第二十四話: ウロボロジア
天空城から脱出したクローたちは、光の扉を抜けて天空の祭壇へと帰還した。
そこには、未だ温かな戦場の余韻が残っていた。先ほどまで多くのドラゴンナイツたちが整列してガーデへと進軍した場所。今、その場に残されたのは、ブレイン、クロー、ヴァニット、そして意識を失ったままのハートと3体の飛竜だけだった。
クローは意識を失ったハートを慎重に抱えながら、荒い息をつく。
「……戻ってきたか。」
ブレインが低く呟き、荒い息をつきながら剣を鞘に戻した。
「……俺たちだけになっちまった。くそっ……!」
クローは拳を壁に叩きつけた。その音が、静寂の遺跡に響き渡る。
祭壇の中心に、静かに佇むゼルフィードが彼らを出迎えた。主の帰還を待っていたが、その瞳には不安が浮かんでいるように見える。
「ゼルフィード……。」
「ロークス。何カッコつけてんだよ……!」
2人は、仲間の死を噛み締め、途方に暮れていた。
***
その時――。
突然、遺跡の空間が歪み始めた。
まるで闇そのものが引き裂かれるかのように、黒い裂け目が生じ、そこから重い足音が響いた。
「……!?」
クローが素早く構える。
「……何だ!!」
ブレインが即座に剣を構え、ヴァニットも警戒を強める。
裂け目の中から姿を現したのは、巨大な狼のような獣人ローランだった。そして、その腕に、傷だらけのウイングを抱えていた。
「……忘れ物だ。」
ローランはボロボロの状態で膝をつき、慎重にウイングを降ろす。
「ロークス?!」
クロー達が駆け寄ると、ウイングは薄く瞼を開き、かすれた声を漏らした。
「……へへっ、死にそびれちまったぜ……。良い感じのセリフで決めれたと思ってたんだけどな」
「………お前なぁ……。」
「……まあ、俺にもまだやらなきゃいけないことがあるしな。ほんとは仲間と共に果てたかったけど……神様ってヤツが、まだ生きてろって言ってくれたのかもな」
「ロークス、どこまでもキザな男だ。ありがとう、生きていてくれて……。」
ブレインは涙を堪えながらそう言い、ナイツの3人はウイングの体を囲って強く抱きしめた。
ヴァニットと目が合うウイング。
「ちょっ!おぅい!ヴァニットがいるんだけど?!あ、いてててて!!キズが!何で?何で俺はヴァニットに組み付かれてんだ!!」
暴れるウイングを組み伏せながら、ヴァニットはきょとんとしてクローとブレインを見る。
「これが正解ではないのか?」
「あ、ああ。お前は抱きつかんでいい。」
ブレインの冷静な返答と、ウイングの生存に安堵の空気が一瞬流れたが、すぐにローランが口を開いた。
「……今は、そんな悠長なことを話している場合じゃないだろう。無駄に戦力を減らしおって。貴様らのその力でガーデに行っても無駄だと言ったはずだ。」
ローランはゆっくりと立ち上がり、血まみれの手で額の汗を拭った。
「しかし、戦況はこちらが優位のはずだった。あの蛇竜の大群が出てくるまでは……。あんなもの、今までの戦いでは一度も見たことがなかった。」
「あれか、あれは痛覚を持たない闇の幻影。ナグ・サハルの作り出した拠点防衛用の奥の手だ。」
「ナグ・サハルだって!?あいつがみんなを!」
ナグ・サハルは、呪術を使うコブラの祈祷師、かつてクローの相棒フレイアの命を奪った敵だ。クローはその名前を聞き、怒りが込み上げてきた。
「落ち着けクロー、今、憤ってもどうしようもない。」
「くっ……。そうだな………。そうだ、ローラン。何故ウイングを救ってくれたんだ?そんなボロボロになってまで……」
ローランはウイング以上に身体に傷を負っていた。武器による殺傷傷ではなく、爪や牙などの傷跡だ。すなわち、ローランはナイツではなく、ガーデからの攻撃を受けて、ここに来たのだろう。
「こいつは強い。悪魔達の大群を前にたった1人でよく戦っていた。亡くすには惜しいと思ったからだ。」
「だけど、あんたはガーデの幹部のはずだ!なのに、どうして……。」
ローランは静かに口を開いた。
