第三十五話: 戦塵の静寂、揺れる心
ヴェルランディア城内。
激戦の余韻が残る中、ヴェルランディア城にはようやく平和な空気が戻りつつあった。
しかし、戦火の傷跡は未だ深く、城のあちこちには早急に修復作業を行う兵士たちの姿があった。
天城颯太 (クロー)たちはそれぞれの時間を過ごしていた。
ウイングとブレインは兵士たちの負傷者の確認に回り、ハートは体調を整えるため、王宮の一室で休んでいた。
***
颯太は城のバルコニーに出て、夜風に当たりながら景色を眺める。
目の前には静かな星空が広がっているが、心の奥はまだざわついていた。
そこへ、ひょっこりとヴァニットが現れる。
「そこは私が見つけた場所だぞ」
「起きてたのか?もう寝ておけよ。一晩中飛んで戦ってヘトヘトだろうに」
「お前は寝ないのか?」
「俺は……まだ戦闘の余韻がなぁ……。柚希じゃないけど、会話ができる相手を倒すっていうのは、いつも心にわだかまりってやつが残るんだ。」
「わかるぞ、私もいつも感じている」
「わかるか……。」
ヴァニットは颯太の横に立ち、同じように夜空を眺める。
「今までの私は、戦う理由なんて気にしなかった。ただ言われるままに敵を殺して、強くなって……それだけが私の“生きる意味”だったから、何も気にしないようにしていた。」
「……。」
「でも、今は違う。ハートに会って、こうしてお前たちと一緒にいて、戦い以外のことも経験して」
「そうか、変わったんだな、お前は」
「変わった……。そうね」
颯太はゆっくりと振り向いた。その瞳を、ヴァニットはじっと見つめる。彼女とは命をかけて何度も戦った関係だった。恐怖に震えながら武器を交え、憎しみすら覚えたこともあった。だが今、こうして向き合ったとき、かつて抱いていた感情とは違う何かが胸を満たしていた。
(ヴァニットって、こんなに綺麗な顔をしてたんだ。)
戦場では知ることのなかった、その横顔の静かな気配に、颯太の心は揺れた。
ヴァニットの足音が、かすかに草を踏む音を立てる。焚き火の明かりに照らされた彼女の表情は、戦場で見たどんな表情とも違っていた。鋭く、理知的で、冷静なヴァニット。それが今は、何かを探すように揺らいでいる。
「……ど、どうしたヴァニット」
颯太が思わず声をかけると、ヴァニットは真っ直ぐに彼を見つめた。
「……クロー、今、私にはわからないことがある」
「ん?なんだよ言ってみろ。俺がわかりそうなことならーーー」
「クローが気になって仕方がない。」
ヴァニットの言葉に、颯太の体が硬直した。
「…………え…………?」
焚き火の炎が、ヴァニットの緋色の瞳に映る。揺らめく光の中で、彼女の視線がまっすぐに自分を射抜いていた。
「お前の行動が気になる、お前の姿が気になる」
「ヴァニット?」
「お前の発言が気になる、お前の目が、声が……。」
そう疑問を口にしながらヴァニットは、ゆっくりと颯太に歩み寄ってくる。その瞳には迷いも不安もない。ただひたすらに、確かめるような純粋な視線だった。
「口が……。」
ヴァニットの囁きに、颯太の視線は自然と彼女の唇へと向かう。
焚き火の熱よりも熱くなったのは、颯太の顔だった。
「ヴァニット!」
颯太はヴァニットの肩を掴んでーーー引き離すと、赤くなって顔を背けた。
「…………そういうのは、本人にそのまま言うんじゃなくて、もうちょっとソフトに伝える的な……そんな感じなんじゃないのかなぁ……。」
「なぜだ?本人に聞いた方が確実じゃないの?」
「いや、そうなんだけど」
「お前、私の居場所になってくれるって言ったろ?」
「んんん?あ、ああ……。(え?あれはそう、そういう捉え方にもなるのか?!)」
「い……今は、俺にもわかんねぇんだ……。」
「……そうか。わからないのか。私と一緒なんだな」
「そうだ……。こういうのは、同性の柚希の方が詳しいから、柚希に聞いてみるのがいいと思うぞ!」
「なるほどな、じゃあ、ハートに聞いてくるとする」
そう言って、ヴァニットはその場を去っていった。颯太はその背中を見送りながら、大きく息を吐く。
「子供かお前は、あそこは抱き寄せるところだろう?なんだあの返答は、意気地なしが」
突然、背後から聞こえた声に、颯太はびくっと肩を跳ね上げた。
「い、いたんですかラッシュさん」
「ちょっと風に当たりに来たんだが、こんな所に出くわすとはな。しかし、ハートに聞けとは、ちょっと酷すぎやしないか?修羅場にしたいのか?」
「え?柚希が修羅場?何で?」
「ん?(これは鈍くて言ってるんだよな?)」
ラッシュは半ば呆れたように颯太を見つめるが、本人は本気でわかっていないらしい。焚き火の薪がパチンと弾け、夜の静寂に微かな音を響かせる。
「ま、いい。私はもう寝る。せいぜい明日の朝、血の雨が降らないことを祈っておけ」
そう言い残し、ラッシュはその場を去る。颯太は、焚き火を見つめながらぼんやりとつぶやいた。
「血の雨……?そんなことにはならないだろ。でも……ヴァニットが俺のことをそんな風に感じていたなんて、な……。」
薪がくすぶる音だけが夜闇に溶けていく。
そして、夜が明けた。
ハート「それは恋ね!」
ヴァニット「鯉!食べたことある!」
ハート「さすがねヴァニット、肉食系ってことね!」
ヴァニット「鯉を、どうすればいい!?」
ハート「かまわないわ、寝込みを襲うのよ!」
ヴァニット「煮込んで、お惣菜?!」
ハート「こう、グッチュグッチュ混ざり合ってぇ」
ヴァニット「グツグツ混ぜ込んで?」
ハート「朝チュンよ!」
ヴァニット「朝、チンして食べるの?!」
ハート「大丈夫?イケる?!」
ヴァニット「わからない、でも朝までなら美味しく食べれると思う!」
ハート「その意気よヴァニット!さあ、お行きなさい!」
ヴァニット「わかった!川に行ってくる!!」
ハート「え?!」
ヴァニット「え?!」
ーーーーーーーーー何てコントですかこれは?
ーーーーーーーーーーーというか、ハートの発言はヤバすぎないか?




