第四十九話: 北空の決闘、蛇を断つ爪
《北の塔》
神竜カイの翼が空を裂き、クローを乗せて北の塔へと迫る。
その周囲には飛行する蛇竜たちが蠢いていたが、クローの叫びがそれを撃ち払う。
「光の牙!」
カイの口から放たれた聖なる光が蛇竜を薙ぎ払い、北の空を清める。
そして、塔の前――
そこには蛇の鱗を身に纏った禍々しき影が立っていた。紫の魔紋が肌を這い、瞳は冷酷な輝きを宿している。蛇の意匠が刻まれた杖を握りしめ、長いローブの裾を風に踊らせながら、不気味な笑みを浮かべていた。
「待っていたぞ、クロー……。よもや一人でここに来ようとはな」
その声音は冷たく、静かにして底知れぬ闇を抱えていた。
「ナグ・サハル……!」
クローの拳に力がこもる。その名を呼ぶだけで、心に積もった怒りが炎のように燃え上がる。
「お前の切り札だった蛇竜はカイには通用しない!何度でも光線で焼き尽くしてやる!仲間たちの仇を、取らせてもらうぞ!」
「……ふふっ。蛇竜を切り札だと思ったのか?残念だったな。貴様らを葬るための切り札は、あれだけではないのだ!」
「何っ!」
ナグ・サハルは杖を軽く地面に打ち付ける。空気が震え、足元の魔法陣が眩い光を放ち始める。
「我が呪術の前に、お前の想いなど砂粒のごとき些末なものに過ぎぬ……。さあ出て来い!天空島、地下大迷宮の伝説の大蛇――ナルルカルシュよ!!!」
大地が震え、轟くような地響きと共に島の一角が崩れた。そこから姿を現したのは――
白銀の鱗に包まれた巨躯、紅に輝く双眸、山よりも大きな首を持つ大蛇だった。
「な、なんだ……!?こんな化け物が……!」
クローは息を呑んだ。巨大な顎を開け、空気を震わせるような咆哮が島全体に響き渡る。
「喰らいつくせ!」
ナグ・サハルの命令と共に、大蛇が突進してきた。
クローはカイを操り空中を旋回するが、その巨体に似合わぬ速度で迫ってくる牙をかわしきれず、連続する攻撃に防戦一方となる。
「くそっ……!速い……!」
「どうした、光の騎士よ。逃げ回るだけが精一杯か?」
ナグ・サハルの冷笑に、クローの瞳が燃え上がる。
「カイ!奴の背後へ回るぞ!視界の外から仕掛ける!」
カイがうなずくように咆哮し、うねるナルルカルシュの身体の間をすり抜けて後方へと回り込む。そして、上空から神聖なる光を纏った一撃を放つ。
「光の牙!!」
神竜の口から放たれた光の奔流が、一直線にナルルカルシュをに命中する。閃光が走り空気が震えた。だが――
「何、だと……?!」
驚愕したクローの目の前で、ナルルカルシュは何事もなかったかのように巨大な頭部を鎌首もたげ、不気味にこちらを睨みつけていた。
「愚かな小僧め!ナルルカルシュは私が呪術で作り出した幻影などではない!浅はかな光の波動など、通用せぬわ!」
ナグ・サハルが、勝ち誇ったように嘲笑を響かせる。
大蛇が体を大きくうねらせると、空に暴風が巻き起こる。カイの翼が乱れたその瞬間、鋭い尾の一撃が襲い、クローは空中から弾き飛ばされた。
「がっ!!」
身体が地に叩きつけられ、激痛が走る。クローは苦しみながらも、必死に立ち上がる。
「……強い……こんな奴がまだいたなんて……」
だが、その瞳には、怯えも絶望もなかった。
「ならば……これでどうだッ!」
クローは体勢を整えると、両腕に炎を集中させた。熱く激しい焔が彼の全身を覆い、やがて巨大な焔の爪となる。
再び飛びかかってくる尻尾を見据え、叫ぶ。
「焰爪断ッ!!」
クローの放った焰の爪が、空を切り裂いて一直線に伸び、轟音をまといながら、ナルルカルシュの尾を深々と斬り裂いた。
鋼のような鱗をも貫いたその一撃は尾を断ち、巨体の一部を鮮やかに切り落とす。
千切れた尾は重力に引かれ、激しく宙を舞いながら、天空島の外縁を越えて遥か地上へと落下していった。
***
「ぐおおぉぉぉーーーぃぃ痛っったぁぁぁぁぁ!!!」
ナルルカルシュが苦痛に吼える。紫の魔紋が消え去り、その瞳に正気が戻る。
「何じゃ?!何じゃここは?!儂は何でここにおるんじゃ?!」
「しまった!痛覚で自我を取り戻したか!」
「呪縛が解けたのか……」
「誰じゃ貴様らは!ん?儂は……儂は誰じゃ?!そう、儂はナルルカルシュじゃ!……あ!さては儂は……操られとったのか!?」
「……そのようだな」
「やってくれたな小僧ッ!!!」
「違う違う、あっちあっち」
クローは怪訝な顔をしてナグ・サハルを指差す。
