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22話:クリムゾンエール

カイルが食堂の2軒隣の小屋を改装してから、エールの醸造が始まって4週間が経過した。彼は何度も試行錯誤を繰り返し、ついに3種類のエールが完成した。期待と緊張の入り混じった気持ちで、試飲の日を迎える。


「みんな、集まって!今日は新しいエールを試飲するよ!」カイルの声が響くと、ライゼン、エリオン、ダリック、アリス、エリナが興味津々で集まった。父デービットも、厨房から顔を出して、期待に満ちた目で見守っている。


カイルはまず、一杯目のエールを注ぎ、グラスを回しながら説明した。「これはホップをたっぷり使ったさっぱりしたエール。香りが非常にフレッシュで、苦味も適度だよ。」


ライゼンが一口飲むと、爽やかな香りが広がり、思わず顔をほころばせた。「うん、確かに飲みやすい!苦味も嫌味がないし、夏に飲むには最高だね。」


次にカイルが二杯目を注いだ。「こちらはフルーツエール。オレンジとレモンの皮を使って、甘酸っぱさを引き立てているんだ。」


エリオンがそのエールを飲んで目を輝かせる。「おいしい!フルーツの風味がしっかりしてて、爽やかさがあるわ。ただ、少し甘すぎるかも…」


カイルは頷きながら、最後の一杯を注いだ。「これはモルトのコクを重視したエールだ。ローストした麦芽を使って、香ばしさと深みが特徴なんだ。」


ダリックがそれを口に含み、「おお、これはかなりコクがあるな。後味にほんのりとした甘さがあって、飲むたびに味が変わる感じがする。」と感心した様子だ。


一通り飲んだ後、全員が顔を見合わせて意見を言い合った。アリスが「どれも魅力的だけど、やっぱりモルトのコクがある三杯目が一番好き!」と言い、皆が頷く。エリナも「風味が深いから、食事にも合いそう!」と賛同した。


デービットも満足そうに「このエールなら1杯銀貨1枚で売るのも妥当だろう。ただ、原価を考えたら、いくらにするか話し合おうか」と提案した。


カイルが考え込み、「原価や仕込みにかかった時間を考慮して、1杯銀貨1枚が妥当だと思う。ただ、もし需要が多ければ値上げも考えたほうがいいかもしれない」と続けた。


ライゼンがそれに加わる。「試飲をしてみて、みんなの反応が良かったから、まずは1杯銀貨1枚でスタートして、様子を見てから調整してもいいんじゃないかな。」


「それに、もし人気が出れば、他のフレーバーも試してみる価値があるわね」とエリオンが提案し、皆の意見が一致した。


こうして、カイルの自信作が完成したことを祝し、彼らは一杯銀貨1枚という価格での販売を決定した。期待に胸を膨らませながら、これからのエールがどれほど人気を得るのか、楽しみで仕方なかった。


カイルたちは、3種類目のエールの名前を考えるために再び集まった。カイルは心を躍らせて言った。「ローストモルトエールの名前を考える時間だ!このエールには特別な味わいがあるから、いい名前を付けたいと思っているんだ。」


「確かに、あの香ばしい味わいを表現したいね。」ダリックが頷く。「このエールは、少し濃厚で大人な味わいがするから、それに合った名前が良さそうだ。」


「そうだね…『ダークモルトエール』なんてどう?」エリナが提案する。「深い色合いと重厚感が伝わる感じがする。」


「いいアイデアだけど、少し地味かもしれないね。もう少しインパクトのある名前がいいな。」アリスが指摘する。


「じゃあ、『ブラックファイアエール』はどう?」エリオンが思いつく。「焚火のような温かさと、ローストした味が感じられる名前だと思う。」


「その名前、いいね!ちょっと神秘的で、飲んでみたくなるような響きがある。」ライゼンも賛同する。


カイルが続ける。「じゃあ、もう一つアイデアを出してみよう。『クリムゾンエール』なんてどう?深い赤色のイメージと、しっかりした味わいが伝わると思う。」


「それも素敵な名前だね!」ダリックが目を輝かせながら言った。「どちらにしても、個性的で良い名前になりそうだ。」


「結局、名前を二つ候補に絞る感じでいい?」エリナが提案する。「『ブラックファイアエール』と『クリムゾンエール』で、どちらがいいか投票してみる?」


「それは良い考えだね!」カイルが賛同し、みんなでその二つの名前について話し合った。


最終的に、皆が『クリムゾンエール』の方がより魅力的だという意見で一致し、エールの名前は「クリムゾンエール」に決まった。



カイルたちは、エールの名前が「クリムゾンエール」に決定したことを喜び合い、早速量産に向けた原料の準備を始めることにした。食堂のテーブルに集まり、カイルが中心となって計画を立て始める。


