表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恵の物語  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/73

冬合宿

 

 第13話 冬合宿


 冬合宿・第三楽章


 ― 鈴は雪の朝にも鳴る ―


 ◆ 冬の再会


 空はうっすら粉砂糖。

 駐車場に車を停めた瞬間、タイヤの音が「キュ、キュ」と乾いた粉雪をこする。息は白く、鼻先がちくりと刺される。


「ただいま、上川!」(光子)

「戻りました~、凍結路面の女神たちです!」(優子)


 カフェ雪の看板に、真新しい小ぶりの風鈴が下がっていた。鈴の玉は薄い青——見覚えのある色。


「あっ、それ……」(光子)

 雪が照れくさそうに笑う。

「町内会でさ、夏の“風見おまもり”が人気での。冬版も作ったべ。名前、“雪見ゆきみおまもり”。音、冷えた朝に合うよう低めにした」


 店の扉が開き、恵がスキーパンツの膝をぱんと叩きながら飛び出してきた。

「来たぁ! めぐ、待ってた! 鈴、鳴らしてた!」


「鳴らし過ぎて、犬に吠えられたやん」(優子)

「それは鈴の責任じゃない」(光子)


 恵は二人の前にすっと立つと、左手を差し出した。三人で“内緒の握手”。

 ちりん、と薄い音が、雪片の間を通り抜けた。


「よし、今日も“怖さごと”いくべ」


 ◆ 白い風の試験


 ジャンプ台は夏と同じ角度のはずなのに、雪が加わるだけで別の生き物みたいに見える。

 踏切り地点は磨かれた氷の刃。視界は白と青の二色、耳の奥に冷たい空気の笛が鳴る。


 海斗が短く言う。「体幹、一本線。空で固まるな」

 寄子が手袋の指を動かし、恵の肩を軽く叩く。「肩、ほどいてこ」

 雪はマグボトルを差し出す。「甘酒うすめたやつ。あったまるべ」


 光子はマフラーをきゅっと結び直し、優子はマイク代わりのペットボトルを取り出した。


「冬の特設スタジオからお届けしま~す!」(光子)

「白い息も生放送!」(優子)


 恵がスタートバーに触れる。

 鈴の音を一回。合図。


 滑走音は夏より細くて鋭い。雪の粒が板の裏でリズムに砕ける。

 踏切り——雪煙がひと匙だけ舞う。


「出ました“白風しらかぜフォーム”! 肩の線、雪の水平線と並走!」(光子)

「目線しっかり! 落ちる予感を“足場確認サイン”に変換中~!」(優子)


 着地——スッ。

 雪が小さく沈み、膝が吸う。鈴が、凍った空気を震わせるように、ちん。


「立ったぁあ!」(同時)


 恵の吐息が白い蒸気になって消える。

「……ん、夏より静けぇ。怖さ、音小さくなった感じ」


 海斗がうなずく。「よし。二本目、風、向かい。肩を風に預けすぎるな」


 一本、二本、三本——白い風に“怖さ”の居場所を毎回探す。

 喉の奥で霜が鳴る日もあれば、背中の皮一枚がきゅっと縮む瞬間もある。

 恵はそのたび、内緒の握手で場所を移し替え、鈴で呼吸を合わせた。


 優子が実況のメモに“冬語彙”を増やしていく。

「“霜解しもどけ息”」「“雪目ゆきめガード”」「“氷のため”」……。

 光子は合いの手を精密化する。

「“押すな・待て・ほどけ”を三拍子で入れる」「“スッ”は無音の後に置く」……。


 新人アナが、遠巻きに、そのすべてを必死に書き取っていた。


 ◆ 生中継パニック


 昼すぎ。雲が切れて、光が強くなる。

 本日は夕方の情報番組で生中継——新人アナの昇格戦でもある。


 局の中継車が到着。

 ディレクターが手袋越しに指を立てる。「リハ入るよー! VTR明け15秒でジャンプ!」


 新人アナは深呼吸。マイクのない手で、自分の手首をそっと掴む。

「(わたしは大丈夫)」——夏に教わった“内緒の握手”。


「本番一分前!」


 ……が、ここで事件が起きる。

 中継用の無線が雪でご機嫌ナナメ、ギリギリで復活したと思ったら、スタジオのキューが早出し。

 現場のカメラはまだ“よそ見”。


 スタジオ:「それでは現場の上川町から生中継です。——どうぞ!」


 新人アナ:「(えっ今!?)」

 カメラ:「(えっ今!?)」

 ディレクター:「(えっ今!?)」

 光子&優子:「(来たぞ!!)」


 即、双子の現場力が火を噴く。


 光子(カメラに半歩寄って):

