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第五十一話: 裏切りの竜角、断たれる因果

 《西の塔》


 空を渡る風が、魔力の濁流に軋むような音を立てていた。

 西塔の前、荒れ果てた広場に、ひとりの男が立っている。赤黒いローブを纏い、頭巾の奥からは白髪が覗いていた。静かな立ち姿とは裏腹に、全身から発せられる魔力は異様に濁っている。その皮膚と血管は黒く変色し、まるで死竜の毒に内側から蝕まれているかのようだった。


「……まさか、お前だったとはな」

 ローランが唇を噛みしめながら言った。


「ほう……天空城の裏切り者どもが、そろい踏みですか」

 男が、氷のように冷たい声で吐き捨てる。


「よく言えたものだな……ヴェルド・ゼグナス。いや――“ドラゴン・ホーン”!」

 アルベールが鋭く言い返す。


 男はゆっくりとフードを外した。現れたのは――かつてドラゴンナイツのリーダーとして名を馳せた男、ドラゴン・ホーン、本名ヴェルド・ゼグナスの顔だった。


「なにっ!? お前、ドラゴンナイツだったのか?!」

 ヴァニットが目を見開く。


「俺も、天空城への進撃があった、あの時までは気づかなかった。こいつはドラゴンナイツの騎士として身を置きながら、裏でウロボロジアに情報を流していた。ドラゴンナイツを全滅に追いやった――真の黒幕だ」

 ローランの言葉に、場の空気が張り詰める。


 天空城の幹部としてヴェルドのことは知ってはいたが、ヴァニットとローランはそれがドラゴンナイツの一人だとは知らなかった。


「そう。異世界の戦士クローに“闇の因子”を与え、ハートを戦闘不能に追い込み……さらに、天空の鍵を使い、ドラゴンナイツを天空城へと誘導して殲滅させる……はずだった。完璧な計画でしたよ。しかし、ただひとつ、誤算があった。それがお前だ、ヴァニット!」

 ヴェルドが鋭く指を差す。


「……お前がドラゴンナイツに加わるとは、誰が予想できた?そのせいでリューガや異世界の騎士を殺し損ねた。くだらん、人間の情に流されおって……!」


「ホーンなら、リューガの師匠だったんだろ!?ドラゴンナイツのリーダーだったとも聞いたぞ!なのに、なぜなの……!」


 ヴェルドは静かに――だが、どこか恍惚とした表情で嗤った。


「そう、“元”リーダーだ。弟子であるリューガは、私の力を軽々と超えた。若さに満ちた力で、私から“座”を奪ったのだ……!わかるまい、貴様たちには……!老いていく身体、鈍っていく感覚……追い抜かれ、居場所を失う者の気持ちが……!」

 その声が、次第に濁り始めていく。


「だが……今は違う。ウロボロジア様が、“永遠”を与えてくださった……!死竜の谷で得た腐肉と、我が飛竜の魂をこの身に植えつけて……!」


 ローブが裂け、背中から腐った竜骨のような突起が生える。皮膚が破れ、黒く変質した筋肉が露わになっていく。

 ――人の姿を保ったまま、彼は異形へと変わりつつあった。


「この竜の力……この肉体……俺はもう、人間などではない……!竜と人を超越した、不滅の王だ!」


「竜の亡骸と、相棒の飛竜まで……ヴェルド、お前は一体、どこまで堕ちれば気が済むんだ……」

 ローランが低く呟く。


「ふん……これで堕ちたなどと?笑わせるな。ウロボロジア様の信頼を得るために、俺は――国の崩壊を指揮し、数多の生贄を差し出してきたのだ!」


 その言葉に、アルベールの瞳が細くなる。

「……なんだと?」


「そうだ、アルベール。貴様の故国――エルゼリア王国を滅ぼす計画を立て、実行したのは……この俺だ」

 ヴェルドは不気味に笑った。


「ヴェルランディア国の“ドラゴンナイツ”という名を使えば、いとも容易かった。その名を信じた王たちは、何の警戒もなく門を開いた。そこへ悪魔どもを放ち――城を崩壊させたのだ。ふふ……これも、アルゼリーテとクロエが親しかったおかげだ。友誼によって築かれた信頼こそ、最も都合のいい毒だったよ……」


