第四十五章:暴走の牙、叫ぶ空に
風が流れていた。
遥か地平の彼方、砂塵の峡谷を越え、竜の墓所の高台から、二人の少女は無星無月の夜空を静かに見上げていた。
――ハートと、ヴァニット。
それぞれが自身の“内なる試練”を終えたばかりだった。
静かな石碑の前、リンドとアズールの姉妹の双翼を背に、ハートは風に吹かれながら深く息を吐いた。
「……終わったね。ヴァニット……ありがとね。あなたがいてくれて、心強かった」
「私だって、ハートが一緒にいたから乗り越えられたんだ」
どちらからともなく微笑んだ時だった。
ハートの身体が、ぴたりと止まる。
「あ……!」
その場に立ち尽くしたまま、彼女は遥か彼方の空に目を向けた。
「この感じ……この気配……!」
風に乗って、かすかに漂ってくる瘴気。そして、胸の奥を焼くような、苦しい衝動。
「颯太……!」
声が震える。リンドの背にすぐに駆け寄りながら、叫んだ。
「ヴァニット!颯太が……これは、あの時の……黒い気配!」
ヴァニットもアズールの背に飛び乗りながら、険しい表情で頷く。
「うん……。いいや、だけど、この瘴気。あの時より濃く暗い……。闇が溢れていく」
すぐさま、ヴァニットがアズールの背に飛び乗る。
「行くぞ、ハート!」
「うん!」
ハートもすぐさまリンドへと駆け、指を鳴らすと、白銀の飛竜が咆哮を上げた。
その鳴き声は、空を引き裂き、重い雲を切り裂くように鳴り響く。
「まだ、間に合う……絶対に間に合わなきゃいけない!颯太が“大切なものを失う前に”――」
翼が一閃し、空を裂く。アズールとリンドの二頭の飛竜が、光と影をまといながら、王都フィンストリオンへ向けて疾走した。
***
フィンストリオンの空が、裂けるような咆哮とともに震えた。
炎と闇が混じり合い、空を引き裂くような絶叫が王都を貫く。その咆哮に応じるように、黒い魔力がクローの背から噴き出し、鎧のようにその身体を包み込んでいく。
影のごときその力は、禍々しい甲冑となって彼の姿を塗り潰した。指先は鋼の剣より鋭く変じ、紅蓮の双眸は地獄の焰を宿したかのように燃え上がる。
その異様な変貌を前に、ラッシュは息を呑み、声を震わせる。
「こいつが……デビルナイツ……なのか……?」
ウイングはわずかに首を振り、低く呟いた。
「違う。俺の知ってる姿じゃない……禍々しさが、桁違いだ……!」
クローの紅い視線が、真っ直ぐにアルベールへと注がれる。そこに、かつての迷いや哀しみはなかった。あるのは、ただ――破壊への衝動。
「……アル…ベール……来い……」
その一歩が、大地を裂いた。
黒き雷光の如くクローが跳ね、瞬時にアルベールへ肉薄する。紅蓮の剣が閃き、鋼と爪が激突した。
――金属が悲鳴を上げる。空気が震える。
「フン……!」
アルベールは咄嗟に剣を振るい、クローの爪を弾く。
迸った火花が宙を舞い、再び踏み込むクローの動きに応じて剣が交錯する。
数合のうちは拮抗していた。剣と爪がぶつかり合うたびに、城壁は砕け、大地が陥没する。その戦いは、人と怪物が織りなす、破壊の舞だった。
「はああッ!」
アルベールの斬撃が、紅の軌跡を描いてクローの胸を薙ぐ。
だが――
鎧には、ひと筋の傷さえ刻まれなかった。
「……ちっ……」
焦りが、アルベールの瞳に滲む。
その隙を逃さず、クローの爪がアルベールの肩を裂いた。紅い血が飛び散り、彼の動きが鈍る。均衡が崩れたのは、その瞬間だった。
「くっ……!」
剣を構える暇もなく、怒涛の連撃が襲いかかる。鋭い拳が顔面を捉え、アルベールが吹き飛ばされる。
「が……っ!」
地を転がり、石畳が割れ飛ぶ。
「な……ぜ……この程度の傷で、体が……?」
それは単なる“傷”ではなかった。黒き魔力が、アルベールの命そのものを蝕んでいた。
剣を支える手が震える。再び構えようとした、その刹那――
「うおおおおお!!」