「現場の状況、生でお届けしま~す! ただいま“白風”調整中、秒で整えて秒で飛びます!」


 優子(新人アナの背に立ち、半耳打ち):

「“秒で整える”言いな! “整って飛ぶ”で締め!」


 新人アナ(マイクに戻って):

「はい、現場は秒で整えて、秒で飛ぶ、冬のジャンプ台です! 上川恵選手、ただいまスタート態勢!」


 言葉が、震えの中に置かれた。

 震えは残るが、芯が通る。スタジオの空気が、少しだけ前のめりになる。


 恵、スタートバーへ。

 ——だが、突風。旗がばさっと返る。

 海斗の手がすっと上がり、止めの合図。恵は静かにバーを離す。


「ただいま、白い風の試験。怖さと、風の相談中です」(光子)

「“行けるときに行く”がジャンプの鉄則。ここは“待て”!」(優子)


 10秒、20秒、30秒。

 雪煙が次の頁を開くみたいに収まり、風の形が変わる。

 海斗の手が下がる。再び、スタートバー。


 滑走。

 踏切りは——薄い音。

 空中で、背中の氷がふっと溶ける。

 着地。スッ。

 鈴、ちん。


 新人アナ、マイクを握ったまま、一拍、黙る。

(——いまの“無音”、置けた!)


「立ちました! 今のは“白風に一礼してからの、んだんだフィニッシュ”!」

「音は“スッ”、鈴は“ちん”。——以上、現場からお伝えしました!」


 スタジオに拍手が広がる。

 先輩アナが苦笑まじりに言う。

『……小学六年生を教授にした成果、出ましたね?』

 新人アナは、カメラの向こうで、ちょっとだけ胸を張った。


 ◆ 氷の挫折、雪のリセット


 午後の終盤、恵の四本目。

 冷えが強くなり、雪が硬く、氷に寄る。

 滑走は良い。踏切りも悪くない。

 ——着地、わずかに前。板の先が雪に刺さり、ツルッと片足が逃げた。


 恵、尻もち。雪煙がふわり。

 鈴は鳴らず、風だけが鳴った。


「あ——」(寄子)

「無理すんな、立てるか」(海斗)

 恵は眉をしかめ、でもすぐに息を整えた。

「……大丈夫。怖さ、戻ってきただけだ」


 雪が近づき、手を差し出す。

「ほい、“内緒の握手”」


 恵は握り返す。

 光子がそっとしゃがむ。「怖さ、正社員採用やけん。クビにせんで、部署替えな?」

 優子が手袋の指で雪片を払う。「“膝裏の背中部署”へ異動命令~」


 恵は笑って、涙を一粒だけ凍らせた。

「んだんだ。部署替え」


 海斗が短く言う。「一本、休む。風、見てろ」

 寄子が頷く。「目で風読む、耳で雪聞く」


 五分、十分、十五分。

 恵は滑らず、見る練習をした。

 旗の揺れ、雪のさざめき、遠い山の白の濃さ。

 “落ちる予感”が、少しずつ“足場を選ぶ眼”に形を変える。


「……よし、行くべ」


 再開。

 滑走——踏切り。

 空中で、さっき転んだ自分に、小さく手を振る。置いていかない。

 着地——スッ。

 鈴——ちん。


「帰ってきたぁ!」(光子)

「部署替え、成功!」(優子)

 恵は笑い、肩の雪を払った。

「怖さ、残業なしで帰した」


 ◆ 夜の作戦会議(と、爆笑の鍋)


 夜。カフェ雪はストーブの炎がやわらかく跳ね、窓の外の雪をオレンジに染める。

 テーブルの真ん中で湯気が踊る。鱈、豆腐、白滝、そして雪特製の“雪見だんご”が鍋に浮いていた。


「ネーミングが強い」(光子)

