第8話
第8話
まっ白い何も無い空間にいる。上下左右白くて、自分の体がまっすぐに立っているのかどこを向いているのか判らない空間に漂っている。
「おや。誰かに呼ばれましたか。」
シルディアナは、慌てることなく落ち着いている。普通の人なら慌てたり夢だと思うのだが、交友範囲が人間以外にも及ぶので不思議な現象には慣れているのだ。周りをゆっくりと見渡すと、緑色をした輝き光が見えた。
「あっちですね。」
光に向かってふわふわと浮きながら移動していく。光に近づき触れると周りの景色が一変した。
地面を緑に覆われた光溢れる世界で、暖かな風が足元の草を揺らしている。少し離れた所に土台を石で造られた平屋の一軒家が見えた。煙突からは白い煙が立ち上っている。周りには他の建物は見えない。
柵に囲まれた畑と、自由に歩いている鶏だけである。
「田舎の一軒家風ですか。なかなか面白い趣味ですねぇ。」
面白そうに笑みを浮かべながら家に向かって歩いてゆく。シルディアナは現在3歳に成っているのでこれぐらいの距離なら問題なく歩ける。ブロンドの長い腰までのフワフワの髪に、濃いアメジストの目。
肌は白くて頬っぺたはバラ色に輝いている。レースの付いたかわいらしい赤いドレスを着ている。微笑みを浮かべた顔は天使のようで、思わずお持ち帰りしたくなる。甘やかし、可愛がり、ネコ可愛がりしたくなる様は、実際後宮の女達から可愛がられている。ブライア妃も稀に微笑みかけるくらいの超美幼女だ。
「おじゃまします。」
「どうぞ。お待ちしていましたラーバレスティヤ様。」
この田舎風一軒家には不釣り合いな美女が迎え入れる。美女は、濃緑の髪に淡い緑の目で白い肌のとても肉感的な素晴らしいプロポーションの体を、質素なクリーム色のワンピースで包んでいる。
「ルクレエスト。久しぶりですね。今はシルディアナと呼んでください。」
「かしこまりましたわ。シルディアナ様。」
シルディアナを部屋に通し椅子を勧めながらルクレエストは答えた。テーブルの上にはお茶の準備がしてある。お茶を注ぎシルディアナに勧め、お菓子も添える。
「この度は私の管理する世界に来て頂いてありがとうございます。まだ3年ほどですがいかがでしょうか?生まれる場所などは完全なランダムで選びましたが、不都合はありませんか?」
「ええ。後宮は入ったことはあっても、生まれた事は無かったのでなかなか新鮮です。まあ王の寵を得る分には変わりありませんがね。まだ世界は全体を見ていませんから何とも言えませんが。」
「そうですか。軽く御説明いたしましょうか?」
「お願いします。いつも乳母が付いているので術が使いづらいんですよ。」
「では。この世界は私の弟子ソーンターロンが作った世界です。卒業試験に作らせたのですが、なかなか良い出来だったので議会の承認を受けて存続しています。ですから直接の管理はターロンがしています。あなたが来ていることはダーロンには話していません。シルディアナ様はこの世界の管轄外から来た魂ですので世界の規制には当てはまらず好きにお過ごしください。人種は、人間種・獣種・幻想種・悪魔種・天種などがいます。ほとんどごちゃまぜですので大雑把な区切りとなります。人によって区切りを変えたりしますので。ああ、あと魔獣などもいますわ。国によって大体種が分散していますね。国同士の交流があるので混ざっている国もありますが。」
「なるほど。ターロンに話していないのはなぜですか?直接の管理者なのでしょう?」
不思議そうな顔で、シルディアナは尋ねる。大方ちょっとした悪戯なんでしょうが。などと思っていることはおくびにも出さない。
「いろいろな経験を積ませようと思いまして。あと、いつ気が付くのかとちょっとした試験ですわ。ふふ。」
「そうですか…。ああ、この体は何種でできていますか?混じっているみたいなのですが、比較対象がいなくて。」
分析するようにルクレエストがジッとシルディアナの体を見つめる。ぱっと見は人間の形をしているがシルディアナは近くにいる人達とは何かが違うと感じていたので聞いてみる事にしてみたのだ。
「あら、すべての人種が混じっていますわね。珍しい。母親が人間と悪魔種の中の淫魔族の血を引いていますね。父親は幻想種の龍族と天種の神族の血です。父親の家系はいろいろ混ざっているようですね。本当に珍しいですわ。いまいらっしゃるのはトラミニア王国ですよね?あの国は人間種至上主義で排他的ですからお気を付けくださいね。」
さも心配そうな顔でルクレエストが答えた。作為を感じる。人間種至上主義の国にごちゃまぜの混血児。しかも後宮にいるのに国王の子供ではない。胡散臭すぎる。ランダムで選んだって言うには確実に嘘ですね。まあいいでしょう。ごちゃまぜの体、楽しそうですから。成長が楽しみですね。大きくなるまでに把握が必要ですね。サリーには悪いですが幻術を使わせてもらいましょう。あまり使いたくなかったんですが、これも楽しく生きるためです。ごちゃまぜか、とても興味深い。
「珍しい生まれなんですね。気を付けますね。でもいろいろ楽しみですよ。」
「そうでしたわ。この空間にお呼びしている間はお体は見張っていましたからご安心くださいね。」
「ありがとうございます。いつ害されるか分かりませんからね~。たまに毒入りのおやつが出てきますから。こっそり軽く解毒しているんですよ。魔法は使えない事になっていますから苦しんで耐性が有るから死までは至らないと思ってくれる様にしているんです。本当に耐性ができてきたんですけどね。毒の効かない体になるのが楽しみです。毒入りは特に美味しいおやつに多いですから。」
「はは…。そうなのですか。では楽しんでくださいね。何か御用が有ればお呼びください。」
ルクレエストは顔を引きつらせながら微笑み言った。次の瞬間にはシルディアナは部屋の中から消えていだ。
「あの方は相変わらずですわね。死が身近にある環境でも楽しんでいらしゃる。転生できるからかしら?いいえ。滅びる時でもあの方は楽しんでそうですね。何にでも楽しみを見出される。どの様な人生を送られるか楽しみですわ。ふふふ。」
ルクレエストは一人、お茶を飲みながらつぶやいた。