「よし、まずはクリムゾンエールを300杯作るために、どれくらいの原料が必要かを計算しよう。」カイルが言った。


「エールの基本的な材料は、モルト、ホップ、水、酵母だよね。」ダリックが指摘する。「それぞれどれくらい必要なんだろう?」


「モルトは、通常のビールに比べて多めに使った方が良いと思う。」エリナが提案した。「クリムゾンエールの特徴を活かすためにも、豊かな味わいが必要だし。」


「じゃあ、300杯分に必要なモルトの量を考えてみよう。」アリスが言う。「1杯あたり、約150グラムのモルトを使うとしたら…」


「300杯だと、45000グラム、つまり45キロになる。」エリオンが計算する。「それだけのモルトを用意するには、どこから仕入れるかも考えなきゃね。」


「次にホップだけど、クリムゾンエールの特徴を引き立てるためには、少し強めのホップを使った方がいいんじゃないかな?」ライゼンが提案した。「1杯に使うホップは約20グラムとして、300杯分で6000グラム、つまり6キロだね。」


「それに、水も必要だよ。」カイルが続けた。「水は1杯あたり約500ミリリットルとして、300杯だと150リットルになる。」


「それに加えて、酵母も必要だね。」エリナが言った。「酵母は、だいたい1リットルのエールに対して、5グラムくらい使うから、300杯で15グラムもあれば十分だと思う。」


「それをまとめると、モルトが45キロ、ホップが6キロ、水が150リットル、酵母が15グラムってことだね。」ダリックが確認する。「こうして見ると、相当な量が必要だな。」


「そうだね、原料の確保が大事だ。」カイルが真剣に言った。「みんなで役割を分担して、仕入れを行う必要があるね。」


「俺がモルトの仕入れを担当しよう。」ライゼンが名乗りを上げた。「信頼できる商人から仕入れて、品質を確保するから。」


「ホップは私がやるよ。農場での直接取引ができるから、良いものを選んでくる。」エリナが自信満々に答えた。


「じゃあ、水は僕が手配する。」ダリックが言った。「近くの井戸から十分な量を運んでくるから。」


「酵母はカイルが直接扱うべきだと思う。」アリスが提案した。「その方が品質の管理もしやすいし、安心だよね。」


「みんなの意見をまとめると、ライゼンがモルト、エリナがホップ、ダリックが水、そして僕が酵母を手配するということか。」カイルが確認する。「では、最終的な決定権は僕に任せてくれ。」


「もちろん、頼んだぞ!」ライゼンが頷く。


「それじゃあ、皆で原料を集める準備をしよう!」カイルが宣言し、皆がそれぞれの役割を果たすことを決定した。


原料の仕入れの計画を立て終えた後、ライゼン、カイル、エリナ、ダリック、アリスは食堂を出て、アラン商会に向かうことにした。食堂のドアを開けると、朝の光が彼らを迎え、外の風に少しだけ肌寒さを感じながらも、期待に胸を膨らませて歩き出した。


「アラン商会なら、質の良い原料が揃っているから、安心して仕入れられるよ。」カイルが言い、皆も頷く。「早速行こう。」


街の中心に位置するアラン商会は、広々とした店内に様々な商品が並び、商人たちが忙しそうに行き交っていた。彼らが扉を開けると、店主のアランがすぐに目を向けてきた。


「いらっしゃい、みんな。今日は何の用だい?」アランは笑顔で迎え入れる。


「実は、クリムゾンエールを量産するために原料を仕入れたいんです。」カイルが前に出て説明した。「モルト、ホップ、水、酵母を大量に必要としていて、1か月分を一度にお願いしたいです。」


「なるほど、それは大きなプロジェクトだね。」アランが興味深げに聞き、ノートにメモを取り始めた。「具体的には、どれくらいの量が必要なのかな?」


「モルトが45キロ、ホップが6キロ、水が150リットル、酵母が15グラムを、今後も使うことになると思います。」ダリックが補足した。


アランはうなずきながら、計算を始める。「1か月分となると、モルトは1350キロ、ホップは180キロ、水は4500リットル、酵母は450グラムか。かなりの量だね。でも、大丈夫。うちにはそのくらいのストックがある。」


