第五十四話: セイクリッド・ティアー ― 聖涙の再誕 ―
「ヴァニットを乗っ取ったな、ウロボロジア!!」
ディヴァイン・クローこと、天城 颯太の声が、玉座の間に轟いた。
闇の奔流の中、ヴァニットの体を操るソレが笑う。
「そう、賢者達によって作られた闇のエネルギーの塊である私に実体はない。そのためには肉体が必要だった」
ウロボロジアの声が、ヴァニットの唇を動かしながら響く。
「シヴァークの体を奪ったとき、奴は最後の力を振り絞り、復活のための逆理の鍵をメリル砂漠に封印した。私はその存在を――あえて残しておいたのだ。いつか、そう、この日が来た時のためにな。神といえどシヴァークは戦神ではない。いずれその力をもってしても勝てぬ敵が現れることを、私は知っていた。だからこそ――」
黒炎が吹き上がり、ヴァニットの背から迸る。
「私はこの身体に目をつけていたのだ!ヴァニットの悪魔の肉体は、闇との親和が完璧だ!素晴らしいぞ!闇の力が同調し、どんどん力が溢れてくる!不死の力は失ったが、この力さえあれば、もはや、この世に私の敵などいない!」
「ウロボロジア……。やめて!ヴァニットは私たちと戦う光の騎士よ!」
結城 柚希が叫ぶ。
ウロボロジアは嗤った。
「もう“お前たちのヴァニット”はいない。この体は私のものだ。……さて、そろそろ旧い器には退場してもらおうか。」
ウロボロジアは闇から大鎌を作り出し、カイに乗るクローへ、そしてその手にあるシヴァークの宝玉へと斬りかかる。鎌が鳥類の叫びのような声を発しながら、クローたちへ迫る。
「くっ!柚希!持っていてくれ!」
颯太は宝玉を柚希へ投げ渡すと、ウロボロジアへと向き直り、光の爪を展開して大鎌を受け止めた。
金属の悲鳴が鳴り響く。
「くそっ!ヴァニットとまた戦わなくちゃいけないのかよ!」
ロークスがゼルフィードを駆り、槍を突き上げた。しかし、ウロボロジアは笑いながら空間を歪ませ、容易く回避する。
「何っ!?」
「フフ……やはり抗うか。愚か者どもめ、望み通り相手をしてやろう!」
闇の波動が爆ぜ、ヴァニットの纏うドラゴンナイツの鎧が歪み始める。
悪魔を彷彿とさせるその姿は――まさに、かつて颯太自身が堕ちた、怒りと憎しみの体現。《デビルナイツ》のようだった。
「あれは……俺の、あの時の姿のように……!」
黒き翼が広がる。
ウロボロジア=ヴァニットが咆哮した瞬間、玉座の間を覆う空気が裂けた。
巻き起こる爆風が柱を砕く。柚希が展開したシェルバリアの結界を吹き飛ばし、ドラゴンナイツたちは一斉に弾き飛ばされる。
「みんな、さがっーー!」
颯太が叫ぶ間もなく、黒影が閃光のように駆け抜けた。
「真・黒翼の舞!」
残光を引く黒い残像が軌跡を描く。まるで分身が生まれたかのように、十人のヴァニットが同時に襲いかかってくる。 刃の風圧だけで床石が砕け、天井から落ちる瓦礫が燃え上がった。
「颯太!」
ロークスが槍を横薙ぎに振るも、その先に影はもういない。
背後から斬撃、横から蹴り、前から衝撃波――三方向同時の攻撃。
「ぐあっ!なんて力だ!以前のヴァニットより段違いだ!」
「ウロボロジアが潜在能力を引き出して限界以上の力を出しているんだ!」
次の瞬間、ウロボロジアが天へと跳び上がった。
天蓋を突き破る勢いで上昇し、距離を取った颯太とロークスを見下ろす。紫黒の光が両掌に収束し、禍々しい螺旋を描き始める。
「二重螺旋――滅葬閃!」
闇の光線が絡み合いながら落下する。二条の破滅の槍が渦を巻き、玉座の間を薙ぎ払うように迫った。
「くっ……ゲイル・テンペスト!」
ロークスが風の竜巻を放つ。
瞬時に呼応し、颯太が吼えた。
「光焔穿爪ッ!」
光と闇が衝突し、空間が軋む。
「……っ、押し切られる!」
二人の防御がきしみ始めた、その時。
「ハロウ・バインド!」
柚希が両手を前に突き出す。白金の輪が幾重にも重なり、ウロボロジアの身体を包み込んだ。
「これで……止まって!」
だが、闇の王は微笑した。
「フフッ……こざかしい!」
次の瞬間、闇の圧力が爆ぜた。拘束魔法ごと粉砕し、黒い爆風が三人を吹き飛ばす。
「――ッぐ!」
三人の乗るアーマードワイバーンたちは上手く風に乗って衝撃を受け流した。
颯太たちは空中で態勢を立て直し、円を描くようにウロボロジアを囲む。