クローの声が、真横から響く。
次の一撃は、もはや“斬撃”ではない。それは――蹂躙。
拳が腹部に突き刺さり、鎧が砕け、紅の剣が手からこぼれ落ちる。胸倉を掴まれたまま、地へと叩きつけられる。
「ぐはッ!」
石畳が粉砕され、爆風が周囲をなぎ払う。肩を掴み上げられたアルベールが、空中へ――
「砕けろッ!!」
そして、容赦なく地へと叩き落とされる。轟音とともに、半径十メートルの地面が陥没した。
それはもはや“戦い”ではなかった。力の差が生んだ、一方的な処刑だった。
それでもなお、膝をついたアルベールは、剣に手を伸ばそうとする。
クローの口元が、狂気に歪む。その爪が、アルベールの頭上に振り下ろされかけたその瞬間。
クローの身体が、突然“別の方向”へ跳ねるように向きを変えた。
「なにっ……!?」
アルベールの眼前を、咆哮と共に闇が駆け抜ける。
黒き爪は、何の前触れもなく、背後にいたフィンストリオンの騎士たちを切り裂いた。
「ぎゃああああっ!」
盾を構えた若い兵士が、悲鳴を上げて吹き飛ぶ。血が舞う。
「な、なぜだ!? 味方のはず――!」
叫ぶ者もいた。だが、クローの目は、焦点すら合っていなかった。
まるで、そこに“生きて動いているもの”というだけで、すべてが攻撃対象になっているかのように。
「……クロー……お前、どうしちまったんだ……!」
ウイングが震える声で呟いた。
***
爆風が吹き荒れ、悲鳴と瓦礫が空を舞う。敵も味方も、竜も人も関係なく。
今のクローには、「誰かを守る」意思も、「誰かを敵と見る」理性も――もう、存在していない。
紅の瞳は、すべての命を“異物”と見なしていた。
フィンストリオンの騎士たちが後退し、魔族兵たちさえも距離を取る。
「やめろ!お前が悪魔になってどうすんだ!」
ウイングが駆け出すが、黒き触手のような魔力が彼を阻む。
「っぐ……!?」
大地が裂け、ウイングは吹き飛ばされた。
「逃げろ!全員、下がれッ!!」
ラッシュが指揮を取り、撤退を命じる。だが、間に合わない。
空から降る黒の弾丸―― フィンストリオンの兵士も、悪魔兵たちすらも、その雨に貫かれた。
「クロー!それは、お前が望んでいることじゃないだろ!」
ラッシュの叫びにも応じず、クローの魔力はさらに膨れ上がる。
異様な咆哮とともに、カイもまた理性を失っていた。竜と騎士、両者が完全に“闇”へと堕ちたのだ。
――その時。
空を裂き、二対の飛竜が舞い降りる。リンドとアズール。その背に、ハートとヴァニットがいた。
「見つけた……クロー!!」
ヴァニットの声が、空に響く。
「………!」
ハートがリンドの手綱を引く。
「そんな……これが、颯太……!?」
風に舞う髪の向こう、かの姿は、もはや“人”ではなかった。ヴァニットが息を呑み、言葉を漏らす。
「完全に……暴走してる……」
リューガ「バカものめ!だからあの力は使うなと言ったんだ!」
アルゼ「あれ、何で暴走しちゃってるんですか?」
リューガ「おそらく、クローがデビルナイツの力を使うとそれがカイにも影響されるんです」
アルゼ「確かに、前の時は、カイちゃんも目が赤く光ってましたしね」
リューガ「ええ、(貴女いましたものね)そしてそのまま魂を共鳴させる事により、龍の気と一緒にカイに付与された闇の力を吸収し、凶悪なものとなってしまったのだと思います。」
アルゼ「そしてそれの影響を受けてカイちゃんもさらに暴れん坊に」
ファング「そして戦いながら竜魂共鳴が強くなり、さらに闇が強く」
アルゼ「無限ループ!」
ボルト「まさに悪化暴走!」
フレイム「そりゃ、ああもなるわね」
リューガ「止められるのは、俺か!今すぐ目を覚ますしかない!」
アルゼ「お待ちなさいリューガ!」
ーーーーーー原作設定では貴方は離脱したままってことになってるんですよ。
ーーーーー原作で、とは?!!!