「味も強い」(優子)

「弾力は最強」(恵)


 海斗は白い湯気の向こうで、スプーンの背で地図みたいなメモを描く。

「明日、風は弱め予報。踏切り、音を軽く。着地、膝の待ちを半拍延ばす」


 寄子が温度計を見て、「朝マイナス七度。足裏冷えすぎ注意」

 雪がもう一回り、団子を落とす。「甘さ、救急で増やしとく」


 そこへ、新人アナが紙袋を下げて入ってきた。

「差し入れ……“実況の鈴・試作二号”です。制作部に怒られました」


 袋から出てきたのは、小さな鈴にスポンジ防風カバーが付いた謎の発明。

「実況中、強風でも“ちん”が録れるように」(新人アナ)


 光子が転がして一言。

「マイク界の小籠包やん」

 優子:「皮の中に“ちん”閉じ込めとる」

 恵:「熱々や、気ぃつけて」


 鍋の上で笑いが弾け、天井の板にやさしく跳ね返る。

 笑いの粒が、明日の踏切りまで届くのを、みんな知っている。


 ◆ 小さな大会、満員の雪


 週末、小さな町のローカル大会。

 観客席には、町の人と、見慣れない数のカメラ。テレビの特集が効いている。


 開会式で町長が言う。

「今年のスローガンは“怖さごと前進”!」

 横で教育長が「引用元テロップ必須です」と真顔。会場、爆笑。


 恵はA組の三番目。

 一本目、——スッ、ちん。

 二本目、——スッ、ちん。

 三本目、風がふっと緩んだ一秒を逃さず、スッ……ちん。


 合計で自己ベストを**“静かに”**更新。

 表彰台の色は、雪の光に近い。


 アナウンスが響く。

「三位、上川恵!」

 恵は両手を胸の前でぎゅっと握った。内緒の握手。

 雪の結んだ薄青のリボンが、光を一回、振る。


 光子が客席から叫ぶ。

「怖さ、正社員のまま昇進〜!」

 優子が続ける。

「役職は“相棒課 課長”!」


 新人アナは涙声で締めた。

「——“怖さと共同出演”、本日も満員御礼。以上、上川からでした」


 ◆ 町の表彰と、継ぎ手の手


 大会のあと、町内会館の小さなホールで表彰セレモニー。

「地域貢献“笑いと勇気”賞」——ガラスの盾の中に、小さな鈴。


 雪が、照れながら言う。

「この鈴、町の子らが磨いたべ。次はあんたたちの番だ、って」


 光子と優子は、盾の前に並んで深く礼をした。

「受け取るのは、うちらやない」(光子)

「“怖さと一緒に飛ぶ”のを、見せてくれた人たちやけん」(優子)


 拍手の中、恵が雪の袖をちょんと引く。

「母さん、“雪見おまもり”の作り方、また教えてけろ。次、下の子らにも配りてぇ」


 雪は頷く。「手は覚えとる。笑いながらやると、結び目がやわらかくなるべ」


 ◆ それぞれのノート、次の頁


 夜。

 寮の机に「空読そらよみノート」と「風待ちノート」が並ぶ。

 光子は“実況の間取り”の図を描き、優子は“語尾の温度”を書き込む。

(語尾:です。→温度−2℃/ だ。→±0℃/ たい。→+2℃)


 上川の家では、恵が今日の記録をまとめている。


 こわさ=背中から来る冷え → 背面カイロで職場環境を整える


 笑い=着地の膝に効く → 膝前の筋肉が先に笑い返す


 目印:スタート前に鈴を一回、着地後に息を一回


 新語:“白風の礼”(踏切り直前の一拍)