「ありがとう!リンド!」
柚希はリンドの頭を優しく撫でながら見下ろすウロボロジアを睨む。
「こんな絶望。アルベールとの激闘が霞んで見えてくるぜ!」
ロークスが血を拭いながら叫ぶ。
「ディヴァインナイツとなった私たちでも……これほどの力の差を……!」
「それもあるけどな、おい颯太!お前――手を抜いているな?!なんで光の牙を使わねぇ!」
「!」
颯太は見透かされたように目を見開く。
「初めてディヴァインナイツになった時の実力は、こんなもんじゃなかっただろ!俺や柚希は鍵の破片で疑似進化しただけだ。だが――お前は“本物”のディヴァインナイツだ!本気を出せば、今のウロボロジアにだって勝てるんじゃねぇのか!?」
ロークスの怒声が雷鳴のように響く。
「ロークス………」
颯太は拳を握り締め、歯を食いしばる。
「俺は……ヴァニットに、まだ伝えてないことがあるんだ。それを言えずに……ヴァニットを討つなんて!」
「ぬるい事言うな!ヴァニットに逆理の鍵なんて無いんだ!救える方法なんてねぇ!俺たちがやらなきゃいけない!守るんだろ、みんなを!世界を!」
颯太は静かに首を振った。
「ヴァニットだって、俺たちが守りたい仲間。守りたい世界の一部だ。……だろ、ロークス」
沈黙。 ロークスは息をつき、笑った。
「……くそっ、やっぱお前はそんなこと言うと思ったよ。……まったく、かっこつけやがって。ここまで俺が非情な悪役をかってるってのによ」
クローがわずかに笑みを返す。
「ごめんな、ロークス」
***
嵐のような戦場で、ほんの一瞬だけ、光が交錯した。
そこへ柚希が思い切ったように前へ出た。
「颯太、私にひとつ考えがあるの。天空島に最初に進軍した時――あなたとヴァニットが戦っていた場所で、二人を止めるために私、光の渦で包んだわよね?」
「ああ、あの時」
「あの時、私たち三人の心が、一瞬だけ繋がった気がしたの。もし上手くいけば、ヴァニットの心へ直接、声が届くかもしれない。」
「……なるほど。その光の中でヴァニットの意識を強く呼び覚ませば――」
「そう、確実じゃないけど……今のあなたなら、きっとできる。望みはあるわ!」
颯太は力強く頷いた。
「やろう、それに賭けてみる!」
ロークスが笑みを浮かべ、槍を肩に担ぐ。
「だったら、俺がウロボロジアの目を引く。頼んだぜ、颯太、柚希。」
ウロボロジアが咆哮した。
「茶番は終わりだッ! 死ぬがいい!!」
黒い巨影が唸り声を上げ、颯太へと突撃する。
「カイッ!!」
颯太の声に応え、カイが翼を大きく広げた。風が爆ぜ、金属のような羽音が玉座の間を揺らす。
「ぬうっ、この迫力は……!」
ウロボロジアが大鎌を構える。
光の爪と刃がぶつかり合い、轟音と共に火花が弾けた。二つの魂が互いの目を睨みつける。颯太は。その姿――闇の中にヴァニットの面影を見つめていた。
(ヴァニット……戦うのも、これで四度目だな。最初は敵わない強敵だと思って、恐怖していたっけ。それが、一緒に戦う仲間になって……。そして、俺が闇に堕ちた時、救ってくれたのは――お前だった。)
颯太の握る光爪に力がこもる。
ー今度は俺の番だ。必ず、お前を救ってみせる!ー
「こっちだ、ウロボロジアァ!!」
ロークスがゼルフィードを操り、雷を纏った槍を構える。
「スパーク・ランサーッ!」
雷鳴の如き槍が闇の巨影を貫いた。閃光が炸裂し、ウロボロジアの視線がわずかに逸れる。
「ちっ、ただの死に損ないの騎士なぞ――眼中にないわ!」
ウロボロジアの腕が闇の刃に変じ、稲妻を斬り裂く。黒い衝撃波が奔り、ロークスを襲った。
「ぐおおっ……! 俺だって、なぁ――」
全身に焦げ跡を刻まれながらも、ロークスは歯を食いしばる。槍先を、なおもウロボロジアへ向けた。
「ヴァニットを思う気持ちは――颯太と柚希にだって、負けてねぇからなッ!」
「愚か者が……!」
ウロボロジアが大鎌を振り上げる。
その瞬間――。
「――光よ!!!」
玉座の中心で、柚希が両手を掲げていた。彼女の身体が眩い光に包まれ、髪がふわりと浮かび上がる。開かれた手が合わせられた瞬間、天空と大地を繋ぐような光の柱が爆発的に立ち上った。戦場が、真昼のような輝きで満たされる。闇を裂く神聖な閃光に、ウロボロジアが顔を歪めた。