「それなら、お願いしたいです。」カイルが言う。「できれば、2週間で醸造できるエールの樽を、1日~2日のペースで常に出荷していける量の準備をしていただけると助かります。」


「わかった、任せておいて。」アランが自信満々に返答する。

「そのペースで出荷できるように、材料を手配しておくよ。しっかりと管理して、無駄のないようにするから。」


「本当にありがとうございます!」エリナが感謝の言葉を述べる。


「そういえば、材料の仕入れについてはどのくらいの価格になりますか?」ライゼンが気になって尋ねた。


アランは少し考えた後、「通常の仕入れ価格に加え、量産のための割引も考慮しよう。原料の品質も含めて、しっかりと値段を設定するから心配しないで。おそらく、モルトは1キロあたり1銀貨、ホップは1キロあたり2銀貨、水は安価だから、貯水の設備を使うとして、酵母は一袋で3銀貨で行けるかな。」


「それなら、合計でどれくらいになるんでしょう?」カイルが確認する。


アランが計算を進める。「モルト1350キロで1350銀貨、ホップ180キロで360銀貨、酵母450グラムで45銀貨。水は貯水利用だから、これで合計1755銀貨になるな。」


皆は少し驚いたが、アランの迅速さと信頼性に感謝し、改めてこの計画を進めることに決めた。


「それでお願いするよ、アラン。」カイルが言い、他の仲間も同意の意を示した。


「了解だ。では、材料の準備ができ次第、こちらから連絡するよ。」アランはにっこり笑って答えた。



ライゼンと父デービットは、食堂の稼ぎを思い出して、その状況に考え込んだ。ライゼンは、食堂の忙しい一日を思い出しながら、父に問いかけた。


「そんな金どこにあるんだ?」


デービットは、少し笑いながら答える。「この1か月間で、食堂の稼ぎはどれくらいだったと思う?」


「900銀貨の売り上げしかないんだよ。つまり、1か月の利益は540銀貨ってことになる」とライゼンは言った。


デービットは頷き、「そうだ。だが、経費や材料費、その他の支出を考慮に入れると、実際に手元に残る金はそれほど多くない。特に新しいエールを作るための原材料を仕入れるとなると、必要な金額はもっと膨れ上がる」と続けた。


「それに、急に大きな出費があると、資金繰りが厳しくなる」とライゼンは懸念を口にした。


アランは頭を抱えながら言った。「うん、これは足りないね。今すぐに払えるお金が必要だ。これをどうにかしないと、原材料の仕入れが難しい。」


「どうすればいいと思う?」とライゼンが問いかける。


アランは考え込んだ後、口を開いた。「まず、エールの予約販売を考えてみてはどうだろう?クリムゾンエールの試飲を告知して、事前に予約を受け付ければ、ある程度の資金が確保できるはずだ。」


デービットは少し考えてから言った。「それはいい考えだな。お客さんが楽しみにしてくれれば、早めにお金を受け取ることができる。」


「ただし、予約を受けるには宣伝も必要だ。周囲の商人やお客さんに声をかけて、興味を持ってもらえるようにする必要がある」とアランが続けた。


「それでも足りなければ、他に何か方法は?」とライゼンが不安そうに尋ねる。


アランはしばらく考えた後、再び提案をした。「一時的な貸し付けも考えてみるべきだ。近くの商人や私たちの常連客の中に、信頼できる人がいれば、少額でも借りることができるかもしれない。返済プランをしっかり考えれば、問題なく返せると思う。」


「それでも借金は気が引けるな」とデービットが口を挟んだ。


「確かにそうだが、今はこのエールを成功させるために、必要な投資だと考えるしかない」とアランは強調した。「何かしらのアプローチをしない限り、私たちは前に進めない。さあ、まずは予約販売を進める方向で動こう。」



ライゼンたちは計画を進めることにした。まず、広場の掲示板にクリムゾンエールの試飲会のお知らせを掲示し、常連客や近隣の商人たちに口伝えで告知を始めた。ライゼンは熱心に「新しいエールの試飲会を開催します!予約先払いで特典も用意しますので、ぜひご参加ください!」と呼びかけた。


アリスとエリナは、周囲の商人たちにアプローチし、予約を受け付けるためのノートを持ち歩いた。エールの試飲に興味を示した人々は、喜んで予約を入れ、先払いの銀貨を手渡してくれた。少しずつだが、確実にお金が集まっていく。


