27話:悪魔の赤蛇
翌朝、薄明るい光が部隊のキャンプに差し込み、ライゼンは目を覚ました。部隊の動きは始まっており、斥候メンバーが選出されて出発したところだった。その後朝食の間に、何度も偵察が派遣されており、敵の動向を探ろうとしているのだ。やがて隊員たちは朝食を済ませると、各小隊に分かれて準備を始めた。
「今日は敵の位置をしっかり確認しないといけないからな!」と、部隊の副隊長であるエルナが皆を見ながら言った。
「そうだ。敵が国境線を越えてこないことを確認しないと、我々も動けない。注意深く行動しよう。」ライゼンは頷きながら応じる。
彼はスケルトン部隊のことを考えながら、今後の戦闘に備えて心を整えた。しばらくして、斥候たちが戻ってきた。
「報告します!」一人の斥候が息を切らして叫んだ。「国境線には敵の部隊は見当たりません。全体的に静かな状況です!」
「それなら、越境攻撃を開始しよう。」隊長が指示を出すと、周囲の士気が高まる。
「でも、越境すると敵の支配地域に入るわけだ。」エルナが不安げに言った。「緊張が高まるのは確かだ。」
「その通りだが、今が好機だ。相手に余裕を与えるわけにはいかない。」隊長は冷静に答えた。「我々の強みを活かせば、うまくやれるはずだ。」
隊員たちは準備を進め、武器を確認し、心の準備を整えた。緊張感が漂う中、隊長は隊員たちに声をかけた。
「皆、我々は一つのチームだ。お互いを信じて戦おう。もしもの時は、必ず助け合うことを忘れないでくれ。」
「はい!」隊員たちの返事が一斉に響く。
「では、出発する!」隊長が号令をかけると、部隊はゆっくりと進軍を始めた。国境を越える瞬間、彼の心臓は高鳴った。これから待ち受ける敵との接触に、全員が緊張しているのがわかった。
越境し、相手の支配地域に足を踏み入れると、部隊全体に緊張が走る。周囲の景色が変わり、敵の領土に踏み込んだことを実感する。
「気を引き締めろ。いつ敵が襲ってきてもおかしくない。」ライゼンが隣や周りの傭兵たちに話をすると、傭兵たちは頷きながら警戒を強めた。
「ライゼン、敵がどこにいるかわからないのに、大丈夫なのか?」一人の新兵が不安を口にした。
「心配するな。我々は準備万端だ。敵の動きに合わせて行動しよう。」ライゼンはその新兵の肩を叩き、励ました。
ライゼンは国境を越えて南下する部隊の一員として進軍を続けていた。北の方は第一部隊が抑えているため、彼らは安全を感じつつ、慎重に行動することが求められた。国境を越えてから約1時間が経過し、部隊は休憩をとることにした。
「よし、ここで少し休もう。」前方を進む一人の隊長が声をかける。
ライゼンはその言葉に応じて、近くの木の下に腰を下ろした。周囲には仲間たちもいて、皆がほっと一息つく様子が見受けられた。しかし、心のどこかで緊張感が漂っていた。
「何かあったらすぐに動けるようにしておけよ。」ライゼンは水を口に含んで飲み下すと、隣に座る傭兵に言った。
「わかってる、ライゼン。休憩なんてあっという間だしな。」傭兵は頷きながら水を飲む。
2人が支給された干し肉に齧りついたその時、部隊の斥候が戻ってきた。息を切らし、緊張した面持ちで報告を始める。
「報告します!敵部隊を発見しました。南の方、約1キロの距離に位置しています!」
「敵部隊か…」ライゼンは思わず身を乗り出した。
「直ちに準備を整えろ!攻撃の準備だ!」前方の隊長が指示を出すと、部隊全体に緊張が走った。
「ライゼン、急いで準備しないと!」副隊長のエルナが声をかけてきた。
どうやらこの短時間の間で頼りにされている様だ。
「了解!」ライゼンはすぐに立ち上がり、肉のかけらを飲み込むと、杖を握りしめた。周りの仲間たちも同様に慌ただしく動き出し、緊迫した雰囲気が漂う。
「みんな、しっかり集中しろ!敵がどう動くか分からないから、隙を見せるな!」エルナが指揮をとり、部隊の士気を高めていく。