「何だと……!?」
颯太が叫ぶ。
「行くぞ、相棒!」
カイが咆哮する。
「クァアアアアアッ!!!」
光と風が一体となり、颯太とカイはその輝く渦へと飛び込んだ。烈風が肌を裂き、鼓膜を震わせる。まるで時空そのものを突破するような圧力の中で、颯太は名を叫んだ。
「ヴァニットォ――ッ!!!」
その声が光に溶け、渦の中心へと吸い込まれていく。
そして――。
ロークスと柚希の見つめる先で、颯太の姿はまばゆい閃光に包まれ、消えていった。光がすべてを呑み込み、玉座の間は一瞬、音すら失われた。
***
――そこは、光と闇が溶け合う深層の世界だった。
眼がくらむほどの白光の中に、ゆっくりと闇が漂っている。まるで、星の海を裏返したような場所。その境界を突き抜けると、そこにはヴェルランディア城のバルコニーを思わせる、静かな空間が広がっていた。そう、ここは颯太がヴァニットと語り合った場所だ。
天井のない空間。 遠く、真上の一点で、光が星のように瞬いている。その光を背に、焚火が淡く揺らめいている。
揺らめく焚火の火の明かりの奥で――ヴァニットは、塀の上に座っていた。
膝を抱え、俯いている。炎に照らされた少し見えた横顔は、穏やかでありながら、どこか悲しげだった。
足音が、静寂の中に響く。
ヴァニットがわずかに顔を上げる。振り返るまでもない。ヴァニットはその足音を知っていた。
「……颯太か。こんなところまで来たのね。」
声はかすれていたが、その響きは、確かにヴァニットのものだった。
「どこにだっていくさ、お前がいるところだったら、どこにだって………。さあ、帰ろう。」
颯太が静かに声をかける。
ヴァニットは、そっと首を横に振った。
「外の状況は、何と無く見えていたわ。颯太、私は、もういいんだ。ウロボロジアが不死でなくなった今、私ごと奴を討ってくれ。」
「ヴァニット?」
「……もう、いいんだ。私が生きていたって、何にもならない。」
「私の種族はウロボロジアに全滅させられた。私が生き続けていても、本当の家族には会えないんだ。私はこの先も一人……。」
「俺たちがいるだろ!柚希やロークス、リューガも、飛竜たちだって!お前を待っているみんながいる」
「ダメだよ。私がお前たちの敵だったとき、人間を一人も殺めなかったと思うか?この手は、ドラゴンナイツを、ヴェルランディアの人達の命を、待っている家族を奪ってきた手だ。」
そう言ってヴァニットは、自分の手を見つめる。
「………私は、お前たちと一緒には……いられない………」
言葉とは裏腹に、肩が震えていた。背を向けたまま、必死に涙を隠すその姿が胸を刺す。
「みんなの為にも……ウロボロジアと一緒に消えるのがいいんだ。だから、お前たちが終わらせて……」
まるで、すべてを終わらせることが唯一の贖罪であるかのように。ヴァニットがウロボロジアの闇に触れた時、感じたのは恐怖ではなく、安堵だった。蟠りが終わる、苦しみが終わる。その甘い闇に、彼女は救いを見ていたのだ。
だが。颯太は拳を握りしめる。
――まだ、終わってない。まだ、何も始まっていないんだから。
「ヴァニット」
「もう行け」
「ヴァニット!」
「近寄るな!」
「ヴァニット!!」
「私を呼ぶのをやめろ!!」
颯太は後ろからヴァニットを強く抱きしめた。
「っ!!!」
「ヴァニット……。お前にとって、本当に大切なものたちができたんだな!」
「…………うん」
「自分が傷ついても、自分が犠牲になっても、それでも、守りたいものが……お前にはできた。」
「……うん」
「たしかに、ヴァニットに殺された仲間たちはいる。家族を殺された人たちは、心から許すことはないかもしれない。だけど、お前はウロボロジアみたいな悪じゃない……。
お前が人を殺したくて戦っていたんじゃないってこと、
お前がずっと一人ぼっちで寂しかったんだってこと、
居場所を奪われるのを恐れ悲しみにくれていたこと。みんな……。みんなもう、わかっているから………。」
「…………う……」
涙が、彼女の頬を伝う。
「ヴァニット………。
俺も、柚希も、ロークスも、リューガも、ラッシュも、ローランも、アルベールも、飛竜たち、テラ、リザードマン、ヴェルランディア、フィンストリオン!みんな。お前のことを大切に思っている!思ってくれる!