「……俺は我が主、いや、『ウロボロジア』が天空島を乗っ取る前に、天空島で生まれた者だ。」
その言葉に、クロー達の表情が険しくなる。
「ウロボロジア……それが敵の……ガーデのボスの名前か?」
クローが低く呟く。ローランは静かに頷き、続けた。
「奴は、この世界に生まれた “最も純粋な闇の存在” だ。」
「最も純粋な闇……?」
ブレインが僅かに眉をひそめる。
「かつて、この世界の賢者たちが禁断の魔法を研究していた。それは、光と闇の均衡を操るものだった。だが、彼らはその均衡を制御できなかった。封印されていた闇のエネルギーを誤って解き放ってしまった結果、誕生したのがウロボロジアだ。」
ローランは拳を握りしめながら言う。
「つまり……実験の失敗で生まれた“化け物”ってわけか。」
クローが唇を噛みしめる。
「いや、違う。」
ローランの目が鋭く光る。
「ウロボロジアは“化け物”ではない。奴は、意思を持ち、冷酷な知性を持った “災厄” だ。」
「……奴の目的は?」
ローランは空を見上げ、低く呟く。
「奴の目的はただ一つ。永遠に続く混沌と戦乱を作り出すこと。 」
「世界を支配するつもりはないのか?」
ウイングが苦しげに問いかける。
「ああ……奴は“支配”すらも興味がない。秩序も平和も、すべて破壊し尽くし、世界をただ終わりなき戦場にしようとしているんだ。」
「……なんてやつだ……。」
「待て、ヤツと私がした約束はどうなるんだ?!」
ヴァニットが喰い気味にローランに詰め寄る。
「安らぎを与え、仲間のところに帰すという話だったか?ヴァニット、ウロボロジアはハナからそんな約束を守る気はない。俺の故郷を奪ったように、お前の故郷はすでに破壊されているだろう」
「くそっ!やはりハートが正しかったのか!」
ヴァニットは拳を握りしめ、怒りに震えた。
「俺は天空島を取り返すため、あえてウロボロジアにつき、勇敢な戦士たちが現れるのを待っていた。だが……残念だ。今のお前たちの力では、もはやウロボロジアに近づくこともできん。」
ローランは断言した。
「じゃあ、どうすればいいっていうんだ?」
クローが強く問いかける。
「どうするかは……俺には分からん。」
ローランは薄く笑いながら肩をすくめる。
「言うなら……神に近いほど強くなる、とかか……。」
その場に沈黙が訪れた。
あまりにも曖昧で、あまりにも遠い言葉。だが、それは紛れもなく真実だった。
ローランは立ち上がり、ゆっくりと背を向ける。
「ガーデに戻るのか?」
クローが問いかけると、ローランは足を止めた。
「俺とヴァニットはすでに裏切り者だ。もう戻れん。ウロボロジアを倒すために、俺は俺のやれることをするだけだ。」
その言葉に、ヴァニットがじっと彼を見つめる。
「ローラン、私と一緒に、こいつらの所に行かないか?」
彼女の提案に、ローランは静かに振り返った。
「ナイツにか?」
一瞬、思案するように瞳を細める。
そのまま彼は小さく笑い、空を見上げながら呟いた。
「そうだな……今はまだ、な。」
ローランの姿が闇に溶けていく。
風が吹き抜け、彼が立っていた場所には、ただ夜の静寂が残された。
クローはその場に立ち尽くしながら、拳を握りしめる。
「神に……近いほど強くなる、か。」
その言葉が、脳裏に焼きついて離れなかった。
ヴァニット「ローラン、私と一緒にナイツのとこ行こう」
アルゼ「お待ちなさいヴァニット。あなた、ちゃんとローランの面倒みれるんですか?」
ローラン「!!?」
ヴァニット「え?うん……。」
アルゼ「本当に最後まで責任持てますか?連れてきてもいいけど、大丈夫ですか?世話ができないと困りますよ。ローランを飼うって簡単なことじゃないですし、毎日の世話や健康管理も必要ですよ。途中で投げ出したりしませんか?もし何かあった時にちゃんと対処できますか?ただ飼いたいだけじゃなくて、ちゃんと世話する覚悟があるのか確認したいのですけれど、本当に大丈夫ですか?」
ヴァニット「えぇえ……………。じゃあ…………返してくる。」
ーーーーーーーーーーーーーーワォン?!!