 合言葉:「落ちる予感は、足場の招待状」


 一番下に、大きく。


 めぐは、怖さごと飛ぶ。

 正社員の相棒。部署替え自由。残業なし。


 ◆ エピローグ:ひらがなの春


 春。

 雪はすっかり消え、斜面にはまた人工芝の緑。

 カフェ雪の風鈴は、冬鈴から夏鈴へと衣替え。音色は少し高くなった。


 恵はスタートバーに手をかけ、

 ——ふと、夏よりも背が伸びた自分に気づく。

 足裏の範囲が、去年より広い。

 怖さのサイズは、同じでも、受け皿が大きくなった。


 鈴、一回。

 滑走。

 踏切り。

 空の時間が、去年よりひらがなで流れる。

 角が取れて、読みやすい。


 着地、スッ。

 鈴、ちりん。


 下から聞こえる声。


「“怖さとひらがな跳び”成功~!」(光子)

「次は“漢字の大会”、つまり公式戦!」(優子)


 恵は笑って、二人に向かって手を振る。

「んだんだ。読める字から、覚えっと」


 雪が店先で手を叩く。「お昼、できたべ!」

 海斗の声が青空で短く跳ねる。「もう一本行ける」

 寄子が頷く。「風、良い」


 三人がそれぞれの場所で立ち上がる。

 風がページをめくる音がした。


 ——鈴は、また鳴る。

 次の章の頭文字を、静かに合図するように。


 ⸻


 次章への一行リード(橋渡し案)


 春の風は、ひらがなの速度で走る。

 その夏、恵は公式戦で“白風の礼”を観客と共有し、実況席には——あの小籠包みたいな鈴が置かれていた。


 ⸻


 ◆ ありがとうの鈴


 駐車場へ続く雪道に、午後の光が斜めに差していた。

 恵はヘルメットを小脇に抱え、鈴のついたリボンをそっと撫でる。


「……光子、優子。ほんと、ありがとう。めぐ、もう大丈夫だわ」

 声は、雪みたいに軽く、でも芯があった。


 光子は親指を立てる。

「よっしゃ! “怖さ正社員・相棒課”はええ仕事しよるけん、たまに労基(=内緒の握手)入れときね」

 優子は笑って肩をすくめた。

「残業で疲れとったら、鈴一回で帰宅やけん。これ合図ばい」


 恵はうなずき、二人の前に手を差し出す。

 三人で“内緒の握手”。ぎゅっと結んで、ぱっとほどく。

 ちりん――小さく一回、鈴が鳴る。


「次また悩むことがあったら……」恵が照れ笑いする。

「直接、会って女子会しよ。甘いの食って、しゃべって、笑って、んでまた飛ぶ」

「決まりっ!」(光子)

「議事録いらん女子会、開催確定~」(優子)


「会場はカフェ雪、スイーツは“雪見だんご”バージョンアップで」(雪の声が店の奥から飛んでくる)

「議題は“推しの靴下は何色が跳躍に効くか”で」(寄子)

「俺は聞こえなかったことにする」(海斗)


 一同、どっと笑った。


 空港行きの車のドアが開き、冷たい空気がひと口ぶん流れ込む。

 光子と優子は荷物を持ち直し、恵の前でくるりと半回転。


「ほな、行ってくるけん!」(光子)

「冬のページ、読み終わったら、また次の章で会おう!」(優子)


「んだんだ、またな!」恵は両手をぶんぶん振る。

「女子会、忘れんなよ!」

「忘れたら“鈴二連打”で呼び戻すけん!」(光子)

「既読スルーは風が許さんっ!」(優子)


 手を振る三人のあいだ、白い息がほどけて混じり合う。

 車がゆっくり動き出し、カフェ雪の前を離れる。

 恵は最後まで大きく手を振り、そして小さく、胸の前で内緒の握手を作った。


「……大丈夫。めぐは、もう大丈夫」


 鈴がもう一度だけ鳴って、雪明かりの午後に吸い込まれていった。




 春の再スタート(役割訂正版)


 ◆ 新学期の風


 中学の校門をくぐる恵は、ポケットの鈴を指で弾く。ちりん。

(相棒課、本日も定時出勤)


 放課後は筋トレ→助走フォーム→踏切りの感覚合わせ。

 コーチの「押しすぎるな、待て」の合図に、恵は内緒の握手で呼吸を揃えた。


 ――練習が終わると同時に、スマホが震える。グループ名は**〈三人寄れば“鈴”の音〉**。


【三人寄れば“鈴”の音】

 光子:恵、入学おめ! こっちはついに落研おちけん入ったばい!

