第五十話: 東塔の雷撃、幽鬼を貫く槍
《東の塔》
東の塔の麓にたどり着いたウイングとハート、ラッシュ。その時、三人の身体が紫黒の靄に包まれた。
空気はまるで凍てついた泥のように重く、呼吸すら鈍くなる。視界の先では、不気味な瘴気が塔の周囲に渦巻き、侵入者を拒むように蠢いている。ハートが一歩進み、警戒の構えを取った。
周囲の気配を読み取る彼女の眼が、塔の中心――その黒い渦のただ中に立つ一つの影を捉える。影は静かに靄を割り、姿を現した。
銀の髪を三つ編みに束ね、黒いローブの裾を音もなく揺らしながら、一本の長槍を地に突き立てて立っている。
その男の周囲には、瘴気すらも従順な僕のようにまとわりついていた。
「やっぱり……お前だったんだな」
ウイングが低く、震える声で呟く。
「まさか、ウロボロジアの手のものだったとはな……ザイン・クロドア」
その名が吐き出された瞬間、空気がさらに冷え込んだように感じた。
「ザイン・クロドア……? その名は聞いたことがある。」
ラッシュが腰のレイピアを抜き構える。
「“砂上の牙”と呼ばれる襲撃団。フィンストリオンの外縁で村々を襲い、奴隷売買や略奪を繰り返してきた、その首魁の名だな」
「ウイング、どうしたの?!」
ハートが驚愕の声を上げる。ウイングの目が細められ、その奥に燃える炎が覗いた。
「こいつが、俺の始まり……。10年前、父――ドラゴン・ゲイルを殺した張本人。それがこいつだ!」
「ドラゴン・ゲイル?」
ザインの口元がわずかに吊り上がる。
「ああ、思い出した。……あの時の子供か。そうか覚えてるぞ。あの“英雄”気取りが、地に伏して呻きながら俺に斬られた瞬間をな」
その言葉と同時に槍が一閃され、空間が裂ける。ザインが槍を横に払っただけで、漆黒の異形たちが空中から現れ、東の塔の周囲を包囲する。その姿は、どれも人の形を模してはいるが、腕や顔が奇怪にねじれ、目は闇の中で光っていた。
「こいつら……メルク砂漠で戦った、あの影の兵士か……!」
ラッシュが驚愕に目を見開く。
空間に黒いローブの異形たちが次々と浮かび上がり、瘴気の奔流と共に塔を包囲してゆく。風が唸りを上げ、塔の頂から瘴気が巻き上がる。その中心に立つザイン・クロドアの眼が、獲物を見据える獣のように鋭く光った。
「来るよ、二人ともッ!」
ハートが即座に杖をかざし、放たれた閃光が空を裂く。
闇に潜んでいた幽鬼たちが焼かれ、断末魔のような声を上げて消し飛ぶ。
「いけるな!よし、まずはこの影どもから片付ける!ハートの光を軸にして蹴散らすぞ!ウインーー!」
ラッシュが構えを取るが――その隣にいるはずのウイングが姿を消していた。
「ウイング!?おい、待てッ!!」
気づいた時にはもう遅かった。ウイングは黒い影の群れの隙間を縫い、竜魂の風を纏いながら一直線に突き進んでいた。
「ザァイン……ッ!!」
燃える怒りとともに、風の咆哮が巻き起こる。
魂の共鳴が槍へと集い、怒涛のような突進を生み出す。その気迫、その刃――
まさに獣のような殺気に、ザインはわずかに口角を吊り上げた。空中で槍と槍が激しく交錯する。
「……いい気合いだな、小僧」
ザインは淡々と受け流すように攻撃をさばきつつ、不気味な笑みを浮かべる。
その胸の中心、黒呪心臓が不気味な音を立てて脈動した。
「だが、しょせん……人の身ではこの程度よ」
胸元から紫黒の魔力が広がると、まるで毒を注ぎ込むように、ザインの槍がウイングの槍を弾き、肩をかすめる。
「見せてやろう。お前の“弱さ”という名の檻をな」
槍の穂先が閃くと、まばゆい残光がウイングの額に届いた刹那、彼の頭の中が“抉れた”。
「――ッ、が……ぁッ……!」
その場に立っていたはずの空間が、音もなく崩れ去る。意識が、飲み込まれる。
***
「……うそ、だろ……」
目の前に広がるのは、紅蓮に包まれた故郷の村だった。燃え上がる屋根、転がる人影。
幼い自分が震える目線で見上げる先。銀髪を揺らす男の槍が、ドラゴン・ゲイルの胸を貫いていた。
「父……さ、ん……」