 アルベールの拳が震え、血が滲むほどに握りしめられる。

「……そうか。俺の本当の敵は――お前だったんだな」


「クク……ようやく気づいたか。だが、遅すぎる」


「お前は……この手で裁く!!」


「やれるものならやってみろ!クローとの戦いですでに満身創痍、半死半生のお前など――恐るるに足らん!」


***


「行くぞ!」

 ヴァニットが翼を広げ、風を裂いて突進する。魔力で編んだ風の鎌が、音すら置き去りにしてヴェルドに襲いかかる。


「ふん……」

 ヴェルドは一歩も引かず、細剣を抜いて受け止めた。その一太刀には、かつてドラゴンナイツの剣術が確かに宿っていた。


「なるほど、リューガと戦った時の感覚に近い……。師というのは本当のようね!」

 

「そうだ。だが俺はリューガほど力任せじゃない!」


 地面を突き破るように呪詛陣が発動し、死竜の魔力が広場を包んだ。


「くっ……!」

 ローランが素早く距離を取り、魔力を構築。双剣を光で覆い、空中を舞うように旋回しながら、ヴェルドの身体に斬撃の弧を描いた。紫色の腐汁が飛び散る。だが切り口は、見る間に塞がっていく。


「再生か……!?」


 ヴェルドの皮膚がはがれ落ち、腐敗した竜の鱗がその下から露わになる。骨が軋みを上げながら肥大化し、筋肉が膨れ上がっていく。


「……再生ではない、細胞の異常活性だ。それ以上、人を捨ててどうする」

  アズールの背からアルベールが剣を抜き、冷ややかに言い放つ。


「見よぉ、これが“永遠”の肉体だぁぁ!!」

 ヴェルドは笑った。血の気を失った顔に、狂気の色だけが宿る。


「ふはは……!は、は、あ、アァ、オォガアアアアァーーーー!!!」


  咆哮とともに、彼の身体が竜の形をなぞるように変異する。背からは腐った竜骨の翼、腕は竜の前肢のように変形し、地面を引き裂いた。

 瘴気が空気を蝕み、戦場に毒のような圧迫感が満ちていく。そして、狂ったように暴れながら、西の塔にまで破壊の爪を伸ばす。


「何をしているんだ?!そいつを守るのがお前の役目だったはずだろう!」


「グルルル……」


「ゾンビめ……言葉も忘れたのか……!」


「ローラン、ヴァニット!……奴をこっちへ誘導しろ!」

 アルベールが叫んだ。アズールから飛び降り、塔の脇に着地して膝をつく。


「ヴェルドの言うとおり、クローとの戦いで、この体はもう動かん……だが、あと一撃。最後に、あと一撃なら全力の一閃を放てる!」


 二人はヴェルドの注意を引き付け塔へと誘導する。アルベールの近くにきて反転。ヴァニットは風の魔法を展開し、斬撃と突風の渦でヴェルドの巨体を押しとどめる。


「効かないか!?」

 腐肉が自動的に再構築され、魔法の斬撃が意味を成さない。


「ならば、貫くだけだ!」

 ローランが突進し、胴体に十字の斬撃を刻み込む。しかし次の瞬間、ヴェルドの巨腕が振るわれ、彼の身体を吹き飛ばす。


「ぐっ……!」


「ローラン!」

 ヴァニットが駆け寄ろうとした瞬間、ヴェルドの尾が振るわれ、彼女の体も弾き飛ばされる。


「そこまででいい後は任せろ!ヴェルド!!!」

 死竜の咆哮と魔力の嵐が場を支配し、ヴェルドがアルベールへ向けて突進する。


「グアアアアアアアッーーーーーーー!!!」


「国を滅ぼし、仲間を捨てて得た暴虐の力。こんなものが……お前の望みだったのか?」

 アルベールの声は、静かだった。


「終わらせてやる……ヴェルド。お前と俺の因果を、ここで――!」


 紅蓮の剣が一条の閃光となって振り下ろされた。それは重力すら切り裂くかのような一閃。腐肉の再生を超える速度で斬り伏せ、胸から脇腹へ深く刻み込まれた。


「ガ……ッア……アアアアアアアッ……!!」


 ヴェルドの巨体が崩れ、塔の地盤ごと沈み込んでいく。岩盤が割れ、断末魔が響く中、深淵へと吸い込まれていった。


