「頭の中お花畑かよ……」
レオンは呆れた笑みを浮かべながら、私の後ろを突いてくる。
「でも、レオンは着いてきてくれたじゃない。そういう情に厚いとこ好きだよ」
「はぁ!? おま、好きとか何言って……!?」
「いやー、持つべきものは頼れる幼馴染だよねぇ。……よし、到着〜」
教会の外で歩みを止め目の前の建物を見上げる。子供の頃から何度も通った見慣れた建物。
こぢんまりとした扉を丁寧に開け、その中へと足を踏み入れる。
ステンドグラスから降り注ぐ光は、キラキラとカラフルに床を照らしていて。祈りを捧げる人の姿すら、どこか神秘的に見えるほどだった。
「あれ? アレク兄さん……?」
中央で一人祈りを捧げているプラチナブロンドの男性。彼はゆっくりと顔をあげ、こちらをみてニコリと微笑む。
「アリシア! 元気だったかい?」
「久しぶり〜! いつ帰ってきたの? もう、連絡してくれればいいのに」
立ち上がるアレク兄さんに早足で歩み寄る。兄さんには滅多に会えないし、少しの時間も惜しいもの。
「今さっきだよ。二人が冒険者になるんだ、俺が見に来ないわけないだろう?」
「別に、お前が見にこなくても問題ねぇだろ。アリシアには俺が着いてるし。……てか、アリシアもいつまで兄さんってよんでんだよ。血の繋がりもねぇのに」
レオンは私の手をぐっと後ろにひきよせて、不機嫌そうにそう答える。
「いつのまにか随分と嫌われたみたいだね。昔はレオンも『アレク兄さんと冒険する〜』って言ってたのに」
「何年前の話だよ。それにお前兄さんっていうかおっさんだろ」
「うっ……傷つくなぁ、俺まだ26だよ?」
アレク兄さんは困ったように肩をすくめてから、聖職者らしい黒いローブの内側に手を入れ、中から二つのネックレスを取り出した。
「とりあえず、お兄さんから2人にプレゼント。最近この辺りの魔物が凶暴化してるって話もあるし、冒険するにはアイテムが多い方がいい。状態異常防御アップのネックレスだよ」
「わあ、ありがとう!」
私は薄緑色の石がついたシンプルなそれを手に取る。キラキラと光を反射するそれに、思わず頬が緩む。
「アレク兄さんが着いててくれれば状態異常なんてすぐ治してもらえるけど、回復職いないと中々そうはいかないからねぇ」
ネックレスをつける私の隣で、レオンも渋々自分の分を手に取る。
「しょうがねぇからもらってやる。なんかあっても困るしな。……まあ、一応ありがとな」
「レオンって本当に素直じゃないよねぇ」
「うるせぇよ」
ネックレスをつけ終わり、宝石をそっと指先でつまむ。
「ふふ、どう? 似合う?」
兄さんの方を見上げると、彼はすっと目を細める。
「あぁ、凄く似合ってるよ」
「……私、ちゃんと大人になった、かな?」
大人になったら兄さんと一緒に冒険して、最後はお嫁さんになるの、なんて。昔言ったことを、兄さんは覚えているだろうか。
「うーん……どうかな。もう少し冒険して、色々経験したらかなぁ」
「……そっかぁ。まあ、まだ駆け出し、だもんね」
はぐらかすような答えに、ずきりと胸がいたむ。きっと兄さんは覚えてるんだろう。だからあえてこんなこと言うんだろうなぁ。
まあ、8つも離れてたら仕方ないか。
「じゃあ兄さんと同じS級になったら、その時はちゃんと大人だって認めて……一緒に、冒険してくれる?」
「もちろん。……楽しみだな」
俯いた私には、兄さんがどんな顔をしているのかわからない。だがその声は、微かに揺らいでいた。
「なあにがその時は、だ。別にアレクなんていなくても俺達2人で最強になってみせる」
レオンは私を庇うようにアレク兄さんと私の間に滑り込む。
「怖いなぁ、そんな顔で見ないでよ。……ネックレスも渡せたし、俺は他のみんなに挨拶してくるよ。またね、2人とも」
アレク兄さんはいつも通りの飄々とした声でそう告げて、ゆったりとした動作で去っていった。
それが寂しいなずなのに、心のどこかでほっとしていて。
「……お前、まだ諦めてねぇのかよ」
「うぅん、大丈夫。今ので、踏ん切りついたから」
鼻のツンとした痛みを無視して、首に力を入れて前を向く。
「これから冒険なのに、俯いてなんていられないし。……兄さんもびっくりするような強い冒険者になろうね、レオン!」
レオンは一瞬目を見開いてから、珍しく優しい顔で微笑んだ。
「……あぁ、そうだな」
私は女神様の方を向いて、膝をついて祈りをささげる。
今日は新たな門出の日。昔の恋に踏ん切りをつけて、冒険者として生きていく、新たな私の人生の始まりの日。
どうか私の冒険が幸せに満ちて、誰かを笑顔にできる日々になりますように。
そんな漠然とした願いを、女神様に捧げる。
まさかこの日を境に私の人生が大きく変わるなんて、知りもせずに。