槍が、何度も、何度も、突き刺さる。
「やめろぉおおおおおおッ!!」
***
現実へと引き戻された瞬間、ザインの冷笑が耳を切り裂いた。頭蓋の内側にまだ残る、焼き付けられた映像。
「お前はただ、無力を噛み締めるだけの“子供”だ」
ウイングの呼吸が乱れ、瞳が揺らぐ。握った槍は震え、重さを失っていく。
「ウイング!!」
ハートの悲鳴が響いた、その刹那。
ザインの槍が闇を裂き、殺意を纏った刃がウイングへと迫る。
だが――
「やらせるかッ!!」
ラッシュが横から飛び込み、レイピアで鋭くその一撃を受け止めた。
衝突音とともに火花が散り、空間が震える。すぐさま、禍々しい衝撃がラッシュの全身を貫いた。
「ぐッ……!」
呻き声と共に、ラッシュの肩口から血が噴き出した。
「ラッシュ……!!」
その光景に、ウイングの視界が大きく揺らぐ。
肩を押さえ、崩れるラッシュ――その背に、赤が広がっていく。
……その姿が父・ゲイルの姿と重なった。
「震えるな……何のために、ここまで強くなったんだ……!」
ウイングは唇を噛みしめながら、膝をつく。
「あの時と、何も変わってないじゃないか……仇を討つんだろ……なのに……ラッシュに傷を負わせて……!」
手の中の槍が震え、力なく垂れた。膝は崩れ、視界は揺れる。
「ウイング! ラッシュさん!」
後方からハートの声が響き、まばゆい閃光が駆け抜けた。放たれた光魔法がザインの黒衣をかすめ、瘴気を裂いて爆ぜる。
「ふんっ……!」
ザインは即座に飛び退き、空へと舞い上がる。黒く渦巻く空を背に、禍々しい瘴気を従えながら槍を振り上げた。
「ぶざまだな、ドラゴンナイツ……もういい。終わらせてやる。“生きたまま闇に喰われる”がいい!」
その嗤うような声と同時に、ザインが号令のように槍を突き出す。
空間が歪み、黒ローブの異形の影たちが空を巡る。そして一斉に闇の魔弾が放たれた。
「っく……アーク・シールド!!」
ラッシュが立ち上がる。血で濡れた肩を押さえつつ、懸命に魔力を集中させる。
瞬時に、光のドームが三人を包み込むように展開された。
魔弾が激しく衝突し、障壁は金属のようなきしみを上げて軋む。
「ウイング! しっかりしろ!!」
ラッシュが怒鳴る。
「だけど……俺は……あいつには……」
ウイングの声は、かすれるように震えていた。
その言葉に、ラッシュの顔が苦痛に歪む。
「このシールドじゃ長くはもたん……! ハート、何かできないか!!」
「……ウイング! ……いえ、ロークス!私を見て!」
ハートが必死に声を張り上げた。
その声に、ウイング(ロークス)が顔を上げた。ハートは彼の顔を両手で包み、ぐいと引き寄せ、ためらいなく唇を重ねた。
「!!?」
ラッシュが目を見開いた。
( ……そこまでしろとは言ってなかったんだが?!私のせいか?無茶振りすぎたのか?何か、すまない、ハート……。)
驚愕に固まるラッシュをよそに、ウイングも、完全に思考停止していた。
「ハート……!?」
ようやく呟いた声に、ハートは静かに笑みを浮かべた。
「竜の墓所の試練を受けて……。自分の内側に触れて……。気づいたんだ。私が悩んでいる時、落ち込んでいる時、隣にはいつもあなたがいたんだって。あなたが私を守ってくれた。」
「…………。」
「あなたが私を支えてくれていた。あなたが私に勇気をくれた。」
「…………。」
「ありがとう、ロークス」
「いや、でも、こんなことしちゃいけない……。クローがヴァニットにとられて、ハートが傷心なのはわかるけど……。だからってこんな」
「え?……なんで今、颯太とヴァニットが出てくるの?」
「だって。……お前、クローのこと好きだろ?!」
「?……好きだけど?」
「異世界にいた時から、ずっと……。」
「?……それはそうで………あっ!」
「………『あっ』て、何?」
「………言ってなかったっけ?」
「………聞かせてくれるかな?」
「私と颯太って『いとこ』なのよ。あの……だから……つまり……『家族』なの」
ウイング、目を見開く。
(……言ってねぇよ!!)