***


「……終わったのか……」

 ヴァニットが、呆然と呟いた。ローランは剣を杖代わりにしながら立ち上がる。


「不滅のドラゴンゾンビ……だが、生き埋めになってはどうしようもあるまい。この天空島の土の中で……永遠に、生きるがいい………」


 アルベールは剣をゆっくりと納め――わずかに息を吐いたかと思うと、膝が折れ、そのまま地面に崩れ落ちた。

全身の力が抜け、握っていた剣が指の間から音もなく滑り落ちる。

その響きが、戦いの終わりを告げる鐘のように、広場の静寂へと溶けていった。


「アル!!」

 ヴァニットが叫び、瓦礫を踏み越えて駆け寄る。肩を抱き起こした瞬間、その体から伝わる熱が、激戦の中で燃え尽きた証のように感じられた。


 ローランが膝をつき、顔色を確かめる。瞼は閉じられ、呼吸は浅く、まったく動く気配はない。だが、その口元には、かすかに安堵の色が宿っていた。

 長く背負ってきた因縁を断ち切り、やり遂げた者だけが見せる――静かで、穏やかな表情だった。


「…………寝とるな」


「…………あ、死んだんじゃないのか……?」


「ああ、寝とるな。力を使い果たしただけだろう」

 ローランは小さく笑い、そっと背中を支える。


「だが、祖国を滅ぼされ、世界を憎み続けたこの男の長い悪夢は……その元凶を断つことで、やっと終わったのだ。今だけは、寝かせておいてやろう」


 ヴァニットがゆっくりと頷く。


「ヴァニット、俺はアルベールを安全なところに連れていってから追いかける。お前の方が速いからな。先に行っていてくれ」


「そうね。合流地点で、もう仲間が待ってるかもしれないし」


「……ふ。仲間か」


「なんだ?」


「いや、お前も、こいつも変わったなと思ってな。悪い意味ではない。……孤独と怒りに染まっていた奴らが、クローやドラゴンナイツたちと出会って、変わってくれたことを嬉しく思う」


「ふん!お前は保護者のつもりか。いいから速く行って来い!」


 ヴァニットはアルベールを摘み上げてアズールの背に乗せ、ひと足先に飛び立つ。


 その背を見上げながら、ローランは微かに笑う。ヴァニットの顔に、ほんの少しの微笑みが浮かんでいたような気がして――ローランは静かに安堵し、アズールを従えて、飛び上がった。

リューガ「まさか我が師、ドラゴン・ホーンが裏切り者だったとは……」

ファング「俺もホーンのことは信頼していたのに残念だぜ!」

フレイム「そういえば、ヴァニットはまだディヴァイン化しないのね」

リューガ「というか、そもそもアルベールがアズールに乗っているから、竜魂共鳴ができないのだ」

フレイム「あっ!」

リューガ「それをあいつら全員、素で気づいてないんだ。もっと離れたし」

ボルト「どうりでアズールがソワソワしていると思ったぜ」

フロスト「え?いいの?って顔、ずっとしてましたからね」

シールド「そうだそうだ」

ファング「シールド、もう相槌しかうたなくなったな」

アルゼ「あ、そんなわけで、アルベールの精神をここに連れてきましたよ」

アルベール「ど、どこだここは………!」

ナルル「シャギャーー!!」




ーーーーーー姫だぁ!!捕まえろぉ!!!!

ーーーーーーこのおてんば姫め!もう逃しませんよ!!!

ーーーーーーナルルカルシュもいるんだけど?!!!

ーーーーーーそうだそうだ!!!

ーーーーーーおい、聞け!ここはどこだと聞いているんだ!!

ーーーーーーアルベーーール!!!

ーーーーーーシャゲャーーー!!!!

ーーーーーーなんだこのでかい蛇は!!!

ーーーーーー賑やかになってきましたねぇ!!!

ーーーーーー俺の精神の中を好き放題にするのやめてくれますか?!!!

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