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7話:羊の魔獣フェルブーの捕獲

ライゼンはエリオンの助けを借りて、フェルブーの飼育計画を本格化させていくことにした。これにより、新鮮なマトン肉を自給自足できる可能性が見えてきた。食堂のメニューにも、フェルブーの肉を使った料理を加えられるかもしれない。


「解体は私がやるから、任せてみて。」エリオンは自信満々に言った。ライゼンは彼女がどれほどの腕前を持っているかを心配しつつも、任せてみることにした。エリオンは驚くべき手際でフェルブーの解体を行い、不要な部位と可食部位を見事に分けていった。


「さすがだな、エリオン!」ライゼンは感心して声を上げた。彼女の解体技術は見事で、血も無駄にせず、全てを有効に使おうとする意志が伝わってきた。これなら、質の高い肉を提供できるだろうと感じた。


その、(さすがだな、エリオン!)とライゼンが感心して声を上げた瞬間、エリオンの心は一気に熱を帯びた。解体作業に集中していた彼女の頬が、ライゼンの言葉を聞いた途端、熱く染まる。ライゼンの視線が自分に向けられ、真剣に感心されていると感じたその瞬間、胸の奥がキュンと締め付けられた。


「ライゼンが…褒めてくれるなんて…」と心の中でつぶやきながら、彼女はうっかりと顔をそらしてしまった。

ライゼンの、その一言が、エリオンにとっては何よりも嬉しかった。ライゼンが自分を認め、頼りにしてくれていることが感じられて、彼が自分のために褒めてくれるたびに、彼女の心はますます彼に惹かれていった。


「も、もっと頑張らないと…」と、エリオンは胸の内を熱くして、張りのある胸を揺らして喜んでいた。




フェルブーの飼料は、エリオンを拾う前にライゼンが交渉していたとおり、アラン商会から調達できることになった。

エリオンが説明する。「フェルブーは魔獣だから、多少の低品質な食べ物でも問題なく消化できる。だから、あまりお金をかけずに飼料を手に入れることができるわ。」


「それなら、かなり経済的だな。」ライゼンは嬉しそうに頷いた。


しかし、食堂の収入だけでは十分ではないことがわかっていた。ライゼンはフェルブーの肉を町の肉屋に卸すことも考え始めた。

「アラン商会から紹介状をもらって、肉屋とつなげるルートを作る必要があるな。」


彼はすぐにアラン商会の担当者に連絡を取り、紹介状を発行してもらうことになった。アラン商会は町での信頼性が高く、紹介状があれば肉屋も真剣に話を聞いてくれるだろう。


その後、ライゼンは肉屋へ向かった。店に入ると、店主がライゼンを見て驚いた様子で迎え入れた。

「おお?、あんたは?」


「実は、新たにフェルブーの飼育を始めて、新鮮なマトン肉を卸すことを考えているんだ。」ライゼンは紹介状を差し出しながら説明した。


店主は紹介状を受け取ると、真剣な表情で内容を確認した。

「これなら、確かに信頼できる。アラン商会からの伝手なら君の肉は質が高いだろうし、取引を考えてもいいかもしれない。」


こうして、ライゼンはフェルブーの肉を肉屋に卸すルートを確保することができた。今後の収入が見込めることで、少しの時間、食堂の再建に時間を掛けられるかもしれない、そう思い始めていた。



ライゼンは父の店へ戻ると、父デービットがすでにフェルブーの新鮮な肉を手にしていた。エリオンが見事に解体したその肉を見ながら、デービットは腕を組んで考え込んでいた。


「父さん、フェルブーの肉を使って、あのマトンの煮込みスープを作ってみないか?」ライゼンが提案すると、デービットはうなずき、さっそく調理に取り掛かった。


厨房に漂う香ばしい香りが次第に広がり始め、ライゼンはそれを感じながら期待が高まっていった。以前のマトン肉は、質が低く、どうしても硬さが残ってしまうため、スープも特別美味しいとは言えなかった。しかし、今回使うのは魔獣フェルブーの肉だ。ライゼンは、その違いを客たちに感じてもらえると確信していた。