どんなに傷ついたって、どんなに苦しくたって、お前のために俺たちはなんだってできるんだ!
ーーーーーーお前がそうだったように!!」
「だからみんなの気持ちを伝えるために、俺はここに来た!
ヴァニット………死ぬな。お前の居場所は、こんな闇の中なんかじゃない。
俺が、俺たちがお前の居場所だ!!お前の居場所に帰ろう!」
「颯太っ!!!」
振り返った彼女の顔は、頬を濡らす大粒の涙で溢れていた。顔をくしゃくしゃに歪め、声を殺して泣くその姿は、あの“冷酷な戦士”とは別人だった。颯太はただ黙って抱きしめる。その涙は後悔ではない。それは生きることを選んだ証だ。
闇を払い、罪を背負い、それでも生きると決めたその瞬間。
ヴァニットは、もう一度生まれたのだ。
ー創世の光が二人を包むー
***
「アアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
明転する光の中、玉座の間にウロボロジアの叫びが轟いた。その悲鳴は、崩れゆく闇そのものだった。ヴァニットの身体から、凄まじい奔流があふれ出す。
闇ではなく――まばゆい光のエネルギー。
「グオオオッ!!ば、バカな!?なんだこの力は!闇ではなく光の力が……身体が言うことをきかん!ヴァニットの中から弾き出される!?ーーーーーーーうあああっ!!!」
光が収束し、次の瞬間、爆ぜるように弾けた。眩い閃光が玉座の間を飲み込み、まとっていた闇ごとデビルナイツの鎧を吹き飛ばす。その光の破片に紛れ、ヴァニットの中から黒い霧が噴き出すと同時に、颯太とカイが光の奔流に押し出されて現れた。
「颯太!カイ!」
「戻ってきたのね!ヴァニットは!」
ヴァニットはしっかりとした目で柚希を見据え、微笑んだ。
「……ごめん。心配させた!」
崩れ落ちた闇の霧が再び集まり、声を響かせる。
「まさか、こんな事が。闇の力が闇の王である私を拒むとは」
集まる黒い霧からウロボロジアの声が反響する。
「ヴァニットは確かに悪魔族だろうが、光の魂でできてるんだ」
「人を愛し、慈しむ心をね!」
「だから、俺たちはお前の闇には絶対に負けねぇ!」
「そう、たとえ因果に心折れそうになっても、この仲間たちとなら乗り越えられる!私は、ドラゴンナイツ、光の騎士のヴァニットだ!!」
その宣言に呼応するように、竜の咆哮が響く。玉座の天井を突き破り、蒼き竜アズールが舞い降りた。
それは、志を共にした仲間の帰還を告げる音だった。
ヴァニットが持つ天空の鍵の欠片がまばゆく輝き出す。ヴァニットの頭上には、天空島の守護竜、炎の渓谷を守る⦅フレイムインドラ⦆が浮かび上がった。
「ーー闇を払いし竜の騎士よ。」
「ーー天空島を守るため、今こそお前に力を授けよう」
「ーー唱えよ」
ヴァニットはアズールを抱きしめ、叫ぶ。
「いくぞ、アズール!竜魂共鳴――魂の解放!」
光が放たれヴァニットとアズールの身体を包み込む。鎧が変貌し黒は白金へと染まり、黒き翼は純白の輝きを放った。
『ディヴァイン・ティアー』
「ウロボロジア……この世界は闇だけじゃない。お前が作る絶望は私の光で打ち砕く!」
彼女の足元で光が脈動し、紋章が浮き出て輝きを放つ。ヴァニットが瞳を閉じると、一粒の涙がこぼれ落ちる。
それは、静かに落ちて――大地に触れた瞬間。世界が輝いた。
「光になれ!セイクリッド・ティアァァァァッ!!!」
落ちた涙は光に変わり、床一面に広がっていく。波紋が走り、光の海となって玉座の間を覆う。やがて、その海がウロボロジアの足元から立ち上がり、天を貫く一本の光柱へと変わってその黒い霧を飲み込んだ。
「ば、バカな……!こ、こんな……こんな事がぁ――!!!」
ウロボロジアの声が絶叫に変わる。