「む?あの蛇みたいな顔をした奴かっ!」
「お前が言うんだ」
「あー、何か思い出してきたぞ。おのれ呪術師め、絶対に許さん!!」
ナルルカルシュはナグ・サハルを睨みつける。
「小僧、つまり貴様が儂を解放してくれたということじゃな?礼をいうぞ!……ところで儂の尻尾がないんじゃが?」
「それは……お前が攻撃してきたから。ーーー斬った」
爪はまだ燃えている。
「ほぉう。それで斬ったのか?」
「………まぁ……」
「おー。だいぶ根本からイッたのぅ!………貴様ぁぁぁぁ!!!変温動物の儂に火ィ使って攻撃してくるとか正気の沙汰じゃあないのう!絶対に許さーーーー!!!」
「ナグ・サハル!!覚悟しろ!!!」(ナルルカルシュの相手をするのをやめた。)
***
燃えるような怒りと覚悟が込められたクローの咆哮が、戦場に響き渡った。
「まだだ……!私を舐めるなぁーー!!!」
ナグ・サハルが凄まじい叫びを上げる。杖を掲げるその身体から、紫の炎のごとき禍々しい闇魔力が噴き上がり、天を焦がすように渦巻いた。蛇竜大蛇も、操れる力はすべて使い果たした──だが、その身に宿す闇の魔力だけはまだ、尽きてはいない。
ナグ・サハルは魔力を全身に漲らせながら、憎悪に狂った瞳でクローを睨みつける。
「我が呪術はまだ……尽きてはおらぬぞぉおぉぉッ!!!」
瞬間、紫の焔が膨張し、ナグ・サハルを中心に激しい衝撃波となって放たれた。
「くっ……!」
クローは反射的に地面を蹴り、横方向に跳躍する。だが、その衝撃は地面を抉り、吹き飛ぶ岩片が彼の身体を打つ。
(まだこれほどの魔力を……ッ!)
「逃げ惑え、人間……ッ!」
ナグ・サハルが杖を振るう度に、紫炎が大地を切り裂き、荒れ狂う刃となってクローを襲う。
クローは寸分違わぬ動きで、それらを掻い潜りながら距離を詰めようとした。しかし、敵の攻撃は途切れることがない。
地面が次々に破壊され、土埃と砂煙が視界を覆った。闇炎の奔流が幾筋も迸り、クローの逃げ場を徐々に奪っていく。
「どうしたぁ、これで終わりかぁ!?その程度では、あの仲間たちが浮かばれんぞぉ!」
ナグ・サハルの哄笑がクローの心を苛立たせる。だが彼は冷静さを失わなかった。
(闇の魔力は強大だ……だが、攻撃は単調になってきている!)
クローは目を細め、敵の攻撃パターンを見切るよう集中した。そして、一瞬の攻撃の隙を見出した。
(今だ──!)
咄嗟に地を蹴り、猛烈な勢いで間合いを詰めるクロー。その眼差しは迷いなく真っ直ぐ敵を射抜いていた。
「小癪な──!!」
ナグ・サハルが迫り来るクローを睨みつけ、杖を横に薙ぐと、紫炎が巨大な壁となり、クローの進路を阻む。
だが、クローは立ち止まらず、雄叫びとともにその炎の壁に飛び込んだ。
「うぉおおぉおおおおおッ!!」
力が一気に解き放たれ、光焔が燃え上がり、彼の全身を守りながら闇炎を突き破った。
紫炎を破り出たクローは、ナグ・サハルの眼前に肉薄し、鋭い爪を振り上げる。
「ぬぅぅあぁぁッ!!!」
ナグ・サハルも負けじと、杖に残された魔力を込め、全力で受け止めようとした。
互いの力が衝突した瞬間、凄まじい爆発が起き、二人は弾かれるように離れた。クローは地面を滑りながらも体勢を立て直し、ナグ・サハルも息を切らせながら、身体を震わせて立ち上がった。
「……なぜだ……なぜ、倒れぬッ!?」
ナグ・サハルは魔力の酷使で限界が近かった。紫炎が弱まり身体から血が滴る。
「人間風情に……我が呪術が敗れるなど、あってはならぬ……!」
ナグ・サハルが叫び、残った力を総動員して巨大な紫の魔力球を作り出す。闇の炎が収束し、凄まじい魔力が周囲を震わせる。
クローもまた、静かに呼吸を整え、瞳に静かな覚悟を宿した。
「終わらせてやる……。すべてを込めて───カイ!!!」
その瞬間、上空からまばゆい光が降り注いだ。
雲間を裂いて、カイが咆哮と共に急降下してくる。大地すれすれに翼を広げ、蒼く輝く鱗をきらめかせながら、一直線にクローへと迫る。
クローは振り返りざまに跳躍し、そのままカイの背に飛び乗った。 騎士と神竜の共鳴が極限まで高まり、光焔が二人を包み込む。 両足をしっかりと踏みしめ、クローは全身の力を爪先へと収束させた。 カイが高らかに咆哮し、光焔は蒼く澄んだ輝きを放ち始める。
「くらえッ!!!」
ナグ・サハルが絶叫しながら、巨大な魔力球を放った。