「よし、できたぞ!」デービットが湯気を上げる大鍋からスープをすくい、一皿に注いだ。まるで黄金色の液体が溢れるかのように、スープの中には柔らかなマトン肉が浮かんでいる。新鮮なフェルブーの肉はスープの中でほどけるように柔らかく、風味も豊かだ。


「これを一皿、銀貨1枚で提供しよう。パンも2個つけて、セットにするんだ」とデービットが話す。


ライゼンはその価格設定に納得した。高品質な肉を使っているだけに、これだけの価格でも納得できるはずだ。しかもパンが2個ついてくるとなれば、かなりのボリューム感がある。


「これなら、お客も満足してくれるさ」とデービットは自信満々に語りながら、スープを皿に盛りつけた。


さっそく客に提供すると、その反応はすぐに現れた。口に入れた瞬間、スープの旨味と柔らかいマトン肉が広がり、客の表情が一気に緩む。「これ、なんだ…今まで食べたマトンとは全然違う!」と驚きの声が上がる。


「さすがだ、父さん。これなら、フェルブーの肉はしっかり活かされてるな」とライゼンは父に微笑みかけた。デービットは、照れ隠しのように軽く手を振ったが、その目には誇らしさが浮かんでいた。


エリオンも、遠巻きにその様子を見ながら微笑んでいた。彼女の解体した肉が、こうして美味しい料理に姿を変え、多くの人々に喜ばれていることが、彼女にとっても大きな誇りだった。



「どんどん解体するわ!」とエリオンは目を輝かせて意気込んでいた。しかし、ライゼンは苦笑いを浮かべながら彼女に説明した。


「いや、エリオン、気持ちは嬉しいけど、1頭で80皿分のスープが作れるんだ。3日に1頭を解体すれば十分なんだよ。」


エリオンは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに頷いた。「ああ、そっか。まあ、それでも任せてよ!」と笑顔を見せる。しかし、ライゼンの頭には別の問題がよぎっていた。


エリオンの力と技術は申し分ない。だが、彼女の数字の弱さは昔からの問題だった。食堂で働くには、仕入れや在庫管理、売上の計算など、数字の管理も重要だ。それができなければ、彼女の力を十分に発揮させることは難しい。


「エリオン、解体だけじゃなくて、食堂の仕事もちゃんと覚えないとな。数字の管理ができないと困るだろ?」ライゼンがそう言うと、エリオンは少し肩をすぼめた。「う、うん…数字はちょっと苦手なんだけど…」


「だから、俺が教えるよ。毎日1時間、一緒に数字を勉強しよう。」ライゼンは優しく言い、彼女を励ますように微笑んだ。


エリオンは少し戸惑いながらも、「…わかった。頼りにしてるよ、ライゼン。」と答えた。その姿は戦場での勇敢な戦士とは少し違い、何かを学ぼうとする素直な一面が垣間見えた。



フェルブーを捌く周期が決まり、3日に1頭のペースではすぐに在庫が尽きてしまうことに気づいたライゼンは、今の頭数では数が足りないことを考慮し、追加でフェルブーの捕獲に出かける必要があると判断した。


「父さん、食堂の片づけは頼むよ。俺たちは少しの間、フェルブーの捕獲に行ってくる。」ライゼンは父にそう言い、出発の準備を始めた。


エリオンも装備を整え、ライゼンの隣に立った。「フェルブーを探すのなら、私の索敵能力が役に立つだろうね。」彼女は自信満々に胸を張る。


ライゼンは頷きながら微笑んだ。「そう、そのために君を連れて行くんだ。君の索敵能力があれば、効率よくフェルブーを見つけられるはずだ。」


エリオンはその言葉に嬉しそうに頷き、すぐに出発の準備を完了させた。二人は森へと向かい、フェルブーの捕獲に向けて歩みを進める。


「今回は、何頭くらい狙う?」エリオンがライゼンに問いかける。


「できれば2、3頭は確保したいところだな。捕獲がうまくいけば、それでしばらくは安泰だ。」


ライゼンとエリオンは森の中に入り、彼女の優れた索敵能力に頼りながら、次のフェルブーを捕らえるべく進んでいく。エリオンは耳を澄ませ、目を細めながら周囲を観察していた。その集中力と頼りになる存在感は、戦場での彼女を彷彿とさせるものだった。