「言ってねぇよ!!」
代弁するように隣で聞いていたラッシュが叫んだ。
「いや、みんな二人は恋人なんじゃないかと思ってたと思うぞ!よく抱き合ったりしてたじゃないか!」
「颯太、昔から危なっかしい所があって、よく怪我して泣いて帰ってきてたの。抱きしめてあげると落ち着いたから、それが癖になってて、つい……。ほら、私の方がちょっと年上だし!」
「それ、周りが勘違いするから、もう絶対にやらないでくれよ.....。二人とももう子供じゃないんだから、わかったね?!」
「はぁい……。」
「……あと。ゆ、柚希……!」
ウイングの声はかすれていた。けれど、それ以上に真っ直ぐで、確かな決意がこもっていた。
「……はい」
柚希が静かに応える。ロークスは一歩だけ彼女に近づき、視線を逸らすことなく言い切った。
「俺は、お前が好きだ!」
一瞬、世界が止まったかのような静寂が訪れる。柚希の表情がふわりと綻び、やわらかな笑顔が浮かんだ。
「うん。私もよ、ロークス」
「…………そっか……」
その言葉は、ウイングの心の奥深く――長い間凍てついていた想いを、優しく、そして確かに溶かしていった。
迷いも、過去の痛みも、復讐という名の業火さえも――彼女の言葉がすべてを断ち切った。
ハートもまた、心の奥に仕舞い込んでいた“最後のためらい”が、音を立てて外れていくのをはっきりと感じていた。もう迷わない。もう、逃げない。ウイングと共に、今度こそ本当の意味で“戦える”と、確信できた。
***
二人の「心」が「翼」を広げたその瞬間。彼らの胸元に抱かれていた《天空の鍵の欠片》が、まばゆい光を放ち始める。空間が震え、天へと光の柱が立ち昇る。
「……この光は……!」
その頭上に、幻影のように浮かび上がったのは――
風の塔を守る《ストームドラゴン》。
水晶の洞窟を守る《ミラージュドラゴン》。
それは、かつてクローたちが命を賭して対峙した、天空島の守護竜たちだった。
竜たちの声が、風と水晶の残響に乗って響く。
「――唱えよ」
「――戦え」
「――竜の騎士よ」
「――天空の守護者である我らが」
「――お前たちに、力を貸そう」
二人は、同時に叫んだ。
「「魂の解放!」」
光が、二人の身体を包み込む。その身体に金と漆黒の輝きが走り、次の瞬間、クローが纏った光の鎧と同じ、神々しき甲冑がその身を纏う。
『ディヴァイン・ウイング』
『ディヴァイン・ハート』
二人はゼルフィード、リンドと共に、白銀の光を背に浮かび上がった。
「な、なんだ……あれは……!?」
ザイン・クロドアの表情が歪む。これまで全てを嘲笑ってきたその顔に、明らかな“恐怖”が滲んでいた。
その姿を見て、ラッシュが静かに右手を下ろす。光の障壁がすっと霧散するように消えていった。
「……やれやれ。どうやら、私の出番はここまでだな」
肩の傷を抑えつつ、ラッシュはにやりと笑う。
「ウイング、ハート――やっちまえ!」
上空から黒い影の軍勢が再び無数の魔弾を放つ。だが、ハートが強く杖を掲げて叫ぶ。
「リフレクト・レイ!」
同時に、リンドが翼を大きく広げ、空気を震わせる。放たれた魔弾の群れが、3人の目前でピタリと静止したかと思うと――眩い光を纏いながら、一斉に反転した。
光に包まれたそれは、放たれた時よりもさらに大きな力となり、放った影たちへと疾走。反射された魔弾は、敵の軍勢をまるで意思を持った光の槍のように貫いていき、闇の兵たちを次々と消し飛ばしていった。
「なっ……!? そんなバカな……!」
自らの放った術で、一瞬にして壊滅していく部隊を目の当たりにし、ザインが驚愕の声を上げた。
その時、風が唸りを上げた。ウイングがゼルフィードの背にまたがり、空高く飛翔する。
その身体を中心に、光と風が渦を巻き、天の力が収束していく。
「ザイン!!」
ウイングの声が空に響く。
「これが――父の魂を受け継いだ一撃だ! 喰らいやがれッ!!」
ロークスが叫び、槍に全身の魔力と想いを込める。風と雷の光が渦を巻き、空が軋む――
「《ゲイル・テンペスト》!!」