黒い霧が光の熱に晒され、細かな粒子となって宙に漂った。それらは瞬く間に白く変わり、やがて光の中へと溶けて消えていった。
「なんて……光の火柱だ……!」
ロークスが腕で目を覆いながら唸る。
颯太も呟いた。
「……これが、ヴァニットの“ディヴァインナイツ”の力か……。」
光が止み、静寂が訪れる。玉座の間には、もはや闇の欠片ひとつ残っていなかった。瓦礫の音も遠く、淡い光の粒が宙を漂う。空気は穏やかで、わずかに温かい。それは、戦いの終わりを静かに告げているようだった。
空中にいたドラゴンナイツたちが地へ降り立つ。警戒を解き、互いに顔を見合わせる。重く息をつきながらも、その表情には確かな安堵があった。
颯太はカイの背から飛び降り、すぐにヴァニットのもとへ駆け寄る。ヴァニットは、ゆっくりと膝をついた。
その身体を、颯太が支える。
「ヴァニット……!おかえり。」
「ただいま。」
くしゃっとした顔でヴァニットは笑った。
「ヴァニット!」
柚希が駆け寄り、ヴァニットを颯太ごと抱きしめる。
「柚希……。」
ロークスも笑みを浮かべながら近づく。
「まったく、心配かけさせやがって。」
ヴァニットは手を差し出し、軽く笑う。
「んっ!」
ロークスは引き攣った笑いで頬を掻きながらも、そっと三人に歩み寄り、そして腕を回した。
全員が抱き合う。その温もりの中でヴァニットは小さく呟いた。
「……そうか。あの時、みんな、こんな気持ちだったんだな……。」
彼女の脳裏に、かつて天空の祭壇でロークスが戻ってきた瞬間の情景が蘇る。
「ああ、そうだな。」
ロークスが静かに頷く。
その時、低く喉を鳴らす声が聞こえた。アズールだった。巨体を揺らしながら、ヴァニットの頭を優しく押す。
「アズール……。」
ヴァニットがその首を抱きしめると、アズールが嬉しそうに鳴いた。その声は、まるで再会を喜ぶ笑い声のように温かかった。
ふっと――風が吹いた。玉座の間を通り抜ける、かすかな冷たい風。
どこか懐かしい、けれど不吉な匂い。
ヴァニットが眉をひそめる。
「……風?」
次の瞬間――。
轟音。
城全体が揺れ、天井が軋み、壁に亀裂が走った。
「何だ?!城の様子がおかしい!」
「まずい!みんな、今すぐここを離れるんだ!」
颯太が叫ぶ。
ヴァニットが振り返る。
「アズールが開けた穴から外へ!一番の近道だ!」
彼らは崩れ落ちる瓦礫をかわしながら夜空へと飛び出した。打ち寄せる爆風を背に、四人はそれぞれのアーマードワイバーンを駆り、崩壊する城を抜け出す。
***
外に出ると、天空城はゆっくりと沈み、大地に落ちる星のように崩壊していく光景が広がっていた。
「城が……これは一体……。」
「ドラゴンナイツ!」
空から周りを見渡すと、飛翔して接近してくるラッシュとローランの姿があった。そしてその下ではテラ将軍とリザードマンたちが駆け寄ってくる。大柄のリザードマンの背には傷ついたアルベールがいた。
「ラッシュ!ローラン!」
「テラやリザードマンたちも……あそこにいるのは、アルベールか!」
「みんな無事だったのね!」
ラッシュが声を張る。
「あらかた天空島の悪魔どもは殲滅した。ウロボロジアはどうなった?!」
颯太が短く息を吐く。
「簡潔に言うと―― 逆理の鍵でウロボロジアをシヴァークから切り離して、ヤツは黒い霧になって消えていった。その時、何故か天空城が崩壊し始めたんだ……。」
「シヴァークを切り離しただと!?おおっ、その宝玉の中にいるのは……まさに、天空島の創造主シヴァーク!よくぞ取り戻してくれた。」
ローランが興奮気味に叫ぶ。
低い音がした。
地鳴りのようでもなく、風の唸りのようでもなく。それは、世界の奥底から響く“心臓の鼓動”のような音だった。