「敵の数はどれくらいだ?」ライゼンが斥候に尋ねた。
「数は分かりませんが、相手はしっかり陣を構えているようです。」斥候は答えた。
「了解だ。こちらも準備を急ごう。」ライゼンはそう言いながら、仲間に指示を出していく。緊張が高まる中、彼は自分の体調を確かめた。心拍数が上がっているのを感じるが、気合を入れ直した。
「ライゼン、準備はできているか?」隣にいた傭兵が心配そうに尋ねてきた。
「問題ない。お前も気を引き締めろ。敵が近いぞ。」ライゼンは彼を励ますように言った。
丘の上に陣地を構える敵部隊は、その優位な位置を誇示するかのように、戦意を高めていた。こちらの第2部隊は、向こうよりは低いがなだらかな傾斜の位置まで進めており、少々不利な状況であった。
「おい、こっちに来い!」敵兵が大声で煽りながら、こちらを指差して笑い声を上げる。その後ろで、仲間たちも一緒になってこちらを嘲笑う。煽り合いは始まり、緊張が高まる。
「やれやれ、こういうのはいつまで続くんだろうな…」ライゼンは心の中で思い、無関心を装いながら様子を見守っていた。
しかし、その状況も長くは続かなかった。敵部隊が叫び、彼らの士気を鼓舞する声が響く中、ついに全軍突撃の号令がかかった。
「全軍、突撃!」第2部隊の隊長が鋭い声で指示を出す。
その掛け声に合わせて、ライゼンも詠唱を開始した。彼の心の中には決意が宿る。周囲の仲間たちが突撃する中、ライゼンはスケルトンナイトの強力な100人規模の部隊を2つ召喚する。彼は念じるように呪文を唱え、瞬時にスケルトンナイトたちが出現した。
「行け、スケルトンナイト!右翼、左翼、そして大外へ回り込め!」ライゼンは命令を下すと、召喚された部隊はその言葉に忠実に従い、素早く動き出した。
敵部隊は、自軍の突撃に気を取られている隙を突いて、スケルトンナイトたちが側面に回り込む。ライゼンはその光景を見ながら、戦況が大きく変わる瞬間を待ち構えていた。
スケルトンナイトの部隊は、駆け足で敵部隊の側面に突撃を開始した。彼らの動きは無駄がなく、瞬時に混乱を巻き起こす。敵兵たちは、突然の攻撃に驚き、パニックに陥った。
「このモンスターはなんだ!何が起こっている!」敵の指揮官が叫ぶ。しかし、混乱は広がるばかりで、もはや彼らの声はかき消されてしまった。
ライゼンは、スケルトンナイトたちが敵部隊を切り崩していく様子を見て、内心ほくそ笑んだ。「これが俺の力だ。見せてやる!」
ライゼンは珍しく長い詠唱を始めた
「闇の深淵より、忌まわしき者よ、
我が声に応え、ここに現れよ。
人の肉を貪る大蛇よ、
命を求める者を捉え、
その恐怖を味わわせよ。
今、我が名のもとに、
呼び覚ませ、影の者よ!」
一息置いて名を告げた
「サマエル 召喚」
地面が黒くなり、渦を巻き始める、
ライゼンは走りだそうとする前方の副隊長エルナに声を掛けた、
「撤退しろ、できる限り兵を引くんだ」
エルナが不穏な空気を感じ取り、
前方の部隊に大声を掛ける、「下がれ、撤退しろ!」
敵陣の中心に暗黒の穴が現れた。その渦は次第に大きくなり、敵兵が恐怖に顔を歪ませながらも後退する間もなく、渦は直径10メートルにまで広がっていく。
「これで終わりだ…!」ライゼンが低く呟くと、渦はますます激しく旋回し、まるで地面そのものが生き物のように蠢いた。その瞬間、渦の中心から巨大な赤い蛇がゆっくりと姿を現した。蛇の鱗は鋭く輝き、眼は血のように赤く燃えていた。
地面を突き破るように蛇の巨大な頭が姿を現し、周囲を飲み込むように大きく口を開ける。10メートルの円形の渦の中にいた敵兵たちは、ただ茫然とその口を見上げることしかできなかった。次の瞬間、蛇の口が一気に閉じられ、エリア内の敵兵たちを丸飲みにしてしまった。
絶望の悲鳴とともに、彼らは渦の中に消え、静寂が訪れた。ライゼンはその光景を冷静に見つめ、満足げに息をつく。彼の召喚した蛇は再び地面の中に姿を消し、血の匂いだけが戦場に残された。