収束された闇の塊が凄まじい勢いでクローたちへと迫る。カイが翼を広げ、一直線に突進する。その背に立つクローの瞳は、迫る闇をまっすぐに見据えていた。
「貫けぇッ───!!光焔穿爪!!!」
放たれた一撃は、光と意志を帯びた閃光となって疾駆し、ナグ・サハルの魔力球を正面から突き破った。
霧のように砕けた闇の粒子を突き抜け、爪はそのままナグ・サハルの胸元へ深々と突き刺さる。
「が……は……ッ!?」
紫炎が霧散し、漆黒の魔力が音もなく砕け散っていく。
だが、クローとカイの突進は止まらない。放たれた余波をまとったまま、光の爪が背後にそびえ立つ北の塔──。その魔力の中枢へと一直線に叩き込まれた。鈍く重い衝撃音が空に響き、塔の中央部に深々と亀裂が走った。
内側から魔力の光が暴発し、塔全体が崩れ落ちるようにして、轟音と共に倒壊していった。
「……なぜ……我が闇が……」
ナグ・サハルが崩れ落ちながら、か細く呟く。
その身体は漆黒の粒子に変わり、虚空へと溶けるように消えていった。
クローは荒い息を整え、ゆっくりと空を見上げた。その瞳に浮かんでいたのは、勝利の歓喜ではなく――
穏やかな哀悼の光だった。
「フレイア……ファング……みんな……。仇は…………取ったぞ。」
カイが低く静かな声で鳴く。その優しさに、クローは微かに口元を緩めた。
***
「……終わったか?」
不意に真横から、どこか間の抜けた大きな声が響く。クローとカイの視線の先にあったのは、巨大な蛇の頭――ナルルカルシュだった。まるで風景の一部のようにぬっと顔を出し、こちらをじっと見つめている。
「うわっ! びっくりした!!」
思わず声を上げたクローは、夢中で戦っていたあまり、その存在をすっかり忘れていたことに気づく。そうだ、ここにはまだ大蛇がいたのだった。
「あ、ああ。終わった」
荒く息を整えながら答えると、ナルルカルシュは満足げに頷いた。
「それは良かったのう。じゃあ、儂は地下迷宮に帰るんで、もうあまり響く音を出すんじゃないぞ」
「ちょ、待て!あんた、ウロボロジアの手先じゃないんだろ?天空島に最初からいた住人なんだろ?だったら、今、俺たちは天空島を取り戻すために戦っているんだ!力を貸してくれ!」
クローは身を乗り出すようにして訴えた。その声には切実な願いがこもっていた――が。
「嫌じゃ!!!」
ナルルカルシュは即答した。しかも、驚くほど力強く。
「ええ……(ドン引き)」
クローは引きつった顔で一歩引き、思わず顔をしかめる。
「何で儂がそんな疲れることをしなければならないんじゃ!」
「だから……、天空島を取り戻すために協力してくれって……。あんた、伝説の大蛇だから、強いんだろ?操られていた恨みもあるだろうしさ」
「面倒臭いわ!そんな恨みとかどうでもいい!ほれ、別に尻尾切られても、もう怒っとらんじゃろうが!儂は帰って、酒を死ぬほど食らって寝たいんじゃ!じゃあの!!」
そう言い残し、ナルルカルシュは一度も振り返ることなく、森の方へと進んでいき、姿を消した。
「お前ぇ!いつか天罰とか食らうと思うぞー!」
なんて蛇だ。
「何だったんだ、あいつは……。まあ、いいや、別に目的でも何でもないし」
クローは苦笑しつつ、肩をすくめて呟いた。
***
遥か上空では、暗い雲の切れ間から淡い月光が差し込み、焼け焦げた大地をひっそりと照らしていた。空はまだ夜の帳の中にあり、遠い東の空にわずかな白みが滲む――夜明け前の静けさが、世界を包み込んでいる。
戦いの終わり。塔の崩壊。そして、失われた命に報いるための勝利――。
「──行こう。仲間たちが待っている」
クローは静かに言った。
その足取りに迷いはない。カイもまた、力強く翼を広げる。冷えた夜風が二人の背を押すように吹き抜けていった。
リューガ「宿敵、ナグ・サハルとの戦い。見事だったぞ!クロー!」
ファング「へっ!泣かせてくれるじゃねえか!」
フロスト「ナルルカルシュは……」
フレイム「今、ナルルカルシュの話はよくない?」
ボルト「完全なシリアスブレイカーだったな」
ファング「だからお笑い小説の住人が来るのは反対だったんだ!」
シールド「そうだそうだ!」
リューガ「ふう………。姫はどこだ?!」
フロスト「いました」
アルゼ「はっ!」∑(゜Д゜)
ナルル「はっ!」∑(゜Д゜)
激戦が繰り広げられる天空島でーーーーー
話を聞かない王女とーーー
話にならない大蛇がーーー
出会ったーーーーー
【気が合った】!!!!!
ーーーーーーーあかーーん!!!