雷鳴のような咆哮とともに、風の力を纏った光の槍が放たれた。それは嵐を凝縮したような光の奔流となって、ザインを正面から貫く――。
「ぐああああああッ!!」
ザインの絶叫が響く中、轟音とともに爆風が炸裂する。
突風が周囲を呑み込み、魔力の柱ごと東の塔を飲み込みながら崩壊させていった。
瓦礫と瘴気の渦の向こう側、炎の残光の中で、ウイングが肩越しに振り返る。
「……一つ、忘れてた」
彼は小さく笑い、皮肉な調子で呟いた。
「俺は、ドラゴンナイツの中でもブレインに次ぐ実力者なんだ。お前みたいな、卑怯なだけの野盗の力なんざ――とっくに超えてたんだよ。そう、最初っから相手にならなかったってことだ!」
「……まぁ、聞こえちゃいないか」
***
ウイングは小さく息を吐き、ゼルフィードの背を撫でながら、ゆっくりと地上に降り立った。
「やったね、ロークス!」
駆け寄ってきた柚希が、笑顔で手を伸ばす。
「ああ……ありがとな柚希。俺の“闇”が、ようやく終わった気がする」
二人の言葉に、ラッシュが一歩前に進みながら告げた。
「塔も破壊した。ここはもう終わったな。よし、二人は先に行け」
「ラッシュさん?」
「……少し、ダメージが大きいみたいだ。今のままでは、お前たちの飛竜のスピードについていけん」
ラッシュは肩を押さえながら、わずかに苦笑する。
「ラッシュ、すまねぇ……。俺が半端だったせいで――」
「いいさ」
ラッシュが遮った。
「むしろ、見せてもらったよ。お前たちの“覚悟”と“成長”を。もう、私が導かずとも、お前たちは自分の意志で進めるはずだ。――行ってくれ。すでに戦いを終えた仲間が待っているかもしれん。回復したらすぐに追う。」
ウイングとハートは一度だけラッシュを振り返り、飛竜へと駆け寄った。そして、再び空へと舞い上がる。
見送ったラッシュは、ふうと息を吐いて、その場の岩壁に背を預けるように座り込んだ。
***
「……やれやれ。戦闘の援護なんて性に合わんことはするもんじゃないな」
肩口に回復の光を当てながら、ラッシュは小さく自嘲気味に笑った。
「こんな傷……いつ以来だ? ああ、そうだ。確か――あの《魔王リッカレッド》との戦い……」
ふと、あの激戦の記憶が脳裏をよぎる。
フィンストリオンが総力を挙げて挑んだ“ウォークライ戦争”。
だがその最中、遠く離れた地で《エルゼリア王国》は襲撃を受け、滅んだ。
気づけなかったその事実は言い訳にならない。
祖国を失った者たちが味わった喪失は、いかほどのものだったか。
だからこそ、私はアルベールに咎められたあの時、何も返すことができなかった。
……この戦いは、盟を結んだエルゼリアに報いるためのものでもある。
フィンストリオンの地で終わらせるんだ。今、ここに集まった仲間達と共にーーー。
「………仲間……か……。」
目を伏せたラッシュの口から、独り言のように言葉が漏れる。
「……アイツは、今、どこで……何をしているんだろうな」
その横顔には、どこか寂しげな影が差していた。彼女は過去を胸に、ただ空を見つめていた。
リューガ「ウイング、ハート。もう俺が教えてやれることはあるまい」
ファング「しかし、ちょいちょいギャグを挟まんと、もたんようになってきたな作者は」
フロスト「あと、数話で終わるのに何で我慢できないんでしょうね」
ボルト「やはり、ラッシュがいるせいだろうな」
ファング「だからギャグ小説のキャラクターが出るのは反対だったんだ!」
シールド「そうだそうだ!」
ラッシュ『誰がギャグ小説のキャラクターだ!』
フロスト「ここの声が聞こえてると言うんですか?!」
ボルト「バカな!!」
フレイム「本能だという事なのかしら、やはりやるわね!」
リューガ「……ところで、姫はどこいった?」
フロスト「いました」
アルゼリーテはナルルカルシュの背に跨り、天空島の上空を漂っていた。
ーーーーーーまんが日本昔ばなしのOPみたいですね
ーーーーーーすごい無表情ね
ーーーーーーシュール
ーーーーーー温度差やばいな
ーーーーーーむしろあれ、コッチを煽ってますよね
ーーーーーーいったい、あの人は何がしたいんだ。この戦場で!!