ダリックは、食堂のお客様に声をかけて、クリムゾンエールの予約を促し、どんどんと賑わいを見せていった。「新しいエールが登場しますよ!みんなで楽しみましょう!」と、積極的に宣伝していく。


約一週間後、彼らの努力が実を結び、先払いの予約金が思った以上に集まった。そのお金を手にしたライゼンは、アランに連絡を取り、仕入れを行うことを決定した。


「アラン、先払いの予約がたくさん入ったよ。これで材料を仕入れられる!」と、ライゼンは嬉しそうに伝えた。


「それは良い知らせだ。では、必要な材料のリストを作成して、すぐに仕入れに行こう」とアランが応じた。


彼らは一緒に材料のリストを作成し、必要な量を確認した。エールの仕込みに必要な麦やホップ、酵母などの原料が一覧に並ぶ。「これだけあれば、しばらくはエールを供給できそうだな」とアランは頷いた。


最終的に、集まった資金を持ってアランとライゼンはアラン商会へ向かうことにした。商会の店先に立つと、アランは業者と話し合いを始め、必要な材料を一気に発注した。


ライゼンは、アランが王都へ材料の買い付けに出発するのを見送った。出発の前に、アランは「足りない分は必ず手に入れてくるから安心して待っててくれ」と約束し、急いで出発していった。ライゼンはその言葉を信じて、心の中で彼の無事を祈った。


しかし、ライゼンの心は落ち着かなかった。自分が育てている麦畑が気になって仕方がない。特に、最近夜盗の襲撃があったため、ここ5日間も様子を見に行けていなかった。心配を抱えながら、ライゼンは麦畑へ向かうことを決意した。


畑に到着すると、まず目に入ったのは柵の一部が壊れていることだった。ライゼンは息を呑んだ。スケルトンに監視をさせていたはずなのに、何も知らせが来ていない。周囲を見回すと、争った跡が地面に残っており、そこには見慣れない毛が引っかかっていた。「これは一体、何の獣だ?」と疑問が浮かぶ。


スケルトンが無事だったのは幸いだが、ライゼンはこのままではいけないと強く思った。「柵の強化をしないと、今後はモルトをこの麦畑からも作り出せなくなる。」彼は頭を抱えながら考え込んだ。ネクロマンサーの魔法はデバフが中心だが、一部には植物操作の術もあることを思い出した。師匠の顔が脳裏に浮かぶ。彼は研究用の隠れ小屋を覆うために、植物の成長を促す魔法を使っていた。「夜闇の豊穣」という魔法の名前を、ライゼンは記憶の中で探し当てた。


「成功するかどうかはわからないけど、試してみる価値はある」と彼は心を決め、近くに生えている雑草や木を使って魔法を試すことにした。


初めはコントロールが難しく、なかなか思うようにいかない。何度か試みるうちに、徐々に魔法の感覚が掴めてきた気がする。地面に生える草が少しずつ大きくなり、葉が鮮やかに広がっていくのを見て、彼の胸は高鳴った。しかし、夢中になっているうちに、いつの間にか日が暮れてしまった。


「もうこんな時間か…」と、疲れを感じながらライゼンは草に寝転んで、夜空を見上げた。「朝までここで待つことにしよう。」彼は、麦畑を守るための対策を練りながら、徐々にまどろみの世界へと落ちていった。月明かりの下で、彼は穏やかな眠りに包まれ、明日の光を待つことになった。


朝日が差し込む中、ライゼンは心地よい眠りから突然引きずり出された。誰かが固いもので彼を突き、痛みが走った。「痛い!」と叫びながら起き上がると、目の前にはゴブリンが立っていた。


瞬時に状況を把握できないまま、ライゼンはとっさに視界に入った壊れた柵の一部を手に取った。頭の中で考える暇もなく、そのままゴブリンに向かって思いっきり振りかぶった。「お前、何の用だ!」と怒鳴りつつ、力いっぱい振り回した。


木材がゴブリンに直撃し、彼は驚いた表情を浮かべて吹き飛ばされた。「くそっ、何てことだ!」とライゼンは、自分の行動に一瞬驚きつつも、相手が飛ばされて空中で何回転かして地面に倒れ込むのを見て、安堵感が広がった。


しかし、すぐにライゼンは自分の行動を後悔した。「このままでは、ただの暴力になってしまう……」と内心でつぶやきながら、再び状況を確認しようとした。


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