天空城の中心から、再び闇が噴き出した。それは瘴気のように空を覆い、夜空を塗り潰していく。
「そんな……! あの城跡から、闇の力が溢れ出してる!」
柚希の叫びに、颯太が振り返る。
「城から……!? まさか――!」
城全体が鳴動を始めた。瓦礫が浮かび上がり、塔がねじれ、崩壊した石が空中で再構築されていく。
建物が、まるで意思を持つようにうねり始めた。
ヴァニットが息を呑む。
「この魔力は……」
闇が一点に集まり、島全体を包み込む。
轟音――そして、地鳴り。城は姿を変えていく。崩れた塔が腕となり、城門が胸部に、尖塔が角のようにせり上がる。その巨影が、ゆっくりと“人の形”をとり始めた。誰もが息を呑む。その闇の中心で、紅の瞳がゆらりと開いた。
「な……なんだ、あれは……!」
ロークスが呟く。
巨大な悪魔の姿を帯びたそれは、城から上半身だけを生やしたような、異形の巨躯だった。天空を覆うほどのその影が、ゆっくりと動き出す。空気が震え、大地が悲鳴を上げる。
そして――巨神が吼えた。
「――ゴアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
その咆哮は、空を裂き、雲を消し、世界の終焉を告げる鐘のように響いた。夜空が砕け、星が揺らぎ、竜たちが怯えたように翼を震わせる。誰もが、その圧倒的な力に声を失った。
「……まさか、あれが……ウロボロジアか……!」
風が唸り、雲が裂ける。巨影の紅い瞳が、まっすぐに彼らを見下ろした。
アルゼ「ウロボロジアでしょうね!」
颯太「うわっ!姫!!いたんですか?!」
アルゼ「いたんですよ」
柚希「いないでくださいよ」
ロークス「下 (フィンストリオン)で待っててくれてるんじゃないんですか」
ヴァニット「いや、ちょくちょく天空島の周り飛んでたぞ、蛇に乗って」
颯太「なにしてんすか」
アルゼ「ついにこの時がきてしまったと思いまして、つい……。私も力をお貸します!」
柚希「あ、いらないです」
ロークス「絶対いらないです」
アルゼ「それはこれを見てから言ってください。魂の開放!!」
ヴァニット「ヴァニィ?!」
姫、魂の開放する。
颯太「姫………。その姿は一体!!(そういえば、どっかでなってたな)」
アルゼ「そう、私も実はナイツ!私はフェニックスナイツのアルゼリーテ!その人です!」
柚希「それ、って………。今(この小説で)出していい名前なんですか?」
アルゼ「………ダメなやつです!」
ロークス「駄目なやつでしょうね」
アルゼ「ほら、死んだ方々、連れて来たじゃないですか。何で私がそれできたのか?っていう理由をここで皆様に説明したくて………。そう、あれはフェニックスの不死の力の片鱗だったからなんです!」
颯太「その死んだ方々のくだりを、俺たちは誰一人知らないんですけど?!」
アルゼ「ちなみにこれは、私の未来に使える力のはずです!」
ヴァニット「やっちゃ駄目じゃないか?」
アルゼ「……………ダメです!」
ロークス「駄目でしょうね」
柚希「まって、下から声が聞こえる」
リューガ『姫ぇぇぇ!!!ええ加減にせぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』
ーーーーーーーーーリューガに怒られた!!! (アルゼ)
ーーーーーーーーー怒るじゃろう (ヴァニット)
ーーーーーーーーーフィンストリオンの病室から聞こえてきたの?! (柚希)
ーーーーーーーーー気を失ってる人をどんだけ怒らせるんだよ! (ロークス)
ーーーーーーーーーもしかしてこの国ヤバい国なのだろうか? (颯太)
ーーーーーーーーはい!