 優子:今日のネタ合わせで“内緒の握手”=高座の緊張リセットって話になった

 恵:おめでと! うちは踏切り前にそれやる。高座でも効くん?

 光子:効く! 開口一番の“間”が整う

 優子:オチの直前は**無音の一秒=“スッの置きどころ”**がキモ

 恵:ジャンプも同じ。踏切り前の“白風の礼”が一秒


 ◆ 博多発・落研だより


 土曜の夕方、福岡の文化会館・練習室。

 光子と優子は畳の上で正座、扇子と手拭いを前に置く。


 光子「本日の演目、わたし“鈴屋すずや小こつ”——季節ネタ『春はひらがな』」

 優子「わたし“鈴屋すずや小ゆう”——新作『相棒課、残業なし』」

 顧問(落語好きの国語教師)が笑う。「名前に“鈴”そろえてきたねえ」


 二人は稽古で呼吸を合わせる。

「“間”は焦るとカタカナになるけん、ひらがなで置くばい」

「“です。”より“たい。”の方が**体温+2℃**理論!」


 その音声が、LINE通話で上川の恵へも届く。

 恵はストレッチしながら頷いた。

(笑いは体をゆるめるスイッチ。高座も助走路も同じ)


 ◆ 上川の朝練、博多の夜噺


 日曜の朝。上川のジャンプ台は霜が薄く、風はやや向かい。

 恵は内緒の握手→鈴ちりん→助走へ。

 踏切りは薄く、空は静か、着地は——スッ。

(合言葉:落ちる予感=足場の招待状)


 夜。福岡のミニ寄席「はかた町家寄席」学生枠。

 トリ前に、鈴屋小こつ&小ゆうの並びが入る。


 光子(高座):「春はね、言葉がひらがなで咲くとよ。『大丈夫』も“だいじょうぶ”にすると、胸ん中に入って来る」

 優子(客席いじり):「ちなみに“既読スルー”は風が許さんけんね」

 客席、くすくす→どっと笑い。


 終演後、二人は袖で小さく内緒の握手。

「出番前、効くわ」

「んね。恵のジャンプ前と同じ音がした」


 ◆ 三拠点女子会リモート


 夜更け、三人の顔が並ぶ。博多の部屋のポスタ―、上川の窓の外の月、寮のデスクランプ。


 議題①「間の作り方」

 ・恵:踏切り一秒前の“無音”で体幹を一本に→間は体で作る

 ・光子:サゲ直前は息を半拍止める→言葉の前に空気を置く

 ・優子:ツッコミは半拍遅らせる→笑いを客席に預ける


 議題②「スッの置きどころ」

 ・恵:着地音“スッ”→無音→スッ→鈴の順

 ・光子:高座の“スッ”→無音→サゲ

 ・優子:実況“スッ”→無音→同時ツッコミ


 議題③「緊張の撤収方法」

 ・三人共通:内緒の握手+鈴一回で“相棒課、定時退社”


 最後は恒例のやりとり。

 恵「次、公式戦の前日も女子会していい?」

 光子「もちろん、議事録は笑顔のみ」

 優子「差し入れ:博多“雪見だんご・出張版”」

 恵「名前の勝ちや」


 ◆ それぞれのノート、次の頁


 恵の「風待ちノート・中学版」


 こわさ=胸の前に来た冷え → 内緒の握手で背中へ部署替え


 笑い=膝の“待ち”を生む → 体温+2℃


 目印:スタート前鈴一回/着地後息一回


 合言葉:相棒課、残業なし


 光子の「落語メモ」


 サゲ前の“白風の礼”=無音の一秒


 語尾温度:だ。±0℃/です。−2℃/たい。+2℃


 合言葉:ひらがなで笑わせ、漢字で締める


 優子の「ツッコミ台本」


 先に笑わない(客席に預ける)


 即興は“引用テロップ”脳内表示


 合言葉:既読スルーは風が許さん


 遠く離れても、三冊のノートは同じページ番号で進む。

 三人は画面越しに、同時に小さく内緒の握手を作った。


 鈴が、それぞれの部屋で、同じタイミングで鳴る。ちりん。


 ——飛ぶ人、語る人、突っ込む人。

 役割は違っても、合図は同じだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