ライゼンの召喚した巨大な蛇が地面に戻った後、戦場には一瞬の静寂が訪れた。その静けさがかえって、不気味さを増幅しているかのようだった。目の前で仲間が消えたことを理解しきれない敵兵たちは、恐怖と驚愕の表情を浮かべたまま、震え上がっていた。
「……なんだ、今のは…?」「あんなのが…人間の力なのか?」誰かが震える声で呟いた。信じられない光景に、彼らの表情は次第に恐怖で歪んでいった。
「う、嘘だろ……」「俺たちは……もうダメだ……」一人、また一人と崩れるように膝をつき、恐怖に満ちた視線でライゼンのいる方向を見つめた。何人かは震えながら武器を地面に落とし、完全に戦意を失っていた。
その様子を見たライゼンは、冷ややかな視線で敵兵たちを見渡す。彼にとっては、この戦場は単なる魔力の行使と実験の場に過ぎなかったが、敵にとっては悪夢そのものだった。
「もう無駄だ……」「後方の援護が消えちまった……」誰かが声を上げると、周囲の兵もそれに続いた。
「武器を捨てろ! 命を惜しむなら投降するんだ!」副隊長が叫ぶと、少しずつ敵兵たちは武器を投げ捨て、頭を抱えて降伏の意思を示し始めた。彼らの視線は地面に落ち、戦意どころか自分たちの立場すら失っているかのようだった。
「まさか、こんな力を……」敵の指揮官らしき男も、愕然としながら呟き、手の中の剣を無力に握り締めていたが、ついにその剣も手放し、ライゼンの方に向かって膝をついた。
「……我々は、もう戦う意志を失った。これ以上の抗戦は無意味だ」彼が深く頭を垂れると、それを見た仲間も次々と降伏の態勢をとり始めた。
「これで、終わりか」ライゼンは冷たく一瞥を送り、軽く肩をすくめると、再び沈黙が戦場を包んだ。
エルナが負傷者を手当てしながら、戦場を見渡した。部隊の損害は決して軽くはないが、戦況を思えば奇跡的な被害の少なさだ。彼女は大きく息を吐き、副隊長としての自分の責任を感じていたが、それ以上に、今は彼らの命を守り切った安堵があった。
「負傷者の搬送を急げ。応急処置が済んだら、後退させるぞ!」エルナは部下たちに指示を飛ばし、手早く治療の段取りを進めた。隊員たちはそれぞれに命じられた役目を忠実にこなし、負傷した仲間を支えながら戦場の端へと移動していく。
一方、捕縛された敵兵たちは呆然とした様子で座り込んでいる。彼らの多くは鎧がボロボロになり、泥まみれの顔からは戦意が完全に失われていた。捕虜の監視に当たっていた隊員の一人が、ライゼンに声をかけた。
「ライゼンさん……今回の戦、あなたのおかげで勝てたと言っても過言じゃないですね」
ライゼンはその言葉に対して冷静な表情を保ちながら、軽くうなずいた。「…それはどうだかな。ただ、指示通りに力を使っただけだ。だが、今回は被害を最小限に抑えられた。…それが一番だろう」
隊長が近づいてきてライゼンの近くに歩み寄り、少し緊張した面持ちで声をかける。
「ライゼン、今回の力の使い方は……見事だった。隊のために力を惜しまず使ってくれたことに、感謝している」
ライゼンは少し照れたように視線を外し、「別に礼を言われるほどのことじゃない。俺はただ……今の状況を冷静に見ていただけさ」と控えめに答えた。
その時、後方から副隊長のエルナが近づいてきて報告をした。「隊長、全ての捕虜の拘束が完了しました。負傷者は本隊の応援が到着次第、後送します」
「よし、全員に伝えてくれ。ここから撤退の準備を始める。ここに長居するのは危険だ」エルナは厳しい表情で命令を出した。
「了解!」副隊長が返事をし、部下たちに撤退準備を促し始めた。周囲の兵たちは手際よく動き、装備をまとめ、傷ついた仲間を支え合いながら撤退準備を進めていく。
ライゼンもその様子を静かに見守りながら、心の中で安堵を感じていた。戦場で力を尽くし、仲間の命を守れたことが彼の誇りに繋がっていた。




