第5話
第5話
ベラが子供部屋の中に入ってきた。赤子を抱き上げてメリアナの部屋に連れて行くようだ。昨日の死産発言が有っただけに緊張しているようである。赤子をしっかりと抱き、いつもより心持ゆっくりと歩いていた。
「さあさあ姫様。母君にお顔を見せに参りましょうねぇ。メリアナ様は、ああ仰っておりましたが、姫君自身を厭われた訳ではありませんよ。メリアナ様は戦で負けてしまった我ら、ムフリシア族の事をお考えなのです。少しでも我ら一族の立場が良くなるようにと男児を望まれたのです。今は陛下のご寵愛が深いですが、先は分かりませんからねえ。陛下も男子を望まれていましたしね。他のご側室様たちもいらっしゃいますし、後宮でのお立場も男児をお産みになった方がお強いですから。それに、メリアナ様は魔力が少ないですし。御苦労ばかりされていらっしゃるんですよ。ああ、愚痴のようになってしまいましたね。姫はロミルトン族の血も引いていらっしゃいますから、性別変化もお出来になると思いますわ。 さあ到着しましたよ。メリアナ様。姫様をお連れいたしました。」
う~ん。なるほどねえ。母君は大変そうですねえ。それにしても後宮ですか・・・。怖いですねぇ。愛憎渦巻く魔窟じゃないですか。これは男じゃ無くて良かったですよ。変に目を付けられて暗殺とかされたら嫌ですし。あ~、でも女もなアァ。戦で勝つぐらいの国だったら、地盤を固める為にも政略結婚の道具に使われるのもなぁ。まあいざとなったら逃げますか。この世界も見てみたいですしね。
「あうぁ~(母君お疲れ様です。)」
「まぁ、機嫌がよさそうね。母ですよ。愛しき子。分かりますか?」
母君の顔色は良いようですね。安心しました。出産は大仕事ですからね。母君。抱っこ中々お上手ですね。抱きなれていないと気持ちが悪いんですが、イイ感じです。それに笑顔が素敵ですよ。
「メリアナ様ったら。まだお分かりになりませんよ。」
ベラは少し呆れながら母子の様子を見ている。メリアナが笑顔で姫を抱いたので安心したようだ。
「ですが、この子の目に知性の光が宿っているような気がするのです。」
「利発そうなお顔をされていますから、もしかしたらお分かりかも知れませんね。」
「ううぁぁ~(鋭いですねえ。母君。)」
これはちょっと油断禁物ですね。母のカンですか。母親というものは子供の変化に敏感な所が有りますからね。それにしても母君。いい臭いがしますね~。暖かいですし。落ち着きます。
「この子には苦労を掛けるかと思うと心が痛いわ。まずはこの後宮で生き抜いて往かなければいけませんよ。強くなりなさい。無邪気に生きられるほど、ここの生活は甘くないですからね。ああでも、よく考えたら姫で良かったかもしれませんね。跡継ぎ候補の男児なら、暗殺されるやもしれませんし。ロミルトンの血がどう出るか分かりませんが、姫でいる内は安心ですから。 男児よりは目を付けられないでしょう。」
「そうですね。幼き内の危険は、少ないに越したことは有りませんから。あぁ、では早目に魔力制御をお教えしなければ。魔力が少ないと方々は安心するはずです。」
「そうですね。極秘に封石を取り寄せるのも良いかもしれません。」
「あうぅ~?(魔力押さえた方がいいんですか?)」
これでいいですかね?完璧に抑えるとまずいから、少しだけ残してっと。
「ベラ!見て‼魔力を押さえたわ‼この子は私の言うことが、分かっているのよ。」
「偶然ではないのですか?」
「うりゃぁ~~。(偶然ですよ。偶然。)」
「ほら、魔力を開放してみて。」
「あぅ~(しませんよ。もう押さえておきます。危険は減らしたいですから。)」
「やっぱり偶然だったのかしら?」
「そうですねえ。」
「うぅ~(そうですよ。)」
取り敢えずはこれから先、魔力がある所を見られないように気をつけないと。赤子で不安定だから。で、納得してもらえるまでは出さないでおきましょう。とりあえずの目標は、人畜無害で可愛い子。ですね。女子なら可愛くないと。周りを味方に付けなくてはね~ この世界の魔術と城の中をまず把握しなければ。あと人間関係も調べてみますか。味方は選ばないと。おっと、弱みの把握も外せませんね。フフフ。楽しみですねえ。取り敢えずは3年ぐらいは寝たきりですし。寝たきりと言うと介護老人のようですが新生児ですからね。意識を飛ばせば問題ないでしょう。体は、その辺の精霊にでも見張っててもらいますか。ああ、精霊の噂話も外せませんね。誰かが近づいたら体に戻るように術を掛けておけばいいですね。王宮かぁ。いろんな陰謀が渦巻いて居るんだろうなあ。楽しみですね~。
「ではベラ。極秘に封石を手に入れてください。頼みましたよ。」
笑顔を消して真剣な面持ちでメリアナ言った。我が子の安全の為に封石で、まだ赤子で不安定な魔力が出てこないように押さえるつもりだ。真剣ですね~。愛されてるなぁ私。
「はい。承知いたしました。」
ベラは恭しく跪いて返事をした。
「あ~(頑張れベラ。)」
封石なんて無くても抑えられるんですがねぇ。母君の心配はうれしいですね。まあ来たら大人しく着けますよ。
「それはそうとメリアナ様。姫君のお名前はお決まりに成られましたか?」
「それがまだなのよ。我が君が考えていて下さった名前は男児のものばかりで。今も考えていて下さるそうなのですが。」
メリアナは少し暗い顔をして言った。男児でなかった事をやはりまだ気にしているのだ。王が望んだのは男児だからだ。実際の王は実はどちらでも良かったのだが、メリアナが男児を望んでいると思っていたので、男児がいいと言っただけだった。この件が典医長にバレて叱られ、名前が決まるまで会わせ無いと言われて。今必死に名前を考えている所だったりする。メリアナが子を死産にすると言いだすまで追い詰められている、とは思わなかったのである。役立たずな父である。その時赤子本人は、早く名前を下さ~い。と思念を送っていたとか。