「ここから少し先に、フェルブーの気配があるわ。」エリオンが静かに告げる。


「さすがだな、エリオン。」ライゼンは彼女を褒め、二人は慎重に足を進めながら、フェルブーを捕獲するための準備を整え始めた。


ライゼンとエリオンは、最初にフェルブーを捕まえた時と同じ戦法を取ることにした。ライゼンが召喚したスケルトンたちが、森の中で密かに周囲を取り囲む。そして徐々にその包囲網を狭めていくことで、フェルブーの動きを封じていった。


「いける、今回もうまくいきそうだ。」ライゼンが低く声をかけると、エリオンは鋭い眼差しで先を見据えていた。


「私の索敵能力にかかれば、フェルブーを見逃すことなんてないわ。」エリオンは自信に満ちた表情を浮かべ、手早く次の獲物の気配をつかむ。


最初の一頭を捕らえるのは簡単だった。スケルトンたちが効率よく動き、フェルブーを逃がさないように包囲網を完璧に仕上げた。フェルブーは動揺し、徐々にその動きが鈍っていく。ライゼンが合図を送ると、スケルトンたちは一斉に動き、フェルブーを確実に捕獲する。


「これで一頭目だな。」ライゼンが息をつきながら言った。


しかし、エリオンの索敵能力が予想以上に働き、彼女が次々と新たなフェルブーの居場所を見つけ出す。最初は2、3頭のつもりだったが、気がつけば捕獲の数がどんどん増えていった。


「次はあそこだ、すぐ近くに群れがいる!」エリオンが興奮気味に指示を出すと、ライゼンもスケルトンたちに指示を出し、再び包囲網を狭めていく。こうして、二人はあっという間に複数のフェルブーを捕らえていった。


「30頭近くも捕まえたぞ…これは予想以上だな。」ライゼンは驚きながらも、エリオンの能力に感謝の気持ちを隠せなかった。


「これでしばらくの間は食堂も安泰ね。」エリオンは満足げに笑う。


「本当に、君の索敵能力のおかげだよ。」ライゼンが感謝の言葉を口にすると、エリオンは照れたように軽く笑みを浮かべた。二人は無事に大量のフェルブーを確保し、町はずれの柵へとフェルブーを連れて戻っていった。


翌日、ライゼンとエリオンは再びフェルブーの捕獲に出かけた。昨日の成果は驚異的だったが、30頭ではまだ足りない。3日に一度エリオンが解体するペースでは、この数ではじきに底をついてしまう。


「あと30頭は確保しないと安心できないな。」ライゼンはそうつぶやきながら、エリオンの能力を再び頼りにすることを決意する。


「任せて。今日も目一杯捕まえてみせるわ。」エリオンは自信満々に答え、索敵を開始した。


二人は再びスケルトンを使った包囲戦術で、効率よくフェルブーを捕獲していった。しかし、昨日よりも時間がかかった。フェルブーの群れが広範囲に散らばっていたため、隠れている場所を見つけ出すのに苦労したのだ。


「だいぶ日が傾いてきたな…」ライゼンが空を見上げながら言った。「でも、目標に届きそうだ。」


「大丈夫、もう少しだわ。」エリオンは疲れた素振りも見せず、次の群れの位置を指し示す。


その日は二人とも汗だくになりながら日没までかかって30頭の追加捕獲に成功した。フェルブーを引き連れて町に戻る頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。


「これでしばらくは安心だな。」ライゼンが満足げに言い、エリオンも頷いた。


町に戻ると、エリオンはデービットの食堂の2階にある元宿の部屋へ直行し、そのままベッドに倒れ込むように眠りについた。彼女の体は疲労で限界に達していたが、安堵感が勝っていた。


一方、ライゼンと父デービットも自宅に戻り、それぞれのベッドでぐっすりと眠りについた。捕獲の成功に満足し、全員が深い眠りに落ちたその夜、町には静けさが広がっていた。

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